172.バージンロードと2つの花
午前中のエルミタージュでの授業が終了する。
ルナお母様とジャンヌお母様を、『ギルド本館第一タワー』の『小学校』フロアまで妖精『カーバンクル』の『転移』魔法のゲートをくぐって到着。
まだ11時過ぎ、お昼からと言われる『戴冠式』と同時に行われるアイリスの結婚式まで時間はまだ少しある。
早く『ユニコーン』と『ペガサス』に会いたい二聖女2人。
4階フロアの教室前で『ユニ』と『ペガ』の姿を見つけると駆け寄って行く。
近くには、ダリアさんの娘のグランブルーちゃんと、マリーゴールドさんの娘のマーガレットちゃんの姿もあった。
「『ユニコーン』ちゃん」
「『ペガサス』ちゃん」
「(2人)あっ、お母様~」
「(二聖女)よしよし~」
お母さんの二聖女が、『ユニ』と『ペガ』の頭をなでなでしている。
パパにもあれくらい、優しくしてもらいたいものだ。
『ユニ』と『ペガ』が自分を見つけると、こちらに走って近寄ってくる。
両性と言われる『聖獣』の擬人化した2人だが、角のある『ユニ』は女の子っぽく、角が無い『ペガ』は男の子っぽい雰囲気。
どちらも可愛い我が馬・・もとい、我が子供たち。
「(2人)パパ~」
「よしよし、良い子してたか『ユニ』、『ペガ』?」
「お父様、あのねあのね。『ユニ』、自分のお名前書けるようになったの」
「ぱぱ~、『ペガ』もほら!『ペガサス』ってお名前書けるようになったんだ~偉いでしょ~」
「よしよし、良い子だ『ユニ』、『ペガ』(なでなで)」
「(2人)えへへ~ぱぱ~」
「(グサッ!)痛い!『ユニ』!角、角パパに刺さってる!薬草・・(もぐもぐ)はぁ!はぁ~はぁ~・・『ユニ』、ぎゅ~する時は顔を横に向けなさい」
「は~い」
「あっ、『ユニ』に『ペガ』もなんだかちょっと背が伸びたような・・」
「本当なのですスズキ様。『ユニコーン』ちゃん、朝より背が伸びているのです」
「そうだよ一郎、『ペガサス』ちゃんも何だか男の子みたいにカッコよくなってるよ!」
「確かに・・特に『ユニ』の角はさらに立派に(サスサス)」
「きゃ!ぱぱ~触っちゃだめ~」
「スズキ様!『ユニコーン』ちゃんの角は触ってはいけないのです!触って良いのはお母様だけなのです!」
「何でルナお母様は良くて、僕は触っちゃダメなんですか~」
「まま~ぱぱが朝『ペガ』のお尻触ったんだよ~」
「ちょっと一郎、何やってんのよあんた!てか、なにどさくさに紛れて『ペガ』ちゃんのお尻触ってんのよあんたは!」
「可愛いプリプリのお尻なんで、ついつい手が出ちゃうんですって」
「だから『ペガ』ちゃんのプリ尻触って良いのは、私だけだって言ってんのよ、この変態!」
「なんでジャンヌお母様は良くて、僕は触っちゃダメなんですか~」
そういえばこんなやりとりを、いつしか日本でした事があるような無いような・・。
(回想)
「キャ!お母さん、パパさんがお尻触った」
「何やってんのよ一郎!この子のお尻を触って良いのはお母さんだけなんだからね!」
「なんでお母さんは良くて、パパはダメなんですか~」
「お触り禁止!セクハラ、ダメ、絶対!」
そう言われつつ、事あるごとにお尻を触っては娘に嫌われていった過去が走馬灯のように駆け巡る。自分は日本にいた時と同じ過ちを繰り返そうとしているのかも知れない。
分かっている、分かっているんだが、どうしても自分の子供のお尻に手が出てしまう。
まだ完全に嫌われていない転生後のパパ。『ユニ』と『ペガ』は無邪気に質問を繰り返してくる。
「ねえねえお父様、『ユニ』ね、『小学校』で社会のお勉強したの」
「偉いぞ『ユニ』、何を教えてもらったんだ?」
