121.金色(こんじき)のバレンシア
『トロント』防衛戦、『ツインブリッジ』の2本橋の戦いが集結した。
左手『ノースブリッジ』防衛隊は奇襲の前進を続け、敵軍『ヘルヘイム』帝国の陸地まで進軍、聖女ジャンヌの神化による『光の螺旋』によって、敵地進軍の足掛かりとなる『ツインブリッジ』敵軍先端の防衛拠点制圧という快挙を成し遂げた。
逆に『トロント』側深く入り込んだ『サウスブリッジ』の戦い。敵軍に橋全体の8割まで侵攻を許したもの、最後の登場したツインヘッドドラゴンと闇の黒装束を、アルテミスへ神化した聖女ルナの活躍により『サウスブリッジ』の敵ゴブリン魔導兵を含めて一掃。
両の橋に敵ゴブリン魔導兵の鎧の残骸と、10万におよぶ無数の魔石が転がり落ちる中、4大陸冒険者、兵士、魔法使いの被害軽微に終わる大戦果の報はすぐさま4大陸の国中に伝わるところとなっていた。
戦いを終えた戦士たちが『トロント』市街地へと戻ってくると、避難していた街の住人がすでに戻り、沿道では傷ついた戦士たちを一目見ようと、たくさんの人々やエルフ、ドワーフが沿道に人の花道を作って戦士たちを迎い入れていた。
「勇者たちが帰ってきたぞー!」
「オルレアンの三聖女様、万歳ーー!!」
「祖国の英雄、ハート兄弟もお帰りになられたぞー!」
『ヘルヘイム』帝国の『ゴブリンの乗るワイバーン』部隊の空襲により、『トロント』の街は至るところで焼けるような臭いと煙が立ち上っていたが、街の、人々の顔は、笑顔と歓喜で溢れていた。
ある者は祖国の英雄を称え、ある者は三聖女の活躍を口々に称えていた。たくさんの兵士に交じり、歩いて『サウスブリッジ』から一緒に帰還していたセバスさんから声がかかる。
「え~スズキ君」
「あ、はい、なにか?」
「え~まったく、君という男は・・落ち着いたら、私のところに来るように」
「はい。お土産持ってうががいます。できれば、アカレンジャーとアオレンジャーのいない時にお願いします」
「え~・・ミューラとサラの事でよろしいですかな?」
「はい、ついでに野獣と聖女も抜きで、苦手なんです、全部」
「え~君は銀等級なのですぞ?オルレアンでも数えるほどしかいないヒューマンの銀等級・・もう少し、堂々としていてもらいたいものですが・・」
「はは、すいませんセバスさん。ああ、そうそう、これ。」
「え~これは・・聖女ルナ様と聖女ジャンヌ様のスキルカード・・ご自分では届け無くて良いのですか?」
「その・・なんだか・・今は会いづらくって・・」
「え~分かりました、引き受けましょう。話の続きはまたゆっくりオルレアンに戻ってからで」
「はい、続きはウェブで、お疲れ様でした」
軍師セバスさんと別れを告げる、いいかげんな銀等級冒険者の漁民。
あちこち空襲で破壊されているが、初めて来る『トロント』の街、観光気分で少し回って見てみたくなった。
オルレアンでは見る事のない、近代的な建物、珍しい看板のお店、キラキラしたネオンの結晶石が光る怪しいお店もある・・気になる。たくさんのお店を覗いていると、沿道の住人たちの話が聞こえてきた。
「おい、聞いたか?アーサー王が、正式に『3国同盟』への加入を打診されたそうだぞ。今晩にも『四国同盟』が成立するらしい!」
「おおー!」
そうかそうか、それは良かった。
「さらにおめでたいニュースだ!昨日の『コロッセオ』のプロポーズに続いて、ハート家のライン=ハート様が許嫁の聖女ジャンヌへ正式に結婚を申し込まれ、ジャンヌ様も承諾されたらしいぞ。アーサー王のお墨付きらしい」
そうかそうか・・ん!?美馬さん・・。
「明日にもオルレアンの西洋教会『ハギア・ソフィア大聖堂』で、結婚式が開かれるらしいぞ!」
「それはおめでたい事だ」
「はぁ~」
