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十七話 ヤンキー少女 2

別室授業のため移動していた俺が偶然見つけた、ただ一人校庭にいたヤンキー集団の紅一点。


そんな彼女の様子が何処か不自然に見えたというか、具合が悪そうに見えたというか、とにかく。


何かおかしいと感じた俺はあろう事か、別室ではなくヤンキー女子の元へと歩き始めてしまったのだ。


そして今は、彼女に声を掛けようというまさにその瞬間なのである。




「ね、ねえ君……」


遂に、話し掛けてしまった。緊張の第一声だ。


いや別に、女子が苦手だとかそういう訳ではないのだが。彼女とは友人でも何でもないのだし、もっと言えば俺達は互いに顔を知っているというだけの赤の他人なのだ。そりゃあ緊張もするだろう。


「……え?」


そこで漸く、その声を聞き彼女は俺の存在を知ったようだ。


さて、気になる対応はどうだろう……正直、こっちの方がさっきもよりももっと緊張する。


一応とは言えこの子はヤンキーの仲間なのだ。ならば突然殴り掛かってきたり、「何だぁテメェ!?」などと男勝りにブチギレされる可能性だって十二分にあると言えるのだからな……!!


……と、俺はそのような事ばかり考えていたのだが。


彼女からは予想外にも。いや、予想の斜め上を行く反応が返ってきた。


「……ひ、ひゃあああああ!? あ、あ、あああアナタはさっきの!? や、やめて! 来ないで! 私全然強くなんてないからぁ……」


「へ?」


そう、それは俺が図らずも俺が「へ?」と呟き、またアホ面をしてしまう程のリアクション。


怯えて目を瞑りつつ、まるで雛鳥のように手をぱたぱたと動かしながら命乞いをするという。ヤンキーの片鱗すらない、実にか弱いものなのであった。


「い、いやちょっと待って? とりあえず落ち着いてよ? 俺は別に、君に何かしようとしてここに来た訳じゃ……」


「や、やめて! やめてぇ……!」


「ちょ……ねえ、お願いだから話を聞いてもらえる?」


それから、彼女を宥めるのに割と時間が掛かったのは言うまでもないだろう。何せ、あんな反応をしていたんだからな。




「ご、ごめんなさい。私てっきりアナタが一人になった私を狙ってここに来たのかと思って……」


「いや、いいんだ。今まで敵対というか、そんな感じだった奴が近付いて来たら誰だって驚くはずだし……」


……上記の会話からも分かるように、彼女はやっと落ち着きを取り戻してくれた。


つまり、漸くまともに話せるという事でもある。


それならばさっさと始めるとしようか……いやまあ、急かす訳ではないが俺には時間が無いんだからな。


「そういえば、私の名前をまだ言ってなかったね。私はツバキ、榎本椿えのもとつばき。よろしくね」


などと思っていた所、彼女の方が先に口を開いた。


彼女は、もとい椿はそう言って俺に微笑みかける。そうか……ヤンキー集団唯一の華、その名は椿だったのか。それに気が付いた俺は特に意味もなく、うんうんと何度も首を縦に振った。


まあ、そんな事はどうでも良いとして……やはりこの子があの集団にいるというのはどうにも妙だ。


確かに眉は細く、髪色は根元が金の抜けかけた所謂プリンであり、服装も派手……まあ、その辺りはヤンキーとしては合格(?)であるとは思う。


思うのだが、それ以外はただの少女なのだ。ちっこくて愛らしい見た目と、その微笑みのあどけなさと言ったら……もう本当に、年相応かつ素直で優しい女の子でしかない。


本当に、どうしてこの子はあんな奴らと一緒にいるのだろう?……と、いうのも気になる所ではあるが。


それよりも、椿の〝今〟の方がどちらかと言えば気にはなるんだ。という訳で漸く、俺はそれについて椿自身に聞いてみる事とした。


「俺は市奈々井翔。まあ知ってると思うけど、とりあえずよろしく。


それで、ツバキ……榎本は何でこんな所に一人でいるんだ? 君は他の奴等と一緒だったはずだろう? 何か学校に用事でもあったのか?」


一応こちらも自己紹介をし、またいきなり名前呼びはどうかと思い、「ツバキ」という彼女の名を飲み込み苗字と変えた上で。


すると、その途端に椿の顔が曇った。それから暫しの沈黙の後、彼女は自分の脚を摩りながらぽつぽつとこう話し出した。


「え、ええと……あの後、道で警察に出会しちゃってね。私達はただでさえ警察に目を付けられてるっていうのに、今回は私以外の全員がアナタと喧嘩した後だったから怪我とかもしてたり、服もボロボロだったりしてたし……


だからこのままだと、絶対に補導とか、事情聴取とかされるんじゃないかと思ってね。急いで皆で逃げたの。


それで、他の皆とは散り散りになっちゃったんだけど、ひとまず私は逃げ切れたの。まあ、ここまでは良かったんだけど、その時に脚を挫いちゃって……」


なるほど、おおよその事情は分かった。


この子からは嘘をついているような感じもしないし。それに何より、彼女の伸ばした手の先にあるか細い脚。そこには痛々しく腫れた逃走の跡が証拠として刻まれている。


だから、俺はすぐに椿の話を信じたんだ……ま、それは良いとして。


これは良くないというか、ちょっとマズい状況だな。


椿にとっては。だって、その怪我は結構酷いように見えるし、事実として彼女はまだここから動けないのだ。


というか、そんな具合だと回復してすぐに移動するだなんてほぼ不可能。今すぐにでも治療と安静にするための場所が必要というくらいのはずだ。


でも、そんなものを早急に用意する事など無理な訳で……このままだと椿は。


いつになるかも分からない回復を待ち続けたまま学校関係者に見つかり、最終的には警察に突き出されてしまうかもしれない……と、彼女にとってはそのような状況なのだ。これをマズいと言わずして何と言えば良いのだろう。


……まあ、それは〝本来ならば〟の話なんだけど。


大丈夫、そんな彼女もこれで安心だ。何せ、ここには俺がいるんだから。

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