「あのねお父様、先生のお話分からない事があるの。桜を見る会ってな~に?」
「難しいお勉強してるな『ユニ』。桜を見る会って言うのは、次の選挙で勝つために支持者を固める大事な会議の事だよ」
「ふ~ん・・『ユニ』よく分かんない」
「ねえぱぱ、『ペガ』も『ペガ』も。アベノマスクってな~に?」
「偉いぞ『ペガ』、良い質問だ。アベノマスクっていうのは、毎日洗濯機で洗っていくと、どんどん縮んで小さくなるマスクの事だよ」
「あんたのその私にしか伝わらない説明じゃ分かんないわよ馬鹿!『ペガ』ちゃんに変な事教えてんじゃないわよ!」
「だって美馬さん、アベノマスクは今世紀最大の失策ですって」
「意味分かんないよ!」
「まあまあ美馬さん、ど~ど~。この後ハルトの『戴冠式』と、アイリスの結婚式ですから、先にお昼食べちゃいましょうよ。『ユニ』と『ペガ』はお弁当はもう食べたのか?」
「(2人)まだ~」
「そうか、じゃあこれからお昼で授業もお休みになるから、お父さんとお母さんと一緒に食べよう」
「わ~い(2人)」
「グランブルーちゃんとマーガレットちゃんは、給食が出るから、先にお別れのご挨拶をしてきなさい」
「は~い(ダッダッダ)」
「スズキ様凄いのです、『ユニコーン』ちゃんが良い子にお別れのご挨拶しに行ったのです」
「『ペガサス』ちゃんも行っちゃった、ちゃんとご挨拶出来てるよ、偉いよ一郎」
「さすがルナ様とジャンヌ様のお子さんですね。今日1日で、大分成長したんじゃないですか?」
「成長が早すぎるのです・・」
「あんなに大きくなっちゃったら、どれだけ前に生まれたのかって疑われちゃうよ・・」
「さすが聖女様、魔法のパワーでお子様もすぐに成長。この調子なら、あと2・3日で巣立ちの時も近いですね」
「『ユニコーン』ちゃんがそんなに早く巣立ってしまっては、お母さんは悲しいのです」
「そうだよ一郎。『ペガサス』ちゃんとまだまだ一緒に居たいんだからねジャンヌは!」
「はいはい、急に母性が芽生えてしまいましたねお2人とも・・あっ、もう戻ってくるみたいですから、あっちの空き教室貸してもらって食事しましょうよ」
「スズキ様・・良いのでしょうか?勝手に教室を使ってしまって・・」
「なに言ってるんですかルナ様。僕、この『ギルド会館』の副ギルド長なんですよ?」
「ああ・・」
「そういえば一郎、そうだったね」
「なに言ってるんですか美馬さんまで。そこそこ偉いんですよ僕も、そこそこ」
「(2人)ぱぱ~」
『ユニコーン』と『ペガサス』が、ダリアさんの娘のグランブルーちゃんと、マリーゴールドさんの娘のマーガレットちゃんとお別れのご挨拶を済ませてこちらに戻ってくる。
二聖女のお母様が手をつないで、5人で空き教室へ向かう。
『小学校』フロアの教室、日本でもなじみの小さな机とイスが並んでいる。
『ペガ』と『ユニ』は、朝渡しておいた『兵式飯盒』のお弁当と水筒を、ルナお母様とジャンヌお母様が作ってくれた手さげから取り出す。
『ユニ』と『ペガ』が『兵式飯盒』を机の上に開けると、『ペガ』の方だけ中身が少し減っているのに気づく。
「あっ『ペガ』、早弁しただろ?」
「だってお腹すいちゃったんだよ『ペガ』。ぱぱのお弁当すっごく美味しかったんだよ~」
「分かった分かった。ほら『ペガ』、ぱぱの『タマゴサンド』たくさんあるから、たくさん食べなさい」
「わ~い」
「お父様、『ペガ』が先に食べちゃったけど、『ユニ』は我慢したんだよ?『ユニ』も『タマゴサンド』1つ欲しいの」
「そうか、『ユニ』はちゃんと我慢出来たんだな、偉いぞ。ほら『ユニ』、ぱぱの『タマゴサンド』1つ分けてやろう」
