171.戴冠式(たいかんしき)
1時間目の授業、開始と同時に単位が認定されるサラ先生の授業が終了する。
1時間目冒頭から、アオレンジャーの魔の手によって教室に立たされ、瀕死の重傷を負った副ギルド長。
授業終了の鐘が鳴るのと同時に、席に崩れ落ちる。
「ぐふっ・・」
「大丈夫か銀等級?お前、副ギルド長になっても相変わらずだな」
「ジョン君、『グレートバリアリーフ』なんて単語、すぐに僕の魚脳みそから出てこなかったよ。『高尾山』ならすぐ出てきたんだけど・・」
「一郎、あんた馬鹿でしょ?『高尾山』はミシュランに登録されただけであって、あんたが言いたい『世界遺産』は『富士山』でしょうが?」
「ああ美馬さん、そうそう、それそれ。なんですぐに僕を助けてくれなかったんですか?」
「なんで私があんたを助けないといけないわけよ?しかも本当は『富士山』って言いたかったとか全然違うし、私にしか伝わらない言い訳しないでもらえる?」
「美馬さんが助けてくれなかったんで、僕の体力1が消えかかってますよ。もう足が棒のようですって」
1時間目と2時間目の休憩時間。
1列目にいたルナ様、ジャンヌ様、エリスの3人が、ジョンと一緒にいる一番後ろの席まで来る。
引き続きジャンヌお母様から質問攻めという名の拷問を受ける。
「はいはい。いい加減美馬言うな、美馬。あんた『ペガサス』ちゃんのニンジン、ちゃんと買ってきてくれたんでしょうね?」
「買いました買いましたって。『アイテムボックス』一杯になるくらい、これでもかって買っておきましたから。忘れないようにちゃんとギルドカードにメモしといたんですって。ルナ様とジャンヌ様は、アイリスの結婚式の準備どうです?間に合いそうです?」
「お母様はあのお体ですので、ほんの短時間だけ、『戴冠式』の直後に『ウェストミンスター寺院』へお寄りになられる予定との事です」
「そうなんですねルナ様。ジャンヌ様が『瞬足』で取りに行った法衣やお飾りは大丈夫です?」
「もちろんバッチリだよ一郎。アイリスお母様がね、結婚式終わったら、ルナお姉様にお飾りやティアラをあげるって言って下さったの」
「へ~さすがアイリスお母様。やりましたねルナ様、ジャック=ハート兄さん復活のあかつきには、ルナ様も今日アイリスがつけるキラキラのティアラで結婚式ですね」
「何を言っているのですかスズキ様は!まだジャック様は・・」
「大丈夫ですってルナ様。副ギルド長の僕と、『ベネチア』の大臣になったジョン君がついてますから。ルナ様の許嫁は必ず石化から解いてみせますよ、なあジョン君?」
「もちろんですよルナ様。昨日『ベネチア』のアクア=マリン王女にお話したら、今『アカデミア』学院の『王立図書館』でも、石化を解く方法の調査が始まってます。『マドリード』の王立『ハーバード』学院でも調査が始まってますんで、大船に乗ったつもりで待っていて下さいルナ様。『ベネチア』と『マドリード』は、ルナ様の味方ですよ」
「まあ、ジョン様・・ありがとうございます。『ベネチア』の大臣様にそうおっしゃっていただけて、ルナは本当に嬉しいのです」
「ルナ様。俺は『ベネチア』の大臣である前に、『月の雫』のルナ様親衛隊のメンバーなんですから、当然の事ですよ。ルナ様がピンチの時は、親衛隊の一番槍として駆けつけますんで、すぐに連絡して下さい」
「ジョン様・・ありがとうなのです」
「へえ~あのジョンがこんなに立派になっちゃったなんて、私まだ信じられないんですけど」
「うるさいなエリス、お前も早く結婚しちゃえよ」
「相手がいればね。私もルナ様がご結婚されたら、ちゃんと相手を見つけないとね」
「どうしてエリスもジャンヌも、わたくしに先に結婚させようとするのですか!」
「ジャンヌもルナお姉様が先に結婚するまで、誰とも結婚しないもん」
