51【甘い夜】
異世界の時間帯は深夜を過ぎていた。ダーク村は静まり返り、明かりの見える家は一件もない。見張り櫓の兵士たちだけが動いているのが影となって見えた。
俺は正門を出た先の河原で座り込み、静かに流れる水面を眺めていた。時折、足元の小石を拾っては川に向かって投げている。チャポンッと水が跳ねる音だけが、夜の闇に溶け込んで聞こえた。
川の先には暗い森だけが広がっている。その草木の陰から、虫の音色が聞こえてくる。
月夜が明るい。水面には月明かりが反射していた。七つの月が、川の流れに映っている。
『――……』
「――……」
俺は少し緊張していた。喉が詰まりそうである。
何故かって?
それは、川辺に座る俺の隣には、レーンの妹であるアイーリが腰掛けているからだ。
唐突に登場した麗しい美人キャラのアイーリは、猿の腰掛けに座る俺の隣で、体育座りをしている。
その他の人物は周りにいない。俺とアイーリを残して帰ったのである。
そして、何故かアイーリだけが、この場に残ったのである。
二人っきりなのだ。
なんだか、ドキドキである。
その場に残ったアイーリは、体育座りのまま川の流れを見つめているばかりで、声も出さない。ただ頬を赤らめているばかりだ。
これ、どういう状況だろう!?
他の連中は、俺たちに気を使っていなくなったのであろうか?
兄のレーンも承知の上だよね?
公認なの?
えっ、いいのか?
いいのですか!?
『あの〜……』
俺がチラリと隣を見ると、アイーリは両膝を抱えながら、もぞもぞとしている。
両肩の肌けた白いワンピースの胸元からは、大胆に胸の谷間が覗いていた。しかし、少し小ぶりだ。
締まった細いウエスト。小ぶりなヒップ。ロングスカートから伸びる脚は、しなやかで美しい。
彼女は少し垂れ目の大人しめな表情をピンク色に染めながら、俯いていた。俺とは目を合わせようとしない。
膝を抱える手は細くて綺麗だった。まるで水仕事を一切やらないお嬢様のような美しさである。
その素振りが弱々しく、守ってあげたくなってくるような魅力を醸し出していた。
マーリアとは違った魅力を、アイーリは秘めている。マーリアが活発な女性ならば、アイーリは大人しめのお嬢様風である。
実際は、マーリアのほうがお嬢様なのだが……。
『ええ〜っと……』
「――……」
俺がそれとなく声をかけるがアイーリは黙り込んだまま顔を上げない。俺とは顔を合わせない。
ただ、その素振りが可愛く見えた。何かに恥じらう乙女の仕草である。
しかし、困ってしまう。夜の川辺で二人っきり。あまり知らない乙女と何故に一緒にいるのかも分からない。これは、どうしたら良いのであろう。
「あ、あの……」
『えっ、なに!?』
やっとアイーリが口を開いた。消え去りそうな声色で話しかけて来る。
「シャ、シャドー様は、マーリアと契ったのですか……」
『ぶぅーーー!!』
吹いてしまった。
何を唐突に訊いてくるんだ、この娘さんは!
マーリアと契ったか契ってないかと問われたら、間違いなく俺は彼女とは契っている。しかも、二晩もだ。回数にすると何回戦も連戦で挑んでいる。
だが、それを会ったばかりの彼女に知らせる筋合いは無い。
『いや、そう言うことを問われてもね。ほら、プライベートのことだから……』
「そ、そうですよね。私ったら何を訊いているのかしら。ははっ……」
流れる水面を眺めながらアイーリが問い直す。
「ならば、わたくしと契ってはもらえませぬでしょうか?」
『ぶぅーーーーー!!!』
再び吹いた。
何を言い出しているんだ、この娘は!?
初めて会ったようなものなのに、そんな男と契りたいとは正気の沙汰とは思えない。この子は気でも狂ったのか?
