39【深淵への深み】
大木巨人が脚の再生を完全に終えた。砕け散った片足が、まるで何事もなかったかのように生え変わっている。野太い足が完璧に再生していた。
「ギィィイイイイイイ!」
ドスン、ドスン、ドスン――。
木のような声で叫ぶ大木巨人が、爪先立ちで軽いジャンプを繰り返していた。まるでプロボクサーのような軽やかなステップである。たぶん、再生した脚の具合を確認しているのだろう。
『よし――』
一方俺は、漆黒の日本刀を両手でしっかりと構えた。黒い柄巻に力が籠もると、ギュッと乾いた音を鳴らす。
漆黒の日本刀は【漆黒丸】。俺が名付けたばかりの名前である。
黒い刀身は艶やかな漆黒色。まるで真っ黒な結晶質石灰岩のような刀身だった。
鍔も黒い。柄巻も黒い。闘気も黒い。すべてが黒い刀である。
『良き握り心地だ』
しっくりと来る。
重さ、硬さ――すべてが俺に馴染んでくる日本刀であった。
すると、漆黒丸が俺にしか聞こえないテレパシーで語り掛けてきた。
『マイマスターよ。私の扱いは心得ていますかな?』
俺もテレパシーで返す。
『知らん』
『我は、持ち主の魔力を吸うことで敵の討伐を叶える魔剣であります』
『それは知っている』
それはラーオやシーンを見ていて分かっていた。
確かにラーオたちから何か黒い物を吸い取っているようだった。あれは魔力を吸っていたのだろう。
『しかし、その攻撃にはイメージが必要なのです。どのように敵を倒したいか――そのイメージによって、攻撃力が異なってきます』
『どういうこと?』
黒刀を見詰めながら俺は首を傾げた。
『先程の二人は、ただ敵を倒したいとだけ願って私を振るっていました。だから、その意思が気合と怒りによる破壊力となって具現化したのです』
『言っていることが難しい。もっと簡単に分かりやすく説明してくれ』
『攻撃を、ただ爆発させるのではなく、もっと丁寧にイメージしてください』
『イメージ?』
『はい。イメージを整えれば、無駄な魔力を消費せず、より効率良く戦えるでしょう』
『だから、それをどうやるんだよ!』
『だーかーらー、今説明しただろう。マイマスターは馬鹿ですか!』
『なんだと、この野郎! お前が可哀想だから主になってやったのに、その言いぐさはなんだよ! また暗くて狭い宝物庫にぶち込むぞ!』
『いいから、丁寧に考えながら戦え。それで私を使いこなせや!』
『まったく、乱暴な説明だな!』
『『ふんっ、だ!』』
俺と漆黒丸が言い争っていると、修復を終えた大木巨人が突進してきた。両手の武器を翳し、猛然と突っ込んでくる。
『敵が来ましたぞ!』
『来たか!』
まだ距離は五メートル以上ある。その距離から、大木巨人が魔法攻撃を仕掛けてきた。
「キィ!!」
レーンの口から風のドリル弾丸が放たれ、禿頭の瞳からレーザービームが放たれる。二つの攻撃魔法が、同時に俺へと襲い掛かってきた。
迫る二つの魔法攻撃。
まずは漆黒丸の切っ先をレーザービームに向けた。すると、レーザービームの軌道がグニャリと曲がり、その軌道を変える。
軌道を逸らされたレーザービームは夜空に向かい、天高くで拡散した。
『空間も歪められるのか……』
続いて迫る風のドリル弾丸。
それは、一太刀だった。
漆黒丸を縦に振るった一閃で、風のドリル弾丸を真っ二つに切り裂いてしまう。切り裂かれた魔法は風のように霧散し、消え失せた。
『魔法も捌けるのか』
『当然でありますとも、マイマスター』
俺が漆黒丸の能力に惚れ惚れしていると、大木巨人が接近してくる。
既に眼前まで迫っていた。
もう俺は逃げない。
正面から大木巨人と対峙する。
「ギィィイイイイイイ!」
大木巨人がレイピアを振るう。縦振りの強打が、俺の頭上へと迫る。
しかし、俺は漆黒丸を横一閃に振るった。
その一振りは、微風のように軽い。それにもかかわらず、漆黒丸は大木巨人のレイピアを軽々と切り捨てた。
真ん中から真っ二つに斬られたレイピアの刀身が、遠くへと弾き飛ばされる。そして、そのまま地面へ突き刺さった。
『凄い斬れ味だな』
『当然ですとも。あの程度の武器は、爪楊枝と同様です。軽く、ポキっですよ』
思わず感心してしまう。この剣は使える。しかし、ちょっと言葉に癖がある。ウザい。
「ギィィイイイイイイ!!」
続いて、大木巨人が左手の戦斧を振り下ろしてきた。その攻撃も薙ぎ払おうと、俺は漆黒丸を振るう。
しかし――。
ガキィィン!!
