第3話 揺れる銀の双眸
またちょっとした危機迫る。
食事を大量に摂取して落ち着いたアタシは埃っぽいソファに沈む様に座った。彼は服を着替え床に座り足の傷を確認していた、アタシから見る限りもうほぼ完治していた。
部屋の明かりは薄暗く、ただお互いの呼吸音しか聞こえない。
「......おい、お前がさっき逃したと言った女の人はどうなった?」
アタシはようやくその質問をした。優弥は膝を抱える様な体勢で静かに答えた。
「数年は一緒にいたよ。彼女も君の様に強い眼差しをしていた。匿っていた間にドンドンと距離は縮まり笑う事を彼女は覚え、僕の恋人になり......最後は僕が守れず死んだ」
彼は最後の方は声を振るわせ言った。
「僕の力不足だった......!!守りきれなかった......!!他のネームドに見つかって......僕がもっと最善を尽くせば......」
(それでも仲間のネームドを恨み切れない、なんてヤワ奴だよ僕は)
悔しさからなのか強く言い放つが最後は弱々しく呟いた。言葉は切れ彼は言葉を続けなかった。
アタシは包帯を巻かれた手を見つめたままポツリと言った。
「アタシの両親はアタシを逃す為に死んだ。母さんは最期まで笑ってて......父さんは『幸せを奪って生きろ』と叫んでいた。............正直、ふざけんなよって思った」
優弥はゆっくりと顔を上げこちらを見た。
「幸せ、か......僕もそんな言葉を信じていた時期もあったな......いや、彼女がいなくなったから穴が空いただけかな......」
暗く重い沈黙が落ちる。
その時、外から車が停車する音が聞こえた。その途端に優弥の表情は変わる、先ほどの弱々しさは嘘の様に冷たく圧を感じる雰囲気になった。
「......来ちゃったか、暴れすぎたかな?」
彼は立ち上がりアタシからナイフを取り上げた。
「なっ!何をっ」
焦るアタシをよそに彼は言う。
「僕に任せて、同じ轍は踏まない。君、顔は割れている?」
と唐突な質問にアタシは曖昧に答えた。
「わからない、ずっと追われているから特徴はバレている筈」
それに対して腹が立つが頼もしさを感じる態度で答えた彼。
「わかった、君は堂々とそこでくつろいで。例え奴らが入ってきても焦らずにね」
そう言いながらナイフを工作用の作業場らしき場所に放り投げ玄関に向かって行った。玄関を開けただけではリビングの中まで見えない。アタシはまた守られてしまうのかと複雑な気持ちになり拳を握る。
そして優弥はインターホンが聞こえたと同時にドアを開けた。
「はい?こんな夜なんですか?」
そう迷惑そうに言いながら開けると2人の男が立っていた。
「こんばんは。お疲れ様です、白峰様。夜分遅くに申し訳ありません」
男は様付けで優弥を呼ぶ、そう彼らは優弥を知っている。
「君らか、数日前に定期確認はしただろう?僕も復帰に備えて訓練しているんだ、ほら?」
敢えて、自ら傷を見せた。ほぼ治っているので銃創とはバレないと大胆な判断をした。
「ペインシフターのご帰還はネームドの皆様方もご期待されていますので、とてもありがたいですが......別件です。これを」
そう言うと優弥にスマホの写真を見せてくる。
「ん?なんだ?これは......」
そこには倒れた追っ手の警官2人と、今匿っている女の解像度の低い後ろ姿の写真を提示された。
「ネームレスがこの付近を逃走中で警官2名を気絶させて行方をくらませています。そして白峰様は今、失礼ながら心神喪失により、国及びネームドの監視下に置かれています」
ど直球に言われた優弥は慌てず動じず応じる。
「それで?僕がまた匿っているかもってことかな?」
気怠そうに言い放つと下っ端の男達は気まずそうに言う。
「ええ......単刀直入に言わせて頂くと上から確認を一応する様に......ん?今お一人ではないのですか?」
そのまま目を逸らす様に下を見ると、優弥の足とはサイズが明らかに違う劣化した靴を見る。
「ん?あぁ、親戚の女の子が来ているんだ。......あぁ〜!タイミングが悪いな、あの子擬似ネームレスなんだ。どうせ確認しないと帰れないんだろ?さっさと確認していきなよ」
