第1話 逃走中の出会い
評価の程よろしくお願いします。
アタシは人である。だが、名前はない。
持つ資格もない。
この素晴らしき世界は、アタシ達に名前を待つことすら許さない。
生まれたばかりの赤ん坊は、臍の緒が切られるや否や能力検査装置にかけられる。透明なカプセルの中で、赤い光が全身を舐め回す。わずか10秒。
【能力値:なし】
その瞬間、機械は無慈悲に作動する。
注射針が細い首に刺さり、即効性の安楽死薬が流れ込む。赤子の泣き声は、始まる前に潰える。親は「残念でした」とだけ告げられ、次の子を望むよう勧められる。
これが、この世界での「普通」だ。
ネームレス、存在を許されない欠陥品で空っぽの器。
殺されても誰も悲しまない。
寧ろ進んで殺す、将来誰かの能力を奪うかもしれない怪物として、発見された瞬間に処分される。
アタシも、本来ならそうなるはずだった。
「............っ」
路地の闇で、アタシは息を殺していた。
黒く長い髪を無造作に束ね、細身のコートを羽織った体は、逃亡生活で無駄な肉を削ぎ落とされ、引き締まっている。
身長172センチ。寒空の下に放置された金属のような冷たい銀色の瞳。
今年で17歳になるはずだった。
だが戸籍も人権もない者にとって、年齢など意味がない。
両親はもういない。
政府と大企業の追手からアタシを逃がすために、自ら囮となって死んだ。
最後に父が叫んだ言葉は、今も胸に突き刺さっている。
「幸せを奪って、自分の人生を生きろ」と。
............ふざけるな。
アタシは復讐を選んだ。
この腐った世界の全てを、その全てをぶち壊してやる。
「はあ......はあ......クソ、腕が......」
先ほど切りつけられた左腕が熱を持つ。
背後から複数の足音が迫る。ハンター集団だ。
路地を走り、出口が見えた瞬間、一人の男がふらりと現れた。
22〜23歳くらい。眼鏡をかけた若干猫背気味の男。パーカーにジーンズという、場違いな装い。
「うわ......それ、かなりヤバい怪我じゃ......」
アタシは咄嗟にナイフを突きつけた。
「寄るなッ」
「ひょえ!?わ、わかった!近づかない!で、でも......」
男は両手を上げて後ずさりしながらも、震える指で掌に淡い緑の光を灯した。
「ぼ、僕は戦うのは本当に苦手だけど......この能力なら、痛みを少し肩代わりできるから!」
そう言うとアタシの痛みは緩和され彼は顔を顰める。
「......アタシが何者かわかっているのか?」
男は困ったように笑った。少し寂しげに。
「ははっ、理由なんてないよ。ただ、僕は君を見捨てるほど人間ができてないからさ。僕は白峰優弥。君は......名前、ある?」
その直後、後方から怒声が飛んだ。
「見つけたぞ!例のネームレス女だ!」
優弥の顔が強張る。
それでも彼はアタシの背中を押し、鍵を投げ渡しながら掠れた声で言った。
「............ここから右に二回曲がって、コンビニの向かいの白い一軒家が僕の家だ。......逃げて」
その背中は細く、頼りなく見えた。
でもアタシは、生まれて初めて............他人が自分のために前に立った瞬間を見た。
謎の男の登場により主人公は難を逃れる。




