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58【ゴールドクラッシュ】

 ドワーフンヴィレッジへの道中。森の中。


 双子岩前の広場で、両者は向かい合っていた。


 一人は俺ことシャドー。もう一匹は、鉄ヘルムを被ったホブゴブリン。


 他のゴブリンやホブゴブリンは全滅していた。俺の仲間たちが、気張って壊滅させたのだ。


 その他の面々は、俺たちの戦いを観戦している。俺に獲物を譲ってくれたのだ。


「ボブ〜、ゴブ〜!!」


 最後まで残ったホブゴブリンは、右手に棘付きメイス、左手に木の棍棒を持っていた。静かにも厳つい顔付きで俺を睨んでいる。


 防具は頭に被ったヘルムに、肩から羽織った獣の毛皮。それに褌だけだった。


 こいつだけ、他のホブゴブリンとは装備が異なっている。たぶん、リーダー格ゆえに、装備が少しばかり上等なのだろう。


 しかし、それも気休め程度である。ただ、鉄ヘルムを被っているだけだ。この程度の装備で俺との差は縮まらないだろう。


 俺は両手の指関節をポキポキと鳴らしながら言った。


『さてさて、最後の一匹か。それにしても、これだけ不利な状況なのに逃げないとは、たいした根性だぜ』


 鉄ヘルムを被ったホブゴブリンは、一匹だけ残されても逃げようとはしない。いまだに恐ろしい形相で、俺を睨みつけている。


 たぶん、俺の言葉を理解しているはずだ。自分が置かれている状況も分かっているのだろう。


 それなのに逃げない。


 まさに、根性が座っている。


 まあ、逃げてもこっちの有する多人数で追われたら、逃げ切れるものでもないだろう。


 ダークエルフは森だと速いからな。それを悟っているのかも知れない。逃げるは愚策なのだ。


「ホブゴブゴブ――」


 ホブゴブリンが凶暴な面相を怒りに歪める。全身に青筋を浮かべながら力んでいた。闘志は満点である。


「ホブゥ〜〜〜」


 するとホブゴブリンは、両腕を大きく広げた。そのままガニ股になって、腰を落とす。体を限界まで広げていた。


『んん?』


 雲竜型――?


「ふんっ!」


 ガンッ!


 森に金属音が響き渡った。


 ホブゴブリンは、広げた両腕を閉じるようにして、前方でメイスとクラブを激しく激突させたのだ。


 その激音に反応したのは、夜の森に潜む怪鳥たちだった。


 眠っていた怪鳥たちが一斉に木々から飛び立ち、上空へと舞い上がる。


 そして、奇声を上げながら森の上空を旋回し始めた。


 真夜中なのに五月蝿い。


「ふうっ!」


 さらにホブゴブリンは、片足を大きく開脚しながら高々と振り上げた。上げた脚とは逆の脚一本だけで、器用に身体を支えている。


『四股、かな……?』


 国技館で見たことがある姿勢だった。まるで大相撲の四股踏みである。


「ドスコ~~イ!!」


 ズシンッ!


