116.ドーバー海峡(かいきょう)を西へ
『水属性』のサラ先生を先頭に、その兄のセバスさん、窓口受付嬢エルフ3人、最後に借金が金貨400枚の漁民が水の国『ベネチア』への『転移結晶』をくぐる。
決戦の地、雷の国『トロント』へ行くには、ここからさらに火の国『マドリード』を経由する必要があるものの、『ベネチア』に到着するや、すぐに別の『転移結晶』の赤い光のオーラが光るゲートが開かれ、兵士たちを次々と決戦の地へ送り届けていた。
『ベネチア』に入国するや、白いひげを生やし青い鎧を装備した老兵が待っていた。
「キグナス将軍、昨日はどうも」
「おお、これはオルレアンの銀等級、イチロウ殿では無いか。セバスと一緒か、やはりな」
「えっ?どうしてですか?」
「え~彼は今日一日私と共に行動致しますゆえ」
「分かっておるわいセバスよ。『円卓騎士』会談の席でも、詳細を伏せておったわ、このためであったか」
「『円卓騎士』って、この前国のトップと三聖女やキグナス将軍が参加してた会議ですか?」
「そうだぞ銀等級殿。ただ不思議であったが、この者の行動を伏せたセバスの言動が、わしには妙であったが・・まさか・・セバス」
「え~それはいずれ判明するかと。今はどう突いても、みじんもホコリも出てこないものでして~」
「ほう・・もうすでにそこまで察しておるか・・サンダース兄者を連れていかなんだわ、そのためであったか」
「え~まったく。察しは良い方ですので、口より先に手が出る方ですので・・」
「なるほど・・して、誰と見る・・黒幕は・・」
「あっ、あの・・凄く怖い話されてるんで、僕、帰っても良いですか?」
「え~スズキ君。君には分かるように言っておきたい事がありましてな。キグナス将軍と、私の3名だけの秘密にしていただきたい」
「ほう、セバスがそこまで申すとは、よほどこの小僧を信用しておるようじゃのう~」
「そんなに信用してもらえるのは嬉しいんですけど、それ聞いて、後からグサッと刺されたり、崖から突き落とされたりする系は勘弁して下さいよ」
「ほお」
「え~察しがよろしいようで」
「え~やっぱり・・もうここまで聞いちゃいましたから、どうせその『円卓騎士』会談に闇の黒装束でも混じってるって言いたいんですよね」
「ほお」
「え~素晴らしい回答ですな~」
「え~やめて下さいよセバスさん。あっ!あの三聖女が一番怪しいですよ!毎度毎度僕を光の魔法で消し去ろうとしますし、やたら毎日絡んで情報を聞き出そうとしますし、今朝もジャンヌが朝起きたら目の前にいていきなりビンタして襲撃してきたんですって!」
「ほお~それは仲が良い事」
「え~まったくですな」
「ちょっとちょっと。犯人探しには協力しますから、消去法で消していけばすぐに犯人見つかりますってキグナス将軍。まずアクア王女は絶対大丈夫です、天使ですよあの子」
「無論だ」
「シャルル=ドゴール女王陛下。一番怪しいのはあの人ですね」
「え~それはありません」
「無論だ」
「あっ、そうなんですね・・じゃあ三聖女は?」
「え~『光属性』を持っている時点で、闇に染まる事はありませんな」
「真っ黒ですよあの3人。あのルナ様ですら昨日杖で叩かれて痛い痛いですよ僕」
「してセバス、後は『マドリード』のサム国王と、『トロント』のアーサー王であるか・・」
「え~どちらも考えたくは無いものですが」
「あっ、サム国王怪しいですよ。なんせ先代がミューラを貢ぎ物で献上してますし、闇そのものですって絶対」
「『マドリード』め。我がアクア王女率いる『ベネチア』を我が物にせんと企むか・・たしかに考えられる」
