114.出撃する戦士たち
(ちゅんちゅん)オルレアンに朝が来る。干し草のベッドに包まれ、馬小屋で朝を迎える漁民。そこへ忍び寄る1人の女の子の影。
「(ばしっ!)痛たっ!だ、誰!?」
「早く起きなさいよあんた」
「マミ!?」
「マミ言うな、マミ」
「ああ、そうかっ。どおりで若すぎると思っ(目がきらん!)なんて絶世の美女なんだ!思わず見間違えてしまった・・って美馬さんじゃないですか。なんでここが?」
「あんたねえ、いいかげん私が昔レンジャーしてたの覚えなさいよ。『感知』スキル使ったに決まってるでしょ?やらしいオーラ出してこんな馬小屋で寝てるの、あんたくらいしかこのオルレアンにいないんだからね?」
「よく僕の特徴をご存じで・・」
「あんたがあんまりだらしないから、記憶に刻み込まれちゃったじゃないのよ!」
「はは・・こんな朝早くからどうしてここに?」
「・・もうすぐ『緊急招集』」
「ああ、そうでしたね。今日が『トロント』防衛戦の日・・決戦の日ですね」
「はい、これ」
「え?黄色い・・スキルカードが2枚?美馬さんと・・」
「ルナお姉様のに決まってるでしょ?こっちの青いハートのしるしがある方がルナ姉の、こっちの緑のハートのある方が私のだから」
「はは、女子って感じですね」
「お母様がしるしつけてくれたの、昨日の夜ね」
「へ~優しいですねアイリス。でもまたなんで?」
「あんたがこの前、どっちから入れれば良いか散々間違ってた話したからに決まってるでしょ!」
「えっ、そんな事ありましたっけ?」
「あんたの記憶装置はどんだけ魚脳みそなのよ!このわたしに恥ずかしい決めゼリフまで強要したくせに、忘れてんじゃないわよ!」
「そうでしたっけ?」
「全然覚えてすらないじゃないのよ!」
「すいません・・」
「ふんっ、まあ良いわ、どうせそんな事言うと思ってたから」
「はは、僕の事よく・・ご存じで」
「当たり前よ、当たり前・・」
「あっ、おめでとうございます誕生日。40歳(目がきらん!)いや~ジャンヌ様もいよいよ16歳、お年頃の娘様、ぴちぴちのお肌に妖艶の美貌、ライン=ハートがうらやましいな~」
「・・あんたは、いいの?」
「えっ、なにがです?」
「このまま・・私が結婚しちゃってもよ・・」
「えっと・・その・・」
「なによ・・」
「その・・」
「なに・・」
「やっぱり僕じゃあ・・15年かけても・・幸せには・・出来ませんでしたし・・」
「・・そう。そう言うと思った」
「あっ、その・・」
「もういいわ。このスキルカード渡しに来ただけ。そのハートのしるしのある方から入れれば、あんたでも間違えないってルナお姉様がお母様に教えてあげてたの」
「さすがです。忘れやすい僕の事、よく分かってらっしゃる」
「・・さよなら」
「・・じゃ、じゃあまたあと」
(しゅん!)