「ジャンヌはお黙り・・なさい。ありがとうジャンヌ、お姉ちゃんは、あなたのその気持ちが嬉しいのです。でもねジャンヌ?エリスもそうなのです。女の子の幸せは大事なのです。好きな殿方がいらっしゃれば、わたくしの事は気にせず、お話を進めて欲しいのです」
「ルナ様の言う通りですよジャンヌ様にエリスも。早く結婚しないと、ルナ様みたいに未亡人になっちゃいます(目がキラン!)ジャック兄さんを早く石化からお救いしないと。急がないとルナ様どんどん老けちゃう(バシ!バシ!カチン!カチン!)叩かないでって聖女様、僕のバリア割れちゃいますって」
「スズキ様は!いつもいつも一言余計なのです!」
(キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン)
「あっ」
「ルナお姉様~一郎馬鹿だからもう席に戻ろうよ~」
「そうですルナ様、ミューラ先生もう教室入って来ちゃいましたよ?」
「ううーー・・分かったのです。スズキ様、後でお説教なのです」
「・・かしこまりました」
オルレアンに突如発生した嵐が過ぎ去った。
2時間目、大教室には2・300名を遥かに超える大人数の生徒がすでに集結。
壇上には人気講師のミューラ先生の姿。
ミューラの授業は相変わらずの人気ぶり。
1時間目から『水属性』のアオレンジャーに立たされて、間髪入れずに休憩時間には聖女の拷問・・大教室の一番上の一番端の太陽がポカポカ温かい席。
少ししか寝て無いので・・段々と・・眠たくなってくる・・。
「ふぁ~」
「・・はい、それじゃあ一番うしろの席でアクビをしているスズキ君!(ビシッ!)」
「えっ?」
「(教室内の学院生)あははは」
「も~私の話聞いて無かったでしょ~問題もう一度言うわよ、さっさと答えて!(ビシッ!)聖女アイリス様がご結婚されます。今日この後『戴冠式』が行われる雷の国『トロント』王国にある『世界遺産』の名前は?簡単でしょ?」
「・・『大田胃酸』です」
「も~なんなのよそれ!」
「(教室内の学院生)あははは」
「まったくもう!そこに立ってなさい!(ビシッ!)」
「はい・・」
「(教室内の学院生)あははは」
「聖女ジャンヌ様、お願いできますか?」
「馬鹿でしょ一郎・・『ウェストミンスター寺院』です」
「はい、さすがジャンヌ様。はい、ここテストに出ます!」
(カリカリカリ)
「次の授業ではテストを2問出しますので、今日の問題も含めて、各自しっかり復習するように」
教室内の学院生が一斉にギルドカードのメモ機能にこの授業単位の『卒業認定試験』解答を書き込みをしている。
解答バラしておいて、復習もクソも無いだろうと心の中で激しくツッコミつつ、席に立たされたまま、ゆっくり慎重に自分もすぐに忘れてしますのでギルドカードにメモをする。
ミューラが試験問題をカミングアウトするなり、後はいつも通りマシンガントークの授業だけが進行していく。
「え~で、あるからしまして~雷の国『トロント』の『ウェストミンスター寺院』においては、これまで歴代のアーサー王の即位式が行われてきました。我がオルレアンにおける、シャルル7世様が『ハギア・ソフィア大聖堂』で行った『成聖式』と類似するもので、その国を治める者、すなわち王位への就任を国民全員で祝う儀式となります。なお本日は『ヘルヘイム帝国』との戦争状態を考慮し、形式は略式にて行われるとの事ですが、我がオルレアンの聖女アイリス様の結婚式も同時に執り行われる予定です」
(パチパチパチパチパチ)
オルレアンの聖女アイリスと、『アーサー王7世』となる『トロント』出身のライン=ハルトが結婚する。
『ヘルヘイム帝国』との戦争中とはいえ、これほどおめでたい話は無いだろう。
教室内の王族、貴族たちの学院生から拍手が沸き起こる。
