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112.決勝バトル・ロワイアル

 『毘沙門天(びしゃもんてん)』握手会場の列、途切れるところを知らず。

 ついに闘技場『コロッセオ』を行列が反時計回りに1周してしまい、最後尾がブースから見えるところまでたどり着いてしまった。

 最後尾を誘導していたエリスから声がかかる。


「ちょっとイチロウ君、もう限界だよ!」

「美馬さん、そろそろ潮時ですかね」


「そうね(ぎゅぎゅ)お母様、もうこれ以上はキリが無いよ。決勝戦始まっちゃうよ。女王陛下のところに戻らなくて良いの?」

「そうでした・・イチロウ様の事を考えていたら、シャルの事をすっかり忘れてしまっていたのです・・」

「ちょっとお母様~」


「エリス、ジョンと一緒に激励会の解散をみんなに伝えてこよう」

「そうね・・イチロウ君はルナ様たちと一緒に『コロッセオ』に行きなさい」

「えっ、なんで?僕、お店の片づけあるし」

「その方が良いですよねルナ様」

「そうなのです・・」


「なんで?」

「お母様が一緒について来ないからなのです!」


「どうして?」

「あんたはちょっと黙ってなさいよ!エリスさん、ごめんなさい。私たち、こいつとお母様連れて女王陛下のところに先に行くね」

「ええ、そうして下さいジャンヌ様。イチロウ君はお母様をお連れして、さっさと『コロッセオ』に行く」

「分かったよエリス」


「あんた!なんで私とルナお姉様の言う事は聞かないくせに、エリスさんの言う事はいつも聞いてんのよ!」

「聖女の話は信用できないからですよ(ぎゅ!)痛てて!痛い、痛いっすよ美馬さん」


「余計な事を言う前に、さっさとお母様を連れて行く!」

「そうしなさいイチロウ君、片付けもジョンとやっといてあげるから。どうせ、そこの箱だけ、最後に渡せば良いんでしょ?」

「分かったからエリス、頼んだよ。ほらアイリス、一緒に行こう」

「はい」


「よし、良い子」

「はい」

「お母様、なんでスズキ様の言う事はそんなに素直にお聞きになるのですか!?」

「それは・・(ぽっ)」

「(ぎゅ!)痛ててて!痛いですって美馬さん」


「やらしいオーラ出してんじゃ無いわよあんた!お母様に向かって、何が良い子よ、何が!」


「アイリス。2人がうるさいから、早く行こう」

「はい、ついていきます。あなたたち、一緒に参りますよ」

「(2人)はい、お母様」


 エリスが握手会に並んでいた列の先頭から頭を下げて詫びを入れながら解散させていく。

 列の解散を見送りながら、解散中の4大陸の冒険者や貴族たちの人の道ができる。闘技場『コロッセオ』に向かう白い石畳の道が開かれ、謎の漁民を先頭に、三聖女が3人仲良く並んで歩く。

 真ん中にはアイリスママ、右にルナ様、左にジャンヌが並び、仲良く手をつないで歩く姿に、自然と人々から拍手が巻き起こる。


 闘技場『コロッセオ』の内部に入る。太陽の下から一変、ヒンヤリとした石造りの建物内。

 結晶石の明かりが建物内を明るく照らす。入ってまっすぐ前を見ると、開けた空間に大勢の人の行き来が目に入る。

 どうやらこの『コロッセオ』1階からまっすぐ進むのは、一般の冒険者や平民クラスの国民のようだ。内部に入るや進む場所が分からず、逆に3人について行く事に。

 