戦斧と漆黒丸の刃が激突した。硬い音が響く。互いの刃が弾き合い、俺の腕にも強い衝撃が伝わってくる。
そして、戦斧は切れていなかった。
『あれ、斬れてない?』
『あの戦斧は、どうやらマジックアイテムのようですな。しかも、強度に魔力を全振りした物だと思われます。ちょっとの気合いでは、私でも切れませぬ』
『すげぇ〜、硬いってことか?』
『まあ、簡単に述べれば、そんなところですな』
「ギィィイイイイイ!」
さらに大木巨人がバトルアックスを振るってきた。またもや俺の頭を狙って、力任せに振り下ろしてくる。
『ならば――』
一歩深く踏み込む。そこに漆黒が風に乗る。空間に黒線を残しながら、一閃を走らせた。雷のような激音が轟く。
刀の軌道は下から上へと駆け上がる太刀筋。その一太刀で、戦斧を振るった大木巨人の左手首を切断する。斧と一緒に左手が地面へ落ちた。
さらに――。
『ふっ!』
二太刀目の斬撃は、縦斬り。振り上げた剣筋が、今度は下へと走る。登った雷が、今度は地面に落ちた。
その一撃で、大木巨人の左腕が肘から切断され、地面へと落ちる。
「ギィィイイイイイ!」
さらに――。
『ふっ!!』
続いて横薙ぎの斬撃が、大木巨人の右足を斬り裂く。脛からざっくりと切断され、大木巨人は体を傾けた。片足と尻尾で巨大な体を支えている。
「ギィ、ギィィ……」
三太刀が一閃の煌めきで放たれていた。大木巨人が体のバランスを取ろうと、必死に蹌踉めく。
『凄い斬れ味だな……』
俺が暗黒の刀身を眺めると、鼻高々に漆黒丸が述べる。
『イメージの使い方に成功しているようですな。斬撃をイメージして、攻撃力を薄く研ぎ澄ますのですぞ。それで我が刀身は、影の薄さまで刃として研ぎ澄まされるであろう』
『問題は、あれを斬れるか?』
俺は眼前で蹌踉めく大木巨人を見上げながら訊いた。瘤の目がギョロついている。すると、漆黒丸は自信に満ちた回答を述べた。
『マイマスターが斬れると思えば斬れる。斬れぬと思えば斬れぬ。そもそも剣とは、そのようなものなり。すべてはマスター次第』
『ならば、斬れるな!』
穴の開いた俺の顔が、凛と引き締まった。
そして、大木巨人の大きな眼球を睨みつける。
『行くぞ、あと一振りで終いだ!』
『御意!』
言った刹那、大きく前へ踏み込む。
力強い一歩に合わせて、前に踏み出る。タンっと地が鳴る。その一歩に縦斬りの斬撃を繰り出した。突風が唸る。その鋭い刃の軌道が、漆黒に染め上げられた。黒い刃が空間を薙ぎ切りながら黒線を走らせる。
『斬っ!!』
「ギィィイイイイイ!!」
放たれた斬撃は漆黒のラインを引き、空間ごと切り裂いた。その軌道が黒い線でなぞられると、空間に暗黒の残滓が残る。
大木巨人の体にも、漆黒の線が走った。
瘤の眼球を中心に引かれた黒線は、正中線に沿って上から下へ真っ直ぐに伸びている。その斬撃は背中まで達しており、凄まじい剣圧の力強さを物語っていた。
途端――。
大木巨人の巨体が、雷に打たれた大木のように、真っ二つに割れた。
その巨体が右と左に分かれ、地響きを立てながら倒れ込む。
『決まったな』
斬られた大木巨人は、もう動かない。
瘤にあった巨大な眼球が、萎れた草木のようにみるみる枯れていった。
決着である。
「「「「おおおおおおおっ!!!」」」」
すると、周囲で見ていたダークエルフたちが、一斉に歓声を上げた。夜空が大声に揺れた。俺の勝利を祝っている。
『ふっ――』
無言のまま、俺は漆黒丸を天高く掲げて勝利をアピールした。
村人たちの歓声が全身に叩きつけられる。気持ちが良い。昔、闘技場で浴びた歓声と同じだった。
全身にぶつけられる甘美な振動が、心地良い。俺は懐かしさに酔いしれた。
『気持ちいいな――』
歓声の余韻に浸りながら微笑んでいると、タオルを持ったリーンが駆け寄ってきた。
そして、そのタオルで俺の股間を隠す。
リーンは幼い顔を赤らめていた。俺とは視線を合わせない。
『あっ、忘れてた。俺、全裸だったんだ……』
こうして、第二の試練は終了した。
世界樹の種――破壊成功。
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by、ヒィッツカラルド。




