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十八話 〝あるモノ〟

怪我をして校庭で動けずにいる椿。


もし放っておけば、彼女はいつになるかも分からない回復を待ち続けたまま、学校関係者か誰かしらに見つかり。


そして最後には、以前から目を付けられていたという警察に突き出されてしまうだろう。


……ここに俺がいなければ、そんな未来もあった。というか、それがほぼ確実だったのだと考えるとぞっとする。


でも、逆に言えばここに俺がやって来たまさにその瞬間から、未来は変わったのだ。


何が言いたいのかというと……もう椿は何の心配も要らず、そのような結末を迎えるような事は決してない。俺が言いたいのはそういう事だ。


とは言え、ブツブツとそう呟いているだけでは口だけの男と疑われても仕方がない。


という訳でさっさと証拠を突き付けるために、じゃなくて。椿を助けるため行動に移すとしようか。


「榎本……もし良ければ、俺がその脚治してあげるよ」


「え……え? な、治してくれるって、アナタが?」


そうして、俺は懐から〝あるモノ〟を取り出した。




取り出した……が!!


ソレを使うにはただ二つだけ、ただ二つだけ彼女には絶対に承諾してもらわなければならない条件があった。


今はそんな事を言っている場合ではないと叫ぶ声もあるかもしれないが、それでもだ。


そうでないと俺が困る。それはそれはもう、『困る』という言葉だけでは言い表せないくらいにだ。


本当だ、そこにはこの子に嫌がらせしたいとか、困らせたいとかいう意図なんて微塵も無い。本当の本当にやらなければならない事なんだ。


だから彼女には悪いが、俺は一旦懐から取り出したソレを背後に隠し、椿にこう語り掛けた。


「ただ、コレを使う前に二つだけお願いがあるんだけど、良いかな? 別に何も難しい事じゃないからさ」


「お、お願い? ま、まあ本当に治してくれるっていうなら、良いよ。何でも言って」


椿はやや困惑しつつも、コクリと頷いて俺の提案を受け入れてくれた。


やっぱり、この子は素直で優しい子だ……本当に、ヤンキーとは思えない程に。むしろ素直過ぎてフツーの子以上に心配だ、詐欺や悪人なんかに騙されたりしないかと。


……まあ良い、とにかく第一関門(?)はクリアだ。


あとは条件を二つ、その二つだけ条件をこの子が呑んでくれれば何もかも丸く収まる。俺は話を続けた。


「ありがとう、それでまず一つ目なんだけど……俺がコレを使う時、目を閉じていて欲しいんだ。俺が良いって言うまでずっと、絶対に目を開けないで欲しい」


「え?……う、うん。分かった。でも、どうして?」


「え、ええとそれは……こ、コレは俺の親父が作った何にでも効くまだ何処にも売ってない新薬なんだ!


俺の親父医者だからさ……だ、だから、発売前のソレを誰かに見られたりすると、ちょっとマズいかなぁと思って……」


「そ、そんなに凄い薬なんだ! 分かった、それじゃあアナタの言う通り目を瞑っているわ」


またもや椿のとんでもない素直さに助けられ、一つ目の条件を受け入れてもらうという部分も難無く成功した。


ちなみに、俺の親父が医者というのは嘘だ。でも何だか、こんなにも純粋な椿を騙していると考えるともの凄い罪悪感が……いや、今は良い。今は条件を呑んでもらうのが先決だ。


後は一つ、これさえ終われば彼女は自由になる。俺の予想した最悪の未来から、椿は確実に逃れられるのだ。


「それで、二つ目なんだけど……俺がコレを使ったって事は、絶対に他の人に口外しないで欲しい。一部始終、ちょっとした噂話程度もダメだ。


ほら、俺が薬を持ち出したのがもしバレたら、大変な事になっちゃうからさ……」


「まあ確かに、私も何でアナタが持っているんだろうって、ちょっと気になってたもの。それがバレたら大変よね。


分かった、それもアナタの言う通りにする。これは二人だけの秘密ね」


……おお、本当になんて優しい子なんだ。


発言の途中に少し『ギクッ!?』っとさせられてしまったが、それすらも霞んでしまう程の純粋さだ!!……じゃなくて。


「ありがとう、じゃあ今から治療を始めるから、それが終わるまでは目を瞑っていて……」


「うん、よろしくね」


椿が全ての条件を受け入れたその瞬間、俺は事を実行に移した。

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