二十六話 白状
あ〜あ、せっかくダンジョンの事は上手く誤魔化せた(?)っていうのに、最後の最後で女神様の存在がバレてしまうという大失態をかましてしまった。
これはもう、流石に隠し切れないだろう。だって今の女神様は、夢や幻とギリギリ言い通せるようなダンジョンの中でも、そのようなコスプレをした人の集まっているような場所でもなく。
他の何でもない、この俺の自室にいるのだから。
「…………わ、わ、私、実は翔君のお姉さんでね!! ちょ〜っと興奮すると身体が透けちゃうっていう、困った病気……じゃなくて、アレルギー……でもなくて、まあ、そんな症状? があるのよ!!
でもほら、仕方ないじゃない? 今戦ってる相手プレイヤーが結構手強くてね、横移動でこっちの攻撃躱してくるのよ!
横移動よ? 普通のガードじゃないのよ? しかも、そこからまたコンボに繋げてくるのよ? そんなのされちゃったら身体も透けちゃうってものよ!」
だと言うのに、女神様は苦しい言い訳を始めている。いや、もう無理だって。しかも聞いた所で全然、意味分からないし。
「はぁ……女神様、もう良いよ。って言うかその言い訳じゃ無理だよ。全部説明しよう。
……亜香里、榎本、今まで隠しててごめん。今から正直に打ち明けるけど、この話は俺達だけの秘密にしておいて欲しいんだ。
まあ、とんでもない話だから、言った所で誰も信じてくれないと思うけど……」
そうして観念した俺は二人にダンジョン生成の事、俺が何故こうなったか、何故ここに女神様なんて人がいるのか、何もかも説明した。
「……まあ、そんな訳で俺は今ダンジョン攻略をしないといけなくなってるんだ。亜香里と下校中たまにいなくなったり、今日すぐに帰ろうとしたのもそのせい。
隠すつもりはなかったんだけど、話したってどうせ誰にも信じてもらえないだろうし。それに、もしバレたら大変な事になるんじゃないかと思ってさ、なかなか言い出せなかったんだ。本当にごめん」
随分と長い話になってしまったが、何とか全て説明し終えた。
だけど、ここからが問題だ。二人はどのような反応をするだろうか?
もしかすると拒絶されたり、馬鹿にされたりするかもしれないが……でも、されたって仕方ないだろうな。
こんな話、俄かには信じられないんだから。というか、すぐに信じろと言う方が難しいというものだ。
そう、思っていたのだが。
「わ、私信じる! 信じるよ翔君! だ、だから翔君! あ、謝らないで! 翔君が悪い訳じゃないでしょう?……大変、だったんだよね? 私の方こそ、今まで気付いてあげられなくてごめんね」
「あ、亜香里……ありがとう」
「……私も、信じるよ。だから絶対、他の人にはナイショにする。まあ、あんなの見せられちゃったんだから、信じるしかないというか……とにかく、心配しないで、私は市奈々井君の味方だから」
「榎本も……ありがとうな」
二人は俺を非難するどころか、そう言って気遣い、味方だと言ってくれた。
……椿はもちろんとして、亜香里も充分に素直な性格なのは分かっている。だから恐らくは受け入れてはくれるだろうと、そこまでは何となく察していた。
けど正直、まさかここまで言ってくれるとは思ってもいなかった……突然の温かい言葉に衝撃にも似た感覚を受けた俺の目頭が、意図せずして熱くなろうとしているのを感じる。
だが、涙など見せられなかった。
あーだこーだと言っているが、俺だって年相応の男子学生なのだ。幼馴染と女友達にそんなものを見られてしまうのは照れ臭い。
「……じゃあ話も終わった事だし、二人はそろそろ家に帰った方が良い。時間も時間だし、家族が心配するだろうからさ」
という訳で、それを誤魔化すために俺は解散を告げた。
まあ、俺の危惧した内容は事実その通りなのだし。それに、『こんな時間まで二人の異性を家に入れていたのがご近所にバレたらマズい』というのが、本音かつ一番の理由であるのだが。
とにかく、俺は見送りのため二人と共に玄関へ向かった。女神様だけはゲームに熱中していたのでついて来なかったが。
「じゃ、じゃあね翔君、また学校で!」
「ああ、また学校で、気を付けて帰れよ亜香里」
そうして別れ際、亜香里とは手を振り合い。
「じゃあ私も帰るよ、またね市奈々井君。今日は色々あったけど……でも、結構楽しかったよ」
「あ、ああ、またな榎本」
椿はというと、彼女は何処か意味ありげな微笑みを浮かべて去って行った。
つまり、今度こそ全ては終わったのだ。
「……ふぅ」
それに気が付いた途端、俺の口からは思いがけずも溜め息が一つ漏れた。
二人やダンジョンだけでなく、あらゆるものから解放されたような、そんなような気分になったからだろうか?
とにかく、部屋に戻ろう。今日はとても疲れてしまった、もうベッドに直行して寝てしまおうか。
腹は……まあ減ってないと言えば嘘になるが、今は身体が空腹よりも睡眠欲を満たせと騒いでいる。
なら、朝飯をしっかり食べればそれで良いか。うん、そうだな、そうしよう。
そして漸く、自由の身となった俺はゆっくり、ゆっくりと、まるで一歩一歩踏みしめるようにして自室へ……
いや、その先に広がる夢の世界へと前進してゆくのだった。
「……ねえねえ翔君、さっきの女の子達とはどんな関係なの? どっちがどっち? ねえねえ、どっちなの?」
「いや、何がどっちなんですか、全然意味分からないですよ」
「またまた〜誤魔化しちゃって! 家にまで連れ込んで、全部話しちゃうくらい深い関係のクセに!」
「あの……それ、アナタのせいなんですけど?」
眠る直前、また一つため息が零れ落ちた。