堂々としていればバレないと芝居を打って話す。優弥が先にリビングに入り、男達は頭を下げて部屋に入る。
「紅葉!悪いな、例のネームドの組織の人間が、この辺りでネームレスを見つけたって言っていてね。兄ちゃん監視下に置かれているって前に言っただろ?」
なるべく状況を伝える様に話す優弥。だが名の発表が唐突過ぎだ。
「!??」
(紅葉......?それがアタシの偽名か?取り敢えず、怪我した腕は見えない様にソファに寝そべるしかない)
アタシは咄嗟に体勢を変えて寝そべり返事をした。
「え〜、だる。てかアタシ擬似ネームレスなんだけど伝えた?もう長い検査は懲り懲りだよ」
アタシは咄嗟に嘘をつく、慣れている。両親と逃げた時も散々嘘をつき続けたから。
優弥は擬似ネームレスという設定を伝えていないのに先に言ってくれた事に感激する。
「!!......そ、そうなんだよなぁ。しかも、擬似ネームレスの証明書は無いんだ。いちいち親戚の家に行くのに、あんな書類の束を持ち歩かないのはわかるだろ?」
と男達に言うと彼らは頷きながら一応旧型の計測器を出す。
「で、ですね。その辺り保険証や運転免許証みたいにしてくれたら我々も楽なのですが............そうですね、この装置が古いのもあってやはりネームレス判定です」
旧型のスキャンする装置をアタシに当てて確認、勿論ネームレスだ。
「だろ?紅葉は重度で実際に力は使えない、最新機でいちいち身体検査しないと無理だ。能力の奪えないネームレスみたいなモノだよ、だから早く帰ってくれ虚弱体質だからストレスで体調を崩されちゃあ困る」
と長々と芝居を打つ彼を見てそんなに饒舌になるのかと少し驚くアタシ。それほど助けたいのか他人を。ならばアタシも乗るしかない。
「に、兄ちゃん......そろそろ、お風呂入るから早く帰してよ!」
嫌だ、兄ちゃん呼ぶなんてと思うが死ぬよりマシだ。それに彼は他の人とは違う様な気がほんの少しだけする。悔しいが新しい居場所をまた感じた。
「そう言う事だから今日は帰ってくれ」
そう腕を組みながら言う。
「え、えぇ。夜分遅くに失礼しました」
男達はネームドのメンバーには逆らえないのか強くは言及せずに帰って行く。ドアに鍵を閉めて、盗聴器などが無いか優弥は調べてからアタシに言う。
「大丈夫だ、これで暫くは時間を稼げる」
と満面の笑みをアタシに向ける、眩しいやめてくれ。
「......一応ありがとう。ただ名付けたい名前って紅葉?」
礼は忘れない、親に愛され教育されたからだ。だがいきなりの命名は困る。
「そうだね、儚い美しさを君に感じたからね」
初対面の女に言う事か?
「気持ちの悪い事言っている自覚はあんの?まぁ......もうその設定で暫くするしか無いから仕方ないけど............あまり呼ばないでよね」
(仕方ない、彼に助けられたのは事実)
「控えるよ、まあ気持ち悪いってのは前の彼女にも言われたね」
と苦笑いしつつ壁にもたれた。アタシはすぐに引き下がった奴らを見て抱いた疑問を問いかけた。
「ネームドはそんなに偉いのか?やらかしたアンタ相手でも様呼びでだいぶ萎縮していた上に、アタシについては強く言及しなかったが?」
「まあね、今来たのは実質部下だし僕らは序列に厳しい、けどネームド内では特に無いね。そう言うのは」
トップの身内には甘いが部下には厳しい嫌な組織だなと思いつつも、それでアタシが助かったのは僥倖であった。
「取り敢えず、お風呂に入って寝なよ。僕は起きているからさ、今来客用の布団を出す」
そう言うとまた無防備な振る舞いをする。今のアタシは彼の言葉に甘えるしかない、なにせ熟睡出来るタイミングは逃せない。
だが本当に信じていいのか頭の中がこんがらがっていると彼はリビングに布団を敷き服を投げ渡して来た。
「それ着て、服は洗濯するから。あと傷ついた手はビニール袋をつけてお風呂に入って」
気味が悪い程に至れり尽くせり、まあ前の女の人にやったのだから慣れているのだろうと思い今夜はゆっくり休み翌日に備えた。
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