表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
15/27

15【髑髏の先輩】

 俺とクロエ・エルフィールの勝負が終わった。彼女との勝負は俺の勝ちである。


「いや〜、ブラボーブラボー」


 拍手をしながら歩む鹿羽五郎が、戦い終わったばかりの二人に近付いてきた。彼からは敵意は感じられない。まだ、戦闘態勢には入っていない様子だった。


 薄ら笑いを浮かべながら鹿羽五郎が述べた。


「撒菱で進路制限を掛けてからの振り子攻撃で微調整。上手いこと床のトラップに誘い込む。ついでに視界を上に誘導していたな。最後はシーソートラップで足を止めてからの裏拳攻撃で視界を一時的に奪う。そして、足払い。武器も奪う。その後の縛り上げも鮮やかだったぜ」


 こいつ、案外と見てやがる。俺が撒菱で床板の罠に誘い込んだことも悟ってやがるぞ。


「だいたい自分ちの道場に床板トラップを仕掛けている奴なんて初めて見たわ〜。お前、凄いな〜」


「それはどうも――」


 俺は鞘を拾って大刀を収めた。鹿羽五郎は水魚のポーズで縛られているクロエを片手で持ち上げると、道場の隅に移動させる。彼女の束ねられた手足の中心を軽々と持っていた。


「この辺で見ていろ、クロエ」


「ゴロー様、縄を解いてください……」


「日頃の罪を、たまには縛られながら反省してろ」


「ひ、酷い……」


 縛られたままのクロエを降ろした鹿羽五郎が踵を返す。そこに俺はクロエの刀を投げて返却した。それを鹿羽五郎がキャッチする。


「まあ、しゃあないか。解いてやるよ」


 言うなり鹿羽五郎が鞘に収まる大太刀を素早く引き抜いた。居合抜きである。


 抜刀は一太刀。クロエを縛るロープを瞬時に何箇所か断ち切る。その腕前は、俺より凄かった。素手を胸とした空手家の技ではない。


「あ、有り難う御座います、ゴロー様……」


 解放されたクロエがお礼を述べると、鹿羽五郎は愛刀を彼女に返した。それから道場の真ん中で待つ俺の前に歩み寄る。


 ポキポキと拳の関節を鳴らしながら、大男が言った。


「それじゃあ、メインイベントを始めようか、新人。第一の試練、開始だぜ!」


 鹿羽五郎の表情は笑っていた。これから始まる戦いを待ち望んでいる表情である。その笑みから、この男が戦闘狂だと悟れた。


 俺は目付けを開始する。眼前の男の戦闘力を計った。


 身長は約190センチの長身。体重は120キロ程度。体形は筋肉質で脂肪は少なめ。だが、何処もかしくも太い。筋肉で体重が増加している。


 髪形は短髪。首周りは頭と同じサイズ。耳は蒲鉾。瞼に複数の傷あり。鼻は軟骨がないだろう潰れっ鼻。唇にも細かな古傷が窺える。拳は大きく、拳ダコが蟹の甲羅のようだった。典型的な殴り屋の風貌だ。