そのお祝いモードとは裏腹に、『火属性』のアカレンジャーからの執拗な攻撃によって足は限界寸前までダメージを受ける。
その後もミューラ先生のマシンガントーク授業が続いたが、まったく頭の中に入っては来なかった。
時間だけが過ぎていく。
「はい、それでは2時間目の授業を終了します。次回の授業は話をした通りテストにします、ちゃんと復習しておいてねみんな」
「(教室内全学院生)先生、ありがとうございました」
(キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン)
「ぐはぁ・・」
「大丈夫か銀等級?」
「もう無理・・」
「3時間目はガイア先生とこか?」
「もちろん・・」
「俺、次は国家予算についての授業を受けに行ってくるわ。おやじ・・キグナス将軍に、体だけじゃ無くって、大臣なんだから頭も鍛えろって言われててうるさいんだよ」
「なるほど、『ベネチア』王国は厳しいな」
「まったくだぜ。お前のとこのギルドは、財政状態大丈夫なのか?」
「どんぶり勘定」
「そんなんで大丈夫なのかよ?」
「大丈夫。明日、金貨の雨が降るから」
「そんな雨あるなら、俺の『ベネチア』にも降らしてくれよ。じゃあ、俺もアクア王女とキグナス将軍、それに嫁さんと一緒に『ウェストミンスター寺院』行くから、またその時会おうぜ」
「ラジャー・・」
1時間目と2時間目、連続でレンジャーからの拷問を受けて足が限界に達する。
しばらく動けないので、ジョン大臣は先に国家予算の授業に行ってしまった。
教室の前方から、二聖女とエリス、ミューラ先生の4人が近づいてくる。
「やっほ~スズキ君。調子どう?」
「良いわけないですよ先生。毎度毎度指名して立たせるのやめてもらえません?このせいで、毎回僕、闇の黒装束の襲撃の度に誰かにおんぶされて大変なんですから。戦闘に入る前から日常生活で常に負傷してるんですって。ステータスオール1なんですから、勘弁して下さいよ」
「先生言うな、先生。そうそう、スズキ君がこの前用意してくれた『輪転機』あるでしょ?あれ凄いの、テストの問題用紙300枚、今まで手で書いてたんだけど、あっという間に準備出来ちゃった。助かったわ、ありがとう~」
「はいはい、調子良いんですから。もっと僕を褒めて下さいよミューラ」
「感謝してるんだから。それはそうと、今日は行くの?『ウェストミンスター寺院』?」
「もちろんですよ。アイリスがお腹大きいから、『カーバンクル』の『転移』魔法で、『ギルド本館第一タワー』のアイリスが寝てる4階の部屋と『ウェストミンスター寺院』を直接つないじゃいますから」
「マスター、一度行った場所で無ければ、『転移』のゲートは開けません」
「そうだったっけ『カーバンクル』?」
「スズキ様、詰めがいつも甘いのです」
「そうだよ一郎、あんた『トロント』は『ツインブリッジ』と『ラスベガス』カジノしか行った事無いんでしょ?ちゃんとアイリスお母様連れて行けるように、一度『ウェストミンスター寺院』ちゃんと行ってよね」
「あれ、ジャンヌ様。なんで『ラスベガス』カジノ、僕が行った事あるの知ってるんですか?」
「ちょっとジャンヌ」
「ああ、えっと・・ルナお姉様と一緒に行った事があるの、ただそれだけだよ」
「お2人がスロットやるんです?」
「スズキ様・・慰問でそちらの前を馬車で通った事があるという話なのです」
「へ~そうなんですね・・この前の『トロント』防衛戦の時かな・・お2人は色んなところで聖女様されてるんですね」
「ジャンヌ、お口・・」
「は~い。この前馬車で通ったのは嘘じゃ無いもん。『クリスタルのかけら』のペンダント消えないんだからね」
「ミューラも『戴冠式』と結婚式には参加するんだよね?」
