第2話 白い家
白峰優弥、ただの男では無い。
アタシは必死に走った、そしてあの男の家に到着をした。鍵を握りしめたまま、薄暗いリビングの中に立っていた。
白い一軒家。
予想以上に寂しい部屋だった、本や工具によくわからない制作物が埃を被り積まれ、使われていないソファに食器が放置されたシンク。
一人暮らしなのか同居人がいるのかアタシには判別できなかった。これが白峰優弥の家。
(本当にここに留まって安全なのか......?)
背後でドアが乱暴に音を立てて開く。
「はぁ......はぁ......!!良かった、生きているか!」
振り返ると優弥が血塗れで立っていた。
左太腿を押さえ、メガネの片方のレンズが血で真っ赤に染まり見えなくなっていた。
足を引き摺って部屋に入ってくる姿は先程より弱弱しく感じた、が妙なオーラを放つ彼にアタシの危機察知能力が働いた。
アタシはナイフを抜いて構えて後退りする。
「......馬鹿なのか?そこまでして何に......?」
優弥はヘラッと笑い、そのまま床にへたり込んだ。
「はは......自分でもそう思うよ。でも互いに何とかなったみたいだね」
そう言いながら立ち上がり、彼は震える手をアタシの傷ついた腕に再度触れた。先ほど見た光を放つ、その瞬間痛みがするりと抜け落ちた。だが代わりに優弥の顔は歪み、額に汗が浮かぶ。
「これで......少しは楽になったはずだよ、僕が君の痛みを肩代わりしているからね」
そう言うともう顔に苦痛は無さそうであった。アタシの腕も出血は多少続いているが確かに痛みは消えていた。
「......お前は......?自分の傷はどうするんだ?」
「僕は痛覚遮断と高い自己治癒力があるから今日中に何とでもなるさ、と言っても痛覚遮断はまだ上手く扱えないんだけどね」
優弥は苦笑しながら自分の太ももの傷に応急処置をする、その手際の良さにアタシは違和感を感じた。
(......絶対に一般人では無い、だとするなら何が目的)
部屋には重い沈黙が落ちた。アタシはその沈黙を破る。
「......何故だ、何故私をそこまでして助けた?」
優弥は壁にもたれ遠い目をして言う。
「......一旦、落ち着いて最後まで聞いてくれる?」
「いいから話せ」
アタシはナイフを必死に握ったまま話の続きを促す。
「......僕、昔は『ペインシフター』と言うコードネームで呼ばれていた」
その瞬間にゾワっとアタシは冷や汗をかき鳥肌が立つ。
アタシはその名を知っている。目の前にいる男は忌々しき組織、エリート部隊『ネームド』の元主要メンバーだ。
だが私は無言で話を聞き続けた。何故ならば、彼が殺す気ならば既に殺されていた筈だからだ。
「本気でさ、昔は思っていたんだ。ネームレスは怪物だって、殺されて当然だってね」
彼は小さくため息をつく。
「でも......ある任務で捕まえたネームレスの女の子を『僕が始末します』と言い連れ出し逃げた。それが全ての始まりだった」
アタシはそのまま無言で聞いた。
優弥は寂しげに笑った。
「そして今は心神喪失、心の病って診断されて治療休暇中。表向きは『いつでも復帰できる』って優遇されているけど時々家に組織の者が来るし見張られちゃっているんだ」
彼はゆっくりとアタシを見上げた。
「君......さっきの反応的に名前無いんだよね?」
「いらないよ、そんなモノ」
アタシは両親と一緒に逃避行を続けていた頃は色々な偽名を名乗り続けてきて名前が無い、欲しいとも思わなかった。
「そっか......。でも君にピッタリな名前を思いついちゃったんだよね〜」
ニコニコしながら言う彼にアタシは眉をひそめた。
「は?なんでいきなり、お前にアタシを命名する権利は無い」
優弥は壁にもたれら遠い目で天井を見つめながら静かに言う。
「かもね......だよね。でも君は立派だ、そして儚さとその中に強さが見える。名がないまま潰えるには惜しい存在って思ったんだ」
アタシは何も言えなかった、少しでもその言葉に居場所を感じた自分に少し怒りの感情が湧く。
優弥は微笑んで付け加える。
「今夜くらいはここでゆっくり休みなよ、ネームドの使いの連中は一昨日来たばかりで次は約1〜2週間だからさ」
そう言うと彼は無防備にナイフを構えるアタシに背を向けて部屋の中を歩いて行く。
「まあ無理強いはしないよ......と、それより君の怪我の手当てだ」
