12【ゴールド商会】
鹿羽五郎――。
それは三十年ほど前の格闘技ブーム時に活躍した空手家ファイターの一人。鋼鉄の拳と鋭い蹴り技を主体に暴れ回っていた無敵のチャンピオンである。
しかし、彼は格闘技ブームが終焉するとともに華やかなステージから引退した。噂では、故郷に戻って空手道場を営んでいると聞いている。
今では格闘技マニアぐらいしか覚えていない名前だ。
その元格闘技チャンピオンが、何故か俺の道場へ訪ねてきた。しかも、外国人美女を一人連れてだ。
彼曰く――自分はウロボロスの権利者であり、ゴールド商会の幹部だという。
それらの単語はナビーから聞かされていたので、だいたいは理解できていた。確かにウロボロスの書物も持っている。
要するに、彼は俺と同じ不老不死だということだ。ウロボロスの書物は一冊ではなく、複数存在するらしい。
道場の中央に立つ俺は、玄関前にいる鹿羽五郎を見つめながら問うた。
「そのゴールド商会の先輩が、何用で、このような田舎町に参られました?」
鹿羽五郎は顎をしゃくらせて隣の白人女性に指示を出した。
「クロエ、説明してやれ」
「はい、ゴロー様――」
ビジネススーツ姿の白人女性は、持っていた鞄から数枚の書類を取り出す。
「ゴールド商会からの契約書類です」
「け、契約書……?」
「失礼します」
クロエと紹介された白人女性は、黒いパンプスを脱ぐと道場へ上がり込み、俺の前まで歩み寄る。そして、持っていた数枚の書類を俺に差し出した。
俺が彼女から書類を受け取ると、何の書類なのかを説明してくれる。
「ゴールド商会の事務所に提出する契約書です。ここと、ここと、ここにサインと住所を記入してください。こちらの書類には銀行口座の番号をご記入いただけますか。給金はこちらへ振り込まれますので」
「あ、はい……。ここですね……」
「こちらの書類にもお願いします」
「は、はい……」
「書類が登録されますと、後日に保険証が送られてきますので、個人で管理を願います」
「国民健康保険もあるのかよ……」
「当然ですとも。ゴールド商会は、立派な株式会社ですからね」
俺は指示されるままに契約書へサインを記入した。これで俺もゴールド商会に入社したことになるらしい。
給金は、ウロボロスの書物に差し出した金塊を日本円へ両替した分だけが銀行口座へ振り込まれるらしいのだ。
俺が持っている深淵の書の内容は本社でも確認できるらしく、いくら分の金塊を献上したかが本社事務所でも把握できるらしい。それによって、その分だけ毎月末に給料が振り込まれるとのことだった。
「これで服部泰三様は正式にゴールド商会の社員となりました。今後とも異世界での金塊集めを頑張ってくださいませ」
「は、はい……」
クロエが鞄に書類をしまっていると、道場の玄関前に立つ鹿羽五郎が言った。
「ゴールド商会の社員といっても、お前はまだ見習いだ。正式な幹部に昇格するには条件があるぞ」
「条件?」
入社試験のようなものだろうか?
「それは、二十一の試練だ」
「二十一の試練……?」
鹿羽五郎が語る。
「俺たちの会社であるゴールド商会は世界的大企業だ。各国に外資系の支部を持っている。社員数は三十万人から五十万人はいるらしい」
本当に大企業らしい……。
しかし、困った顔の鹿羽五郎は黒髪の短髪を、ごつい片手で掻きむしりながら言った。
「でもな〜、会社で何をやっているのかは、俺もよく知らねぇ〜んだ」
「はあ……?」
「俺たち大幹部は、会社の基本的な職務は果たしていない」
「えっ……?」
「俺たち二十一人の大幹部は、異世界から金塊を集めるためだけに集められた人材だからだよ」
「どういうこと……?」
「まあ、会社員をやっているが、ビジネスマンじゃねぇんだわ」
確かにジャージ姿の鹿羽五郎は、大企業の幹部職員には見えなかった。どう見ても体育会系のチンピラ風である。体臭からは昭和が臭ってくるほどだった。
「要するにだ。俺たち大幹部は、異世界でも生き抜けることを重視して集められた人材なんだわ」
「サバイバル優先の人材だと?」
「まあ、そんなところだな。そこでだ――」
鹿羽五郎が巨大な握り拳をグッと前に突き出した。その拳には、威圧感を伴う殺気が籠もっていた。