「そうよスズキ君。私もおめかしして行かなくちゃ。今日は2時間目で私も授業おしまいだから、サラと一緒にエルミタージュから向かう予定よ」
「僕も一回『トロント』行かないと、アイリス連れて行けないですよ。ねえミューラ、ガイア師匠は『ウェストミンスター寺院』ご存じですかね?」
「ええ、ガイア様は30年前、先代の『アーサー王6世』の『戴冠式』にご出席されてるわ。当然『戴冠式』が行われる『ウェストミンスター寺院』はご存じのはずよ」
「良かった。これからガイア師匠の授業に出るので、終わったら『瞬足』で連れて行ってもらおうかな。ルナ様とジャンヌ様、それにエリスは3時間目どうするの?」
「私たちは・・」
「ちょっと出たい授業があるのよ一郎」
「ルナ様もご一緒です?」
「はい、そうなの・・です」
「ふふ、3人とも、花嫁修業ですよね?」
「ちょっとミューラ先生!」
「それは一郎には内緒なの!」
「あちゃ~ごめ~ん」
「なに女の子してるんですか皆さん。ああ、そうそう。朝、『ユニ』と『ペガ』に渡すのに、多めにお弁当作ったんです。とりあえずこれ、ルナ様とジャンヌ様の分です。朝の残りですいませんが、『タマゴサンド』と『小倉サンド』です。こっちは水筒」
「スズキ様・・ありがとうございます」
「一郎。『ユニ』ちゃんと『ペガ』ちゃんのだけじゃなくて、私たちのも準備しててくれたの?」
「もちろんですよ、どうせ味しないんでしょ美馬さん?元旦那の僕が、ちゃんと準備しときましたって」
「一郎・・」
「そんなうるうるしたって、何も出ませんからね。良かったらエリスとミューラの分もあるけど、僕のお弁当いる?」
「私も欲しい!」
「私も、もらっちゃって良いのかな?」
「はいエリス。ルナ様、ジャンヌ様とどうせ一緒にいると思ったから作っといたんだよ、ほら」
「ありがと、嬉しい」
「『ネバーランド』準備出来たら声かけるから(ググッ!)むぐぐ!!」
「『ネバーランド』?」
「あはは、イチロウ君ったら、なに言ってんでしょうね?あはは」
「(サッ・・)ぷはぁ!薬草・・(もぐもぐ)」
「スズキ様、毎日その薬草をお食べになられているのですか?」
「一郎、あんたどこでその薬草買ってるの?」
「(ゴクリ)ギルド会館の1階の自動販売機で毎日補充してるんです」
「・・最低」
「誰のせいで毎日無くなってるんだと思ってらっしゃるんですか聖女様?」
「私とルナ姉のせいだって言いたいのあんたは!」
「そうですよ」
「ううーー」
「ほら、すぐ叩く」
「・・これは・・違うんだもん(サッ)」
「はいはい。ほら、これミューラの分」
「わ~い、嬉しい。アイリス様の結婚式、晩餐会も無いから食べて行かないとだったし、これはありがたくいただきます」
「じゃあ僕、足が動かせるようになったんで、そろそろガイア師匠のところに行きますね。3時間目のうちに、『転移』魔法が使えるように一度『ウェストミンスター寺院』に寄っておきます」
3時間目の別の授業に、二聖女とエリスが向かう。
お弁当を渡されて満足したのか、ジャンヌ様は満面の笑みでこちらに手を振っている。
プレゼントを渡す時だけ、天使の笑顔でこちらに微笑んでくれるジャンヌ様が大好きだ。
ミューラと一緒に教室を出て、教室の外で別れる。
1時間目と2時間目は、入口講堂向かって左側の建物の2階の大教室でいつも行われている。
まず講堂前まで戻る。
掲示板に『オルレアンネバーランドリゾート』のアルバイト『キャスト』のクエストが張り出されており、学院生たちが興味深々でそのクエスト報酬の内容を見ている。
この後『トロント』で行われる『戴冠式』とアイリスの結婚式は、晩餐会の無い質素なものと先ほどミューラからも話があった。
ゆえに『四国同盟』のオルレアン、『ベネチア』、『マドリード』からも、来賓の代表者程度しか参加しないのだろう。