「わ~い」
「スズキ様・・スズキ様の『タマゴサンド』が無くなってしまったのです」
「良いんですよルナ様。まだ『小倉サンド』ありますから」
「スズキ様は・・自分だけ我慢するのはダメなのです。はい、わたくしと『タマゴサンド』半分こ」
「ああ、どうも・・」
「一郎、なにルナお姉様といい感じになってんのよ」
「そんな事ありませんって美馬さん」
「ところであんた、なんでエリスさんの家の場所知ってたのか、さっさとしゃべりなさいよ」
「えっ・・それ、覚えてたんですか?」
「スズキ様、その件はわたくしも把握しておかねばならないのです」
「ルナ様まで~いいじゃないですか、たいした話じゃ無いんですから~」
「わたくしに秘密は1つも許さないのです」
「またまた~アイリスみたいな事言って~」
「一郎、あんた誤魔化そうとしたってそうはいかないんだからね?」
「ええ~」
それから食事中、『ユニ』と『ペガ』は美味しそうに『タマゴサンド』と『小倉サンド』のお弁当をほうばる中、自分に対する二聖女お母様からの尋問がしばらく続いた。
食事が終了する頃には、午前中の授業で立たされ続けた疲労に加え、昼ご飯中も尋問を受け、体力1のパロメーターは限界を迎えようとする昼下がり。
アイリスの結婚式に間に合わなくなるといった言い訳をしつつ、二聖女と子供たちと共に、一度アイリスの病室へ向かう事にした。
6階の『小学校』フロアから、4階の『産婦人科』へエレベーターで移動する。
アイリスの病室に入ると、ベッドで体をあげるアイリスが、王宮から来たであろう女性の従者に髪を整えられていた。
アイリスの顔は綺麗にお化粧がされ、この後の結婚式に向けた準備が進められている様子。
アイリスに声をかける。
「ごめんねアイリス。結婚式の準備してるところ邪魔して」
「イチロウ様、ご面倒をおかけします。今日はよろしくお願い致します」
「うん、大丈夫だよ。アイリスはお昼ご飯食べた?」
「はい、先にいただきました。この後は結婚式が終わるまでは、何も口にする事が出来ませんので」
「ふ~ん、宗教的な何かなのかな・・あっ、そうそう。さっき僕、『ウェストミンスター寺院』寄って来たよ。ガイア師匠に『瞬足』で連れて行ってもらったんだ。この後アイリスを結婚式場の前まで、『カーバンクル』の『転移』ゲートですぐに連れて行ってあげるね」
「イチロウ様・・嬉しい」
「また泣くなよアイリス~せっかくのお化粧が崩れちゃうだろ~」
「はい・・」
「ねえねえお父様、ルナお母様にそっくりのこちらのお姉さんだあれ?」
「そうだよぱぱ。ママにそっくりのお姉さんだあれ?」
「『ユニ』と『ペガ』のお母さんの、お母さんなんだよこの人」
「わ~」
「そうなんだ~」
「そうなのです『ユニコーン』ちゃん。お母様のお母様、アイリスお母様なのです」
「そうだよ『ペガサス』ちゃん。わたしのお母さんなんだよ」
「まあ可愛い。ルナとジャンヌの子供たち、こっちへ来なさい」
「(2人)ぱぱ、良いの?」
「良いって『ユニ』、『ペガ』。行ってこいよ」
「(2人)うん、アイリスお母様~」
『ユニ』と『ペガ』が、お化粧を整えているアイリスの近くに近寄り、アイリスに頭をなでなでしてもらっている。
ルナ様とジャンヌ様のお子様の様子に、とてもお喜びになっているようだ。
しばらく『ユニ』と『ペガ』の頭をなでなでしていたアイリスだったが、おもむろに手が止まり、近くにいた王宮の従者に声をかける。
「『ダイアティアラ』は?」
「いえ、アイリス様。こちらには用立てておりません」
「まあ、困ったわ・・」
