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No.09 Appendices:目的は時にすり替わるものです

 なぜか教授と井宮に対して叫ぶ女の子。


「どうしてと言われてもね。初対面だと思うんだけど」

「とぼける気? どうやって私の居場所を知ったのよ?」

「いや、僕はただイケメンに紹介されただけで……」

「あんたが情報を漏らしたの? なんてことしてくれてんのよ!」


 イケメン教授を指さして非難する女の子。


「ちょっと落ち着け、何か勘違いしてるんじゃないか?」


 イケメンが諭そうとするが、彼女は次に教授と井宮の方を指さして言う。


「だって、あんた達……モフスキーとイーミャでしょ」


 その発言に二人とも驚く。


「あれ、なんで僕達の名前知ってるの? イケメン何か彼女に話した?」

「いや、まったく何も」


 そのやり取りを見て、さらに彼女が憤慨する。


「あ~、もう! 忘れたとは言わせないわよ! もふもふオンラインよ。エリア6、分かる?」

「なんだ、君もあのゲームのプレイヤーなんだ。エリア6クリアしたの? すごいじゃん!」

「あ、ありがとう。……じゃなくて、私よ、オフトンスキー!」


 そこでようやく二人とも目の前にいる女の子が誰なのか理解した。


「君がオフトンスキーさんなの?」

「だからそう言ってるっしょ! 知ってて来たんでしょ?」

「いや、たまたま医療VR技術の見学に来ただけなんだけど」

「え? えええぇ!」


 オフトンスキーさんは分かりやすく顔を真っ赤にするとこれでもかというほど布団を深々と被った。


「そんなぁ」

「もしかして……自爆?」

「自爆っていうなし!」


 ご機嫌斜めなオフトンスキーさんに声をかける教授。


野々瀬ののせとかちさ~ん」

「本名で呼ぶな~!」

「だって病室の名札に書いてあったから。じゃあ、とかちだからカーチェ?」


 するととかちが跳ね起きた。


「勝手にロシア風のあだ名つけないでよ。それにあんた何歳なの?」

「十六だけど」

「私は十八よ! 年上なんだからもう少し敬ったらどう?」

「じゃあ、カーチェお姉ちゃん?」


 教授がしおらしく名前を呼んだので、とかちは顔を真っ赤にする。


「お、お姉ちゃん? なんかすごく恥ずかしい。いいわ、やっぱり呼び捨てでいい!」


 そう言ってまた布団をかぶった。


「なんだ、知り合いだったのか?」

「うん、VRゲームで一緒に遊んだことがあってね。まあ、カーチェからしたら遊びじゃないだろうけどさ」

「どういうことだい」


 興味を持ったイケメン教授がモフスキー教授に歩み寄り尋ねる。


「VR世界とはいえ、彼女にとってはあそこも立派な生活の場なんだよ。そこに生きているという実感が得られるね」

「そういうものなのか。ずっとVRゲームばかりしてるから、手術後にゲーム用デバイスを取り上げたのだが、返した方が良いかな?」

「ああ、それでログインできずにいたのか。そうだな、返すべきだ。ゲームとはいえ運動感覚を養うのには適しているし、ゲーム内の彼女は生き生きしてるぞ」

「ああ、そうする」


 とかちはその話をベッドの上でひょこっと布団から顔を出して聞いていた。

 それに気づいた教授がとかちににこりと微笑みかける。


「良かったね、返してもらえて」

「何よ、別に感謝なんかしないんだからね!」

「うん。でもね、僕が嬉しいんだ! また君とゲームができる」

「うぅ……。そ、そうですか! 良かったですね!」


 怒っているのか笑っているのかよく分からない表情でとかちは返答した。


「それにしても、アルパカグッズが大量にありますね」


 井宮が病室を見渡す。


「ゲーム内でもアルパカに愛着持ってたし、やっぱり好きなんだね」

「だから何だっていうのよ!」

「実はうちのラボにリアルなアルパカがいるんだよね~」


 するととかちの様子が急変する。


「え! 何、あんたんとこアルパカ居んの? 生アルパカ?」

「ああ生きてるとも。見たい?」

「見たい、今すぐに!」


 そう言ってベッドの横にある車いすに乗ろうとするとかちを、教授は制止した。


「それはダメだ」

「なんでよ」


 ふくれっ面のとかちに教授が言う。


「そんなに見たいの?」

「ええ、もちろんよ! テレビや写真集で何度も見てるけど、生では見たことないんだから!」

「それじゃ、僕の出す条件をクリアしてもらおう」