ため息が止まらないが、40歳手前になると、不思議とあきらめがつく。どうやら美馬さん、若い男と再婚・・じゃない、こっちでは初婚でいいのかな?もう16歳になるんだよな・・こっちの戸籍は綺麗だろうし、『光属性』だし、もう前世じゃないから僕の嫁さんじゃないし・・。
別れた嫁さんが若返って明日には別の男と結婚なんて・・しばらく結婚はこりごりだ。
『トロント』見て回ろうと思ってたけど、すっかり見る気が失せてしまった。
オルレアンに帰るのも億劫になってくる。
『ヘルヘイム』帝国をはねのけた戦争の勝利と、国の英雄と聖女との結婚で歓喜に沸く街を後にし、丘の上に設置されている『転移結晶』の場所まで戻るや、足早に帰路に付く漁民。
赤いオーラの『マドリード』行きのゲートを防衛する『トロント』の兵士に声をかけられる。
「お戻りですか、オルレアンの銀等級様」
「はい、帰って寝ます」
「お疲れ様です!(びしっ!)」
オルレアンへの帰還のためには、『トロント』から『マドリード』、『マドリード』から『ベネチア』を経由する必要がある。
実際は『転移結晶』がすぐ近くに連なっているので、実質の移動距離はここから数十メートルも歩かない距離。まず『マドリード』へ向かう。
「(かつ かつ)着いたかな」
「お疲れ様です!(びしっ!)」
「ど、どうも(びしっ!)」
『マドリード』の兵隊が敬礼で出迎えてくれる。すると・・なんだか良い匂いが漂ってくる。
「美味しそうな匂いですね・・」
「はは、大変失礼致しました。合間をぬって食事をしておりまして、『パエリア』を少々」
「『パエリア』って、この前ボイラー室の作業員が話していたお米・・もしかして、『ジャポニカ米』がここに?」
「はい、現在も戦時体制が引かれておりますので、『バレンシア』地方より『ジャポニカ米』の支給がありまして」
「『バレンシア』地方って、ここから遠いです?」
「『マドリード』式自走ゼンマイ機械に乗れば、ここから30分ほどで到着できます。ちょうど『バレンシア』地方行きの便が間もなく発車するところです」
「僕も乗って良いですか?」
「もちろんでございますが、オルレアンへのご帰還は宜しいのですか?」
「ちょっと寄り道して帰ります。なんだか・・旅に出たい気分なんです」
「はい、ここを出て左の発着場よりお乗り下さい。『3国同盟』の冒険者の皆さま、オルレアンの冒険者の方は無料で乗車出来ます」
「ありがとうございます」
『マドリード』式自走ゼンマイ機械、『バレンシア』行きが発車する。荷台には、何名かのヒューマンと漁民が同乗する。どこにあるかも分からない、一生かけても見つからない自分探しの旅に向かう。
「そうだ、京都へ行こう・・」
京都など無い異世界。
『マドリード』の知らない土地を歩み進んでいく漁民。
時間だけが穏やかに過ぎていく。
(ガタガタ ガタガタ)
どれくらい荷台に乗って揺られただろう。『バレンシア』の町・・というより、村が見えてくる。
「田んぼだ!」
『バレンシア』の村は、段々になった田んぼが広がっていた。そして、収穫期を迎えたであろう、黄金色の田んぼが、見渡す限りの大地を埋めて幻想的な光景を醸し出していた。
『火のクリスタル』の加護のおかげだろう、辺り一帯の気候は暖かく、作物を育てるのに良い気候なのは間違い無い。村の中心部までくると、マドリード式自走トラックが止まる。
運転手が荷台のヒューマンに声をかける。
「ここで折り返しとなります。『マドリード行き』は、これから1時間後の出発となります」
このトラックに引かれたのではたまらない、ゆっくり慎重に荷台を降りる。1時間、あるようで無い時間。ちょうど気分転換したい気分、荷台に揺られてお尻も痛い、色々散策してこよう。
同刻 オルレアン連合ギルド会館 ギルド長室
「こ、小僧が戻ってこんだと!(バンッ!)」