「え~早計過ぎまするゆえ~」
「では、『トロント』のアーサー王か?」
「え~それは最悪のシナリオですな」
「それも怪しいですよセバスさん。あのイナズマブラザーズを送り込んで双子聖女を我が物に、ついにはオルレアン王国その物を手に入れる電光石火の算段ですよ。僕にとっては好都合ですよ」
「え~まったく君という男は・・まずは、今日の一戦であの兄弟の素性は分かるかと」
「銀等級殿、よく聞くが良い」
「は、はい」
「国というのは生き物だ。トップが歪めば、すべてが歪んでゆく」
「生き物・・さっき、オルレアンではシャルル=ドゴール女王陛下が、兵士全員にみんな私の子供たちって叫んで、みんな喜んで出発していきました」
「そう、その通り。もし国に立つ者の考え歪めば・・」
「国そのものが歪んでいく?・・だからキグナス将軍は・・アクア様を・・」
「そうだぞ銀等級殿。どうか、アクア様を引き続きお願いしたい。そしてオルレアンの三聖女。『光属性』は4大陸の最後の希望だ。三聖女の考え歪めば、それこそ、4大陸が闇に染まる時。セバスはそれが言いたいのだぞ?」
「そんな大それた事、今まで言われてたんですか?僕にあの三人、今だって制御不能の大暴走ですって」
「え~君は今まで通り、聖女様に接していただければ結構ですぞ」
「それって、毎日毎日土下座しろって事じゃないですか。あっ、でももうすぐ双子の方は結婚ですし、お母さんの方も子持ちですから、ようやくオルレアンに春が到来しそうですよね?」
「ははは、セバスよ。今度この小僧を交えて、ゆっくり話を聞きたいものじゃぞ」
「え~では長居はできませんので、この辺りで」
「銀等級殿、頼りにしておりますぞ。セバスよ、水の戦士が助太刀致す。大船に乗ったつもりで事を運ぶのだぞ、よいな」
「え~頼りにしておりますぞキグナス将軍」
『トロント』防衛戦を前にして、とんでもない話がセバスさんとキグナス将軍から飛び出してきたが、今は戦いに集中しないと。
体力1が吹き飛ばないように、足元の石ころでこけないように細心の注意を払いつつ、次の『マドリード』の赤いゲートをくぐっていく。
『マドリード』に入国。なんだか美味しそうな匂いが漂ってくる。どうやら、兵士たちが時間の合間をぬって食事をしている様子が目に飛び込んでくる。
その匂いが漂う『マドリード』を経由して、いよいよ決戦の地、『転移結晶』が黄金色に輝く雷の国『トロント』へ入国する。
「ま、眩しい・・」
太陽の光が目に飛び込んでくるや、目が慣れてくると、目の前には大きな建物がたくさん立ち並ぶ大都会の景色が広がっていた。
『トロント』の『転移結晶』のゲートは、どうやら向かって東側に『トロント』の中心部を見渡せ、西側に話があった『ツインブリッジ』と呼ばれる、大陸間をつなぐ大きな2本の石の橋が海の上を走るように向こう岸の大陸と繋がっていた。
セバスさんが声をかけてくる。
「え~スズキ君。向かって右が『トロント』の中心部」
「凄い街並みですねセバスさん。オルレアンより発展した大都会ですよ」
「え~『光属性』という三聖女存在無ければ、間違いなく『トロント』が4大陸最大の軍事国家」
「ああ、なるほど。たしかにあの3人、1人だけでもゴブリン一騎当千の化け物ですからね」
「誰が化け物ですってあんた!」
「スズキ様、今の言葉はわたくしも聞き捨てなりません!」
「げっ!なんで2人がこんなところに・・」
「(ぱきっぱきき)さあ、言いわけを聞こうじゃないのあんた」
「あっ、そういえば」