聖女ジャンヌは後ろを振り返るや、『瞬足』スキルで、すぐに目の前から消えていなくなってしまった。まるで、永遠の別れを告げに来たかのように・・。
宿屋の食堂で食事を取る。もしかすると、これが最後の食事になるかも・・いや、考えないようにしよう。
そうだ、こんな時は楽しい事を考えよう。決戦になれば発注する時間も無くなるだろう。1日1回の黒い闇のカード・・もとい、『アリゾナプライム』のカードを使う事にする。
もうなんでもいいや、トップページをクリックして、購入履歴から適当にチョイスしよう・・ぽちっとな。
食事を終えて、宿屋の受付のお姉さんに声をかける。
「あの、お願いがありまして」
「はい旦那様、なんでしょう?」
「今日、『白猫ヤマト』のお兄さんが荷物を届けてくれたら、預かっておいて欲しいんですが」
「はい、かしこまりました旦那様。今日のご宿泊はいかがなさいますか?」
「はは、すいません。今手持ちがスッカラカンでして・・しっかり『トロント』で稼いできます。チェックインはまた今夜に」
「ご武運をお祈りしております」
受付のお姉さんに、最後になるかも知れない別れを告げて旅立つ。セバスさんとの約束がある、まずはギルド会館へ向かう。
ギルド会館はここの宿から徒歩1分以内、すぐに到着。
やはりこの立地は聖女ホットスポットとはいえ外せない。ここは大衆浴場『ウインダム』にも近いし、危険スポットの王立学院エルミタージュからほどよく離れている。
今日の決戦に生き残り、このオルレアンに定住する事になるなら、この辺りに家をかまえたいものだな・・しばらくは・・一人になりたいかな。
ギルド会館の受付窓口へ向かうと、1番窓口のサリーさん、2番窓口のリンダさん、3番窓口のエミリーさんが、窓口の外に出て出迎えてくれる。サリーさんが声をかけてくる。
「スズキ君、まもなく『緊急招集』だよ」
「分かってますよサリーさん。セバスさんに朝来るように呼ばれてたんですけど・・」
「副ギルド長はまもなく降りて来られるわ。今回は『トロント』のギルド会館に、臨時の作戦本部を設立します。私たち3エルフもセバス様と一緒に同行するの」
「そうだったんですね・・。僕、昨日ずっと『おにぎり』握ってて知りませんでしたよ」
「スズキ君は本当にのんきなんだから」
「はは、よく言われますリンダさん。今日は僕に任せといて下さいよ。ほら、もう聖女2人のスキルカードも握ってますから、万全ですよ万全」
「魚にしては上出来」
「きつい事言わないで下さいよエミリーさん。魚でも銀等級は銀等級ですって。大船に乗ったつもりでいて下さい、楽勝ですよ楽勝」
「泥船。不安爆発」
「任せて下さいって。普段無口のエミリーさんでもアッと言わせちゃいますよ、僕に惚れちゃいますよエミリーさん」
「その可能性は0パーセント」
「またまた~」
「はいはい、どうでもいい話はそれくらいでお願いします。1番窓口座ってスズキ君」
「ええ、サリーさん。まだ『緊急招集』出てないみたいですけど、何か手続きありましたっけ」
「いつものやつよ、いつもの」
「ああ、僕のデイリー借金残高チェックでしたね」
「そっちもだけど、この前の『マドリード』の『テムジン』防衛戦の報酬。まだ受け取ってないのスズキ君だけなんですけど」
「え!?あれ、クエスト扱いだったんですか?」
「そうよ、当たり前でしょ?報酬受け取らない冒険者がどこにいますか?」
「ここにいる。無能銀等級」
「またきつい事言わないで下さいよエミリーさん。で、いくらです報酬?僕今、昨日の『毘沙門天』の『おにぎり』の材料買ったせいで、手持ちスッカラカンですよ。ジャンヌ様のカツカツすら下回ってますよ僕」
「今手持ちいくらよ?」
「ゼロです。昨日の宿、無理言って銅貨3枚でよしみで割引してもらったんですよ。本当助かりましたよ僕」
「ついに破産の時が来た」
「またまたエミリーさんは~」
「サリー、スズキ君破産しちゃうから、はやく報酬渡してあげてちょうだい」
「分かってるリンダ。はいスズキ君、さっさとギルドカード出してちょうだい」
「了解しました・・そういえば資産尽きたら国外追放でしたっけ?危うく今日破産して国外追放になるところでしたよ。ありがとうございます皆さん」
「あなたの手持ちの残高覚えてたのエミリーなんだからね。今日渡してない報酬受け渡さないと破産するって教えてくれたの!ちゃんとお礼言っときなさいよ」
「エミリーさん・・神様、仏様、エルフ様・・」
「気持ち悪いんですけど」