2時間目まで教室で立たされた足が悲鳴をあげる。
講堂から今度は右に向かい、白い石畳の上を道なりに進んで行く。
ガイア師匠のいる、煙突から煙が出る小屋を目指すのだが、なぜか森のように木々が生い茂っている。
ああ、そうだった。
そういえば『オルレアンネバーランドリゾート』の建設地である、闘技場『コロッセオ』周辺の木々を、環境破壊をしないように『風の神殿』が近いガイア師匠のいる小屋周辺に移動させたのを思い出す。
自分でやっておいてなんだが、こんな森の中まで来て授業を受ける学院生など、自分くらいしかいないだろう。
白い石畳を頼りに、ガイア師匠の小屋に到着する。
「(ガチャ)失礼します」
「かっかっか、今日は授業を受ける生徒がおると思ったら、小僧じゃったわい」
「ガイア師匠・・その話しぶりだと、ここにくる生徒は僕くらいですよね?」
「くっくっく、その通りじゃわいて」
「それ自慢になりませんって先生」
『土のクリスタルの使徒』、ガイア師匠が小屋の中で何やら金床を打ち付けていた。
何やら鉄製品がたくさん小屋の中にある様子。
よほど1時間目と2時間目が暇だったに違いないが、そこは大人の対応で突っ込まない事にする。
「ああ、そういえばガイア師匠。奥様はご自宅にお戻りになりましたか?」
「いんや、まだじゃぞい。母ちゃん、一回飛び出したら、1・2カ月は戻ってこんからのう。獲物を求めて、今頃『ヘルヘイム帝国』を蹂躙しとる頃じゃろうて、かっかっか」
「敵だと恐ろしいですけど、味方ですと、これ以上無いくらい頼りになりますね奥様。ガイア師匠は今日の午後、『トロント』の『戴冠式』出られますか?」
「おお、出るぞい小僧。わしが『トロント』の『ウェストミンスター寺院』に行くんわ、30年前、『アーサー王6世』の『戴冠式』に行った時以来じゃわいて」
「ミューラから聞いた通りです。そうそう師匠、僕『ウェストミンスター寺院』行った事が無くて、ここにいる妖精の『カーバンクル』と一緒に連れて行ってもらいたいんですけど良いですか?」
「おう、任せとけい小僧。それにしても『トロント』となると、ちと遠いのう」
「大丈夫です師匠。『トロント』にある『ツインブリッジ』と、『ラスベガス』カジノでしたら行った事がありますので、『カーバンクル』の『転移』魔法ですぐに行けます。どっちが『ウェストミンスター寺院』に近いですか?」
「『ラスベガス』カジノじゃのう小僧。あそこは、わしと嫁さんが出会った場所じゃからのう」
「へ~師匠と奥様の思い出の場所だったんですね、知りませんでした。ではさっそく宜しいですか?」
「ほい来た」
元土の国、旧『アリゾナ』王国はドワーフであるガイア師匠の故郷。
その土の国と、『ツインブリッジ』で陸続きになっている『トロント』での思い出話。
ガイア師匠は250歳と聞く。
過去に何か奥様との素敵な出会いがあったに違いない。
その後、妖精『カーバンクル』の『転移』魔法のゲートを開いてもらう。
一度自分が行った事のある場所には、王宮に備え付けられている『転移結晶』のゲートをくぐらなくても、違う国にだって一瞬で場所をつないでしまう妖精『カーバンクル』の便利な魔法。
一瞬でガイア師匠のいるエルミタージュの小屋から、まずは『トロント』にある『ラスベガス』カジノの前へ移動。
それからすぐに、ガイア師匠におんぶをしてもらい、師匠の『瞬足』スキルで『ウェストミンスター寺院』までたどり着く。
(キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン)
「ん?ガイア師匠。学院の授業が始まる時の鐘の音がしますけど・・」
