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ステータスALL Sの受験生が170キロで高校野球を終わらせた件  作者: 白峰レイ
第1章 高校編

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40/176

第40話 「怪物が首を傾げた日」

二回裏。


北海の守備陣が、ベンチから飛ぶ指示に合わせて細かく位置を変えていた。


「打球傾向では三塁線が――」

「いや待て! さっきデータ外れただろ!」

「でもデータを捨てたら俺たち何すんだよ!」


すでに混乱している。


それでもエースの志戸が踏ん張り、この回は無失点。


北海ベンチから安堵の息が漏れた。


「よし……まだ2点差だ」

「夏目以外ならデータは通用する!」


「その言い方悲しくないか?」



三回表。


夏目は北海の下位打線も寄せつけなかった。


ストレート。


スライダー。


フォーク。


三人。


また三人。


誰一人として塁へ出られない。


北海のデータ班は、投球ごとに必死でタブレットを操作していた。


「次はアウトローのスライダー……のはず!」


ズバァァン!!


「ストレートじゃねぇか!」


「配球傾向更新!」


次の打者。


「初球ストレート率が上がった! 今度こそ――」


スパァン!!


「カーブ!?」


「また更新!!」


仙北が頭を抱える。


「更新するたびに古くなってんじゃねぇか!!」



三回裏。


二死から山田に打席が回った。


志戸の外角球に逆らわず、軽くバットを合わせる。


カキィン!


打球は逆方向。


ライトの頭上を越えた。


「おおおおお!!」


山田は一気に二塁へ。


「セーフ!」


塁上で小さくガッツポーズ。


続く四番、鈴木。


甘く入ったストレートをセンター前へ弾き返した。


「回れぇぇぇ!!」


山田が三塁を蹴る。


ホームイン。


3-0。


開明高校に追加点が入った。


ベンチで中村が拳を突き上げる。


「よっしゃああ!! 夏目だけじゃねぇぞ!!」


夏目もグラウンドを見ながら小さく頷いた。


(……まあ、こんなもんか)


「お前の“こんなもん”が分からねぇんだよ!!」


「なんで聞こえたんだよ」


「顔見りゃ分かるわ!!」



四回表。


北海はまたデータを修正した。


そしてまた外れた。


「初球はストレート!」


スライダー。


「追い込んだらフォーク!」


ストレート。


「高めが多い!」


外角低め。


「こいつ配球読まれてるの分かって変えてない!?」


佐藤がマスクの奥で首を傾げる。


(いや、普通に俺のサイン通りなんだけどな……)


三者凡退。


五回表も同じだった。


北海はデータを集める。


分析する。


対策を変える。


だが、その頃には夏目の投球も微妙に変わっている。


同じストレートでも、さっきよりコースが厳しい。


変化球も少しずつキレが増していた。


球速表示は相変わらず170キロ台。


佐藤はミットを構えながら笑った。


(……まだ良くなってんのかよ)


以前なら怖かった。


今は違う。


次はどんな球が来るのか。


自分はそれを捕れるのか。


それが少し楽しみになっている。


「夏目!」


「ん?」


「もっと来い!」


「おう」


ズバァァァン!!


「いってぇぇぇ!!」


「大丈夫か?」


「痛ぇけどもう一球!!」


「なんか……ちょっとキモいぞ」



五回裏。


先頭の佐藤。


志戸の初球を見た瞬間、迷わず振った。


カキィィン!


ライト前へ抜ける。


「ヒット!」


スタンドがどよめいた。


「また佐藤打った!」

「あのキャッチャー普通に打てるぞ」

「173キロ受けてるやつだろ?」

「そっちもおかしくなってない?」


佐藤は一塁上で苦笑する。


(……やっぱ見えるな)


そして二番。


夏目孝太郎。


志戸が大きく息を吐く。


(また……こいつか)


初球。


外角へ外れる。


夏目は見送った。


二球目。


志戸のストレートが、わずかに高く入る。


その瞬間。


夏目が踏み込んだ。


カァァァン!!


「…………!」


高々と上がった打球が、レフト方向へ伸びていく。


外野手が追う。


だが、途中で足を止めた。


白球はレフトスタンド中段へ。


「入ったぁぁぁぁ!!」


実況の声が響く。


「夏目孝太郎! 本日二本目!!

