十五話 刺客(?)2
あ、あの亜香里が。あの大人しくていつもオドオドしてるはずの亜香里が。
まさか不良達の前に立ち、しかもそれだけでなく何やら彼等に向けて話しているとは……
あり得ない。そんな事は本来ならばあり得ないのだ……が、事実そうなっているのだし、実際に今頬をつねってみた所普通に痛かった。
だから俄かには信じられないが、だとしてもこれは紛れもない真実、現実なのだろう。
でもそれなら、亜香里は何のつもりでそこにいるんだ?アイツにとってヤンキーとは、自分と真逆かつ天敵とも言って良い存在のはずなんだぞ?
それなのに、本当にどうして……などと考えていた時、亜香里とヤンキー達とのやり取りが聞こえてきた。
「何だお前?小動物みたいな女だな……じゃなくて。おいお嬢ちゃん! お前には関係ない事だからさっさと学校に戻ってお勉強でもしてな!
俺達はあのふざけた市奈々井ってクソヤローにお礼しに来ただけだからよぉ。それにしてもアイツ一体、何処にいやがるんだ……
ったく、俺達みたいな真面目に生きてる一般人に暴力は振るうわ、こうやってコソコソと逃げ回るわ、本当に最悪なヤローだな……」
「そ、そんな事ない!」
「あ?」
「そ、そんな事ない! 最悪なんかじゃない! か、翔君は、本当はとっても優しくて真面目で、簡単に暴力を振るったりするような人じゃない! わ、私には分かるの!
でも、もしも本当に翔君がそんな事をしたんだとしたら……そ、それは、アナタ達の方に問題があったんじゃないの? 例えば、因縁を付けてお金を脅し取ろうとしたとか……」
「ギクッ!? お、お前、何でそれを……!? い、いや、偶然か……っていうかお嬢ちゃん。
さっき『カケルクン』がどうたら言ってたが、もしかして市奈々井の知り合いか?だったらよ、アイツの居場所を俺達に教えてはくれないか?」
「ざ、残念だけどアナタ達に教える事なんて何もない! わ、私は……私は知り合いなんかじゃなくて、翔君の友達だから!
だ、だからこそ私はアナタ達を止めに来たの! これ以上翔君を悪く言うのは止めて! 嫌がらせしないで! さっさとここから出て行って!」
……なるほど、亜香里は俺のために恐怖を押し殺してまでアイツらの前に立った。いや、立ってくれたんだな。
だがそれにしても、あれ程信じられなかった亜香里の奇行(?)が、まさか俺を原因としたものとは夢にも思わなかった。
けど、やっぱりこれは現実なのだし、事実として亜香里は勇気を振り絞り不良達の前にいるのだ。
それなら、俺が動かないままでいられるはずがないじゃないか……今度は俺が亜香里を助けるんだ。
俺はすぐにコソコソと隠れるのをやめ、亜香里と不良達に近付いて行った。
「おい止めろお前達! 俺はここだ! 俺が市奈々井翔だ!」
そこで遂に、不良達の前に姿を現すと決めた俺は、奴等から亜香里を守るためそう言い放った……
のだが、タイミング悪く俺達の前を過ぎ去った悪戯な風。それが全てを台無しにしてしまった。
いや、台無しくらいならばまだマシだった。だけどそれだけじゃなく、その風は全てを掻き回し、もっと大変な事態を引き起こしてくれやがったんだ。
何故ならば、そのせいで……
「きゃっ!? か、髪が……!!」
亜香里の前髪が暴れて素顔が露わになり。
「あっ……!! な、なあ、あの子」
「ああ、結構カワイかったんだな……!!」
不良達に亜香里が美人であるのが露見してしまったのだから。
ちなみに、俺の名乗りがその衝撃によって掻き消されてしまった事も正直不満ではある。
だが、そんなのは最早どうでも良い。それよりも、今の今まで俺しか知らない秘密だった亜香里の可愛さがバレてしまったという事の方が問題なのだ。
だって、そうなれば世の男の、というかチャラい奴の殆どが彼女を放っては置かないはず。
しかも今回は相手が悪い、ヤンキー達なんだぞ? そんな輩にバレてしまったとなれば……
「な、なあお嬢ちゃん。市奈々井とかいうヤローの事はもう諦めるし、ここからもすぐ立ち去るからよぉ。
だからその代わりに、俺達と遊ばないか? 何なら授業の後でも良いし、連絡先を教えてくれるだけでも構わないからよぉ、なあどうだ?」
ああやっぱりだ。やっぱりそうだ。
彼等がそんな彼女を見逃すはずもなく、やはりと言うべきかアイツらは亜香里のナンパを始めてしまった。
「え? あ、え!? そ、それはちょっと……! か、翔君への嫌がらせをやめてくれるのは嬉しいけど、それは……」
そしてこれもまた予想通り、そんな話を聞かされてしまった亜香里はまた小動物のように戻りあたふたとしている。
心優しく、でも恋愛については疎い亜香里だ。もう少し説得を続ければ断り切れず、またそれを単なる友達付き合いの初まりと勘違いもして彼等について行ってしまう事だろう。
……まあ、そんな真似は友人であるこの俺がさせないのだが。
「おい亜香里、ソイツらと関わるのはやめとけ……」
「あ! か、翔君!」
「あ、市奈々井じゃねえか!! やっと現れやがったなこのヤ」
「悪いが、友達が悪の道に連れて行かれるかどうかの瀬戸際なんだ、加減はできないぞ!! 覚悟しろお前ら!!」
という事で、俺は絶対に避けるべきであったはずの大立ち回りを披露し。とは言っても数秒で、難なくヤンキー集団を蹴散らしたのであった。
……あーあ、やっちゃった。
まあ仕方ないか、亜香里を守るためなんだから。
というか、だからコイツと一緒のクラスになりたいってのもあるんだよな……こうして俺が側にいないと、色々と不安で……
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