「どうしたアイリス?」
「『ダイアティアラ』・・わたくしのお母様から頂いた、『ダルク家』に伝わる結婚式に身に着けなければいけない大事なティアラなのです・・」
「ジャンヌ、先ほどお母様のお部屋に行った時に、あの宝箱には触らなかったのです」
「そうだよルナお姉様。わたしもあの宝箱は、お母様が大事にしてた箱だから、朝行った時は触らなかったの」
「ルナ、ジャンヌ・・そうだったのですね」
「ジャンヌがすぐに取りに行ってくるよ!お母様、お母様のお部屋にある、あの宝箱の中で良いんでしょ?」
「そうなのジャンヌ、お願いできるかしら?お母さんが結婚式で使い終わったら、ルナにあげようと思っていた大事なティアラなのです」
「そうだ、それなら一度ルナ様もジャンヌ様も王宮行きますよね?『カーバンクル』に『転移』ゲート開いてもらって、みんなで行きましょうよ。アイリスの大事なティアラ取りに行って、シャルル女王陛下がいらっしゃれば、成長した『ユニ』と『ペガ』もお披露目できるかも知れませんし」
「スズキ様、王宮に行けるなら、少し寄っておきたい場所がルナにはあるのです」
「ルナ様が寄りたい場所?」
「ルナお姉様の秘密のあれね」
「ジャンヌはお黙りなさい!」
「は~い」
「じゃあ話は決まりました。アイリス、すぐにティアラ取って戻ってくるから、お化粧続けてて良いよ。何かあったら、『フレンド通信』で僕のギルドカードに連絡してよ」
「はい、かしこまりました。イチロウ様、ルナ、ジャンヌも。お願いしますね」
「(二聖女)はい、お母様」
「『カーバンクル』、『転移』よろしく。『ユニ』、『ペガ』。パパと一緒に行くぞ」
「(2人)はいお父様」
ダルク家に伝わるという『ダイアティアラ』と呼ばれるティアラ、どうやら朝のドタバタ準備の中で、持ってくるのを忘れてしまったらしい。
シャルル女王陛下に『ユニ』と『ペガ』を会わせるチャンスもあるかもしれない。
妖精『カーバンクル』の『転移』ゲートで、オルレアン王宮へ5人で向かう。
王宮に到着。
ルナ様とジャンヌ様を先頭に、2人の二聖女は手をつないで『ユニ』と『ペガ』を率いて王宮内を進んで行く。
「(王宮メイド)ルナ様、ごきげんよう・・あらっ、お子様ですか!?」
「はい、わたくしの子供・・なのです」
「お母様~みんなこっち見てるよ~」
「大丈夫なのですよ『ユニコーン』ちゃん。お母様のもう1つのおうちなのです」
「(王宮兵士)ジャンヌ様、ごきげんよう・・おおっ、お子様でありますか!?」
「そうだよ、ジャンヌの子供だよ」
「(王宮兵士)お子様がいらっしゃるという噂は、本当でありましたか。いやはや、これはめでたい」
「まま~兵隊さんが、みんなこっち見てるよ~」
「良いのよ『ペガサス』ちゃん。あんなの放っておけば良いの」
「お2人とも、王宮のみなさんの視線が注がれてますね。凄いですね、お子さんのいる聖女様の威厳って」
「(ニ聖女)あなたは黙ってなさい!」
「はは~」
ロイヤルベビーを引き連れた未婚の公爵夫人が、王宮内を凱旋帰国。
王宮内のメイドや従者、果ては兵士たちがこぞって集まり、二聖女が連れている『ユニ』と『ペガ』の姿に視線を注ぐ。
二聖女のお母様も、まんざらでも無いご様子。
なるほど、今まで素通りされて白い目で見られていた王宮内のヒューマンに、今これでもかと自身の子供を見せびらかしている親馬鹿モードになっているらしい。
アイリスお母様のお部屋とお2人がおっしゃる扉の前まで到着。
ルナ様が、なにやら『アイテムボックス』から鍵を取り出し扉を開ける。ルナ様が声をかけてくる。
「スズキ様・・こちらのお部屋は、ちょっと・・」
