42【インスタント麺】
次の日の朝。俺はラーオに頼んで、村人の一部を集めてもらっていた。
集められた村人は二十三名。昨晩、大木巨人の襲撃の際に、夜分にもかかわらず、即座にヒオラス邸へ集まってきた者たちである。
彼ら二十三名は、リーンに助けを呼ばれて、いの一番に駆けつけてくれた者たちだ。
場所は、昨晩、大木巨人と戦ったヒオラス邸の中庭。白壁の一部は破壊され、屋敷の壁にはレーザービームで焼かれた跡が残っている。地面にも、風のドリル弾丸によって抉られたいくつもの穴が開いていた。
そして、屋敷の隅には、頭から胴体を真っ二つに切断された大木巨人の亡骸が転がっていた。
レーンとハートを巨体の体内から救出する際に、その体躯はかなり解体されていた。もう、ただの木材の山である。
あとは、薪にでも使われて終わりだろう。
その木材の山に腰掛けながら、俺は集められた二十三人の村人に感謝を述べた。
『諸君、昨晩は即座の助太刀に感謝する』
二十三人の村人たちは、俺の前に並び、片膝を着いて頭を下げていた。皆が皆、畏まっている。
『君たちが即座に駆けつけてくれたことで、大変助かった。あの援護がなければ、戦いがどう転んでいたか分からなかったぞ』
「――……」
ダークエルフの村人たちは、何故に感謝されているのか分からないようである。
自分たちは当たり前のことをしただけだ、とでも言いたげな態度であった。
『主を思い、すぐに動く。それは迅速なる忠義なり。俺は好きだぜ。だから、その迅速な忠義に感謝を示したい』
そう言うと、俺は異次元扉を出して現実世界へ一旦帰る。
そして、すぐさま道場からいくつかの物が詰まったビニール袋を取って戻ってきた。
『これは、昨晩の褒美だ。各々方、食べてくれ』
俺が差し出したビニール袋は、ママクドの物である。中にはハンバーガーセットが二十三人分入っていた。
俺が朝から車でママクドまで走り、買ってきた物である。それを彼らに配っていく。
彼らは歓喜しながら、受け取ったハンバーガーセットに食らいついた。美味にワイワイと騒いでいる。
これは、簡単な餌付けである。
いの一番に俺へ貢献すれば、ご馳走がいただける。そう教え込むための作戦であった。
単純な村人たちは、その餌付けに容易く乗ってしまったのである。
これで彼らは、次の窮地にも自分から進んで俺の前に立ってくれることだろう。
そして、このことを知った他の村人たちも、ハンバーガーセット欲しさに、同じような行動を我先にと取ることだと思う。
これ、すべてが作戦なり。
クックックッ。
そんな感じでハンバーガーセットを食べる村人たちを見ながら、ヒオラス家の者たちが指を咥えていた。自分たちもハンバーガーが食べたいのであろう。
振り返った俺は、ヒオラス家の者たちに声を掛ける。
『ヒオラス家の皆には、俺が用意した朝飯がある。それを全員で食べよう』
その言葉に、四人の顔がパッと明るく花咲く。
それから俺たちは、食堂へ移動した。
移動中、マーリアとリーンがスキップしていた。なんだか可愛い。
そして、屋敷の食堂に到着すると、各自が指定されたテーブル席に腰掛ける。家族が笑顔で朝食を待つ。
すると、女中のドーラたちがヒオラス家の面々にラーメンを差し出した。
中華風の丼には、インスタントラーメンのチャルメルが盛られている。
朝のうちにドーラへ茹で方を教えて、人数分作ってもらった品である。
インスタントラーメンの代表作、チャルメル醤油味。五パックで五百円程度の商品だ。お湯で茹でるだけで作れる簡単な品物である。
ラーメンの丼から上がる湯気が醤油の香りを漂わせていて、実に旨そうである。
そのラーメン丼の横には、箸とレンゲが置かれていた。丼とともに、我が家から持ってきた物である。
まあ、この異世界ならば、乾麺なんて存在しないだろうから、これでも十分にご馳走だと言えよう。
しかし、ヒオラス家の面々は、湯気の上がるラーメンを見つめながら固まっていた。呆然と丼の中を見詰めている。
「シャドー様、これは?」