「しらばっくれるじゃないわよあんた!」
「ルナ様も、誕生日おめでとうございます。16歳ですよね今日?」
「えっ・・あ・・ありがとう・・なのです・・」
「なに赤くなってるのよお姉様!」
「あっ、すいません。僕、今手持ちの布袋は薬草満載なんで。2人には何かお祝い今度渡しますね」
「まあ・・嬉しい・・」
「ふ~ん。あんた、昔っからそういうとこだけ、ちゃんとしてるじゃないの」
「またまた~。お2人があんまり可愛い顔して立ってたんで、すぐに聖女様だって気づかなかっただけですって」
「さっきまで私らを化け物呼ばわりしてたくせに」
「そんな事ありませんって。ルナ様、さっきジャンヌ様からスキルカード預かってますんで、ほら。ピンチになったら任せて下さい。今日も一本、サクッと終わらせて早くみんなで帰りましょうよ」
「それについてはよろしくお願い致します」
「あんたのそれだけは、本当、頼りにしてるんだからね」
「任せて下さいって。こっちの緑のしるしのスキルカードがルナ様で、こっちの青いしるしのスキルカードがジャンヌ様でしたよね?」
「あんた馬鹿でしょ!ルナ姉が『水属性』だから青いしるしなの!私が『風属性』だから緑にしたのよ!」
「ああ、そうでしたっけ。てっきりルナ様が緑で許嫁のジャックと豆の木で、ジャンヌ様は聖子ちゃんの青いサンゴ礁だと思ってましたよ」
「全然意味分かんないわよあんた!」
「スズキ様。今日は4万の兵士の命運がかかっているのですよ?ふざけている場合ではございません!」
「(かつ かつ かつ)2人ともお静かに。イチロウ様は、あなたたちの緊張をほぐして下さっているのですよ」
「お母様!(2人)」
「やあアイリスおはよう。今日も相変わらず可愛いね」
「まあ、スズキ様・・」
「ちょっとあんた!またお母様が勘違いしちゃうじゃないのよ!」
「本当うるさいなジャンヌは。リップサービスですよリップ。力んで出るのはオナラだけですから、ここは肩の力抜いていきましょうよ、ほらリラックスリラックス」
「・・最低」
「え~そろそろ宜しいでしょうかな?」
「ああ、セバスさん。いつもこの3人こんな感じなんですよ、聞いて下さいよセバスさん」
「あんた、何軍師にチクってんのよ!」
「うわっ(ひゅっ!)セバスさん、助けて下さい」
「軍師の後ろに下がってんじゃないわよ!」
「軍師軍師って・・セバスさん。この丘から見えるこっちの4万の兵士の軍師なんですか?」
「え~そうですが、なにか?」
「いえ、凄いですね。僕、偉くて頭の良い方大好きです」
「あんた、その減らず口をこの『ドーバー海峡』で垂れ流してる暇があったら、ちょっと私のイライラのはけ口になりなさいよ、こっち来なさい、ほらこっち」
「行くわけないっすよ姉さん。アイリス助けて」
「ジャンヌ、お黙りなさい」
「お母様・・は~い」
「(ひょい)ふ~助かったよアイリス。朝からこいつ・・(ぐぐっ!)むぐぐ!」
「あは、あはは、な、何言ってくれちゃってんのかしらね~イチロウ君は、あははは(かぱっ!)ちょっとあんた、それ言ったら消すわよ(ぼそっ)」
「馬小屋で密会とかバレるの勘弁ですって美馬さん。お父様にも内密に(ぼそっ)」
「美馬言うな、美馬。お母様にも内緒よ(ぼそっ)」
「お互い利害が一致しますね(がしっ)」
「ええ、今日のところは休戦にしてあげる(がしっ)」
「ジャンヌ、どうしてイチロウ様と握手されてるのですか?お母さん、凄くうらやましいのですよ」
「えっ?ああ(ばちん!)なんでも無いのよお母様、あはは」