 耳が蒲鉾なため、投げ技や関節技も使ってくる可能性が高い。


 先程剣術も見せていた。しかし、衣類に武器を隠し持っている様子はなかった。たぶん、空手家らしく無手にポリシーがあるのだろう。


 それが、俺から見ての戦力分析だった。そして、その総合から見て鹿羽五郎は、かなり強いと推測できる。かつては格闘チャンピオンだ。そもそも弱い訳がない。


 向かい合う俺が質問した。


「ルールは?」


 先程、俺がクロエに掛けられた言葉である。


「そうだな〜。俺もお前を殺すわけには行かないから、どちらかが相手の心臓か頭を破壊したら決着で構わないか?」


「頭か心臓の破壊……」


 ダイナミックな発想だ。これが権利者の常識なのかと少し引く。


「ほら、俺たち権利者は、心臓と頭を同時に破壊されなければ死なないじゃん。だから、どちらか一つの破壊で決着でよくないかと思ってな?」


「わ、分かりました……」


 妥当な提案だろう。普通ならば死ぬダメージで決着ってことだ。しかし、どちらか一つでは権利者は死なない。それならば、こちらも気楽に戦える。


 次の瞬間、鹿羽五郎の表情が鬼に変わった。化け物のように凄む。【死】がそこに具現化していた。体から揺らぎ出た殺気が背後の景色を揺らして見えた。


「ただし、本気で掛かってこいよ。じゃねえと、試練は失格だ。根性見せたれや!」


「は、はい……」


 この鹿羽五郎たる人物の思考回路は単純と見た。小細工を弄せず戦いたいタイプだろう。根の真面目さを感じ取る。


 ならば――。


「私からもルールの提案があるのですが、いいですか?」


「何だ、言ってみろ」


「貴方と素手で語り合いたい」


 俺はロマンチックな言葉で誘い込む。


「構わん。元々俺は素手で戦うつもりだったからな。何せこっちとら本物の空手家だからよ!」


 鹿羽五郎は自分の右拳と左拳をガンッと音を鳴らしてぶつけ合う。その表情は子供のように楽しげだった。


 俺は彼に背を向け、壁際の戸棚に進んだ。そこから赤い拳サポを取り出す。


「こちらは拳サポを使っても良いですか?」


「それも構わん。しかし、俺は要らんからな」


 俺は戸棚から取った赤い拳サポを両手に装着した。指が五本自由に動かせるタイプのフィストサポーターである。総合格闘技でよく使われるグローブだ。これで打撃も掴みも可能となる。


 拳サポを装着した俺は、握り加減を確認した。グーパーグーパーと繰り返す。


「では、始めましょうか!」


 俺はシャドーボクシングで拳を少し振り回しながら元の位置に戻った。その動きを見て鹿羽五郎が述べる。


「また、小細工か――」


「ええ……」


 俺の拳を指差しながら言う。


「その拳サポ、重りが仕込まれているな。動きで分かったぞ」


「ぅ……」


 バレた……。


 確かに拳サポの中に重りが仕込まれている。片方につき100グラムだ。


 グラブの中に100グラムも重りを仕込めばパンチ力は数段強化される。ボクシングなどでは反則な行為だ。


 この男は、わずかな挙動でそれに気が付いたことになる。意外にも繊細に他人を見ているようだった。


 だが、鹿羽五郎が予想外なことを言う。


「まあ、構わんけれどな」


「えぇ……」


 許可された?


「さっきの戦いを見ていて俺も気が付いたよ。お前の流儀は騙し討ちが上等なのだろう。それを奪ったら、お前の味が薄らいでしまう。ならば、存分に騙してこい。俺は正面からすべて受けてやるからよ!」


「なんたる横綱相撲。天晴な流儀ですね」


「こっちは先輩なんだ。どぉ〜〜んと来いってんだ!」


 わんぱく過ぎる。だが、俺も嫌いなタイプではない。


 そのように真っ直ぐな意思を持って戦うことに憧れた時期もあった。


 だが、小柄な俺には理想は夢だった。


 俺の身長は167センチ。ファイターを名乗るには少し小さい。


 理想だけでは体の大きな戦士たちには敵わない。だから、卑怯なぐらいの作戦を練るのだ。そうやって夢を叶えてきたのである。


「では、遠慮なく」


 俺は腕を長く突き出し、相手との距離を大きく取る。ボクシングのヒットマンスタイルで構えた。


 しかし、鹿羽五郎は棒立ちのままだった。構え一つ取らない自然体である。


 やる気がないのか?