 そのまままっすぐには進まず、脇の兵士が入口を警護している2階、さらに3階へ階段を上がっていく。

 途中の2階では、きらびやかな服装の貴族たちの姿が目に入る。さらに3階まで上がる。

 アイリスたちについて行くと、途端に警備が厳重になり、たくさんの兵士たちの姿が目に入る。

 赤いカーペットの道を進んでいくと、闘技場の内部が次第に見えてくる。


「(かつ かつ かつ)眩しい」

「聖女アイリス、聖女2人も一緒か・・それと・・イチロウとか申したか」

「はい、そうですよシャル」


「女王陛下!?」


「ちょっとあんた、女王陛下の前なのよ、そこになおりなさい!」

「ジャンヌ、ここでは良いのです。ねえシャル?」


「ははは、そなたがここにその者を連れてくるか。なるほどアイリス、やはりその者の話は、よくよく我も聞いておかねばならんようじゃな」

「それは秘密と言ってますシャル」

「ここって・・」


「あんたなんかが何年かかっても入れない場所なんだからね」

「何言ってんですか美馬さん。オルレアンに来て2週間ちょっとでここにたどり着きましたけど、なにか?」

「あんたの基準で考えてるんじゃないわよ!」


「ちょっとジャンヌ、お口。スズキ様、お母様がいらっしゃるとはいえ、女王陛下の御前(ごぜん)でもあります。ここは王族観覧席(おうぞくかんらんせき)、さらにその中でも、女王陛下が観覧(かんらん)される特別な席になります」


「なるほどルナ様。ビップルームってやつですね。やりましたよ美馬さん、ついに女王の()までたどり着きましたよ僕」

「ラスボスみたいな事言ってんじゃないわよあんたは!」


「ジャンヌ、これから決勝戦なのです。口をおつむりなさい。シャルが見ているのですよ?シャルの『ナイト』なのでしょう、あなたは?」

「お母様・・は~い」


「ふふふ、アイリスの子は、本当に可愛ゆきものよな。聖女ジャンヌよ、我の前では一度も出さなんだ、そのような物言い、『ナイト』襲名(しゅうめい)の際には見せなんだそのような表情。アイリスと良い、ジャンヌと良い、なかなか興味深い男よな、そなたは」

「はは、どうも」

「なんて口の聞き方してんのよあんたは!」

「ちょっとジャンヌはお黙りなさい!」


「ぷっ」

「ふふふ」



 シャルル=ドゴール女王陛下とアイリスがお互い見つめ合って笑っている。

 アイリスに案内された赤いカーペットの道をたどり着くと、なんとオルレアン女王陛下、シャルル=ドゴールが特別席に座っていた。

 ブースから見える闘技場の中心には、大きな円の、白い石で出来た決勝戦の会場に、1人、また1人と選手が集合しようとしていた。


(決勝トーナメント 決勝戦バトル・ロワイアル ジャック=ハート(雷属性)VSガイア(土属性)VSセントルイス(火属性)エルミタージュ王立学院学院長VS???(属性???)エルミタージュ王立学院所属講師・・の妻 職業 戦士)


「かっかっか、バトル・ロワイアルとはまた面白い。4人戦って3位以内なら報酬はわしのもんかのう~。おお、ジャック=ハート伯爵(はくしゃく)、お手柔らかにのう~」


「ガイア先生、ご無沙汰しております。して・・あちらにおられるお方は、もしやエルミタージュ学院長では?」


「(かつ かつ かつ)エルミタージュ学院長、セントルイスである!ぬわーー!!」


(効果音・チャラチャラチャ~チャチャチャ~チャラチャラチャ~)


「はあ~ふんっ!ふんっ!(しゅしゅ)はあ~~~~!(びりびりびり!)」


 セントルイス学院長がマッスルポーズをきめて両手を地面に円を描くや、着ていた服が弾けとび、輝く筋肉が光輝く。

 胸には7つのカシオペア座の傷のアザがあった。


「『レッドオパール』は私の物。ミューラ先生、今しばらくのご辛抱(しんぼう)を」

「なんじゃと?」

「愛がヒューマンを狂わせる・・か・・ハートよ、お前はこうはなるなよ」


「(ズシン!ズシン!ズシン!)あら、私の獲物、粒揃い(つぶぞろい)じゃない」


「母ちゃん!?」

「ガイア先生!まさか、奥様なのですか?」

「あんた、ここまで良く頑張ったじゃない。あんたは最後までとっておいて()()()(ばきっばきききっ)」


「母ちゃん、わしは棄権するけえ、勘弁してくれ~」

「あんた何言ってんの?あんたは2位って最初から決まってんのよ!報酬少なくなるでしょうが、逃げようったってそうはいかないわよ。最後にしっかり可愛がって、()()()