「おお小僧。この鐘は『ウェストミンスターの鐘』と言ってのう。オルレアンのエルミタージュはおろか、『ベネチア』の『アカデミア』学院、『マドリード』の『ハーバード』学院でも使われとる、授業が始まる時と終わる時の鐘の音は全部、ここの『ウェストミンスターの鐘』の音が採用されとるんじゃわいて」
「へ~そうだったんですね。あっ、あそこにいるのは・・ハート兄さん!」
「弟よ!よくぞここへ!」
「ハート兄さんも!」
ジャック=ハートの弟、ライン=ハート兄さん。
ハート兄さんとは、『ブラザー登録』をした兄弟の関係。
血は繋がっていなくても、自分も兄のように慕っている間柄。
今は聖女ジャンヌ様の許嫁。
最初は嫌な男とばかり思っていたが、ジャック兄さんと一緒に『ラスベガス』カジノの『ラウンジ』にも連れて行ってくれた男気ある好青年。
僕はジャック兄さんも、ハート兄さんも大好きだ。
「ハート兄さん、聞いたよ。『トロント』王国の大将軍になるんですよね?凄いじゃないですか」
「すまんな弟よ。兄ジャック=ハートがあのような事になってしまい、かなり『トロント』もドタバタしておってな。ハート家が王族や貴族から、より頼られるようになり、私も『アーサー王7世』の『戴冠式』の準備で大変だったのだ。連絡も出来ず申し訳ない」
「僕なんか最後で良いよハート兄さん。そうそう、『アーサー王7世』になるライン=ハルト、僕の家来になったんですよ」
「なに!?弟よ、『アーサー王7世』が家来とは誠か?」
「昔ですよ、昔。元々エルミタージュ学院の85期生の同級生だったんだ。結婚する聖女アイリス様も僕と『アーサー王7世』と同級生なんだよ。まあそれが原因で、16年前から色々あったんだけどね」
「なるほど、聖女アイリス様とそなたは親しい間柄であったな。なんでもすでに子を授かっていると聞くぞ?それも誠であるか?」
「誠も誠、もうお腹大きくなっちゃってますよ。僕が後でアイリス様だけ連れて来るから、先にハルトの『戴冠式』進めてて欲しいんですよ」
「お腹に子がおっては、やはり結婚式は・・」
「ああ、それなら大丈夫。ほら、この子」
「(ヒュン!)妖精の『カーバンクル』です。マスターがいつもお世話になっております」
「なんと!?妖精『カーバンクル』と申すか?弟よ、これは一体」
「色々あったんですよ兄さん。今度『ラスベガス』カジノの『ラウンジ』でゆっくり話しましょうよ。マリーゴールドさんも、今じゃあ副ギルド長になった僕の部下なんですけど、毎日大暴れで大変なんですよ」
「ふふ、ははは・・やはり貴公は面白き男よな。ジャック兄さんが石像となり、私も気が立っておったが、すっかり気持ちも吹き飛んでしまったぞ」
「ああ、ごめんねハート兄さん。でもジャック兄さんは、このまま石像で終わるような男じゃないから。僕ら兄弟で、絶対に石化から復活させて見せましょうよ。ルナ様ともさっきまで一緒にエルミタージュで授業受けてたんですけど、ルナ様もジャンヌ様もやる気になってくれてるから、絶対上手くいくと思いますよ」
「ふむ、なるほど、ルナ様はあきらめておらん・・か。弟である私があきらめておるようでは、ジャック兄さんに笑われてしまうな」
「その意気ですよハート兄さん。ジャンヌ様がお姉ちゃんのルナ様が結婚するまで、自分も結婚しないとか言ってましたよ」
「ほう、それはいかんな。ますますジャック兄さんを石化から解いて、ルナ様と先に結婚いただかなければならんな」
「そうだよハート兄さん。これから忙しくなるから、まずは今日の『アーサー王7世』の『戴冠式』からですね。僕はそっちは手伝えないから、ハート兄さんが『ブラザー通信』で連絡してくれたら、結婚式の時にアイリスと一緒に今いるここに『転移』魔法で連れて来てあげますよ」
