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25【新スキル習得】

 村長の息子シーンとダークエルフの村人たち数人が森に狩猟に出る準備をしていた。


 ダークエルフの狩りは集団で行うものらしく、九人の村人たちが集められていた。全員がいつもよりも厚着な黒装束を纏っている。普段は露出が多いダークエルフたちも今回は肌の見えない服装であった。


 そのメンバーは、シーン、マーリア、リーンの三兄妹のほかに、村の若者が六人。そして、なぜか大型の灰色狼が二匹いた。しかも、かなりデカい。表情も野性味にあふれ、かなり怖かった。


 俺も見たことが無いサイズの狼である。現実世界では有り得ない大きさだろう。二メートル以上の体躯だった。


 その大型狼の頭を乱暴に笑顔で撫で回している少年がいる。大型狼は二匹とも彼にかなり懐いているようだった。


『あれは何だ……。お、狼か?』


 俺の側で弓矢の調整をしていたツインテールのリーンが答える。


「あの子たちは、ケーンが飼っているダイナウルフたちですね」


『ダイナウルフ……』


 確かにダイナミックと言えるほど体格がデカい。俺が知っている大型犬といえば、シベリアンハスキーやゴールデンレトリバーぐらいが関の山だ。


 しかし、ケーンという少年が連れている狼は、俺が知っている大型犬の倍はあった。明らかにセントバーナードよりも大きい。体長二メートル強はあるだろう。


 たぶん、彼ら細身のダークエルフならば騎乗できるのではないかと思えた。なんかそれはそれで格好良さそうだ。


「ぐるるぅ……」


 こちらを直視しているダイナウルフの一匹と目があった。その眼差しに野生の威圧を感じる。


 口の大きさは、人間の頭程度なら一咥えで丸のみできそうなほどだ。手足の太さも大人の村人たちと変わらない。さらに身体を覆う灰色の体毛は針金のように太く、その毛皮だけでちょっとした鎧の代わりになりそうだった。


 もしも、あんなのに襲われたらひとたまりもないだろう。噛みつかれ、そのまま振り回されたら、一瞬でボロ雑巾になってしまうと思う。


『怖い怖い……。あれには近づかんとこ……』


 そんな感じで俺が大型狼にビビっていると、着々とダークエルフたちの準備が終わっていく。あと少しで支度も終わり、狩猟に出発できそうだ。


 その様子を、俺は白壁にもたれかかりながら眺めていた。


 すると、シャドーポケット内のナビーがテレパシーで話しかけてくる。


【泰三様、お暇ならば、しばし宜しいでしょうか?】


 ダークエルフたちに聞かれないように俺もテレパシーで返す。


『ナビー、なんだ?』


【様々な戦闘やイベントをクリアしたことで、スキル獲得権が発生しております。指定されたスキルの中から、お好きなスキルを選択できます。いかがなさいますか?】


『いかがも何も、何それ?』


 俺は首を傾げた。そのように疑問を抱いている俺にナビーが説明を始める。


【以前お伝えしましたとおり、権利者は人生経験を重ねることで、その経験に応じたスキルを獲得する権利が発生します。それを獲得するかどうか、お尋ねしております。もう、権利数が二つ溜まっていますから】