「えっ?良いじゃないですか~ルナ様もジャンヌ様も一緒に眠られてる寝室なんですよね?僕もちゃんとチェックしとかないと」
「エッチなのですスズキ様は!そこで立って待っていなさい!」
「そうだよ一郎!このお部屋は絶対入っちゃいけないんだからね!」
「なんでですか~」
「(二聖女)絶対入っちゃダメ!(バタン!)」
二聖女がそう言い残して、中に入って鍵をかけられたようだ。
お部屋の中に入って、『ダイアティアラ』を探すだけなのに、なんで僕だけ入れてくれないんだろうか・・。
『ユニ』と『ペガ』も連れて行かれてしまい、やる事が無くなる。
迷路のような王宮内、部屋の入口の廊下で待ちぼうけ。
ふいにガラス越しに、中庭をのぞくと、なにやら綺麗なお花畑が見える。
廊下から、中庭に抜ける出入口があったので、何気なく、そのお花畑へ向かう。
三聖女の部屋の廊下から中庭に出ると、お昼で太陽が真上から照る日当たりの良い場所。
中庭からは、四方を王宮の建物が四角に囲う、まるでここに閉じ込められているような錯覚にさえ陥る。
色とりどりの花が植えられているお花畑を見ていると・・お花畑の間から、人の声が聞こえてくる。
「ルナ、ルナなのですか?」
「えっ?違いますけど・・」
「ルナでは無いのですか!?あっ!(バタッ!)」
「ああ、ちょっと!大丈夫?」
「殿方!?ダメ、わたくしに触れないで!」
「何もしませんって。僕、ルナ様の親衛隊なんですから」
「ルナの・・親衛隊?」
「ええ。君、ルナ様の事ご存じなんですな?僕はルナ様親衛隊『月の雫』のメンバーで、スズキと申します。ごめんなさい、女の子がいるなんて気づかなくて」
「『月の雫』?ルナが時々お話してくれる、やらしい殿方とはあなたの事なのですね?」
「その説明には、かなり偏見が混ざっているような・・」
「スズキ様!廊下にいないと思ったら、あなたはわたくしの秘密のお花畑にどうしているのですか!」
「ああルナ様、ちょっと道に迷っちゃいまして」
「どこを迷えばわたくしのお花畑にたどり着くのですかあなたは!」
「ああ、ここがルナ様の秘密のあれなんですね」
「ルナ、この殿方とお知り合いなのですか?」
「シャトレーゼ様!?・・こちらにおられたのですね。シャトレーゼ様は足が・・ご無理をされてはなりません。さあ、ルナの手におつかまり下さい」
「ありがとうルナ」
「この子、足が・・」
ルナ様がシャトレーゼと呼んだ女の子。
自分と同じくらいの背丈の女の子。
最初にこの子を見て気づく、目の色が左右非対称、カラーコンタクトなどこのオルレアンにあるはずが無いだろう。
白い透き通るような肌、顔の表情に幼さが残るも、日本人のような黒い髪が印象的な美人さん・・だけどこの子・・足が・・。
最初の第一印象とは別に、妙に聖女ルナと似た印象を受ける。
なぜだろう、気丈で頑固なところだろうか。
それともその気丈な裏に・・下を向いて歩く孤独感のようなものを感じる。顔立ちや髪の色はまったく違うものの、その幼さと雰囲気から一瞬連想してしまう。
そう、まるでこの2人・・日本にいた時の、うちの子にそっくりな印象を受ける。当然他人の空似であろう。聖女ルナが女の子に近寄る。
女の子は、右足を引きずるようにして、ルナの右手につかまりながら、必死に立とうとしていた。
地面には、松葉づえのような歩行を補助する杖が転がっていた。
おそらく自分で、王宮の中からここまで歩いてきたに違いない。
「ルナ、こちらの殿方の頭の上を妖精様が!?」
「ああ、僕の上で飛んでるのが妖精『カーバンクル』です」