あまりにも話が唐突すぎる。これは有り得ない展開だろう。
冷静に俺は、何故なのかと訊いてみた。
『あ、あのぉ〜、どういうことかなぁ〜?』
アイーリがポツリポツリと語り出す。
「わ、私、マーリアと幼馴染で同い年なのです……」
『そ、そうなんだ……』
それとこれとは何も関係ないだろう。
アイーリは寂しそうに述べた。
「それなのに、彼女だけ先に生娘を卒業しちゃうなんて、ズルいと思いませぬか?」
『お、思いませぬよ。それは人それぞれだと思いますぞ……』
「なので、私も、同じ殿方と契りとう御座いまして……」
『は、はあ〜??』
俺の話を聞いてない。しかも暴走気味に突き進んできやがる。何故に幼馴染が処女を失ったからって、自分まで同じ男に処女を捧げなければならないのだろう。俺が彼女のお父さんなら、相手の男に激昂してぶん殴っていたぞ。
『ねえ、普通さ、幼馴染と同じ男に抱かれたいのか?』
「そんなことは無いと思います」
『ないんかい!!』
やべぇ〜、思わず景気よく突っ込んでもうた……。
「ですが、アイーリのタイプはシャドー様のような御方です。だからマーリアと被っても構わないかなって思いまして……」
『被っても構わないって……』
こいつ、クレージーだぜ……。
しかも顔に穴が空いてる男がタイプって、なんだよ。アイーリにしろマーリアにしろ、男の好みが可笑しいだろう。
「そもそも、ダークエルフは一夫多妻が許されております。より優れた子種を欲しがるのは女の性で御座いますから……」
『ええ、そうなのぉ……』
「そして、先に妊み、先に子供を産んでしまえば勝利。正妻の座は早い者勝ちですから」
アイーリが俺の膝の上に寄りかかってくる。そして、潤んだ瞳で見上げてきた。上目遣いが麗しい。
「だから、この場で私を抱いてくださいませ!」
『いきなり野外プレイかよ!!』
夜の川辺で野外プレイとは燃えてくるシュチュエーションではある。そんなプレイを男ならば一度は体験したいところなんだが……。
「私は、いつでも、どんな場所でも、どのような状況でも、シャドー様に体を開く覚悟ができておりますわ!」
『なんか、すげぇ〜大胆だな!!』
そう言いながらアイーリは、夜の川辺で服を脱ぎだした。褐色の美しい肌が月光に照らされる。
『むむむむっ!!』
ヤバい、興奮してきた!
彼女の美しい裸体を目の当たりにして、男の本能がテントを張ってしまう。もう、先っちょがはしたなくもヌルヌルし始めた。
「――……っ」
『ぬぬぬぬっ……』
アイーリの白いドレスが地面に落ちた。彼女は下着を付けていない。最初からその気でここに来ていたのだろう。
こいつ、覚悟が決まりきってるな!
女って、怖い……。
だが、美しい。辛抱が堪らない……。
このままでは、俺の中の理性という堤防が決壊してしまう。
そうなってしまったら大惨事だ。マーリアになんて言って謝ればよいのであろうか?
たぶん、怒られる……。
怒られそうなんだが、目の前の御馳走は美味そうだ。
そして、彼女が全裸のまま俺に寄り添ってくる。腰に手を回して抱き着いてきた。彼女の胸が俺の胸に押し付けられる。
「シャドー様、どうぞお好きに、アイーリを貪ってくださいませ……」
マジで、貪っても宜しいのですか!?
宜しいのですね!!
『も、もう、我慢できな〜〜い!』
そこからの記憶は曖昧だった。彼女の望む通りにアイーリを貪った記憶は残っているのだが、何回爆発したかは覚えていない。たぶん十回以上は爆発していただろう。暴発を含めれば二十回は超えているかも知れない。
夜の河原にはアイーリの甘い声と、肉のぶつかり合う音だけが響いていたのだと思う。
それから俺が冷静さを取り戻したのは、随分と時間が過ぎてからだった。
砲弾を撃ち尽くして少し疲れた隙に、裸のままアイーリが白いドレスを抱えながら逃げていく。その背中を俺は見送った。
そして、俯きながら呟く。
『や、やっちまった………』
冷静を取り戻してから後悔の並みに飲まれる。
なんてことだろう。幼馴染二人に二股を掛けてしまった。これは不味いかも……。
明日から修羅場になるかも知れない。
『こ、怖いな……』