『ちょ、ちょっと待て、ナビー……』


【はい?】


『そんな話は初耳だぞ……』


【えっ……?】


『えっ、じゃねえよ。俺は初めて聞いたぞ!』


【あれ〜、そうでしたっけ〜。わたくし、お話ししませんでしたっけぇ〜……】


『微塵も話してない!!』


【そんな、馬鹿な〜】


『馬鹿なも何もないぞ。俺は初耳だ。てめぇ、祖父さんと俺を勘違いしているだろ。俺にも話した気になってないか!?』


【うぅ……。す、済みません、そうかも……】


 ナビーが黙り込んでしまう。図星だったのだろう。


 ナビーは、失敗を認めてはいるが、この先どうしたらいいのか分からないようだ。まるで判断力が成長していない幼稚園児のような反応である。


 この手のAI的な人格キャラって、主をサポートするのに優れているのが普通なはずなのに、ナビーに限っては、何処かが抜けている。お茶目にも程があると思った。


 仕方ないと俺はため息をついてから言う。


『分かった、ナビー。今から説明し直せ。それでチャラにしてやる』


【誠ですか、泰三様!】


 AIにも慈悲である。ナビーの声が明るくなった。


【泰三様はお優しいで御座います!】


『いいから早く説明しろ。ダークエルフたちの準備が終わる前に話を済ませたいからさ』


【はい、畏まりました!】


 ナビーの説明によれば――。


 ウロボロスの権利者には、いくつかの初期スキルが与えられる。代表的なのが、疑似不老不死スキルだ。


 しかし、それ以外にも新たなスキルを獲得できる。それは、ウロボロスの書物と契約した後に見聞きした経験や知識を、スキルとして視覚化して習得できる能力である。


 このスキルによって得られる技術は、通常の修練で身につけるものよりも具体的かつ確実に習得できる。練習や訓練よりも、あっさりと技術などが習得できるようだ。


 魔法を例にすると分かりやすいだろう。


 これまでこの物語にも登場した魔法に、エアーエンチャントという魔法がある。


 これは武器に風属性の魔力を込め、切れ味や威力を強化する魔法だ。


 このような魔法を異世界人が習得するには、いくつもの条件を満たさなければならない。


 まず、魔法の才能が必須である。この異世界の住人であっても、才能がなければ、そもそも魔法そのものが使えない。


 さらに、魔法の才能があったとしても、得意とする属性は人それぞれ異なる。存在するすべての属性魔法を使いこなせる者はほとんどいない。


 多くの魔法使いは一つ、多くても二つの属性を扱うのがやっとである。三つ、四つの属性を自在に操れれば天才と呼ばれるだろう。


 そして、すべての属性を使いこなせる魔法使いともなれば、まさに伝説級の存在だ。魔王にすらなれる逸材である。


 ダークエルフ族の多くは風属性を得意としていた。そのほかにも、火、水、氷、森、毒、光、闇などを副属性として扱える者もいる。


 さらに、一つの魔法を習得するだけでも長い時間をかけて修練を積まなければならない。そして、どれほど努力しても、必ず習得できるとは限らない。ここでも才能が大きく影響するのである。


 しかし、ウロボロスの権利者は違う。


 魔法を一度見ただけで、その魔法を習得する権利を得られるのだ。


 もちろん書物の種類によって習得可能技術の得意不得意は存在する。深淵の書物が得意とする属性は闇であるが、その他の魔法も当然に覚えられる。


 だが、光属性は不得意である。他の属性よりも覚えるのが難しいようだ。しかし、難しいだけで、まったく覚えられないわけでもない。


 現時点で服部泰三が目にした魔法は、剣士レーンが使用したエアーエンチャントと、地下遺跡へ向かう際に村長ラーオが使用したウィル・オー・ウィスプの二つだけである。


 実のところ、マーリアも初見の森の中でポイズン・ディテクションという魔法を使用している。しかし、泰三自身はそれを魔法として正しく認識していない。魔法の存在を知らないからである。


 それでも、ウロボロスの書物であるナビーは魔法の使用を認識しているため、習得可能な魔法のリストには追加されるはずだ。その辺も便利なところである。


 そして、新スキルの習得権は魔法だけに限らない。


 格闘術を見れば、その格闘術を習得する権利も得られる。ただし、その権利は技ごとに細かく分けられている。


 例えば、空手の正拳突きを見たのであれば、正拳突きを習得する権利を得られる。


 しかし、廻し蹴りを見たことがなければ、廻し蹴りの習得権は得られない。


 このように、習得できるのは実際に見た技だけであり、見たことのない技まで覚えられるわけではない。


 空手の一部を見たからといって、空手そのものをすべて習得できるわけではないのである。これは、魔法や一般技術も同様である。


 要するに、人生経験を重ねて、多くのものを見ることでウロボロスの権利者は無限に成長を続けていくのである。


 ゆえに、長年生き続けたウロボロスの権利者は強いのである。


 しかし、この習得機能が発動するのは、異世界だけである。現実世界では習得機能が発動しない。


 そして、今回ウロボロスの書物が習得可能として差し出した新スキルは、これだった。


【魔力感知スキル】【レイピア流剣技・座禅式逆手居合抜き】【レイピア流剣技・水鳥剣基礎】【ダークエルフ流弓道】【武器支援魔法エアーエンチャント】【毒感知魔法ポイズン・ディテクション】【光源魔法ウィル・オー・ウィスプ】【深淵魔法トランスペアレント】