『ラーメンという食べ物だ。遠慮せずに食べてくれ』
「ラ、ラーメンですか……」
どうやら彼らは、ラーメンをどうやって食べればいいのか分からない様子である。箸を両手に一本ずつ持って悩んでいた。
たぶん、箸もレンゲも見るのが初めてなのだろう。
リーンがラーメンを見つめながら訊いてくる。
「シャドー様、この細い糸のような食べ物を、どうやって食べればよいのですか?」
続いて姉のマーリアが言う。
「なんか、蟯虫みたい……」
『お、おい……』
なんともキモい想像をするなと言いたい……。
俺は箸を持つと、食べ方の見本を見せる。
『こうやって、食べるんだよ』
箸を使い、ラーメンをズルズルと啜る。
その啜る音を聞いて、ヒオラス家の面々は不快な表情を見せていた。
『ラーメンってのは、ズルズルと音を立てて食べるのがマナーなんだぞ』
「そ、そのような下品なマナーがあるのですか……?」
『麺を吸い込む際に、ラーメンの湯気も一緒に吸い込む。すると香りが味覚として美味しく鼻腔に届くのだよ』
「は、はぁ……」
ヒオラス家の面々は、俺の説明に納得していない。眉を顰めている。
中世だけでなく、西洋は食べ物を食べる際には音を立てないのがマナーである。啜らないのが常識だ。
日本人がラーメンを啜る際に立てる音は、ヌードルハラスメントと言われるくらいのマナー違反なのだ。
『まあ、食べ方なんて、あとからついてくるだろう。まずは食べろ』
「は、はい……」
そして、全員が箸を取る。
しかし、箸の持ち方も分からない様子であった。何やら滅茶苦茶な持ち方になっている。
俺が見本を見せた。
『箸ってやつは、こうやって持つんだ』
「は、はい――」
それからしばらく、箸の持ち方講座が始まった。
しかし、すぐに覚えられる者はいなかった。
だが、それなりの形にはなった。
そして、全員でラーメンを食べる。
最初から麺を啜れる者はいなかったが、不格好ながらもラーメンを食べ始めた。
すると――。
「うーまーいーぞーー!!」
まずはラーオが、初めての味に絶叫する。
「おいちい、おいちいよ!」
箸をフォークのように持ったリーンが、必死にラーメンを啜っていた。まるで幼児がラーメンを啜っている汚い食べ方である。
他の者たちも、同じようにズルズルとラーメンを啜る。もう、そこにはマナーも何もない。まるで野蛮人の食べ方だった。
そして、スープの一滴も残さず、レンゲですくって飲み尽くした。
全員が、チャルメル醤油味、完食。
「ゲップ〜……」
シーンがゲップを吐いた。はしたない。
『まあ、これは昨晩の礼だ。助っ人の礼。漆黒丸の譲渡の礼。それと、マーリアに夜の礼だ』
マーリアが頬を赤く染めて俯いた。――可愛い。
そのような中でラーオがラーメンの器を頭よりも高く掲げながら述べる。
「いえいえ、すべては主のためでございます。それなのに、このようなご馳走まで振る舞ってくださるとは!」
『まあ、今後もよろしく頼むぞ。期待しているからな』
「「「「畏まりました、シャドー様!!」」」」
四人の声が揃う。
食堂の隅では、三人の女中たちも頭を下げていた。
彼女たち女中の分もチャルメルを五パック渡してある。
彼女たちには、俺に代わって調理をしてもらわなければならないのだ。
今後はもっと難しい現代料理を作ってもらいたい。そのための第一段階を登り始めたばかりである。
料理の出来ない俺は、彼女たちに本当に期待しているのだ。
いつまでも出来合いの品物で釣れているのも限界が来るだろう。だから、先を見据えての考えである。
───────────
⬛作者からのお願い⬛
───────────
面白かった、続きが気になる、今後どうなるの!?
……と思ったら【本棚】に加えてくださいませ!!
また、作品への応援お願いいたします。
メッセージ付きのレビューなどを頂けますと大変励みになります。☆や♡をください!
面白かった、つまらなかった、正直に感じた気持ちだけでも構いません。
何卒よろしくお願いいたします。
by、ヒィッツカラルド。