「はいはい、愛の告白はそこまでにして下さい。えっとね、まずスズキ君の借金残高なんだけど」
「ああ、そうでした。いきなり現実世界へ・・サリーさん、今日の僕の借金残高、今いくらです?増えてたりしてませんよね?」
「ええっとね~ふんふ~ん(ぴこぴこ)」
「そんなに嬉しそうに借金チェックしないで下さいよ~」
「おお~これはこれは~」
「どうですサリーさん、減ってます?増えてます?」
「今朝のスズキ君の借金残高は、金貨500枚」
「うぐっ・・それは知ってます。で、報酬の方は?」
「『マドリード』のサム国王から、報酬として金貨100枚出てるわよ」
「おお!良い情報じゃないですか。というか、そんなに出てるならもっと早く教えて下さいよサリーさん」
「あなたがクエスト終わったのにちゃんと窓口来ないからでしょう」
「そうでしたっけ?何度かギルド会館には来てたような・・」
「いつもいつも聖女様と一緒で、なかなか冒険者としての手続き出来てないじゃないのよ」
「そうなんですよ。いつもいつも絡まれて、全然手続きさせてもらえないんですよ。昨日もアイリスママに双子も大暴れで手がつけられませんし、しまいにはシャルル女王陛下のところまで連行されちゃいましたよ僕」
「ええ!?シャルル7世様に謁見されたの!?」
「そうですよ、普通に闘技場『コロッセオ』の観覧席に座って、ずっと僕の方見て笑いっぱなしですよ」
「消される」
「またまたエミリーさんは~そんな事言わないで下さいよ」
「はいはい続き。金貨100枚の報酬に銀等級プレミアムが付いて、しめて金貨125枚が報酬総額。オルレアン連合ギルドで手数料として1割の金貨12枚が差し引かれて、残りの金貨113枚がスズキ君の持ち分です。どうする?」
「はは・・と、とりあえず借金残高分からなくなるので・・金貨13枚は手元に、破産しますし。金貨100枚は繰り上げ返済でお願いします」
「なによその繰り上げ返済って?」
「え?ああ、僕の口座へ入金して下さい。借金減りますよね?引き出し出来ないですけど」
「はいはい。ではまず、破産しないように手元分の金貨13枚。どうせ金貨1枚分は銀貨10枚に両替してくれば良いんでしょ?」
「さすがサリーさん。いつも通りお願いします」
「はいリンダ、両替お願いします」
「せっかく窓口の外に出たのに、まあ良いわ。はいサリー、金貨1枚頂戴」
「はいこれ」
「お願いしますリンダさん。僕の血と汗の結晶ですから」
「そうね、スズキ君にしては稼いだわよね」
「僕は金貨100枚1日で稼げる男ですよリンダさん、お買い得ですよ姉さん」
「1日で金貨500枚以上借金してる男でもあるでしょうあなた?借金全額返済できたら、私もエミリーと一緒に少しは検討してあげる」
「その可能性は0パーセント」
「またまたエミリーさんは~。僕は0を100にする男、スズキイチロウですよ?」
「はいスズキ君のギルドカード。あなたは0すらなってないマイナス金貨400枚の男でしょ?」
「うぐっ・・ありがとうございました」
「はいはい。銀等級スズキイチロウ様、本日の借金残高は金貨400枚です」
「うぐっ(ぐさっ!)・・ありがとうございましたサリーさん」
「はい借金が金貨400枚のスズキイチロウ様。金貨1枚を銀貨10枚へ両替が完了しました」
「うぐっ・・(ぐさっ!)ありがとうございましたリンダさん」
「借金まみれ、無能」
「うぐっ・・(ぐさっ!)あ、愛してますエミリーさん」
「消えなさい」
「僕、『マドリード』産の薬草の自動販売機・・買い占めてきます」
「はいはい、行ってらっしゃい。セバス様もうすぐ降りて来られる頃だから・・」
(ビービービー!!)
ギルドカードのタブレットビジョンが強制表示され、全冒険者に向けた赤い表示・・『緊急招集』が発令された。
「きた・・」
「え~スズキ君、約束通り来てくれましたな」
「セバスさん!」
「ではさっそく、まずは『ベネチア』へ私と一緒に参りましょう。お前たちも準備は良いですね?」
「はい!(3エルフ)」
「あっ、あの・・セバスさん・・」
「え~なにか問題でも?」
「昨日聖女に絡まれて、補充しときたいんです、薬草」
「はい?」
副ギルド長とエルフ3名をその場に待たせ、『マドリード』産の薬草を買いに1階ホールを駆け抜ける銀等級冒険者。
「セバス様。スズキ君いつもの感じですけど大丈夫でしょうか?」
「え~彼はもう、緊張感がまったく無いと言いますか・・」
「どんくさい」
1階の薬草自動販売機で、必死に薬草を買い占める銀等級冒険者の姿が1人際立っていた。




