↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
54/69

54【試験管代理】

 それから、どれほど時間が過ぎただろうか?


 朧気な物音に、スーツの男が目を覚ました。意識を失っていた状態から、ようやく回復する。


「こ、ここは……」


 そこは、レンタル駐車場の隅っこだった。停車されたトラックの陰で、小道からは見え難い位置である。


「はっ!?」


 すると、眼前にはアスファルトの上で正座をしている舎弟二人の姿が見えた。その二人の前に鎖とメリケンサックが置かれている。


 白ジャージ男とタンクトップ男は、俯き加減で正座をしている。その顔は恐怖に歪んでいた。今にも泣き出しそうである。


 二人の前には、ビール瓶一ダース入りのケースを裏返して椅子代わりにした鬼頭二角が、大股を開いて座っていた。その両手は、まだポケットに入れられている。


 その肩からは、威圧のオーラが揺らいで見えた。三人を殺して食い散らかしそうな気迫である。


 男が目を覚ましたことに鬼頭二角が気付いて言った。


「おう、目覚めたかぁ。まあ、座れや――」


「ええ……」


 スーツ男は呆然としながら、立ち上がろうと膝を立てた。


 その刹那である。鬼頭二角が静かに凄んだ。鬼面が冷徹に冷え込む。


「座れってぇ、言ってるだろぉ」


 パツンッ!


「ぎゃっ!!」


 刹那の出来事だった。


 立ち上がろうとしたスーツ男の片耳が、横から切られたように半分に割れる。何かに切られたのだ。


「うぎゃ……」


 血が溢れる片耳を両手で押さえながら、スーツ男が両膝を着いて蹌踉めいていた。そのような彼に、鬼頭二角が冷めた声色で脅すように言う。


「早く正座しねえと、今度は耳ごと落とすぞ」


 鬼頭二角の眼光は冷酷そのものだった。言うことを聞かないと、本当に耳を切り落とすほどの残酷な意思が窺えた。


「ひぃ……」


 スーツ男は怯えるように、すぐさま正座した。舎弟たちの隣に正座で並ぶ。その顔は青ざめ、額からは大量の汗が流れ落ちていた。


 それを見て、鬼頭二角は満足げに微笑んだ。


 それから一呼吸置くと、怪しく微笑みながら三人に述べる。


「なあ、お前らぁ。ウロボロスの書物を狙うのはぁ、正社員の権利だが、それ以前にぃ、その行為は幹部への反逆だぁ。分かってるよなぁ〜、え〜、お〜、え〜?」


「「「――……っ」」」


 三人は正座のまま俯いて答えない。下を向いたまま、頭を上げようとしない。


「幹部から魔導書を奪うにはぁ、幹部本人を殺さなければならねぇ。それが鉄則だぁ。即ちだぁ、お前らは、俺を殺しに来たんだよなぁ〜。え〜、お〜、え〜?」


 三人は俯いたまま答えない。確かに殺しに来たからだ。


「それはよぉ、人を殺す覚悟なんだからぁ、負けたらぁ、殺される覚悟も出来ているってことだよなぁ〜。え〜、よ〜?」


「「「――……ぅ」」」


 また三人は答えない。冷や汗だけが額から流れ落ちた。


 しかし、今度は鬼頭二角が三人の態度に苛ついた。舌打ちを漏らす。


「ちっとは答えろよぉ。コミュニケーションぐらい取ろうぜぇ、なぁ〜。あ〜ん?」


 途端、鬼頭二角のつま先が飛んできた。その蹴りは鋭く、白ジャージ男の顔面を蹴り飛ばした。


 パッン!