無気力なのかそれともアタシに不意をつかれても大丈夫だと言う自信なのか。少しすると救急箱を持って現れ躊躇いもなくアタシの腕に触る。
「触るなっ。ぐっ......」
アタシは腕を振るうと痛みが再発し、しゃがんでしまう。
「ほら、見せて............良かったぁ、傷はスパッと切れているから医療用テープでくっつけて、あとはこれを塗ってから巻いて......」
そうするとあっという間に簡易的な手当を施した、やはり戦闘集団のエリートなだけはあるなと不服ながらに感心してしまうアタシ。
そして先ほどの追っ手はどうしたのか気になった、戦闘は苦手だとほざいた癖に恐らく勝利して来たからだ。
「そう言えば何が戦闘は苦手だ、さっきの追っ手はどうしたんだ」
また気まずそうに笑う。
「はは......ネームドの中では弱かったんだよ、僕」
「いいから話せ」
アタシははぐらかす彼に苛立つ。
「そうだねぇ......さっきは............」
――――――――――――――
遡る事少し前。
優弥は追っ手2人と対峙した。
「おい!邪魔するんじゃあねぇ!ネームレスを庇うとどうなるか馬鹿でも知っているだろう!」
「そうだ、その間抜けヅラ歪めてやろうか!」
肥え太った豚達はよく鳴く、ネームレス狩りにやる気のあった自分を思い出して嫌になるよ。
優弥はそう思いながら口を開く。
「あのですね......彼女......僕の普通の恋人なんですよ。わかりますか?お巡りさん?」
咄嗟の嘘を言う優弥は先ほどの弱弱しさは無く真剣な眼差しで2人を見る。
「はぁ!??計測装置は無能力、つまりネームレスって出てんだァ!」
「そうだ、だから狩らせろ!それとも手柄を横取りしたい傭兵なのか?」
優弥はため息をついて呆れた様に言う。
「はぁ......彼女は能力がとても弱いんです、だからたまにこうなるんですよ。その職についているなら知っていますよね?擬似ネームレス病を」
ハッタリだが嘘ではない、この世界では力が弱い場合は機械が誤認識する。その体質を擬似ネームレスと呼ぶ。
「知らねえよ!このハジキが見えねぇのか!?退けってんだよォ!」
銃を構えた追っ手達は威勢よく鳴く。それを待っていましたと言わんばかり一瞬で距離を詰めて2人の銃を掴む。
「なっ!?」 「こっ、こいつ速い!??」
「誰を相手にしていると思っている、この無知な豚が」
女に見せた優しさは微塵もない、凄みを感じさせる優弥はそのまま自分の足に銃の照準を合わせて躊躇いなく何発も撃つ。その途端に痛みを押し付けられた追っ手達は奇声をあげて倒れた。
「ギャ」 「ミ゜」
無傷のまま痙攣して倒れた男を見て安堵する優弥。
「ふぅ......久しぶりに戦ったから緊張したよ......。この調子ならコイツらの誤認でネームレスの捜索は止まるかな、早く家に行かなくちゃな」
(この僕の力は痛みの場所を選ばない、悪いが頭に銃弾を何発も喰らった痛みを与えたよ)
そう言うと足を引きずりながらも急いで家に向かったのであった。
――――――――――――――――
「って言う感じだよ。自傷が僕の戦い方だから君が期待している様な戦闘テクニックは無い」
アタシは自分の思惑を見透かされた事に驚く。こんなにも優秀なのにネームドの中で弱いだなんて、謙遜であってほしい。それと同時に今までアタシがネームドから避けられた事に幸運を感じた。
「......確かに真似できる芸当では無い」
「まあ適性があって君が僕を殺せば真似できるかもね〜」
そう軽く言うと、またアタシを放置して奥に行き戻ってくると食事を持って来た。
「毒はないよ、食べて」
「誰がアンタにっ」と言うがその瞬間に腹が鳴ってしまい恥ずかしくて顔を背けた。
「ほら!レンチンのカルボナーラだけど美味しいよ、遠慮する必要はないから」
とアタシの顔の前に美味しい香り放つ物を向けられ、流石に我慢ができなかったアタシはガッついて食べた、なんせ数日ぶりにまともな食べ物それも温かい食べ物だったからだ。
優弥は微笑む。
「良ければまだ食べ物はあるからね!」
(良かったがこの食べる勢いからしてまともな食事は出来ていないみたいだね。やっぱり君はただの普通の女の子だ。僕の亡くなった恋人を思い出すなぁ......)
優弥はただ優しくアタシを見るのであった。
評価などよろしくお願いします。