またしてもツーランホームラン!!」


5-0。


佐藤がホームへ戻り、その後ろを夏目がゆっくり回ってくる。


中村が叫んだ。


「お前甲子園来てからホームラン打つの普通になってねぇ!?」


夏目はホームを踏む。


「今日、打ちやすい」


志戸がマウンド上で膝に手をついた。


「全国屈指の技巧派に言う感想じゃねぇぇぇ!!」


北海ベンチ。


データ班はもうタブレットを見る気力すら失いかけていた。


「……二本目……」


「どこなら打たれないんだ……」


「敬遠は?」


「後ろも打ち始めてるぞ……」


「…………」


「詰んでない?」


「言うな」



六回。


七回。


八回。


開明はさらに点を重ねた。


一方、北海打線はいまだ走者ゼロ。


夏目の球に、まともに食らいつくことすらできない。


たまにバットへ当たっても、弱いファウルになるだけ。


打球が前へ飛ばない。


伊藤はスコアブックへアウトを書き込みながら、マウンドを見る。


(……また変わってる)


県大会の時からそうだった。


一試合の中でも、少しずつ投球が良くなっていく。


今日も同じ。


序盤より腕の振りが滑らかになっている。


球速だけではない。


制球も、変化球も。


(……本当に、どうなってるのよ)


伊藤は一度だけペンを止めた。


だが、すぐに次のアウトを書き込んだ。



九回表。


スコアは9-0。


北海ノースフィールズ。


ここまで――走者ゼロ。


あと三人。


一人目。


三振。


二人目。


三振。


そして。


最後の打者が打席へ入った。


九番打者は、バットを握りながら小さく震えていた。


(分かってる……)


何を投げるか。


どのコースが多いか。


球速も。


回転も。


変化球も。


散々調べた。


(でも……分かってても無理だ……!)


夏目がセットに入る。


初球。


ズバァァァァァァン!!


【173km/h】


「っ!?」


バットが動く前に、佐藤のミットへ収まっていた。


「ストライク!」


スタンドから大きなどよめき。


二球目。


外角いっぱい。


ストレート。


「ストライク!」


あと一球。


北海ベンチでは、誰も声を出していなかった。


データ班も。


仙北も。


志戸も。


全員が打席を見ている。


佐藤がサインを出した。


フォーク。


夏目が頷く。


三球目。


腕を振る。


ボールは打者の手元まで真っすぐ来て――


落ちた。


「っ……!」


バットが空を切る。


ズバンッ!!


「ストライク! バッターアウト!!」


試合終了。


その瞬間。


甲子園が沸いた。


『完全試合!!』


実況の声が響く。


『夏目孝太郎!!

甲子園二試合連続の完全試合達成!!』


『本日も最速173キロ!!

北海ノースフィールズ打線を、一人の走者も許さず抑え込みました!!』


開明ベンチから選手たちが飛び出す。


「夏目ぇぇぇぇ!!」

「また完全試合かよ!!」

「二試合連続だぞ!!」


中村は松葉杖を振り回しながら叫んだ。


「お前ぇぇぇ!!

甲子園の完全試合を日課みたいにすんなぁぁぁ!!」


夏目は少しだけ笑った。


「してねぇよ」


「二回やったら説得力ねぇんだよ!!」


そのままベンチへ戻ろうとして――


夏目が右手を開いた。


「…………」


握る。


もう一度、開く。


肩も軽く回してみる。


「……ん?」


佐藤が振り返った。


「どうした?」


「いや」


夏目は右手を見る。


痛いわけではない。


投げられないわけでもない。


ただ――


最後の数球だけ。


いつもより、ほんの少し指に引っかかる感覚があった。


「……なんでもない」


「ならいいけど」


佐藤はそのまま仲間たちの方へ走っていく。


夏目も後を追った。


歓声はまだ止まらない。


二試合連続完全試合。


最速173キロ。


誰もが夏目の投球に夢中になっていた。


その中で。


夏目だけが、右手をもう一度だけ握り直した。



すみません。

また、更新を忘れてしまいました……

1ヶ月分くらい予約しておきます……

本日は3話投稿します。

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