二十二話 最悪な出来事 3
「あれ? 私さっきまで……あ! 亜香里ちゃん! 亜香里ちゃん、しっかりして!!」
「……ん、こ、ここは…………え!? ど、どこ!? どこなの!?」
「わ、私にも分からない……けど、と、とりあえず落ち着こう? 」
それから数分が経過しただろうか、二人は漸く目を覚ましたようだ。
その途端にパニックになってはいるが……まあ、突然ダンジョンに放り込まれたんだ、誰でもそうなるだろう。
とにかく、こちらもたった今覚醒したフリをしなくては。
俺は二人と同様、周囲をキョロキョロとしながら上体を起こした。
「ふ、二人共……こ、ここは何処なんだ?」
「あっ、翔君! 目が覚めたのね!!」
「それは、良かった……けど、私達にもさっぱり分からないの。いつの間にか、起きたらここにいて……」
「そうか……何だか分からないけど、俺達はダンジョン……じゃなくて、迷路か何かに迷い込んじゃったみたいだな。なら今はとりあえず、皆で出口を探すしかない、か……」
「……確かに私も、今は市奈々井君の言う通りそうするしかないと思う。よし! そうと決まれば行こう! 三人で出口を探して、さっさとこんな所から脱出するの!」
「う、うん、ちょ、ちょっと怖いけど……そうしよう!」
そうして俺の誘導は何とか成功し、無事ダンジョンからの脱出を決めた三人は動き始める。
良かった。それぞれが別行動で出口を探すなんて事に決まらなくて……そんな事態になれば、二人を魔物達から守り切れなくなってしまうからな。
だがしかし、まだまだ問題は残されている。例えばさっきも言ったように、魔物達の事がそうだ。というか、それが一番大きいだろうな。
何しろ、訳の分からないフリをしながら、しかも『ちょっとした喧嘩は愚か、戦闘経験なんて殆どない』と思われているはず(多分)の俺が二人を守りつつ、ソイツらと戦わなくてはならないのだから。
まあでも、やるしかない。やるしかないんだ…………ん?
チッ、とか言っていたら早速おでましか。
俺達のいる通路の奥、その右側から微かに這いずるような物音が聞こえているのに気が付く。
恐らく、スライム系の魔物か何かが自分自身の肉体を擦るように移動させている事によってその音は生じているのだろう。
それならまだ安心だ。確かに一般人にはスライムだろうが何だろうが、魔物なんてものはバケモノに違いないが。
それでも、俺にとっては力も弱ければ全てが弱いやはりと言うべきか最弱の魔物、背中に女子二人を置いたとて簡単に退治できるだろう。
そう、このダンジョン内に入りさえすればいつでも召喚可能なこの剣によって……あ。でも、急に剣なんて出したりしたら怪しまれないか?
いや、怪しむどころじゃない。二人はきっと突然何処かから剣を呼び寄せ、それで魔物と戦う俺までもをソイツらの仲間か何かと勘違いし逃げ出して行ってしまうだろう。
そんな事になれば、亜香里と椿が逃げ出した先で魔物に襲われてしまうかもしれない。それだけは絶対に、絶対に避けなければならないと言える。
だけど、それならば俺はどうしたら良いんだ……?
などと悩んでいるうちにも、音は次第に大きく、近くなりつつあり。
そしてとうとう、予想通りスライムが俺達の前にそのツヤツヤとした半液状のような姿を曝け出すと。
「え、え? ど、どういう事なの……? ね、ねえ二人共、二人にもあれは、見えてるの……?」
「見えてる、見えてるけど……分からない、何が何だか、分からない……な、何なの、あれは……?」
二人は驚き、怯え、震え上がる。
……だというのに、俺はまだ何一つ行動に移す事ができずにいた。
剣さえあれば、戦いさえできれば、それならば、こんなヤツなど簡単に倒せる。
でも、今は目の前に二人がいるし……仕方ない、拳でいくか?
いや、ダメだ。確かスライムには服やら何やら等々、自身に触れたモノを溶かすような奴とか、毒を持っている奴も中にはいたんだったな。
じゃ、やめておこう……ならどうするんだ? ああもう、また問題が振り出しに戻ってしまったじゃないか。
だがしかし、俺が色々と考えているのをスライムが待ってくれるはずもなく。
「「キャー!!」」
俺が立ち止まっている間にもスライムが触手のように体を伸ばし、何と亜香里と椿を絡め取ってしまったのだ。
「か、翔君!! 助けて!!」
「ちょ、ちょっと何なのコイツ!! 止めて、止めてよ……って、きゃああ!! ふ、ふ、ふ、服がぁ……!!」
「亜香里!! 榎本!!」
「だ、ダメ!! 見ちゃダメ、翔君……!!」
「し、市奈々井君!! お願い、見ないで……!!」
すると、何という事だろう。
瞬く間にスライムに捕まった二人の服が溶け始め、既に彼女達のあらゆる場所が露になりつつあるではないか。
……まあでも、一安心だ。それだけで良かった。
どうやらこのスライムは『服や装飾品等を溶かすタイプ』というただそれだけであるらしく、人体にまで影響はないと見える。女子二人が俺に見られるのだけを危惧しているのが何よりの証拠だ。
ああ、本当にそれだけで良かった。二人に何の怪我もないんだからな……なんて、言ってる場合じゃないか。どちらにせよこのままではマズい、色々な意味でマズい。
「二人共!! 今助けるからな!!」
そこでやむなく、剣を取り出してスライムを退治すると決めた俺は魔物へとその剣を振るい。
「きゃっ!?……ふ、ふぅ、私達何とか助かったのね……」
「か、翔君ありがとう。お陰で助かった……けど、そんな剣、いつから持ってたの?」
「あ、え、ええと、コレは……今! 今拾ったんだよ! ほら、すぐそこに立てかけてあってさ!」
魔物を討伐しただけでなく、何と巧みな話術(?)により事を一切の荒波立てずして収めてしまうのだった…………収められてる、よな?