 破裂音が響く。


「「っ!?」」


 鬼頭二角の軽いキックの一撃で、白ジャージ男の頭が木っ端微塵に吹き飛んだのだ。


 それはまるで、ダイナマイトでも仕込まれたスイカのようだった。


 頭の肉片が後方に飛び、ブロック塀にへばり付いた。そして、体は静かに倒れ込む。その頭を失った首元からは、大量の鮮血が流れ出ていた。


「「ひぃ!!」」


 残った二人は身を強張らせ、怯えた。


「まあ、この状況ならばぁ、殺されてもぉ、文句も言えめえさ〜」


 パンッと膝を叩いてから、鬼頭二角が立ち上がる。ポケットから手を抜いた。その片手には、クルミのような種を一つ持っている。


「お前らのどちらかによぉ、これをくれてやるぜぇ」


 そう言いながら、手のひらの中の種を二人に見せた。それは金徳寺金剛会長から貰った世界樹の種である。


 スーツ男が震える声で問う。無理してコミニケーションを取ろうとしていた。


「そ、それは……?」


「これはぁ、世界樹の種だぁ。ゴールド商会に出回っているドーピング薬みてえなものだぜぇ〜」


「そ、それをどうしろと……?」


 鬼頭二角の顔が一段と微笑む。


「これを持ってぇ、異世界に飛んでもらうぜぇ。俺と同じ、ウロボロスの権利者が有する異世界だぁ!」


「い、異世界……」


「そこでぇ、幹部候補生の服部泰三に試練を仕掛けてもらいたいんだわぁ〜。俺に代わってぇ、試練の試験官を務めてもらいたいんだよ!」


「し、試練の試験官……」


「そうだぜぇ〜!」


 そこまで言うと、鬼頭二角のテンションが下がった。


「しかしなぁ〜。ほれ、見てみろ――」


 そう言いながら、手のひらの中の種を二人に見せつけた。手のひらには世界樹の種が一つだけある。


「見ての通りだぁ。種は一つだぁ。だから試験官も一人なんだよなぁ〜」


 そこまで言うと、鬼頭二角の表情が再び氷のように冷たくなった。そして、ボソリと告げる。


「どちらか一人にはぁ、ここで死んでもらわなければならねぇ。残った奴だけ生かしてぇ、試験官に任命してやるよぉ〜」


 そう鬼頭二角が言った直後である。スーツ男が即座に動いた。跳ねるように立ち上がる。


「キッ!」


 スーツ男は素早く立ち上がると、すぐさま懐から合い口を取り出して、隣で正座をしていたタンクトップ男の首筋を切りつけた。


 斬撃が鋭く光る。


 味方を斬った。


「か、はぁ……」


 一太刀の後、タンクトップ男の首から噴水のように鮮血が噴き出す。そして、白目を剥いたタンクトップ男は、無言のまま前のめりに倒れ込んだ。アスファルトに口付けをする。


 首から噴き出した鮮血を浴びたスーツ男は、赤く染まった合い口を鞘に戻した。


「はあ、はあ……」


「判断が早いなぁ。試験官合格だぜぇ〜」


 鬼頭二角が世界樹の種をスーツ男に手渡した。


 そして、鬼頭二角は懐からスマホを取り出し、何処かに電話を掛け始めた。やがて、着信相手が電話に出る。


「あ、もしもし~。魔法使いかぁ~?」


『もしもし、そうだけど~』


 電話の相手は、幼い女の子の声だった。可愛らしくも少し生意気そうな声色である。


「ああ、俺、俺。二角だぁ~」


『着信を見れば分かるわよ。それで、何か用かしら?』


「すまんがぁ、今いる俺の位置に、服部泰三が居る異世界の扉を出してもらえないかなぁ~」


『あなた自ら、あいつの異世界に飛び込むの?』


「いやいや〜、試験管を送り込むだけだからぁ、片道切符で十分だわぁ~」


『分かったわ。スマホのGPSで調べて、そこに扉を出すわね』


「頼むぜぇ、ロリロリちゃんよ〜」


『ロリロリって呼ぶなぁー!!』


 その怒声を最後に、電話が切れた。


 やがて、しばらくすると、レンタル駐車場の隅に古風な扉が現れた。何処でもドアのように、何もない空間にぽつんと立っている。


「おっ、来た来たぁ~」


「ぁ――……」


 鬼頭二角が、その扉を開ける。


 扉の向こうには、森の景色が広がっていた。亜熱帯の空気が流れ込んでくる。


 そこは、別の異世界だった。


 微笑む鬼頭二角が、両腕を広げながら言う。


「さあ、行ってこいよぉ。そしてぇ、服部泰三に試練を仕掛けてくるんだよぉ~。え~、お~。分かったかぁ〜」


「ええ……」


 スーツ男の肩に手を回す鬼頭二角。そして、ガッチリと肩を組み横から顔を覗き込んだ。


 ぬぅ〜〜〜……。


 その顔は、般若――。顔は赤く、額からは二本の角が生えていた。口からは鋭い牙も見えている。


 まさに――赤鬼だった。


「いいからぁ、行けよぉ。行かんと殺すぞぉ」


「お、おっす……」


 こうしてスーツ男は異世界に旅だった。






───────────

⬛作者からのお願い⬛

───────────


面白かった、続きが気になる、今後どうなるの!?


……と思ったら【本棚】に加えてくださいませ!!


また、作品への応援お願いいたします。


メッセージ付きのレビューなどを頂けますと大変励みになります。☆や♡をください!


面白かった、つまらなかった、正直に感じた気持ちだけでも構いません。


何卒よろしくお願いいたします。


by、ヒィッツカラルド。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。