 否。余裕なのだろう。


 ならば、その余裕に甘えさせてもらう。


 俺は容赦なく攻め立てた。


「参ります!」


「来いや」


「シュ!!」


 初弾はジャブ。フラッシュのような一撃が鹿羽五郎の顔面を叩いた。その瞬間、鹿羽五郎の眼前で赤い粉が舞い散った。


「避けぬか!?」


 ジャブは鼻に命中。だが、鹿羽五郎はよろめきもしなかった。それどころか――。


「驚いたぜ。重りの他に目眩ましまで仕込んでいたか」


 ジャブが着弾した直後に飛び散った粉末は、赤い拳サポに塗ってあったハバネロパウダーである。目潰しを狙って仕込んだ物だ。


 しかし、鹿羽五郎には効いていなかった。ハバネロパウダーが舞う中でも、こちらを平然と睨んでいる。


「楽しい小細工だ。だが、俺には効かんぞ。何故ならば、俺には眼球が無いからだ」


 鹿羽五郎が幻術を解く。すると彼の頭が髑髏に変わった。その頭蓋骨には眼球が無かった。


「が、骸骨……」


「そうだ。俺の正体はスケルトンなんだぜ!」


 突き出された拳にも肉が無かった。骨だけである。


「ウロボロスの権利者は、全員化け物の姿に変わっている。しかし、こちらの世界では、それだと目立つから、ウロボロスの書物が幻術で契約前の姿に偽装してくれているんだ」


 その正体が、髑髏らしい。


 泰三は思い浮かんだ疑問を訊く。


「でも、何故だよ。向こうの世界だと、化け物の姿のままだぞ……?」


「まあ、ウロボロスの書物もよ。万能じゃないんだろうさ」


 相変わらず雑なところが有る魔導書だ……。


 言いながら五郎が骨の拳を背後に振りかぶった。力を溜める。


「これで、決着だ!」


「んっ!?」


 唐突な宣言――。


「ふんっっ!!!」


 刹那、五郎の巨拳が飛んできた。その速度は大振りのブーメランフックでありながら、ジャブよりも速かった。とても人間の反射神経で回避できる速度ではない。


 唸る狂拳が高速で迫る。


 無論、俺はそのブーメランフックを胸元でもろに受けてしまう。


 回避ができなかった。あまりの速度に反応すらできなかったのだ。


「ごはぁっ!!!!」


 ズンッと激しい衝撃が全身に広がった。胸元が爆発したような感覚である。


 胸元で発生した爆発は血脈に乗って全身に広がり、身体の隅々で防波堤に打ち付ける津波のように弾けて砕けた。


 その衝撃波は頭部にまで届いていた。脳を血流の津波が襲い激しく揺らす。それは、大きく目眩を誘った。


 胸に食らった攻撃の衝撃が、血管を伝わって、脳にまで到達したのである。


「あぁ……」


 脳へのダメージで視界が歪む俺が、自分の胸元を見れば、五郎の腕が己の胸を貫いていた。巨拳が刺さり背中まで貫通している。


 そこで俺の意識が途切れた。


 あっさりとワンパンで負けたのだ。


 胸元を強打されての脳震盪。その一撃の衝撃が、それだけ大きかったのだろう。ダンプカーに轢かれたのと同等である。いや、それ以上だった。


 痛覚軽減スキルで気絶をしにくい体の俺が意識を失う。それだけ極上な一撃だったのだろう。


 鹿羽五郎が笑いながら言った。


「面白かったぜ、服部泰三さんよ〜」


 身体が崩れ落ちると五郎の腕が胸から抜ける。俺は道場のド真ん中で大の字で倒れ込む。その下に赤い花が大きく鮮やかに広がった。


 ワンパンでの完全決着である――。






───────────

⬛作者からのお願い⬛

───────────


面白かった、続きが気になる、今後どうなるの!?


……と思ったら【本棚】に加えてくださいませ!!


また、作品への応援お願いいたします。


メッセージ付きのレビューなどを頂けますと大変励みになります。☆や♡をください!


面白かった、つまらなかった、正直に感じた気持ちだけでも構いません。


何卒よろしくお願いいたします。


by、ヒィッツカラルド。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