122.思い出の赤レンガ倉庫
『ベネチア』、以前ルナ様と『月の雫』の親衛隊メンバー、エリス、ジョンと4人で駆け抜けた地。
『水のクリスタル』の危機を救うために、あの日、あの1日は目まぐるしく時間だけが過ぎ去っていた。今の自分は、余裕を持って辺りを見渡す落ち着きがあった。
マミがもうすぐ、自分の目の前から完全にいなくなってしまう瞬間から、目を背けたいと思うかのごとく。
「運河に・・あの赤レンガの倉庫・・まるで・・『小樽』・・」
マミとの新婚旅行。最初に就職した同じ会社の同僚だったマミ。
色々あって、結婚して、2人で初めての旅行が新婚旅行。
当時お互い20代前半だし、お金も無いし、甲斐性も無い旦那だったし。
新婚旅行は本当は海外に行きたかった、マミも行きたがってた。
本当は、ヨーロッパに・・比較的安いフランス、イタリア、スペインを最初計画して、旅費が高くて、あきらめて。
次にカナダに行先変えて、やっぱり高くて、あきらめて。
マミの出身は東京都葛飾区。職人かたぎのお父さんには、結婚のあいさつに行った時、結構言われて・・マミが新婚旅行は国内で良いって言ってくれて、結局北海道に決めた。
マミは・・僕と一緒なら、どこでも良いと、笑顔で言ってくれた。
(回想 新婚旅行 小樽運河周辺)
「へ~赤レンガ倉庫の中って、こんな洒落た感じになってたんだ~(ぐびぐび)ちょっと一郎、あんたももっと飲みなさいよ~(ぐびぐび)」
「ちょっと美馬さん、そんな飲まないで下さいよ。あなた酒癖、超が付くほど悪いんすから」
「(ぐびぐび)ぷはぁ~、本当これ美味しい。美馬言うな美馬、あんたいつまでそっちで呼ぶつもり?」
「まだ籍入れてないんですから僕ら。いきなり美馬さんが結婚したいなんて言い出すんですから、色々順番ぶっとんじゃったじゃないですか~。ほら、そんな飲まないで下さいよ!チーズあるでしょジェリーさん、ほらこっちで落ち着いて」
「(ぐびぐび)ぷはぁ~、一郎~。あんた、私をこんなに酔わせてどうするつもり~」
「臭っさ!酒臭いっすよ美馬さん!ホテル戻ったらちゃんと『大田胃散』飲んで下さいよ、ブレスしないで下さい、ブレス」
(『ベネチア』の運河沿いを1人で歩く漁民)
『ベネチア』の赤レンガ倉庫を眺めてしばらく歩きながら、新婚旅行での思い出に浸る。あの頃の美馬さんと僕、若かったな・・。
『ベネチア』の赤レンガ倉庫を外から覗いてみると、まるで新婚旅行の時と同じ小樽のように、中ではお酒を楽しめるお店が営業しており、カップルがお酒を楽しんでいる様子が目に入った。
赤レンガ倉庫は、『ベネチア』の運河に沿って延々に続いていた。
運河にはゴンドラが時折流れていき、運河沿いの道をしばらく進むと・・運河の川がたくさんのロウソクで埋め尽くされている幻想的な光景が目に飛び込んでくる。
夜の運河を、たくさんのロウソクの灯が照らし、運河の脇の道では、たくさんのカップルが運河へロウソク1本を付けた小さな、小さな舟を2人で一緒に流していた。
この光景・・マミと新婚旅行で行った小樽の運河で行われていた光景と重なる。
(回想)
「一郎~あれ綺麗~私もあれ欲しい~」
「運河全部買えませんって、金無いんですから僕」
「そっちじゃない~あのキラキラの~」
「ああ、あの川に流れてるロウソクの舟ですね。あ、案内が・・ふ~ん、願い事を書いて運河に流すと、願いが叶うらしいですよ美馬さん。無料です、プライスレスっす」
「私それする~」
「はいはい・・ほら美馬さん、ペン。まず願い事これに書いて、舟は僕が作りますから。ロウソクは・・ここのチャッカマンで付けてセルフでご自由にって書いてますよ」
「は~い。一郎もする~」
「はいはい・・はいっと、舟も出港準備完了っと。どうです美馬さん、宝くじ1億円とかにしました?」
「あんたは何にしたのよ~」
「見ないで下さいよ(しゅ!)ああ!?」
「ぷっ、あははは。公務員になれますようにって、ばっかじゃないの?あははは」
「笑わないで下さいよ美馬さん。この前お父さんに馬鹿にされたばかりなんですから、本気で安定した方に転職考えてるんです。今就職氷河期世代の特別採用で枠が増えてるんですから、結婚しても公務員試験の勉強の邪魔しないで下さいよ」
「あははは、分かった分かった、しっかり邪魔してあげるから~」
「勘弁して下さいよ奥さん・・で、美馬さん何お願いしたんです?やっぱり1億?」
「こっちは駄目~(ふらっ・・ポロッ)ああ~」
「ほらこの酔っぱらいさんが・・ん!?み、美馬さん、何です、この赤ちゃん欲しいって!?」
「見ないでよ~(さっ)それ行け~」