 振り上げた脚が、大地へと力強く踏み下ろされる。強烈なストンピングが地面を揺らした。


『……やっぱり四股だよな?』


 俺が呆気に取られていると、ホブゴブリンは両腕をゆっくりと地面すれすれの高さまで下げた。メイスとクラブが、地面とほぼ同じ高さに並ぶ。


 そして、さらに腰を落とした。


 頭を下げ、尻を上げた状態で、鋭い眼光だけをこちらへ向けている。


『おいおい……』


 それは、どう見ても相撲の仕切りだった。


『なんか、ホブゴブリンのイメージと違うわ〜……』


 ホブゴブリンは、完全に俺を相撲の対戦相手として認識しているらしい。


 両手にはメイスと棍棒。頭には鉄ヘルム。肩には獣の毛皮。そして、下半身は褌。どう見ても力士ではない。


 せめて褌ではなく、廻しだったら力士だったのだろうが。


 だが、本人だけは完全にそのつもりのようだ。


「ホブゴブゥゥ……!」


 ホブゴブリンが低く唸りながら、俺を睨みつける。


『……まさかとは思うが、俺に相撲で勝負しろってことか?』


 俺は穴の開いた顔を微笑ませた。


 予想もしなかった展開である。まさか異世界に来てまで、相撲を取ることになるとは思いもしなかった。これは楽しみである。


『面白い、受けてやるよ!』


 そう述べた俺は、背筋を伸ばした姿勢のまま、真っ直ぐ前へ歩き出した。そのまま無防備にもホブゴブリンへと歩み寄っていく。


「プシュ〜〜……」


 低い姿勢で、ホブゴブリンが俺を睨みつけている。俺がこいつの間合いに入った途端、猛突進を仕掛けてくるはずだ。


 それを承知の上で、俺は歩みを止めない。


 真っ直ぐに突き進む。


 距離にして残すは三メートル。


 そこでホブゴブリンが動いた。


 クラウチングスタートのような低い姿勢から、一気に飛び出してくる。ロケットダッシュだった。


 両手に握ったメイスとクラブを突き出し、まるで両手突き(もろてつき)のような攻撃を繰り出してきた。


「ドスコイッ!!」


 そして、俺の顔面を狙ったメイスとクラブの二双突きが迫る。その速度は猛スピード。威力も相当に重そうだった。


『ふっ』


 しかし、俺は透過能力でやり過ごす。


 メイスとクラブが俺の顎を捉えた瞬間、そのまま俺の身体を擦り抜けた。


 そして、ホブゴブリンの眼前。太い両腕の間。そこで俺は、スッと身体を落とした。


 左肩を前に出し、腰を深く落とす。ガニ股の姿勢で下半身を固め、身体を力強く固定させた。


 突き出すのは左肘。


 その左肘が、突っ込んできたホブゴブリンの顔面を真正面から捉えた。


 ガンッ!!


 激しい音が轟く。まるで車が壁に激突したかのような激音だった。


 俺の左肘が、ホブゴブリンの顔面へ深々とめり込んだ。


「グハッ!!」


 ホブゴブリンが前歯を撒き散らしながら、よろめく。


 太極拳の頂心肘(ちょうしんちゅう)と呼ばれる肘鉄技である。


 しかも、服の下の肘にはオフロードレース用のプロテクターが装着されている。これで攻防共に倍増だ。


 だが、ホブゴブリンは怯まなかった。倒れない。


 反撃を試みるように、棘付きメイスを張り手のように横薙ぎに振り抜いてくる。


「ウガッ!!」


 しかし俺は、身体を沈めながらメイスを躱す。


 そのまま身体を捻り、上段廻し蹴りを鞭のように放った。


 腰、股関節、膝、足首の関節を撓らせ鞭のような蹴りを放つ。


 バシィッ!!


 本物の鞭のような乾いた音が響く。


 蹴り足が、再びホブゴブリンの顔面を捉えていた。


 上段廻し蹴りをまともに食らったホブゴブリンは、倒れこそしなかったものの、被っていた鉄ヘルムを弾き飛ばされる。


 鉄ヘルムが宙を舞う。


 ホブゴブリンが蹌踉めく中、地面に落ちた鉄ヘルムが跳ねながら森の奥へと転がっていった。


「グガァガァ……」


 俺は、蹌踉めきながら後退するホブゴブリンへ追撃を仕掛ける。


『せいっ!』


 腹部への中段横蹴りが、ホブゴブリンの鳩尾を蹴り貫いた。さらにホブゴブリンが蹌踉めきながら後ろに下がる。


「ホブ、ゴブ、ゴブ……」


『まだ、いくぜぇ〜』


 ジャケットの懐から、両手で手裏剣を六枚取り出した。


 右手に三枚。左手に三枚。計六枚の同時投擲。


『それっ!』


 ヒュヒュンッ!!


 六枚の手裏剣が一斉に飛翔する。


 そのすべてが、ホブゴブリンの巨体へ突き刺さった。


「グギャッ!!」


 当たれば刺さる。そんな単純明快な性能を持つ優秀な手裏剣が、ホブゴブリンの太った身体へ次々と突き刺さった。


 痛みに耐えかねたホブゴブリンは、その巨体を縮めるようにして藻掻き始めた。


 そこへ俺は、両足を揃えて飛び掛かった。


 足先から一直線に飛び込む。


 プロレス技のドロップキックである。


 空中で身体を丸め、全身に力を溜める。そして、その力をバネのように解放した。両足を大砲の弾丸のように撃ち出す。


『ドロップキックだ!』


「ホゲッ!!!」


 ズドンッ!!