「もののけ・・」

「あら可愛い坊や、あなたは3位、そこのジジイは・・もう順番決めちゃった(ばきききっ)」


「試合始めーー!!」


(闘技場内 王族観覧席)


「あれが、ガイア師匠の奥さん!?デカい・・師匠がビビってる、しかも強そう・・まるで美馬さんみた(ぐぐっ!)く、苦しいっすよ奥さん!ギブギブ!(ぎゅぎゅ!)」

「あんたはいつもいつも一言多いって言ってんのよ!(ぎゅぎゅ!)」


(試合会場 決勝バトル・ロワイアル)


「必殺!セントルイススペシャ・・」

「『瞬足』(びゅん!)(ガシッ!)『アルソックホールド』!」

「(ガシッ!)は、離せ、離さんか!」


(闘技場内 王族観覧席)


「美馬さん。何て言ってるか聞こえませんが、もうあれ、レスリングですよ。セントルイス学院長、ホールドされて死にそうですって。霊長類(れいちょうるい)最強女子、オリンピック3連覇の吉田沙織に間違いないですよ。最近テレビ出てないと思ったら、こっちに転生してたんですって絶対」


「そんなわけないでしょあんた!あんたのその勘違いで、今私たちどんだけひどい事になってると思ってるのよ!」

「えっ?なんですそれ?」

「この脳みそ魚男が!」


「ぷっ、ふふふ」

「笑わないでよお母様!」


(決勝トーナメント 決勝戦バトル・ロワイアル)


「アルソック体操、(いち)のかた」

「や、やめ」

「『タワーブリッジ』!」

「ぬわー!!(バキバキバキバキ)」


「はいおしまい(ポイッ)次は可愛い坊や、しっかり可愛いがって()()()(ばきききっ)」


「おのれ、もののけ、悪霊退散(あくりょうたいさん)!いでよ、我が守護竜、『雷鳴竜(サンダードラゴン)』!」


(パーパパパーパパパー パッパッパーパパーパパパー パッパッパーパパーパパパー パッパッパーパパーパパパー)


「ギギャャーー!!」


「・・あんた、私の後ろに隠れな」

「分かったわい(ささっ)母ちゃん、大丈夫け~」

「私を誰だと思ってんのさあんた?」

「ひ~、愛しとるけい勘弁(かんべん)しとくれ~」


「我が守護竜がお前たちを消しさってくれよう。この熱い気持ち・・我が弟、ジャック=ハートが『キズナ』スキルで私に戦えと叫んでいる。そして私のこの熱いハート、すべては我が許嫁(いいなずけ)ルナ様に(ささ)げよう」


「(実況)おおっと、弟ライン=ハート伯爵の聖女ジャンヌ様へのプロポーズに続き、兄ジャック=ハート伯爵から聖女ルナ様への愛の誓いが飛び出したぞー!」


「(キャー!!)」

「(いけー!!)」


(闘技場 王族観覧席)


「やりましたねルナ様。ジャック=ハートのルナ様への愛の雄叫(おたけ)びですよ」

「恥ずかしいのです~」


「今夜にも救世主爆誕(ばくたん)(ばしばし!)痛い、痛いですよ神官様!聖なる(つえ)で突かないでって!」

「(ばしばし!)スズキ様はいつもいつも一言余計(よけい)なのです!すぐにお黙りなさい!」


「ぷっ、ふふふ」

「お母様も笑わないで欲しいのです!」


(試合会場 決勝バトル・ロワイアル)


