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二十一話 最悪な出来事 2

幸せな時間は短い。過ぎ去る時はまるで風のようにすら思えてくる。


例えるならばそう、それはまさしく今。俺達三人は日も落ちかけてしまったという事で喫茶店を後にし、再びそれぞれの帰路に着こうという、まさにその時であった。


……はず、なのだが。


「ねえねえ亜香里ちゃん、まだ時間大丈夫そうならもう少し何処かで話していかない?」


「う、うん! じ、時間は大丈夫、それに、わ、私達も、そうしたいと思ってたから……!」


「良かった、じゃあ行こう亜香里ちゃん! 市奈々井君! 私もう一つ良いお店を知ってるの!」


どうやら亜香里と椿は想像以上に仲を深めていたらしく、また何処かへと共に行こうとしているみたいだ。


片方はニコニコと、もう片方ははにかみつつも綻ぶ口元。そんな実に楽しげな様子をした、まるで人形のような二人が肩を寄せ合う光景は見ていると何だか庇護欲すら湧いてきてしまう。


彼女等が何処ぞへ行くと言うのならば、俺も保護者的な立場として同行させてもらうとしようか。


ま、俺が無理にそうしようとせずとも、三人なのはもう勝手に決められているみたいだけどな。


だって亜香里は私〝達〟とか言っているし、椿は椿でちゃんと俺の名を呼んでいるし。


まあでも、この幸せな時間がまだ続くと言うのならばついて行っても良いか。それに、家に帰った所でどうせ女神様のゲームを横目に眠るだけなんだし。


ああでも、今日はまだダンジョンが生成されてないからそれだけが心配…………あ、ダンジョン。


そうだ。さっきも言ったが今日はまだだった。だとするとこれ以上、二人と一緒にいるのは危険か。


最悪、女神様ならば巻き込んでも全く罪悪感は湧かないけれど、この二人となると話は別だ。


よし、それじゃあ俺はここまでにしておこう。もういつダンジョンが生成されてもおかしくはないのだから。


確かに、叶うのならばあと少し、あと少しだけでもこのような時間を過ごしていたかったが。でも、背に腹は変えられないんだ。


「あのさ……ご、ごめん二人共。俺ちょっと用事を思い出して……」


「え〜、市奈々井君来れないの? もう少しくらいなら良いでしょ?」


「わ、悪い、今日はもうそろそろ帰らないと……」


「え? そ、そうなの翔君? 翔君、だいたい今日くらいには日用品の買い出しも、お家のお掃除も全部終わってるはずだと思ってたんだけど……って事は、も、もしかして迷惑だったかな!?」


「ち、違う違う! 亜香里の誘いが迷惑な訳ないだろ!?」


だがしかし、二人は俺を引き止めようと抵抗する。


特に亜香里が手強い相手となった。まあ確かに、コイツは俺の予定は殆ど頭に入っていると言っても良いが……だがそれにしても、まさかこんな所で仲が良いという事が仇となるとは。


……と、そのようにもたもたとしていたせいだろうか。


いや、俺がしたくてしているんじゃないんだから違う、断じて俺のせいではない。


とにかく、責任の所在は俺ではなくダンジョンにある、というか、それにしかないのだが。


気が付けば、周囲の空間が歪んだように感じたかと思うと。


「……!ま、まさか……! おい嘘だろ? 何で、よりによって今なんだよ……!!」


「か、翔君! これって……!?」


「え? え? 一体、何なのよこれ……!?」


次の瞬間にはもう、生成されてしまったダンジョンが俺を。


正しくは俺と亜香里、そして椿をも呑み込んでしまうのだった。


ちなみに、これこそが以前言った『最悪の出来事』である。




大変だ、大変な事になってしまった。


俺だけならばまだ良い。俺だけならばまだ、良かったのだが……


というか、それこそが本来の姿なのだ。良いも悪いもなければ問題もない。俺一人なら、このようにいつ何時ダンジョンに放り込まれようと生還はできる、今までもそうしてきたように。


だが、今回ばかりは勝手が違う、違い過ぎる。


まさか俺の近くにいたせいで、亜香里と椿までダンジョン生成に巻き込まれてしまうとは……本当に、マズい事になってしまった。


俺達は無事、ダンジョンから元の世界に戻れるだろうか?


というか、マズいのはそれだけじゃあない。


確かに、いつもと違って彼女達を守り続けながら進まなければならないのもそうだが、一番の問題は彼女達がダンジョンの存在を知ってしまう事だ。


説明を求められても一体何処からどこまでを、いや、どこから話せば良いのかすら分からない。


唯一の救いは、二人が驚きのあまりに今はまだ気を失っている事だが…………そうだ!!


『俺自身も巻き込まれるのが初めてで、こんなものの存在なんてこれっぽっちも知らなかった』


これで行くか!!……でも、本当にいけるか?亜香里と椿の前で、何のボロも出さずに?


いや、いく〝しか〟ないか。


という訳で俺は、こちらへとやって来る危険のある魔物達だけをサクッと処理した後で地にうつ伏せになり、彼女達の覚醒を二人と同じ姿勢で待ち続けた。

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