 俺の両踵が、ホブゴブリンの頭部を真正面から捉えた。顔面を全力で蹴りつける。


 強烈なドロップキックを食らったホブゴブリンの巨体が、まるで吹き飛ばされた丸太のように後方へ飛んでいく。


 そして、そのまま地面へ叩きつけられた。


 対する俺は、空中で身体を一回転させると、片膝立ちの姿勢で着地する。


『どうだい!』


 効いていないはずがない。


 俺が履いているジャングルブーツの踵には鉄板が仕込まれている。それで蹴られたのだ、顔だって陥没するだろう。


「「「おお~~!!」」」


 俺のドロップキックを見ていたダークエルフたちから、歓声と拍手が沸き起こった。リーンがキャッハキャッハと跳ねながら喜んでいる。


 どうやら、俺の曲芸じみた技に感動しているらしい。


 まあ、プロレスなんて無い異世界だ。ドロップキックを見るのも初めてなのだろう。曲芸に飢えていたのだと思う。


「ウガァ……ウガガァ……」


 ダラダラと血を吐きながら、ホブゴブリンが無様にも四つん這いで逃げ出した。森の中へ逃げ込もうとしている。


 ホブゴブリンは完全に戦意を失っていた。口や鼻から血を垂らしながらも「ひぃーひぃー」と泣いている。


『逃がすかよ。もう一つ、試したいことがあるんだよ』


 そう言うと俺は、胡座をかいたまま縛られていたホブゴブリンの死体から縄鏢を取り上げる。


 絡まっていた縄鏢は、透過能力を使ってスルリと束縛を解いた。


 俺はその縄鏢を、這いつくばって逃げるホブゴブリンへ投げつける。


 縄鏢が片足に絡みつき、逃走を邪魔した。


 俺は縄鏢の反対側をクナイに結びつけ、そのまま地面に突き刺し固定する。


『これで逃げられまい。とうっ!』


 そこからのジャンプ。


 俺は四つん這いになっているホブゴブリンの背中を跨ぐようにして着地した。馬乗りである。


『いくぜ、新必殺技だ!』


 そう宣言すると、俺はホブゴブリンの背中に振り被っていた手刀を勢い良く突き立てる。


 だが、その手刀が背中を貫くことはない。


 しかし、俺の指先は透過能力によって、ホブゴブリンの背中から体内へとスルリと入り込んでいく。


 そして――心臓を鷲掴みにした。


『ゴールドクラッシュだ!!』


 そのまま、俺は心臓を一気に引き抜いた。ブチブチっと血管が引き千切られる感触が伝わって来る。


「ギィァァアアアア!!!」


 ホブゴブリンが、あまりの苦痛に絶叫する。


 しかし、その背中には貫かれた穴など存在しない。


 透過能力によって、心臓だけを体内から鷲掴みにして引き抜いたのだ。


『うわ、キモ……』


 俺の手の中で、ホブゴブリンの心臓がまだドクンドクンと脈打っている。その度に、千切れた動脈から血を噴き出していた。


 やがて心臓は、動きを止めた。少しずつ鼓動を弱めていずれは静かになる。


 同時に、心臓を失ったホブゴブリンも、その場に崩れ落ちて息絶えた。表情は苦痛の色のままだった。


『ちょっと閃いたからやってみたが……結構グロい技だな。これは、あまりやらんとこ……』


 ゴールドクラッシュを仕掛けた本人である俺が、思わず引いてしまう。


 周囲で見ていたダークエルフたちも、若干引き気味だった。


『この技は……封印だな。ちょっとグロテスク過ぎるわ〜』


 こうして、ゴブリンとホブゴブリンは全滅した。我々の完全勝利である。







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⬛作者からのお願い⬛

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面白かった、続きが気になる、今後どうなるの!?


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メッセージ付きのレビューなどを頂けますと大変励みになります。☆や♡をください!


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何卒よろしくお願いいたします。


by、ヒィッツカラルド。

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