「あい分かった、頼んだぞ弟よ。しばらく私も忙しくなる。これからは兄ジャック=ハートに代わり、ハート家の当主として、『トロント』の大将軍としてこの国を支えねばならん」
「新しい『アーサー王7世』にも言っておきますよ。ハート兄さんと手を携えて、この『トロント』を『ヘルヘイム』帝国から守って欲しいですからね。オルレアンの副ギルド長として、僕もハート兄さんと『アーサー王7世』の手助けはおしみませんよ」
「かたじけない弟よ・・『トロント』ギルドの、ボルテッカーギルド長には、私の方からもそなたの手助けをするよう進言しておこう」
「ボルテッカーギルド長・・すでにオルレアンに技術者を100名も流していただいて、本当に助かってます。ぜひよろしくお伝えしておいて下さい」
「心得た、ではまた後でな」
「はい、ハート兄さん」
兄と慕うライン=ハート兄さんと握手を交わす。
石像となった、血の繋がっていない兄、ジャック=ハートはここにはいない。
だが『トロント』の大将軍となったハート兄さんは、力強い握手を僕と交わしてくれる。
その瞳に迷いを感じない。
僕ら2人も、ルナ様だって、ジャック=ハートの復活を信じてやまない。
アイリスの結婚式が行われる予定の『ウェストミンスター寺院』から、またエルミタージュのガイア師匠のいる小屋へ妖精『カーバンクル』の『転移』魔法で戻ってくる。
ガイア師匠と3時間目の授業と言う名の雑談を続ける。
ガイア師匠は、最近流行りの『高等精錬』技術である、鉄製品の作り方や、新しい武器、新しい防具の自慢話を自分に散々話してくる。
まだ自分は『精錬』スキルしか持っていないので、いずれ『高等精錬』を使えるようになれば、鍛冶師の真似事も出来るようになるかも知れない。
あれ?そういえば、スキルポイント今いくつあるんだっけ・・まあ、忙しいから、今度でいいや。
ステータスオール1男、3時間目の授業を無事に終了させる。
ガイア師匠と別れて、講堂前の掲示板まで戻ってくると、恐ろしい光景を目撃する。
何やらマフィアのような怪しい集団。
その中心にムチを持つ、明らかに怪しいエルフの女性の姿。
なまめかしいその様相に、何か催眠スキルでも使われてしまったのか、若い王族や貴族の男子学院生たちが次々と勧誘され、怖そうなお兄さんたちに『ネバーランド』の方向へ連れて行かれている。
「さっさと歩きなさい!(ビシッ!)」
「ああ~!!」
「ちょっとマリーゴールドさん、ここ学院内ですから、ムチはダメですって」
「あら副長、これは何でも(ササッ)」
「あからさまに隠さないで下さいよ。仕事の方はいかがです?」
「はい副長。女の子たちは100名以上、無料でお食事できると勧誘してすでに『ネバーランド』へ誘い込んでおります」
「・・アルバイトの募集で集まったって事で良いんですよね?」
「はい、もちろんです、うふふ」
「・・そこにいる男子は?」
「この子たちは・・さっさと歩きな!(ビシッ!)」
「ああ~!!」
「マリーゴールドさん」
「大丈夫です副長。調教です、調教」
「社員教育してるって事で良いんですよね?」
「はい副長。これからしっかりしごいて来ますので、明日の開園を楽しみにしていて下さい・・うふふ」
「・・腕は確かなのでお任せします。くれぐれも女の子はムチはダメですからね?」
「あら~それは残念。それじゃあ、こっちから先に調教しちゃいますね・・おーほほほ。さあ行くわよ皆さん」
「はい、姐さん!」
ちょっとアレな集団が、『オルレアンネバーランドリゾート』のある西門の方へ姿を消して行った。
マリーゴールド姐御の集団が消えたと同時に、自分のソバにそそくさと二聖女とエリスが駆け寄ってくる。
制服姿のルナ様とジャンヌ様が声をかけてくる。
「スズキ様、今の集団は一体何なのですか?」
「そうだよ一郎、危ないよあの人たち!」