 ウロボロスの書物には、八つの新スキルが描かれていた。そのページを眺めながら、俺はナビーに問いかける。


『これが、今回覚えられる新スキルなのか?』


【こちらの中から二つ習得できます】


『二つも選べるのか』


【その他に、すでに習得しているスキルの上達率を伸ばすことも可能です】


『なにそれ?』


【これまでに習得したスキルの性能を向上させるのです】


『向上? もっと細かく説明してくれ』


【例えば、身体能力向上スキルを強化した場合、上昇倍率が1.2倍から1.25倍へと変化します。超再生スキルを強化した場合は、再生速度がわずかに早まります。能力の強化幅は小さいですが、地道に強化を重ねれば、どのようなスキルでも恐ろしいほどの性能へと成長させることができるでしょう】


 それは凄い。鹿羽五郎が化け物並みに強かったのは、これが理由なのだろう。おそらく身体能力向上スキルを山ほど重ね取りをしているのだと思う。


『なるほどね〜。まあ、まずは新スキルの能力を確認してからかな〜。それからスキルを選ぶは〜』


 俺は新スキル一覧を順番にクリックし、スキルの能力を一つ一つ確認していった。


【魔力感知スキル】

魔力を秘めた物体を感知する能力。スキルを使用すると、レーダーのような音波が放出され、それに反応した魔力源が一瞬だけ輝いて見える。索敵範囲は一メートル。


【レイピア流剣技・座禅式逆手居合抜き】

レイピアを使った居合抜き。ただし座った状態から逆手で放つ居合抜きである。


【レイピア流剣技・水鳥剣基礎】

剣士レーンが使用していたレイピア剣法。レイピアなどの軽い剣の扱いが得意になる。


【ダークエルフ流弓道】

ダークエルフに伝わる弓術を習得する。弓の扱いに優れ、命中精度や射撃技術が向上する。


【武器支援魔法エアーエンチャント】

風魔法の一種で、武器の切れ味を向上させる。ただし、武器に常に触れている必要があり、武器を手放すと魔法は武器本体から解除される。なので飛び道具などには使用不能。


【毒感知魔法ポイズン・ディテクション】

魔力感知スキルと同様に、音波のような波動で毒物を感知する魔法。索敵範囲は一メートル。


【光源魔法ウィル・オー・ウィスプ】

光の精霊を召喚し、周囲を明るく照らす魔法。精霊は術者の周囲を離れない。効果時間は約二十分。


【深淵操作・透過能力】

術者自身を一時的に影のような存在へと変化させ透過を可能にするスキル。着用している服や装備も透過対象となり、壁や障害物など、さまざまな物体をすり抜けることができる。ただし、触れている同行者を透過対象にはできない。透過対象は自分だけである。なお、足の裏だけは透過対象外にできるため、透過中も地面に落下することはない。透過可能時間は一秒。息を止めることによって能力のスイッチがONとなる。


『むむむむ〜――』


 様々な新スキルの説明を読んだ俺は、一つの結論に達した。


『この深淵操作・透過能力って、強くね?』


 誰もがひと目で強力だと気づく能力だった。


 様々な物体をすり抜けられる能力である。たぶん最初は一秒しか透過できないが、スキルレベルを上げれば二秒三秒と透過時間も伸びるはずだ。


 この能力が強い理由は、壁などをすり抜けられることではない。どんな攻撃ですらすり抜けられる点にある。要するに、透過中はほぼ無敵なのだ。


 疑似不老不死スキルは死なない。超再生スキルは傷を治す。そこに透過能力まで加われば、俺の防御は盤石になるだろう。


 しかも、そもそも傷を受けなければ痛みすら感じない。超再生スキルを使うまでもないし、疑似不老不死に頼る必要すらない。この能力だけで実質無敵である。


『やっべぇ〜、これは即取りだわ〜』


 俺は深淵操作・透過能力を即座に習得した。しかも二重に取得する。すると、使用時間が一秒延び、二秒へと変化した。


『よし、これで二秒間は無敵だぞ!』


 俺は深淵の書をシャドーポケットに仕舞い込むと、小さくガッツポーズを取る。


 そのガッツポーズを二匹のダイナウルフが眺めていた。何をやっているのだろうと、ほうけて見ている。





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