36【加戦からの加戦】
『ひぃぃいいいいい!!』
「ギィィイイイイイ!!」
中庭を走って逃げ惑うシャドーを狙い、大木巨人がドリル弾丸とレーザービームを無差別に何発も放ちながら追い回していた。
全裸の魔人と植物の巨人が、ドタバタと庭を駆け回っている。その姿は追いかけっこにはしゃぎ回る子供たちの様子にも窺えた。楽しげである。
ドゴン、ドゴン、ドゴーーン!
レーンの首が吐き出す風のドリル弾丸は、とにかく連射されていた。しかし、その命中精度は低すぎる。シャドーには一発も当たらず、屋敷の壁や庭の地面を抉るばかりだった。
ビィィィイイイイーーーー!!
そして、止まることなく放ち続けられるレーザービームも、所構わず周囲をなぞり、焼き跡を刻むばかりである。シャドーには掠りもしていない。
おそらく、レーザービームを放っている間は視界が見えていないのだろう。そのせいで命中精度が低いのだと思われる。
「ギィィイイイイイ!」
『あの木偶の坊が。滅茶苦茶に攻撃を放ちやがって。たぶん何も考えていないな!』
全裸のシャドーが庭中を走り回って逃げていると、建物の陰からラーオとシーンが姿を現した。二人は寝間着姿のまま鞘に収まるレイピアだけを手にしている。
二人が驚愕に叫びながら問う。
「なんじゃあ、あの巨人は!?」
「シャドー様、これは一体何が起きているのですか!?」
慌てるラーオに、走り続けながらシャドーは咄嗟に嘘をついて答えた。
『俺にもよく判らん。突然、この化け物が現れて襲ってきたんだ!』
「な、なんですと!」
ラーオはあっさりと信じ込む。
本当は試練の刺客なんだけれどね……。
そして、ラーオは大木巨人の肩から生えているレーンとハートの頭に気づいた。
「あれは、レーンとハート!?」
まあ、その頭がドリル弾丸とレーザービームを放っているのだから、気づかないほうが不自然だろう。
『なんか、人質に取られているようだ。助けたいが、ちょっと難しい!』
「なんたる卑劣な怪物だ!」
ラーオとシーンはシャドーの嘘を疑っていない。完全に信じ込んでいた。
まあ、この状況ならば、そのように見えても仕方あるまい。無垢なダークエルフが悪いのではない。悪いのは、こいつを送り込んできた鏡野鏡子が悪いのだ。
「な、何事ですか!?」
「うわ、なんか居る!?」
そこへ屋敷の反対側から、今度はマーリアとリーンが姿を現した。二人の娘は、かなり際どい寝間着姿である。リーンに至っても下を穿いていなかった。細い太腿をプリティーにもチラつかせている。
どうやらダークエルフの寝姿は、セクシー満点のようである。
慌てながら怒鳴るマーリアが父親に問いただした。
「父上、あれは何ですか!?」
娘の質問に、ラーオは困惑したまま答える。
「知らん。私にも状況がまったく把握できていない!」
それも当然だった。夜更けに突然、客人が自宅の中庭で得体の知れない大木の巨人に全裸で追い回されているのだ。それで状況を説明しろと言われても、できるはずがない。
そもそもラーオの長いダークエルフ人生の中でも、このような珍事件は初めてである。
それどころか、山城の城内である村の中に、魔物の侵入を許したのも初めてだった。
走りながら全裸のシャドーが怒鳴る。
『す、済まん、誰か助けてくれ!』
「ぬぬぬぅ……」
少しばかり考え込んだラーオが娘たちに指示を出す。
「マーリア、リーン。二人は村へ援軍を呼びに行け!」
「「はいっ!」」
二人の娘は父親の指示に素直に従い、その場を走って離れた。村人たちに救援を求めに行く。
「シーン、お前は私と来い。シャドー様に加勢するぞ!」
「畏まった、父上!」
そして、ダークエルフの親子は敵巨人を睨んで身構える。大股を開いて気合いを入れた。
「シーン、風魔法で行くぞ!」
「はいっ!」
親子二人が並んで前に出る。そして両腕を突き出し、両手に風の魔力を溜め始めた。唸る緑の風が鋭利に煌めく。
「「エアーカッター!!」」
攻撃魔法の発射。放たれるは風の刃物。緑色の魔力を見せた魔法の斬撃が一文字に飛んで行った。
父子が放った風の刃が大木巨人の背中に命中すると、何本もの枝が切断され、木片が宙を舞う。
しかし、大きなダメージを与えられた様子は窺えない。切断できたのは小枝ばかりだ。大木巨人がシャドーを追い回す勢いは、まるで衰えなかった。
「糞ッ、効いているのか……」
走るシャドーが二人に指示する。
『ラーオ、俺に構わず魔法をどんどん撃ち込め! いずれは朽ちるだろうさ!』
「分かりました、シャドー様!」
シャドーの指示に従い、ヒオラス親子は風の魔法を連続で放った。命中するかしないかは関係ない。とにかく魔力の限りを尽くし、エアーカッターを撃ちまくる。
だが、大木巨人の体に幾つもの傷は刻めても、致命傷となるような深い傷は与えられない。
それどころか、反撃のレーザービームが放たれた。
「危ない!」
「あわわっ!」
二人の頭上を熱光線が掠め、屋敷の壁を焦がしながら通り過ぎる。そのレーザービームで、ラーオの髪が僅かに焦げた。
「ひぃ、熱い!」
「父上、これは駄目ですな。我々の魔法だけでは話になりませんぞ……」
威力が足りていないのだ。
二人の斬撃魔法は刀と同じ重さ。斧の重さには到達していない。それでは破壊力が乏し過ぎるのだ。
ラーオは眉間に深い皺を寄せながら言った。
「ならば、私は魔剣を取ってくる……」
「魔剣をですか!?」
息子が瞳を剥いて驚いていた。それだけ魔剣の使用が非常事態なのだろう。
「あの化け物を討ち取るには、そのくらいは必要だろう」
「ですが……」
ラーオは息子の意見を聞かずに踵を返した。屋敷の中へ走って行ってしまう。魔剣とやらを取りに行ったのだろう。
レーンは大木巨人のほうを向き直すと敵を睨んだ。
「し、仕方あるまい。ならば、私は時間稼ぎを――」
そう言ってレーンがレイピアを鞘から引き抜いた。接近戦で挑むつもりのようである。
その時だった。
一斉に無数の矢が大木巨人へ向けて飛来する。
ドドドッ!
矢が次々と大木巨人の体へ突き刺さった。その数は二十本以上である。大木巨人は全面を矢だらけになっていた。
「うぬっ!?」
『な、なんだ!?』
シャドーとシーンが屋敷や白壁の屋根へ視線を向けると、そこには複数の村人たちが弓を構え、大木巨人を狙っていた。
マーリアとリーンが呼んできた援軍が、間に合ったようだ。
村人たちが四方から加戦を叫ぶ。
「シャドー様、大丈夫ですか!?」
「我々も加勢しますぞ!」
『助かる、皆の衆!』
全裸のシャドーは必死に走って逃げ回りながらも、村人たちの参戦を心強く思うのだった。
試練の戦いは、団体戦の様相に変化して行く。
村人の一人が隣の村人に問う。
「ところで何故にシャドー様は、裸なのだ?」
「知らんがな……」




