117.翼(つばさ)の勇者たち
『トロント』側の大陸、『ドーバー海峡』を横断する2つの渡橋『ツインブリッジ』。
その手前で、4万の兵士がそれぞれのチームに分かれ配置についていく。4大陸の冒険者、魔法使い、兵士、騎士が混ざり合い、その属性やスキルに合わせたであろうチームに編成されて行く。
ある集団は槍を持った突撃兵、ある集団は魔法使いの集団、ある集団は騎士の鎧を身に纏った集団、そしてその混成部隊も。
事前に指示が出ているのであろう、軍師、セバスの息がかかった4万の兵が、次第に向かって右側の橋、向かって左側の橋に、徐々に分かれていくのが見えてくる。
セバスさんと作戦要綱を確認していると、ミューラが話に加わってくる。
「『ゴブリンの乗るワイバーン』部隊は、私と『火炎竜』に任せて頂戴」
「ミューラ!『火炎竜』、もう平気なの?この前すごいケガしちゃってたし、心配してたんだよ」
「ええ、もう大丈夫。サム国王が、特別に『火のクリスタル』の加護を許して下さって。あの子、ずっと『テムジン』の治療室でしっかり傷口直して下さったのよ」
「へ~サム国王が・・優しい国王様ですね・・」
「そうよ・・先代と違って、今の『サム7世』様はとても立派な方よ。とても尊敬に値するわ」
「ミューラがそこまで・・じゃあ」
「どうしたのスズキ君?」
「ああ、いや、なんでも・・でもミューラだけで、その空飛ぶ何とかって全部相手にするのは・・」
「我の存在も忘れんでもらえんかな貴公」
「ああ、ジャック様・・」
「あっ、ルナ様の旦那さん(ばしっばしっ!)痛い、痛いですって神官様。その杖本当に肉に食い込んで、超痛いんですってば」
「スズキ様はお黙りなさい!」
「ははは、我が許嫁、聖女ルナ様。矛をお収め下さい」
「はっ!・・恥ずかしいの・・です・・(かっ)」
「さすがルナ様の許嫁の一言。ルナ様もいつもこれくらい、おしとやかなら、お母様をもしのぐ人気が(ばしっばしっ!)痛い、痛いですって神官様!や、薬草・・(もぐもぐ)」
「スズキ様は早くお黙りなさい!」
「こらルナ、め!」
「お母様・・恥ずかしいのです・・(かっ)」
「え~ジャック=ハート伯爵。今日は頼りにしておりますぞ」
「はは、お任せを。ハートよ!」
「はい、兄上!」
「ハート様・・」
「ジャンヌ様。この戦、終わり次第・・」
「はい・・(ぽっ)」
「え~では話の続きを・・敵が空から攻めて来るは必然。先日命をかけて偵察に向かった『トロント』のレンジャー部隊の報告によると、敵は『ゴブリンの乗るワイバーン』部隊にて一斉に『ツインブリッジ』を空襲してくる算段ですぞ」
「そこをミューラ殿の『火炎竜』と、我が守護竜『雷鳴竜』の2大竜によって、『ノースブリッジ』と『サウスブリッジ』の防衛および『トロント』上空の防衛につきましょうぞ」
「ジャック兄さん。たった2体の竜だけで、ワイバーンの大群を・・」
「ハートよ。今回お前はジャンヌ様率いる『ノースブリッジ』防衛軍の先陣を任される。私は空を攻める、ハート、お前は陸を攻めるのだ。よいな?期待しておるぞ」
「はい、兄上!」
「ハート様・・」
「ジャンヌ様。我が心はジャンヌ様、あなたの御心のお隣にずっと・・」
「ハート・・(ぽっ)」
「あの・・僕、帰った方が良いですよね?」
「あんた、作戦ちゃんと聞いときなさいよ!なんのために私とルナお姉様のスキルカード預けてると思ってんのよ」
「ああ、忘れるところでした。ちゃんと仕事して帰りますって」
