ハイ! チーズ!
日本橋界隈のメイド喫茶はいまいち面白くない。
食文化――酒と食べ物へのこだわりがある店が少ないからだ。キャストの魅力だけで持たせるのには限界があるし、こだわりがあっても定番メニューがほとんど、あるいは酒とアテの品揃えがとぼしい、というのでは行く気もうせる。
というわけで、私は梅田のあたり――キタへと行動範囲を広げた。
きっかけは、あるメイド喫茶の元オーナーがキタにチーズ専門飲食店を作ったことだった。
大阪市内に住んでいても、ミナミのすぐそばにいる人間がキタへと足を伸ばす機会は少ない。だから、最初はまさに「梅田地下オデッセイ」状態だった。
とりあえず地下道をぬけて目的地の近くで地上に出る。
飲み助の夜は早い。
お店の位置を確認してから開店まで時間があると、どこか適当な店で食前酒をいただこうという気分になる。
うろついていると、ちょうどいいワイン専門店があった。
一階の路面店で、客筋も良さそうだ。私はメニューの値段を確認してから中に入った。
その後、ここはお気に入りの店になり四大シャトーのワインを飲み比べたりするのだが、その時はまだおっかなびっくりで入ったのだった。
さて、軽く何杯か飲むと目的の店の開店時間が来た。
雑居ビルに行き、エレベーターで上に行く。
その階で降りた瞬間、すさまじいチーズ臭がした。
さすがにチーズ好きの私でも、ドン引きする臭さだった。
それでも、勇を鼓してドアを開け、店内へと進んだ。
テーブル席に案内される。
メニューにはあまたのチーズが記されている。私は適当なチーズとワインを選び、キタの夜を大いに満喫したのだった。
私の敬愛する作家に開高健がいる。
釣りと酒が大好きな人だ。
その言葉にこうある。
「よいバーにはチーズとサラミとシャルトリューズがある」
チーズは酒飲みには欠かせない必須アイテムなのだ。
というわけで、私は一月に一回はこの店に通うことにした。
値段は少々お高めだが、それにまさる魅力がある。
お客さんもたくさんついていた。
でも、二年ほどで閉店してしまった。
家賃と人件費に負けたのだろうか。キタにしては良心的な価格にし過ぎたのだろうか。ワイン専門店でも話題にのぼるほどの有名店だったというのに。
私は、今でもたまにあの店のことを懐かしく思い出すのである。