「『カーバンクル』と申します。マスターと契約を交わした、『妖精界』より参りました妖精でございます」
「やっぱり妖精様・・」
「ルナお母様~」
「お母様!?ルナの子供なのですか!?」
「ルナお母様。ジャンヌお母様、まだ宝箱が見つからないって探してたよ」
「そうなのですね」
「ルナ様、『ダイアティアラ』見つからないんですか?」
「そうなのですスズキ様。お母様の宝箱までは、さすがにわたくしも触った事が無いものですので・・今ジャンヌが、『感知』スキルでお部屋の心当たりのある場所を探してくれているのです」
「やたら大きな扉でしたけど、中って相当広そうですよね・・宝箱もたくさんありそう」
「ぱぱ~」
「ぱぱ!?こちらの殿方が?本当なのですかルナ?」
「それは・・その・・」
「ルナ様と僕は結婚なんかしてませんよ。それと君、シャトレーゼっていう名前なんだね?美味しそうな名前だね君」
「わたくしの事を美味しそうだなんて・・なんてやらしい殿方なの・・野獣だわ」
「スズキ様、このオルレアン王宮で殿方がシャトレーゼと呼んで良いのは、夫婦だけなのです。王となる殿方だけなのです・・」
「王?小人の?長島と王なんて、ぼくら世代の伝説のヒーローですよ」
「お黙りなさいスズキ様は!一体なんの話をしているのですかあなたは!」
「ぷっ、ふふふ」
「シャトレーゼが笑ってるのを・・初めて見たのです・・」
「あっ、君ノリが良いね。そうそう、こっちが僕とルナ様の子供で、聖獣『ユニコーン』ちゃん。角が生えてるでしょこの子。『ユニ』、ルナお母様のお友達にごあいさつしろ」
「『ユニコーン』です。お父様とお母様が、いつもお世話になってます」
「偉いぞ『ユニ』、ちゃんと良い子できたな。今日の晩御飯もちゃんとパパがご馳走作ってやるからな」
「わ~い、『ユニ』嬉しい~」
「スズキ様、シャトレーゼに気安くお話をしないで欲しいのです」
「なんで?こんな可愛い友達、僕にも紹介して下さいよルナ様」
「お黙りなさいスズキ様。こちらのお方は、本当はここに来てはいけない子なのです!」
「ぷっ、ふふふ」
「スズキ様ったら、もう!・・シャトレーゼが・・また笑っているのです・・」
「・・君、足悪いの?歩けない?」
「ふふふ・・あっ、その・・そこに落ちている杖があれば、少しだけ自分でも歩けるのですが・・」
「スズキ様、シャトレーゼは幼少の頃に右足を・・わたくしもずっと回復魔法を試してはみたのですが、『光属性』の回復魔法をもってしても、シャトレーゼの足は治らないのです・・」
「ふ~ん・・外傷ってわけじゃあ無いのか・・足のケンでも切れてるとかかな・・友達に若年性の白血病とか、糖尿病とかいたな・・外傷以外の病気だと、傷口を塞ぐ事しかできない回復魔法だと聖女のルナ様にも治せないんですね」
「そうなのです・・」
「ルナ、あなたが時間さえあればわたくしに回復魔法をかけてくれて・・その気持ちだけで、わたくしは十分なのですよ」
「シャトレーゼ様・・」
「2人の時は、様は付けない約束」
「ああ・・そうなのです。ごめんなさいなのですシャトレーゼ」
「ルナ・・ありがとう」
「仲が良いんですね2人とも」
「スズキ様、ここにシャトレーゼがいる事は、王宮のみなさんには黙っていて欲しいのです」
「ルナ様・・どうしてですか?」
「本当は王宮の外に出てはいけないと、シャルル女王陛下より命令されているのです。歩けばもっと、今より足が・・悪くなるとおっしゃられて・・」
「またあのおばさんか。それ絶対ダメですよ。仮に100歩譲って悪くなるにしても、ずっとベットで横になってろって言うんですか?僕なら5分もたずに、すぐにこのお花畑に歩いて飛び出しちゃいますね」