「スズキ様は、いつもいつも緊張感が足りないのです!」
「ごめんなさいってルナ様もジャンヌ様も。2人も許嫁の前なんですから、少しはおとなしくしたらどうなんですか?」
「え・・」
「あ・・」
「ぷっ、ふふふ」
「お母様!」
「笑わないでほしいのです!」
「ふふふ」
「ははは」
「ジャック様もハート様も笑わないで!(2人)」
「あはははは(全員)」
「え~よろしいですかなスズキ君」
「ああ、はい。ミューラとジャック=ハート様の腕は確かです。多少ワイバーン出てきたところで、あの2体の竜がいれば空は問題なさそうですね。
まあ、ジャンヌ様とライン=ハート様、一緒なら無敵じゃないですか?」
「なによあんた、何が言いたいわけ?」
「またまた~少しもそばを離れたくないくせに~」
「おお、そなたもそう申してくれるか。貴公、なかなか見どころがあるではないか?」
「はは、どうも」
「なに仲良くなってんのよあんたたち!」
「ちょっとジャンヌ、お口」
「ルナお姉様・・は~い」
「え~スズキ君。向かって左手の『ノースブリッジ』には、先発部隊としてサンダース様、アイリス様、ジャンヌ様、ライン=ハート伯爵を先頭に、オルレアン、『トロント』の精鋭部隊を送り込みます。」
「最強じゃないですかそっち。僕が敵なら真っ先に逃げ出しますよ」
「なにか言ったか小僧」
「げっ!セガール・・じゃない、あはは、サンダース様、ごきげんよう」
「小僧・・(ぷるぷる)」
「はい?」
「貴様!私のルナにもしもの事あれば、貴様の命、一瞬で消し去ってくれようぞ、よいなーー!!」
「はひーー!」
「ちょっとお父様。スズキ様は必ずピンチになったら助けていただけます。そんなにおどさないで下さいまし」
「おお、私の可愛いルナ・・セバス!『サウスブリッジ』の手ごま、少々手薄では無いのか!」
「え~それにはちゃんと。わたくしとスズキ君はここで待機しますゆえ~」
「ふむ・・わしの背中はお前に任せる」
「え~お任せ下さい」
「凄い信頼関係・・右の『サウスブリッジ』には、ルナ様1人いれば、僕が合流すれば一発で戦争終わりですよ」
「まあ」
「スズキ様・・」
「でもジャック=ハート様、何かあればルナ様助けに来て下さいよ。この子ビビりで、1人だとすぐに泣いちゃうんですよ」
「スズキ様のエッチ!」
「ひっ!ほら、ついでに頑固ですぐ怒る」
「ううーー」
「ちょっとお姉ちゃん~」
「はいはい、喧嘩はそこまでにして下さい。ちょっとスズキ君も黙りなさい」
「分かったよミューラ」
「ははは、貴公は我が許嫁の事をよく存じているようだな」
「そうですよジャック伯爵。この、子並みの男には手に負えませんから、しっかり面倒見て上げて下さい。ずっとそばにいた親衛隊『月の雫』のメンバーとして忠告しておきますからね」
「スズキ様のエッチーー!!」
「ひっーー!」
「はいはい、そこまで。もう、スズキ君も黙りなさい、め!」
「分かったよミューラ」
「そろそろ作戦開始時刻ですね兄さん」
「え~ミューラ、ジャック伯爵。始めましょう」
「ええ、兵士たちも配置に着きました・・準備が整ったのは、あちらさんも同じようね」
「『ヘルヘイム』の大陸側の空が・・黒い何かが・・飛んでくる!」
『ドーバー海峡』を挟む『ヘルヘイム』大陸の空から、無数の黒い点がこちらに向かって近づいてくる様子が見えてきた。
(「敵襲ーー!!」)
(『ゴブリンの乗るワイバーン』部隊、まもなくーー!!)