「痛った!(くらっ)・・や、薬草を・・(もぐもぐ)はっ!はぁ~はぁ~、ちょ、ちょっとお願いですから。聖女さんは僕から離れて下さいよ、薬草が戦闘になる前に尽きちゃいますって」
「え~そろそろ宜しいでしょうかな?」
「あ」
「はい」
「え~それでは『円卓騎士』会談の作戦要綱の復習を。あちらの西側の奥に見える大陸が旧『アリゾナ』の現『ヘルヘイム』帝国」
「凄く真っ黒の雲に稲光が・・あれって」
「え~あれは『闇のクリスタル』の影響による気候異常」
「お芋も真っ黒になりそうな空ですよあれ」
「イチロウ様。黒いお芋は美味しくありません」
「アイリス・・はは、そうだねきっと」
「え~手前に見えるこちら側『トロント』大陸との境に流れるのがこの『ドーバー海峡』」
「凄い海の渦が・・あれに飲み込まれたら、船とかゴブリンだってひとたまりもありませんよ」
「え~スズキ君。君が敵なら、こちらをどう攻めます」
「どうって、軍師セバスさんにいきなり聞かれても・・」
「あんたの魚脳みそじゃ、大した答え出てこないでしょどうせ」
「そんな事ありませんよ美馬さん。ほら、この立地って、僕のやってたゲームにそっくりですよ」
「え?」
「スズキ様?そのゲームとは一体どのような意味なのですか?」
「またまたルナ様も、本当アイリスにそっくりで何でも聞いてくるんですから~」
「スズキ様がいつもいつも変な事言うから、夜寝るまで気になってしょうが無くなるではありませんか!」
「怒らないで下さいよ。今度また『たい焼き』おごりますって。それに、新商品も入荷しましたし、今晩あたり届いてますから・・ああ、そうそう。ルナ様とジャンヌ様の誕生日プレゼントにするつもりだったんですよ。ギリギリで思い出しましたよ」
「ちょっとあんた、なによ・・それ・・」
「スズキ様・・今ここにいるスズキ様が、一体どうやってプレゼントを用意なさるとおっしゃるのですか?」
「ああ、ちょっと、その・・猫に頼んでまして・・」
「はい?」
「ついに脳みそ退化したわねあんた」
「え~スズキ君」
「ああセバスさんすいませんって、ずっと僕の答え待ってたんですね・・えっとですね、僕のゲームの経験からするに~まず~」
「まず?」
「空から攻めます」
「え~素晴らしい」
「ええ!?」
「ちょっと、こんなのの答えが正解なわけ?」
「当たり前じゃないですか美馬さん。まずでっかいドラゴンとかワイバーンが飛んで来て、橋の上の兵士を根こそぎ矢やら火の玉の雨あられ。ついでに『トロント』の市街地も空襲で焼け野原。最後にゴブリン魔導兵を前進させれば、楽勝半日で『トロント』制圧ですよ」
「え~大変素晴らしい。私の亡き後は、ぜひ銀等級の君に私の席を譲りたいものですな~」
「またまた~そんな空とぶ敵とか・・本当にいるんです?」
「・・もしかしてセバス様・・」
「え~ルナ様、聡明ですな」
「ワイバーンですね・・」
「え~その通り」
「ええ!?適当に言っただけですって。そんな野蛮なワイバーンとか、あの黒装束の闇があやつって空から攻撃してくるって言うんですか?対空戦とか、地上軍しかいないこっちにとって、橋の上から狙い撃ちされるだけですって」
「(かつ かつ)そこは私の出番です。ね、兄さん」
「ミューラ・・」
『トロント』と『ヘルヘイム』をつなぐ『ドーバー海峡』を見渡せる丘の上で、4大陸の総勢4万の兵士が集結する。
三聖女を中心に、セバス軍師、そして、エルフを中心とした作戦本部の中心で、この『ツインブリッジ』の戦いに向けた作戦要綱の説明が続く。