「ぷっふふふ・・あ~おかしい殿方」
「あっ、君ノリが良いね。つまんないでしょずっと王宮に閉じこもってたら。ルナ様、今度この子に『オセロ』教えてあげましょうよ」
「『オセロ』ですか・・それは素晴らしいお考えなのですスズキ様」
「ルナ、その『オセロ』と言うのは、一体どういう意味なのですか?」
「うぐっ・・またアイリスが増えた・・」
「聖女アイリス様が何か?」
「ああ、えっと、こっちの話・・気にしないで君」
「・・わたくしに秘密は、1つも許さないのです」
「うぐっ・・またアイリスと同じ事を・・」
「わたくしが?聖女アイリス様と同じ事を?」
「そうそう。あれ何これ何って散々聞いてくるし。知ってても知らなくてもいい事を、1つも秘密は許しませんって全部話させようとしてくるところ、そっくりだよ君」
「ぷっ、ふふふ」
「シャトレーゼがこんなに笑うなんて・・スズキ様はやっぱり凄いのです、神様なのです」
「なに言ってんですかルナ様。僕はずっと昔から愛の神様ですよ」
「愛の神様とは、一体どういう意味なのですか?」
「うぐっ・・ああもう、いいじゃないですか意味なんて。面白いものは面白いんですって・・君の目・・どうして左と右で色が違うんだろう・・右が金色」
「スズキ様・・シャトレーゼの目は『魔眼』と言う特別な目なのです。正当なるオルレアンの・・特別な血筋にしか発現されない、特別な魔力を秘めた目なのです」
「ふ~ん、綺麗だね君、その目」
「わ、わたくしのこの呪われたこの目が・・綺麗ですって・・」
「シャトレーゼよ、そこで何をしておるのじゃ?」
「女王陛下!?」
「お母様・・」
「お母様だって!?シャルル女王陛下が?この子・・一体何者・・」
「聖女ルナよ。シャトレーゼが部屋におらなんだ、そなたの元に来ておると思ってのう。わらわの考え通りじゃった」
「女王陛下、ここにシャトレーゼ様が来られている事をご存じだったのですね・・申し訳ございませんでした。わたくしがシャトレーゼ様を無理にお誘い致しました」
「ルナ、ルナから誘われてなどおりません。シャトレーゼが勝手にルナについていったのです!」
「シャトレーゼ、お黙りなさい。わたくしの言った約束を破った罰を、あなたには受けてもらいます。これより10日は、あなたの部屋からの外出を禁止します。よろしいですねシャトレーゼ?」
「お母様、いえ女王陛下。かしこまりました、仰せのままに・・」
「ちょっと待って下さいよ、おばさん」
「お、おば!?」
「スズキ様!また女王陛下に向かってそのような口の聞き方を!すぐにシャルル女王陛下に謝るのです!」
「ルナ様こそちょっと黙ってて下さい。実の娘にこんなひどい仕打ちをする親が許されてたまるもんですが。たとえ聖女が許しても、このオルレアンの副ギルド長は黙っちゃいませんからね」
「お父様、『ユニ』怖いよ。お父様怒らないで・・」
「『ユニ』・・」
「マスター。マスターが興奮されると、『聖獣』も『キズナ』スキルで繋がっております。お気持ちをお沈め下さい。ヒューマンの子の病気など、マスターのお力ですぐに治してしまえば済む話なのです」
「治すじゃと!?」
「私の足が・・治る?本当に?」
「スズキ様にそのようなお力は無いはずなのです・・わたくしは6歳の時に『光属性』の回復魔法を覚えてから10年間、ずっと魔法を試し続けてきたのです。いくら『無のクリスタルの使徒』様でも、お生まれになってから足を患っておられるシャトレーゼ様の足を治す事など」