「ミューラ殿」
「ジャック様、作戦通りに」
ミューラとジャック=ハートが、お互い首から下げる化石のような笛を取り出すと口へと両手に持つ。
(ピッピピ~ピロピピロ~ピロ~ピピロ~)
(パーパパパーパパパー パッパッパーパパーパパパー パッパッパーパパーパパパー パッパッパーパパーパパパー)
(バッサ バッサ バッサ)
「(『火炎竜』)ギギャヤヤーー!!」
「(『雷鳴竜』)ギギャャーー!!」
2体の竜が丘の上に同時に舞い降りると、4万の兵士たちから歓声があがる。
(「ミューラ様とジャック様の竜が助けに来てくれたぞーー!!」)
(バッサ バッサ バッサ)
「(グルルッ)よーしよし、エサじゃない、エサじゃないよ」
「(グルルッ)魚では無いぞこの者は、何を勘違いしておるのだ、大人しくせい」
「えっ、そこ子たち、なんかこっち凄い見てますけど何て言ってます?」
「気にしないでスズキ君。私たちの竜が、決戦の合図になってるの、もう行くわね」
「貴公」
「ジャック=ハート・・」
「ルナ様を・・頼みましたぞ」
「はい、喜んで!」
「スズキ様は何を言っているのですか!」
「ははは、ハートよ、そちらは任せたぞ!せいや!(バッサ バッサリ)」
「セバス兄さん、スズキ君お願いね~(バッサ バッサ)」
「え~サンダース様。合図を」
「御意。ものどもーー!!」
(「おおーー!!(兵士たち)」)
「わしについてくるのだーー!!『ノースブリッジ』防衛隊、前へーー!!」
(「おおーー!!(兵士たち)」)
「セバスさん。ちょっと左の『ノースブリッジ』隊に戦力振り過ぎなんじゃないですか?」
「え~それは『円卓騎士』会談の決定事項でありますゆえ~」
「そうなんですね」
「それではイチロウ様、行って参ります」
「ああ、アイリス。サンダース様がいれば安心。気をつけて」
「そ、その・・(もじもじ)」
「えっ、どうしたアイリス?」
「帰ってきましたら・・その・・わたくしも・・ご褒美・・欲しい」
「ああ。双子が誕生日プレゼントもらってスネてたのか・・しょうがないな~特別にアイリスにも分けてあげるって。とっておきのプレゼント、三人まとめて面倒見てあげるって」
「まあ!」
「ちょっとあんた!いいかげんな事ばっかり言ってんじゃないわよ!」
「ほら奥さん、早く行かないと。『ノースブリッジ』防衛隊、橋、前進しちゃってますよ。良いんですか聖女様?」
「都合の良い時だけ、聖女扱いしてんじゃないわよあんたは!」
「行きますよジャンヌ。ルナ、無理はしないのですよ、良いですね?」
「はいお母様。こちらにはスズキ様がおられますので」
「あんた!ルナお姉様をちゃんと助けなさいよ、いいわね!」
「小僧!!ルナに、もしもの事あらばーー!!」
「ひゃ、ひゃい!!2人揃って・・分かっておりますギルド長にジャンヌ様!!」
サンダース様、そしてアイリス、ジャンヌが左手の『ノースブリッジ』に向かって丘を降りていく。
丘の上には、ルナ様とエルフたちが残る。
「え~それでは『サウスブリッジ』防衛隊は、これより5分後に出陣を(かち かち かち)」
「セバスさん。そんな分単位に進軍計算してたんですか!?」
「(かち かち かち)え~今のところ予想通り・・ミューラ・・頼りにしておりますぞ・・空の勇者たちよ・・」
「ミューラ・・それに・・ジャック=ハート・・」
『ヘルヘイム』側から飛んで来ていた黒い点が、次第に大きな鳥のように羽ばたいているのが見えてくる。
こちら側から飛び立った2体の竜が迎え撃つ。
今まさに、『トロント』防衛戦、『ツインブリッジ』の戦いの第1幕となる、空中戦がスタートしようとしていた。




