56【ゴブリン狩りの競争】
「「「キィェエエエエエエエ!!」」」
木々の陰から飛び出してきたのは、ゴブリンの群れだった。その数は十二匹。皆が皆、石斧や棍棒などで武装している。
後からマーリアに聞いた話では、ゴブリンはこの異世界でもポピュラーな亜人系モンスターらしい。何処にでも居て、何処にでも湧く、ゴキブリのようなモンスターらしいのだ。
身長は160センチ未満。体重は50キロほど。知能は低いが、人間の言葉を話す。戦闘力は低いが、性格は小賢しくて残忍。しかも攻撃的だ。中には魔法を使える者もいるらしい。
彼らの上位種には、ゴブリンシャーマンやゴブリンチャンピオン、ゴブリンロードなどがいる。彼らは一般のゴブリンよりも賢いらしい。その分だけ残酷性も高くなる。
稀に体格の大きなボブゴブリンなどがいるが、体が大きい分だけ、普通のゴブリンよりも知能が低いらしいのだ。ウドの大木なのだろう。
彼らゴブリンの繁殖方法は、他種族を襲って妊娠させること。その他にも、魔素の濃い大地から湧き出るように生まれることがある。故に、ゴブリンのメスは存在せず、オスしかいないのだ。
だが、魔素の濃い大地から無限に湧いてくるため、絶滅することがないらしい。
それ故に、この異世界ではポピュラーなモンスターの代表なのだろう。
「「「キィェエエエエエエエ!!」」」
レーンがレイピアの刀身を鞘から引き抜きながら述べる。
「こいつらは、もっと北の森に住んでいるはずだが、ここまで南下していたのか」
シーンが続く。
「たぶん、数が増えて群れを分割したのだろう。そろそろ討伐隊を組んで、間引きの準備をしないとならないかな」
『なに、討伐とかしてるのか?』
「こいつらゴブリンは、放っておくと無限に数を増やしますからな。定期的に討伐隊を組んで、間引きをしているのですよ」
『まさに害虫扱いだな』
シーンが溜息混じりで述べる。
「まだ、害虫のほうがマシですな。害虫は絶滅させれば消えますが、こいつらは無限に大地から湧いてきますからね」
『ゴキブリ以上なのね……』
俺たちが話している間にも、ゴブリンたちが距離を縮めてくる。的確に包囲した輪を縮めていた。
しかし、シーンやレーンを見ている限り、彼らは余裕を見せている。マサムも、さほど殺気を見せていない。
たぶん、ゴブリンの戦闘力は、ダークエルフたちの戦力からすれば、対したことはないのだろう。
体のサイズ同様に、子供扱いなのかもしれない。
『なあ、もしかしてゴブリンって、弱いのか?』
温かくも微笑みながら、レーンが述べる。
「試してみますか、シャドー様?」
『試すって?』
「競争でもしましょう」
『競争?』
「戦士系は、シャドー様、シーン、マサム、それに私がいます。それぞれで競争をしましょう。ゴブリンを一番多く狩った者が勝ちというのはどうですか?」
『それは面白そうだな。皆はそれでいいか?』
その言葉を聞いて、男たちが頷く。
『では、勝った者には、明日の朝に惣菜パンをプレゼントしよう。優勝景品だ』
「「「「マジ!!」」」」
それを聞いたリーンが怒鳴る。
「それはズルいです! それならリーンも参加します!」
待て待てとリーンを宥める。
『いや、リーンたち女性には、勝負に勝たなくても惣菜パンをプレゼントするよ。だから今回は審判でもやっててくれ』
「「「本当ですか!」」」
すると、バートが手を上げる。
「ぼ、僕は……?」
『お前も審判をやってろ。まだ子供だからな。特別だぞ』
「はいっ!」
すると、惣菜パンに釣られてやる気を見せる男たちが、手にした武器をブンブンと振り回していた。レイピアやロングソードが風を切る。
なんか、急に気合いが入り始めた。眼光も鋭く変わっている。
ゴブリンたちも奇声を上げながら武器を振りかざしていた。こっちはこっちでヤル気満々のようだった。
しかし、その武器は石斧や棍棒程度。あまりにも原始的だ。レイピアやロングソードで武装しているこちら側の戦力とは、大きな差がある。