「ああーー!小樽の運河に不純な願い垂れ流さないで下さいよ!」
「も~うるさい~(ふらっ)」
「ちょっと美馬さん、酔ってるでしょ?た、立てそう?」
「一郎~おんぶ~」
「はいはい・・よっこらしょっと・・重いっすよ美馬さん」
「美馬言うな~。あんた、私の事なんだと思ってるのよ~」
「(かつ かつ)7人目のセーラー戦士だって、この前自分で言ってたじゃないですか」
「そうよ~それから~」
「(かつ かつ)はいはい、魔法少女さん」
「そうよ~」
「(かつ かつ)あっ、でも魔法少女って、15、6までの第2次成長期までの少女限定でしたね(ぐぐっ)うぐっ!く、苦しいっすよ美馬さん!」
「あんたがうっさいからよ~」
「ぐふっ・・分かりましたよ聖女様」
「そうよ~聖女よ私~」
「はいはい、酔っぱらいの聖女さん」
「ううっ・・」
「ちょ、ちょっとマミ!?聖女様!ブレス待って、ブレスストップ!!」
(『ベネチア』の運河沿いを歩く漁民)
「はぁ~」
幸せ過ぎたあの頃。もう美馬さんは、戻ってこないな・・あきらめよう。
そこから15年、幸せな毎日だったけど、それと同時に・・彼女を失望させ続けた15年でもあった。本当、だめ亭主だったな・・。
「はぁ~(とぼ とぼ・・)(しゅん!)ぬわ!?ミューラ!?」
「こら!やらしいオーラがすると思ったら、こんなところにいた!」
「やらしいって・・僕は何も・・」
「すっごくしてたの!おかげで見つかって・・良かったわ・・」
「ごめんミューラ・・探してたの?」
「みんな探してたの!なんですぐオルレアン戻ってこないのよ~」
「ああ、その・・」
「・・ジャンヌ様の結婚式の話、聞いたから?」
「・・たぶん・・そうだと思います」
「・・割り切れないのね?」
「・・はい。でも・・『ベネチア』に来て、逆に、割り切れたような気もします」
「どうするの?止めに行く?」
「そんな事しませんよ。ちょっと待ったなんて、絶対・・しません」
「どうして?前世とはいえ、お嫁さんだった人でしょ?気にならないわけないじゃない」
「それはそうなんです。だから、彼女が決めた男なら、彼女がそう決めたなら・・僕は、それを喜んであげないといけないんです」
「どうして?」
「僕には・・幸せに、出来なかったから。15年間、迷惑かけっぱなしで、1つも幸せにできやしませんでしたから」
「そうは思ってないかもよ?」
「そんな人が、離婚届なんて書いて出しませんって。ましてや、聞いてもないですけど、ライン=ハートのプロポーズ、オッケーしたのは彼女ですよね?それを僕は、そう選んだ彼女を、否定なんてできやしませんよ・・情けない男なんです僕は」
「・・分かったわ。あなたがどんな選択をしても・・私たちは、最後まであなたの味方だから」
「今の僕には身に染みるお言葉です。こんなところまで来させて、ごめんねミューラ」
「本当よ!アイリス様が探しに行くって聞かなかったんだから、本当困っちゃったんだからね!」
「適当に『トロント』でお茶を濁してるとか言っといて下さいよ」
「オルレアン連合ギルドから『指定緊急招集』も出てるんですけど」
「えっ、なんすかそれ?国外にいたからギルドカード反応しなかったとかです!?」
「ギルド長がカンカンです」
「え~」
「戻る気になった?」
「至急戻るので、ちゃんと弁護お願いします」
「それは今後の君次第です。それで、明日の結婚式はどうするの?」
「出ませんよ、もちろん。借金まみれなんですから、ご祝儀出す余裕も無いですからね」
「なんでよ~」
「この前まで嫁さんだった女の結婚式なんか、どのツラ下げて元旦那が出席するんですか?他の男に取られるところを、実況生中継で見たりしませんからね僕」
「はぁ~アイリス様に何て言えばいいかしらね」
「お腹が痛くなって寝てるって言っといて下さいよ。僕にありそうなシチュエーションでしょ?」
「なによそのシチュエーションって、意味分かんないんですけど」
「はいはい、僕の存在自体がどうせ意味不明ですよ。もう戻りましょうよオルレアンに」
「スズキ君が戻ってれば、こんなところ来ませんでした」
「だから謝ってるじゃないですか」
「もう、まったく・・強制はしないけど、思い直したらちゃんと結婚式出て下さい」
「はい・・」
「ジャンヌ様も一体、何を考えられてるんでしょうねまったく・・」
先生に連れられて、補導された漁民の少年がオルレアンへ帰還していく。
日付はとうに越え、深夜のとばりが過ぎさろうとしていた。オルレアンに着くころには、もうじき空に、朝日が昇ろうとしていた。