「条件?」

「簡単なことさ。まず、『もふもふオンライン』でのエリア7攻略。これに付き合ってもらう」

「なんだ、そんなこと? それは私も望むところよ」


 安心した様子のとかち。

 しかし、にやりと微笑みつつ教授が続ける。


「それと、僕のラボへは自分の足で歩いてくること」

「え!」


 車いすに乗せようとしていた足をひっこめるとかち。


「それって、今すぐには無理じゃん! そんなの……」

「アルパカ……見たいんでしょ?」

「見たい! 分かったわ、私リハビリ頑張る!」


「うん、僕も手伝うからさ。ほら、病室前の廊下を一緒にお散歩したりして。そうだな……いわばデートのようなものだよ」

「デ、デート……」


 恥ずかしがるとかち。


「僕では不満? だったらイーミャをあてがうけど?」

「ううん、あなたでいいわ……。(あなたが……いい)」

「ん? とにかくそういうわけだから」

「うん、分かったわ」


 こうして約束を取り付けた教授たちは、病室を後にした。



「助かったよ、モフスキー。彼女がリハビリする気になって本当に良かった」

「うん。ゲームデバイスはちゃんと返してあげてね」

「ああ、もちろんだ」

「それじゃ」



 教授はイケメン教授に念押しすると、井宮と共にラボへと向かった。


「教授、なかなか大胆なことしますね」

「何が?」

「何がって、彼女に対してあんなアプローチをしつつ、リハビリするよう促すなんて」


「ん? 僕は彼女に興味があって、そんでもって元気になってほしいだけだよ?」

「教授、自分がしたこと分かってます?」


 井宮の質問の意味が分からない教授は言う。


「バカにしてんの? 自分のしたことが分かんない奴なんているわけないだろ。自分でやってんだから。僕がしたことはイーミャがさっき言った通りの事じゃん。それ以外の何があるっていうのさ?」


 井宮は苦笑した。


「確かにそうっすね。ただ、何て言うか……教授らしいなと思って」

「変なやつだなぁ」


 井宮は思った。

 教授は色恋沙汰には疎いんだなと。



 教授ととかちが約束をしてから、二週間が経過した。


 あれから教授と井宮、そしてとかちは何度もエリア7のラスボスに挑んでいた。

 しかし、あまりの強さに勝てずにいるのだった。


 それに反して、とかちのリハビリは順調で、恥ずかしがりながらも教授と二人三脚で頑張っていた。


 そしてある日の天気の良い昼下がり。


 毛玉大学アニマルサイエンス学部、もふもふ研究所を尋ねる一人の少女がいた。


「会いに来てやったわよ!」


 仁王立ちして叫ぶ少女。

 それは紛れもないとかちだった。


「やあ、とかちさん。それともカーチェって呼んだ方が良いかな?」

「どっちでもいいわ。ところでもふ君は?」

「教授なら奥の部屋でパーカー氏とお待ちですよ」


「そう。本当に自分の足でここまでこれたのよね?」

「頑張りましたね」

「ありがとう。もふ君にも私の華麗な歩行を見せつけてあげるんだから!」

「その意気です!」


 とかちはラボの奥の部屋へ続くドアの前に立つ。

 そこで井宮は意地悪そうに質問をとかちへ投げかけた。


「そういえばさっき会いに来たとおっしゃいましたが、それは生のアルパカにですか? それとも教授?」


 とかちは振り返り、口元に人差し指を添えると満面の笑みで元気いっぱいに答えた。


「そんなの当然……両方よ!」


 そして扉を勢いよく開く。


「来てあげたわよ、もふ君」

「よく来たね、カーチェ」


 そこには彼女が求めたアルパカと、そして彼がいた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


余談ですが、ゲームの収益とアニマルセラピーによる医学的分野への貢献を考慮し、ラボは存続が許されることとなります。

これでめでたしめでたし。

えっ? 究極のもふもふ生物は出てこないのかって。

当初は出す予定だったのですが、出すタイミングを見失ってしまいました。

ビジュアルはずんぐりした毛玉のような感じです。

その辺りは読者様のご想像にお任せします。


ぐだぐだした感じになってしまいましたが、動物を描写する機会を得られてよかったなと思います。

課題も色々見えてきたので、今後の創作活動に活かしたいですね。

それではまた。

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