二十五話 もっと最悪な出来事
メガスライムに勝利した直後、ダンジョンは少しずつ霞かのようにその姿を朧にさせ。
そして最後には、夢幻であったかのように完全に消滅し、また俺達を元の世界へと放り出すのだった。
ふぅ……色んな意味でなかなかハードなダンジョンだったが、漸く攻略できたな。
さあ、全て終わった事だしあとは帰るだけ…………なら、良かったのだが。
残念ながら、もう少し続きそう、というか。むしろ、ここからが一番大変なのかもしれない。
それは何故かと問われても、答えが簡単過ぎるので教えるつもりはない。たった今ダンジョンから帰還した、我ら三人の現状を目の当たりにすれば一発で分かるはずだ。
いや失礼、無傷である俺以外の二人を見れば、と言った方が良いだろうな。
だって彼女達、もとい亜香里と椿の二人は。
「も、元の場所に戻れたみたいだね!」
「やった! 何が何だか最初から最後まで分からなかったけど、とにかく私達助かったのね!……まあ、それは良かったんだけど。
ふ、ふ、服が……このままって言うのは流石に……!!」
そう、椿も言ったように。ダンジョンから戻っても服が復元されるという訳ではないので。
半裸というか、とにかくそのままの状態で解き放たれてしまったのだから。
そして、被害者は当然ながら友人とそのまた友人。遅い時間というのもあれば、そんな姿の女性かつ友人達である二人を放ってはおけないというのもある。
今彼女達を見捨てれば、どんな事件に巻き込まれてしまうかも分からないからだ。ただでさえ、彼女達は今の今までやりたくもないダンジョン攻略をさせられていたというのに。
それに何より、彼女達をそんな事態に引き込んでしまったのには俺にも原因の一端はある。だから元より、俺は二人を放っておくつもりなど微塵もないのである。
「…………二人共。とりあえず、俺の上着とワイシャツを貸すから着て良いよ。俺はまあ、上を着てなくてもギリギリ……大丈夫、じゃないと思うから。
……だから、早く俺の家に行こう!! とりあえずここから一番近いのはそこだと思うから!! さあ早く!!」
「う、うん!!」
「悪いけど私もお邪魔させてもらうね!!」
という訳で、俺達は闇夜を。
一人は半裸に男ものの上着、もう一人もまた半裸とこちらも男もののワイシャツ。
そして最後の一人は、上半身には何も身に付けず、学生服の下だけという、とんでもない姿で駆け抜けて行くのだった。
「はぁ、はぁ……」
「よ、良かった……何とか、誰にも見つからずに……」
「ああ、辿り着けたな……」
何とかミッションクリアだ。
俺達は半裸が二名に上裸が一名と、全員が全員あられもない姿をしたまま夜の街を駆け抜けたのだが。
幸い誰にも見咎められず、警察からの職質なんかも受けずに無事三人揃って俺の家まで辿り着く事が出来た。
が、ここで油断はできない。もたもたしていると今度はこの辺りで発見されてしまい、ご近所の噂になってしまうという、俺にとっては最悪の展開が待ち受けているであろう。
という訳で、俺はすぐに鍵を取り出して扉を開けると、三人で一斉に我が家へと転がり込んだ。
「今着られそうな服を持って来るから、二人は俺の部屋にでも入っててよ」
そしてまたすぐに、俺は亜香里と椿が着るための服の準備をする。
亜香里は母が着ていた服。椿は亜香里よりもやや小柄なので、俺が昔着ていた服でも渡せばそれで大丈夫だろう。
ただ、前者はもしかすると母にバレた時に叱られるかもしれないが、まあその時はその時だ。
何を言われようと、亜香里をほぼ産まれたままの姿で帰らせる訳にはいかないんだからな。
だが、それにしても……こうもドタバタとしていたせいか、二人と共にダンジョンに巻き込まれたのがまるで遠い昔のようにさえ思えてくる。
そういえば、俺自身あれでも一生懸命に誤魔化したつもりではいるのだが、二人はあんな嘘を素直に受け入れてくれただろうか?
そうでないと、またほとぼりが冷めた頃に問いただされてしまうかもしれないな……いやいや。
よくよく考えてみれば、俺も何も知らないという体でいるのだから、追求された所で何も出て来ない。そう、もう一度言うが何も出て来ないのだ。
だって俺自身、あの空間に行ったのはこれが初めて……という事にしているのだから。
まあ良い、良いじゃないか。もうダンジョンは攻略したんだ。
もしもその時の話が再燃したとしても、後もう少しだけはぐらかせば、次第に薄れゆく記憶と共に二人の中であれは『夢か、幻でも見たのかもしれない』というくらいになり。
そして最後には、きっと忘れてしまうだろうからな。
とはいえ、それは俺の願望なのだが……とにかく。だからこそ、俺もなるべくその辺りの話題を避ける事を心がけるとしよう。
何、簡単な事だ。どの道誰にも話すつもりはないからな。
それに、ダンジョンに放り込まれる以上にマズい状況なんてそうそう起こるはずがないだろう? あるのならばむしろ見せてもらいたいものだ。
「お待たせ! 服を持って来たから、まずは着てみて……」
そうして、もう何も気にしないと決めた俺は見繕って来た服を片手に二人の待つ自室の扉を開けた……の、だが。
「あ……か、翔君……お、おかえりなさい。ご、ごめんなさい……私ゲームに夢中で……」
何と、そこにはまたもや女神様がいて……という事は、つまり。
「ね、ねえ、か、翔君?」
「し、市奈々井君……この、ちょっと透けてる女の人は一体、誰なの……?」
そう、この部屋に案内した亜香里と椿は当然、女神様と遭遇(?)してしまった訳で。
……簡単に言えば俺はたった今、ないとばかり思われていたダンジョンへの転送よりもマズい状況を自らの手で生み出してしまったのである。
そうか、今思えばあれは所謂、『フラグ』だったんだな。先程俺がついしてしまった、あの発言は……