「俺たち大幹部には、ウロボロスの各書物を預かるだけの才能があるかどうかが試されるのだ!」
「試されるって……。そもそもウロボロスの書物とは何なんだよ!?」
「あれ、ナビーから話を聞いてないのか?」
「それは聞いた。だが、有り得ない不思議だ。まだ、キツネに騙されているような気分でな……」
意思を持ち喋る本。異世界へ入れる扉。疑似不老不死の仕組み。異世界で姿が変わる。それらすべてが現実的ではない。不思議満載である。謎ばかりだ。
ふてぶてしく鹿羽五郎が語る。
「ウロボロスの書物は全部で二十二冊存在している。それらを持っているのがゴールド商会の大幹部たちだ。俺やお前もその一人に当たる。大幹部は二十一人いるんだわ」
俺が持っているウロボロスの書物は《深淵の書》。眼前の鹿羽五郎が有しているのは《髑髏の書》だと述べていた。
あと二十冊あるようだ。それらを持つのがゴールド商会の二十一人の大幹部たちである。
「あと、一冊の持ち主は?」
「最後の一冊は、ゴールド商会の会長である金徳寺金剛様が有している」
「会長も権利者なのか……」
まさに企業全体で不思議満点の秘密結社のようだった。それが世界中に堂々と存在しているのが恐ろしい。
「まずお前は、他の大幹部が下す試練を受けなければならない。その試練をすべてクリアすると、正式な大幹部に昇格するって訳なんだわ」
回りくどい――。
「なぜ、そんな試練を受けなければならない。目的は何だ?」
「お前が俺たちの仲間にふさわしいかを試すためだ。性格も合わない、実力もない、根性も足りない。頭も悪い。空気も読めない。屁も臭い。そんな使い物にならない野郎が俺たちの仲間になれる訳がないだろう。だから、そのための試練だよ」
「まさに体育会系のノリだな……」
「俺は肉体派で考え方がシンプルだが、他の幹部には理屈っぽい野郎も少なくない。だから、今宵は一番手で乗り込んできたんだよ!」
「ええ……?」
「俺が試練の一番手だ!」
鹿羽五郎はゴッツい強面を満面に微笑ました。
「ええ〜っと……」
「俺と戦え。戦えば試練は合格だ。勝ち負けは関係ない。俺を闘争心で満足させてみせろ。逃げたら不合格だからな!」
マジで体育会系のノリである。たぶん、この人は脳味噌の隅々まで筋肉なのだろう。
「あはははは〜〜!」
靴を脱いだ鹿羽五郎が道場へ上がり込んでくる。一歩一歩の歩みに気迫が籠もっていた。道場の床板が威圧の重みに軋んで鳴る。
だが、俺と鹿羽五郎の間にクロエが割り込んできた。二人の前に白人美女が立つ。
「お待ちくださいませ、ゴロー様――」
「なんだよ、クロエ。どけ」
クロエは、いつの間にか日本刀を持っていた。うちの道場の刀ではない。彼女が持ち込んだ私物だと思われる。
「まずは、わたくしに挑ませてもらえませんでしょうか。私もウロボロスの書物が欲しいのですから」
クロエの眼差しは鋭かった。殺気が宿っている。本気のようだ。
「ふぅ〜ん……」
鹿羽五郎はクロエの本気度を察すると踵を返し、玄関のほうへ戻っていく。
「いいぜ、先にやりな」
「ありがとうございます、ゴロー様――」
深々と頭を下げていたクロエが顔を上げると、俺を睨みつけてきた。敵意が俺に突き刺さる。
腰を落として日本刀の柄を握るクロエが言った。
「我々ゴールド商会の一般社員には、一つの権利がございます」
だいたいは読めていたが、念のために訊いてみる。
「な、何かな〜……」
「それは、ウロボロスの権利者に挑む権利です。ウロボロスの権利者を殺せたなら、殺した者がウロボロスの書物の新たな権利者になれるのです」
やっぱり、そうくるか〜。このウロボロスの書物って、大人気なのね。取り合いなんだ〜。
まあ、そりゃあそうだよな。誰だって不老不死が欲しいのだと思う。
───────────
⬛作者からのお願い⬛
───────────
面白かった、続きが気になる、今後どうなるの!?
……と思ったら【本棚】に加えてくださいませ!!
また、作品への応援お願いいたします。
メッセージ付きのレビューなどを頂けますと大変励みになります。☆や♡をください!
面白かった、つまらなかった、正直に感じた気持ちだけでも構いません。
何卒よろしくお願いいたします。
by、ヒィッツカラルド。