「大丈夫ですってお2人とも、『ネバーランド』のアルバイト『キャスト』の調教・・じゃない、社員教育ですって、社員教育」
「本当かな~」
「イチロウ君。副ギルド長の仕事も結構ですけど、アイリス様をお連れする準備は大丈夫なんでしょうね?」
「もちろんだよエリス。僕はもうただの借金の塊じゃ無いんだって、出来る男になったんだよ、出来る男に」
「はいはい、それで?『トロント』にはちゃんと行ったんでしょうね?」
「もちろん。ああ、そうだジャンヌ様。さっき愛しのハート様に会ってきたんですよ」
「ハート様に!本当、一郎?元気だったハート様?」
「ええ。ハート兄さん、大将軍になって、ジャック兄さんを助けるんだって張り切ってましたよ。安心しましたよ僕」
「まあ、ハート様がそのような事を・・わたくしもイジイジしている場合では無いのです」
「本当ですよルナ様。僕と『カーバンクル』、さっき『ウェストミンスター寺院』行ってきましたから、ちゃんとアイリスお母様『転移』魔法で連れていけますよ。これからどうします?」
「わたくしは、一度『ユニコーン』ちゃんに会いたいのです。『小学校』へお迎えに行くのです」
「ジャンヌも『ペガサス』ちゃんに早く会いたいよ!」
「分かりました。エリスはクラウドと一緒に『トロント』来るんだよね?朝クラウドに会ったけど、エリスも結婚式連れていくから、よろしく言っといてくれって伝言だよ」
「もう、パパったら。私は一度家に戻って、お着替えしてからパパと『トロント』に向かいます。イチロウ君、お弁当ありがと、後で家に戻ってから食べさせてもらうね」
「分かったよエリス。ああ、『カーバンクル』。エリスの家まで『転移』ゲート頼むよ」
「はいマスター」
「(二聖女)ええ!?」
「えっ?」
「あちゃ~・・ちょっとイチロウ君・・それダメ・・」
「えっ?なんで?」
「(プルプル)スズキ様・・エリスも・・どうしてスズキ様が、エリスの家の場所を知っているのですか・・」
「(プルプル)そうだよ一郎、おかしいよ!あんた浮気したでしょ!」
「なにが浮気ですか美馬さん。遊びに行っただけですって、遊びに。確かクラウドに誘われて・・違ったかな、昼ご飯おごってもらったんですよ。そうだよねエリス」
「そ、そうそう!パパがイチロウ君と同級生だから、ぜひうちで食事していけって、パパが無理矢理」
「エリスは本当の事をおっしゃられているのですか?」
「もちろんですルナ様。ねえイチロウ君」
「そうそう、たしかそんな感じだったよ」
「・・スズキ様のおっしゃる事は、いまいち信憑性が無いのです、適当過ぎるのです」
「そうだよ、怪しいよ。本当はエリスさんと仲良くしちゃってんじゃないの?」
「それじゃあイチロウ君、私行くね!あ~お着替えどうしようかな~じゃあ、魔法ありがと!(ダッ!)」
「・・エリスが行ってしまったのです・・スズキ様」
「えっ、はい。どうしましたルナ様?」
「後でお話があるのです。それと『ユニコーン』ちゃんが気になるのです、すぐにお迎えに行きたいのです」
「私もだよ一郎、早く『ペガサス』ちゃんに会いたいよ!それにあんた、誤魔化そうとしてる時、いつも目線そらすでしょ?分かってんだからね私!」
「『カーバンクル』、急ぎ聖女様を『ギルド本館』の『小学校』まで、『転移』ゲート、オープン。ハンマー・ザ・プライス」
「はいマスター。『転移』!」
「スズキ様」
「一郎、あんた誤魔化そうとする時、いつも変な事言い出すでしょ?分かってんだからね私!」
「さあさあ聖女様、ゲートが閉じてしまいます。『ユニ』と『ペガ』は目の前ですぞ」
良かれと思い、クラウドの家まで行った事があるのを思い出し、エリスの自宅へ『転移』ゲートを開いた事でマズい展開に発展する。
二聖女の冷たい視線が、命の危険へと自分をいざなう。




