二十四話 最悪な出来事 5
「……クソッ」
このダンジョン最後の戦い。それは、俺とメガスライムとの一騎打ちだ。
これさえ切り抜ければ、全てが終わる。何もかもを誤魔化しつつ、二人を守り抜く中で行われるダンジョンの攻略、その全てが終わるんだ……
だと言うのに、なかなか俺は勝負を決められずにいる。もちろん、原因はボスであるメガスライムにあった。
一応言っておくと、別に俺は相手が強いから苦戦しているのではない。こんな魔物、本気を出せば一捻りだ。
ただし、それは剣以外にも、俺がこのダンジョンという限られた空間のみで使える魔法、それとアイテムやスキルなんかを駆使した場合の話なのである。
で、今はそれらが使用できないからこそ、無駄にプルプルプルプルとしやがって、なかなか斬撃の通らないコイツとの戦いに苦労していると、そういう訳なのだ。
いや、使えないというのにはちょっと語弊があるかもしれない。
上記したそれらは何かしらの理由によって封印されている訳でも、使い過ぎによって尽きた訳でもないので使用する事自体はいつでも可能だ。当然、今この時、この瞬間でさえも。
……背後より俺の戦闘を見守る、亜香里と椿の二人さえここにいなければな。
そう、彼女達さえ見ていなければ自由に戦えるのだが……そうでない今、俺はたった一つの武器以外全ての戦法を封じられているも同義なんだ。
だってそうだろう? せっかく誤魔化して、とりあえず何とか剣の使用だけは納得(?)させて見せたが。
逆に言えば、それ以外はまだ二人にとっては未知の領域なのだ。そんなものを急に発動、使用して戦い始めてしまえば、いよいよ俺の秘密を隠しきれなくなるというもの。
だからこそ、この魔物を倒すには不向きな武器のみでの戦いを今、俺は強いられているのである。
とはいえ、いくら何でも一つの戦闘に時間が掛かり過ぎているように感じる。このままでは負けてしまう、までは流石にないだろうが。
でも、時間が経過すると共に体力はもちろん、集中力や動きのキレまでもが低下し、そのせいでいつまでもいつまでも戦い続け。
そして、いずれはスタミナが尽きてしまう……なんて事もあるかもしれないのだから、さっさと決着を付けるに越した事はないのだ。
……と、いうのは俺自身、最もよく分かってはいるのだが。それでも打開策は一向に見つからない。
こんな時、どうすれば良いんだろうか?……もういっその事、〝俺以外の部分〟から考えてみるか?
例えばダンジョン内部にあるものや、敵自体の特徴、習性とか、その辺りから。
じゃあええと、まずはダンジョンの中で拾ったものからにしようか……
いや、今回の入手アイテムはまたポーションだけだからナシだな。流石にこの万能アイテムも、戦いにおいてだけは使い道がない。
なら、次は敵から。今俺が相手にしているのは服を溶かすタイプのメガスライムで、かつそれは人体にまで影響はなさそうである(多分)と。
最後に……まあ、これは意味ないかもしれないが。現在、こちらには俺以外の仲間として亜香里と椿がいる。
が! しかし、彼女達はほぼ半裸のような状態だから戦えず、というか巻き込まれただけだから普通に戦闘はできないと、このくらいだろうか。
何だか、既知の事実を羅列しているだけみたいに見えるな。
これじゃあ、メガスライムに勝つ方法なんてとても見つかりはしない……いや、待てよ?
…………そうだ!
俺自身と、俺の戦うこのメガスライムがどうにもできないというのならば、〝あっち〟をどうにかすれば良いじゃないか!
よし、それだ! いや、それしかない! そうと決まれば今すぐに動くんだ!
そうして俺はまず、メガスライムとの戦闘で発生した、奴から切り離した僅かなプルプルの一部を手に取ると。
そのプルプルを剣の上にそっと乗せ、あくまでもわざとではないように、ただ剣に付いたそれを払っただけのように。
〝そう見える〟ように。
そのようにして、背後の亜香里と椿目掛けて放り投げた。
「きゃっ!? や、ヤダ、ヌルヌルする……」
「うわっ! ちょ、市奈々井君! こっちまで飛んでる! そのプルプルしたやつ! 気を付けてよね!」
すると、それは二人に命中し……そして。
「キャー!! ま、また服が!!」
「ダ、ダメ!! こ、今度は下着まで溶け始めちゃってる……!!」
狙い通り、彼女達の衣服は再び溶け出し、それを俺に見られまいと彼女達は通路の奥に引っ込んだ。
よし、やったぞ……これで、今この瞬間からダンジョンと俺に隠された秘密は全て守られたのだ。
何故ならば誰一人としてそれを見、伝える者がいなくなったのだから。
「……よし、今だ!! 」
その隙を見逃すはずもなく、俺はまた動いた。
「メガスライム!! 体の殆どが水分のお前はこの一撃でトドメだ!! 喰らえ魔雷球!!」
そうして、素早く発動させた雷の魔法をメガスライムに叩き込むと。
あの厄介なプルプルは瞬く間に蒸発し、段々と小さくなりつつあり、最後にはチリ一つとして残さずダンジョンから消え去り。
つまり、俺は今までの戦いがまるで嘘であったかのようなスピード感で、遂にボスを撃破するのだった。