「妖精『カーバンクル』よ。妖精であるそなたが、わらわの前で嘘を申すと言うわけも無かろうが・・わらわの娘、シャトレーゼの足は生まれた時から棒のように動かなんだ。自分では満足に歩けない娘なのです。わたしにはこの子しか・・オルレアンの血筋を絶やすわけにはいかないのです。シャトレーゼはその宿命を負った子。歩けない事など、子を産むのになんら支障など無い。これ以上嘘を吹き込むようであれば、すぐに兵を・・」
「ぱぱ~」
「ルナお姉様、一郎、お母様の『ダイアティアラ』見つかったよ~」
「『ペガ』、それにジャンヌ様も」
「ジャンヌ」
「聖女ジャンヌよ、それは『ダイアティアラ』であるな?」
「はい、シャルル女王陛下。アイリスお母様にお願いされて、ルナお姉様と私で探しに戻っていたんです」
「ねえ、まま~このお姉さんだあれ?」
「お、お姉さんじゃと!」
「ルナお母様、このお姉さんだあれ?」
「おお・・聖女ルナ、聖女ジャンヌよ。そこにおる子供らは、そなたらの子じゃな?」
「(2聖女)はい女王陛下」
「『ユニ』、『ペガ』。そこのお姉さんに甘えてきなさい」
「はい、ぱぱ。お姉さん~」
「おお~よしよし~可愛いの~」
「(2人)えへへ~」
「シャルル女王陛下が、『ユニ』ちゃんをなでなでしてるのです・・」
「『ペガ』ちゃん、女王陛下に取られちゃったよ~」
それからしばらくお花畑で、シャルル=ドゴール女王陛下が散々『ユニ』と『ペガ』を抱きしめる。
特に『ユニ』は、女王陛下が角をなでなでするので、くすぐったいようで嫌がっているが、女王陛下はお構いなくなで続ける。
しばらく子供たちと触れ合って満足したのか、ふと我に返ってこちらに視線を合わせる。
「おっほん・・ギルドの副ギルド長であったな、そなた」
「はい」
「今日は聖女アイリスの門出の日、わらわも無駄な罰は与えとう無いのじゃ。この子らの父親であるそなたが、わらわへ謁見にこの王宮へ来た事に免じて、今日のシャトレーゼの罰は水に流す事にしようぞ」
「はは、ありがたき幸せ」
「お母様・・」
「シャトレーゼ、そなたは早う部屋に戻るのじゃ」
「はい、お母様」
シャトレーゼと呼ばれる女の子が、杖をつき、右足を引きずりながら、王宮の中へを消えていった。
シャルル女王陛下が話を続ける。
「聖女ルナ、聖女ジャンヌよ。そなたらの子、『聖獣』と申したな。どうやら、普通の子では無いようじゃな」
「(ニ聖女)はい、シャルル女王陛下」
「この子らに『光属性』を感じる。わらわの、そしてこのオルレアンの救世主となろう。そなたらの子らの成長を、わらわは望む。しっかりと大きく育てるのじゃ、良いな?」
「(二聖女)はい」
「では副ギルド長、『トロント』でまた会おうぞ」
「はい、女王陛下。聖女アイリス様を、妖精『カーバンクル』の『転移』魔法で、『トロント』までお連れします」
「聖女アイリスを頼むぞ。大儀である」
「はは」
シャルル女王陛下は、孫が2人出来た事に満足したのか、笑みを浮かべながら王宮の中へと消えて行った。
まもなく行われる『戴冠式』に向けて、王宮にある『転移結晶』を使って、『トロント』へ向かうに違いない。
こちらもそろそろ『戴冠式』の後に行われるアイリスの結婚式の準備が迫ってくる。
『カーバンクル』の『転移』魔法で、ふたたび王宮の中庭から、アイリスの待つ『ギルド本館第一タワー』まで戻る。
アイリスの病室に着くと、またしても自分は部屋から追い出され、三聖女はお着替えタイムになるらしく、野獣扱いの自分は蚊帳の外へ放り出される。
時間が過ぎる、自分の銀色のギルドカードが突然音を出して鳴り始める。
『ブラザー通信』、ライン=ハート兄さんからの連絡。
『戴冠式』の始まりの合図に違いない。