防具もこちらは革鎧やら上半身だけのハーフプレートを着込んでいるのに、ゴブリンたちはボロ布を纏っているだけだ。
ゴブリンたちが勝っているのは、人数だけだった。
「女ガ居スゾ。捕マエロ!」
「オッパイダ、犯シタイ、孕マセタイ!」
「オーーパイ、オーーパイ!!」
ああ、なるほどね。これは低俗だわ。まるでやんちゃな小学生レベルだぞ。これは死んだほうが世のためだわ。
『じゃあ、始めるか』
と、俺が言った瞬間、マサムが先陣を切って飛び出した。その瞬間には、ロングソードでゴブリンの一匹を斬り伏せていた。
「ふんっ!」
一刀両断。ゴブリンの脳天から股間までを真っ二つに斬り裂いていた。凄い力技だ。
小柄なゴブリンが相手でも、その斬撃は見事だった。簡単には真似できない剣の腕前だろう。
この人狼は、なかなか出来るようだ。
「負けてられるか!」
だが、それよりも素早い剣技でゴブリンたちを仕留めるのはシーンだった。
ダッシュからの閃光。疾風のような剣技で、ゴブリンたちを斬り裂いた。
瞬時の二連撃。
その攻撃が二匹のゴブリンの喉を的確に斬り裂いていた。鮮血が噴水のように宙へ舞う。頸動脈を狙って切ったのだろう。
「惣菜パンのため、遅れを取れん!!」
次に飛び出したのはレーンだった。彼はレイピアの刀身に魔法を掛ける。エアーエンチャントの魔法で斬れ味を増加させていた。
「しょぉぉおおお!!」
一瞬の三連斬撃。
その斬撃が、ゴブリンの小さな体を木っ端微塵に斬り裂いた。微塵切りの刑である。細かく分割されたゴブリンの肉片が周囲に散らばった。
『おおう。皆、やるね〜』
感心しながらも、俺はシャドーポケットから漆黒丸を引き抜いた。漆黒を宿すインテリジェンスブレイドである。
俺は黒いオーラを放つ日本刀に話し掛けた。
『漆黒丸、一太刀分だけ力を貸してくれ』
【御意!】
すると漆黒丸が俺の体から魔力を吸い上げ始めた。それに連れて漆黒の刀身がドス黒く揺らめき始める。刀身に破壊力を溜め込んでいた。
「「「「キィェエエエエエエエ!!」」」」
四匹のゴブリンが横一列に並んで飛び掛かってくる。その形相は悪鬼そのもの。邪悪さ満点だった。
『食らいな!』
俺はゴブリンの群れに向かって、漆黒丸を横一閃に振るった。
すると、漆黒の稲妻が激しい音を轟かせながら横薙ぎに走る。雷音が視界を奪う。
その黒い稲妻が、四匹のゴブリンの胴体を見事に斬り裂いた。ゴブリンたちの内臓が、無残にも飛び散る。
それだけでは収まらない。切られたゴブリンの体が闇に飲まれて塵と化す。
一太刀四殺。
あまりにも威力が凄まじい一撃だった。ゴブリン四匹だけでなく、隣に生えていた木まで薙ぎ倒している。
『ふう〜。まあ、こんなものかな』
俺が一段落の溜め息を吐いた刹那だった。
「キャイン!」
『えっ?』
殺気まで元気にゴブリンたちを斬り刻んでいたマサムが飛んできた。俺の足元で倒れ込む。
『どうした、マサム?』
「あ、あれ……」
四つん這いのマサムが、震える指で森の中を指差した。底には巨漢の影が三つ立っている。
『んん〜……?』
そこには巨漢の人型モンスターが立っていた。ゴブリンをダイマックスさせたような姿をしている。
『なにあれ?』
俺の横に並んだレーンが述べる。
「ホブゴブリンですな」
『あれがホブゴブリンなのね』
鬼のような強面。背も高い。相撲取りのようなちゃんこ型の体型は、生まれ持った体格を生かした戦闘法が得意そうな感じだった。
レーンが微笑みながら言う。
「ゴブリンよりは、手強くて面白い相手ですぞ!」
『レーン、おまえ、楽しんでない……?』
「ふふふふふぅ――」
ああ、こいつは戦闘狂なんだ……。少しずつこいつの人間性が分かってきたぞ。
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by、ヒィッツカラルド。