「いけ、『雷鳴竜(サンダードラゴン)』!『サンダーブレス』!」


「ギギャャー!!(ビィィィーー!!)」


「スキル『アルソック・ホームセキュリティー』」


(ズガァァァァーーン!・・・)


 『雷鳴竜(サンダードラゴン)』から放たれた『サンダーブレス』によって、ガイアとガイアの妻に向かって閃光(せんこう)が走り、何か白い光の壁に雷のブレスがぶつかるや爆発が発生。白い煙が次第に晴れると・・。


「(しゅー・・)やったか・・悪く思わんでくれ・・な、なんだと!?」


「(しゅー・・)あら可愛い坊や、この私に傷をつけるなんて(ぺろん)あんた、なかなかやるじゃないのさ。しっかり遊んで()()()

「馬鹿な!?」

「ブレスってのはね、こういう事を言うんだよ!消えな、『アルソック・ビーム』!!」


「ぬわーー!!」


(ズガァァァァーーン!!)


 ジャック=ハートと、『雷鳴竜(サンダードラゴン)』に向かって光の閃光(せんこう)が襲う。

 『サンダーブレス』に引けを取らない光の閃光がガイアの妻から発せられるや、ジャック=ハートは爆発の中に消えていった。


(闘技場 王族観覧席)


「あっ、ルナ様。許嫁(いいなずけ)死んじゃいました」

「ああジャック様・・なんという事に・・(青ざめるルナ)」


「結婚式かなわず、早くも未亡人(みぼうじん)に(ばしばし!)痛い、痛いですってルナ様。その(つえ)、肉に食い込んで痛いんですってば僕!」

「スズキ様はお黙りなさい!」


 白い煙が次第に晴れると、場外にはじき出されたジャック=ハートの姿が横たわっていた。


(試合会場 決勝バトル・ロワイアル)


「さああんた、これで残るわあんただけね。愛してるわよ、かかってらっしゃ(ばきっばきききっ)」


 ガイアの妻が両の拳を、体の前で握り、ばきばき音を立ててガイアに迫る。


「か、母ちゃん」

「さああんた、早く攻撃しないと、いつものホールド行くわよ」

「あれだけは勘弁してくれ母ちゃん。また子供が増えて養育費(よういくひ)がかなわんわい」


「アルソック体操、二のかた(しゅん!)」

「母ちゃん(ぎゅぎゅ!!)ギブギブ!!」


「何よギブって?最近あんた、私の知らない言葉たくさん使うようになったわね・・さては浮気ね?(ぎゅぎゅ!!)」

「はぁはぁ・・か、母ちゃん。わしは母ちゃんだけ愛しとるけえ、タイムタイム!報酬も全部母ちゃんのもんじゃけえ」


「そんな当たり前の事はいいのよあんた!何よそのタイムってのは!歯ごたえの無い相手ばっかりで、私のイライラが限界なのよ!必殺!!」

「必殺!?」


「(ぽい~ん)『アルソックビーム』!!」


「ぬわーー!!(ちゅどぉぉぉーーんーーー!!)」


 闘技場『コロッセオ』が噴煙に包まれる。

 砂ぼこりが少しずつ晴れると、放り投げられたガイア側に向かって試合会場の盤上(ばんじょう)が半分以上吹き飛んでいた。


「(実況)おおっと!これで勝負あった!!4大大陸トーナメント戦、決勝戦の勝者は、オルレアン学院所属ガイア選手の奥様に決定致しましたーー!!」


(「うおーー!!」)

(「こんなに強いドワーフがいるなら、俺たち明日絶対に勝てるぞーー!!」)


 闘技場『コロッセオ』における決勝トーナメントの激戦が終了するや、会場内の観衆が総立ちとなりスタンディングオベレーションに包まれる。

 4大陸の王族、貴族、国民の誰もが、ガイア師匠の妻の強さに涙し、明日の勝利を確信する。4大陸の全国民、その士気が、最高潮に達した瞬間であった。

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