「え~いやはや、私のところに顔を出すよう指示しておいたのですが~伝わっていたのか伝わっていなかったのか~」
「セバス、すぐに『指定緊急招集』をかけんか!あの小僧に、『毘沙門天』だの『越後二天』だの、ツインヘッドドラゴンをも一瞬で撃破したスキル、さっさとここで説明させんか!(バンッ!バキッ!!)」
「え~机の修理代金、サンダース様の今月のお給料より~」
「セバス・・それはあまりに殺生な」
日中の激戦が嘘のように時が流れる。散策を終えた『バレンシア』の漁民が、マドリード式トラックにふたたび乗り込む。
「いや~収穫収穫。さぁて、戻りますかな」
1時間が経過し、ふたたびトラックの荷台へ乗り込み、ガタガタと揺られる漁民。次第に太陽は、『マドリード』の街を夕日に染めていく。
ふたたび『マドリード』の街まで戻ってくる。『マドリード』の街はゼンマイ仕掛けの機械の街。あちこちで白い煙が上がり、火力動力炉『テムジン』から、『火のクリスタル』の熱エネルギーが街全体に絶えず供給されていた。
『転移結晶』に到着、なぜか兵士の姿が無い。
「ずいぶんいい加減な警備だな」
勝手に『転移結晶』の青いゲートに入り、水の国『ベネチア』へ違法入国。すると、『ベネチア』の兵士の姿が飛び込んでくる。
「銀等級冒険者様に敬礼!(びしっ!)」
「どうも(びしっ!)あのすいません」
「いかがされましたか、オルレアンの戦士様?」
「ちょっと聞きたい事がありまして」
「はい、何なりと!(びしっ!)」
時はさらに流れ、太陽は地平線の彼方に沈む。
日中、太陽の下で行われた『トロント』防衛戦、『ツインブリッジ』の戦いが終了し、すでに夜を迎えていた。
オルレアン王宮にて戦勝を祝う晩餐会が盛大に開かれていた。
4大陸の王族、貴族、冒険者がオルレアンの王宮へ集っていた。ある者は『四国同盟』締結を祝い、ある者は明日にも開かれる『トロント』の英雄と聖女の結婚を口々に祝っていた。
晩餐会の会場で、キョロキョロと人を探す、シルクのドレスを身に纏う聖女の姿があった。
同じくドレスに身を包んだエルフが声をかける。
「やっほ~聖女様・・どうされました?」
「ああ、ミューラ様・・いないのです、どこにも・・」
「えっ、もしかしてスズキ君?アイリス様、ご一緒されてたんじゃないんですか?」
「娘2人も最後に見たのが『サウスブリッジ』と言いますし。セバス様にお尋ねすると、『トロント』の市街地までは戻っていたと言いますし・・いくら待ってもお顔が見当たらないのです・・」
「そうですか・・ギルドカードはさすがに捨ててないでしょうからすぐに探して・・あ、あれ?」
「いかがですかミューラ様?」
「おかしい・・オルレアンに・・戻ってない」
「ええ!?」
「『感知』スキルも・・やらしいオーラがまったくしません。他の変な事考えてる時も、微量のやらしいオーラは常に出てるのになんで・・」
「・・探しに行ってまいります」
「待って下さいアイリス様。これから『四国同盟』の調印式の立会があるではありませんか。ジャンヌ様の明日の結婚式の準備もあるんですよ?」
「それでも行ってまいります、お止めにならないで下さいミューラ様。さもすれば、すでに息絶えておられる心配も・・ああ、イチロウ様・・」
「ちょっと待って聖女様。この前もそう言って、『ベネチア』に飛び出して行ったきり、15年も帰って来なかったのはどこの聖女様ですか?私が探してきますから、アイリス様はお役目をちゃんと果たして下さい。あなた様が行ってはなりません!」
「・・ミューラ様にお任せ致します」
「そうして下さい。もう、スズキ君ったら、どこほっつき歩いてるのよ、まったく!」
華やかな晩餐会の会場を、綺麗なドレスを身に纏ったエルフが飛び出していった。




