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111.準決勝

 元おにぎり屋『毘沙門天(びしゃもんてん)』は新装開店、聖女坂46(フォーティーシックス)の握手会場と化していた。

 長蛇の列が闘技場を半周する中、闘技場内では真面目に準決勝が開かれようとしていた。


 闘技場『コロッセオ』は、予選トーナメントから決勝トーナメントまで複数の試合会場の小さめの円形で白い石畳の試合会場が複数用意されていた。

 準々決勝になると会場内に、大きめの4つの試合会場があらたに用意され、準決勝の残り4試合が同時に開始され、4名の勝者が決定されようとしていた。


(決勝トーナメント 準決勝 ミューラ(火属性)VSガイア(土属性) エルミタージュ王立学院所属)


「かっかっか、まさかお前さんと戦う事になろうとはの~」

「本当ですガイア様、どうぞお手柔らかに」

「くっくっく、わしもカミさんが見とるけえ、遠慮は出来んぞ」

「もちろんです」


「試合開始ーー!!」


(決勝トーナメント 準決勝 ジャック=ハート(雷属性)VSライン=ハート(雷属性) ケンブリッジ王立学院所属 職業 騎士)


「ハートよ、決着を付ける時が来たようだな」

「兄上、ジャンヌ様に勝利をお約束しております。たとえ兄上といえど、容赦(ようしゃ)致しませんぞ」

「ははは、ハートよ。お前が私にそのような口をきくのは生まれてこの方初めてよな、ははは、これは愉快愉快」

「兄上、剣を(かしゃーん)」


「よかろう、愛する者への愛は兄弟の(きずな)をも越える・・か。まだまだジャンヌ様に、お前は渡さんぞジャックよ(かしゃーん)」

「うつら事を申すで無い兄さん!」

「参るぞハートよ!」


「試合始めー!!」


「うおー!!(2人)」


(聖女坂46握手会場)


「(かつ かつ かつ)ルナ、ジャンヌ、イチロウ様のところにいらしたのですね」

「お母様!」


「決勝トーナメントが終わったと思ったら2人ともいなくなって・・お母さん探していたのですよ?」

「ごめんなさいお母様・・」


「アイリス、いいところに、大事な話がある」

「イチロウ様・・(ぎゅ)」

「ちょっとあんた!何お母様の手を握りしめてんのよ!」


「アイリス、僕は今日ほど君を必要だと思った事は無い」

「えっ・・」

「あんた!またそんな事言って、お母様が勘違いしちゃうじゃないのよ!」


「さっきはすまなかったアイリス、君の双子姉妹の姿を見て目が覚めたよ。ここはどう考えてもエルミタージュの敷地外、君の言った通りだ、僕が間違っていた。僕が道を間違えそうになったら、アイリス。君の手で、これからも僕を止めて欲しい」

「ちょっとあんた、さっきと言ってる事全然違うじゃないのよ!」


「は、はい・・イチロウ様。ところで今、2人は何をしているのでしょうか?」

「明日命をかけて戦う戦士たちを、1人1人、手を握って激励しているんだよアイリス」


「なんて素晴らしい事、なんて偉いんでしょう・・お母さん、あなたたちがこんなに成長してくれていたなんて・・嬉しい(うるっ)」

「お母様、泣かないで欲しいのです」


「アイリス、聞いてくれ!(ぎゅぎゅ)」

「きゃっ・・は、はい」

「君の双子姉妹の決勝トーナメントは終わったけど、君にもこの握手会・・オッホンオッホン・・激励会(げきれいかい)で、4大陸の国民のみんなを激励してあげて欲しいんだ、頼む」

「分かりました、お引き受け致します」


「さあ話はまとまった。ジョン君、『味噌汁』が無くなった今、君はもはや用済み。ルナ様とジャンヌ様の間をすぐにどきたまえ。そこにお母様をご案内するのだ」


「分かったよ銀等級。俺はお呼びじゃ無さそうだしな。ルナ様の母君、こちらへどうぞ」

「はい」


(「アイリス様もいらっしゃったぞーー!!」)

(「三聖女様が、我々を激励して下さるぞーー!!」)


 噂が噂を呼び、ブースから見える列は、すでに遥か遠くまで伸び、どこまで続くか分からないほどの長さになっていった。


(決勝トーナメント 準決勝 ミューラ(火属性)VSガイア(土属性))


「スキル『布団が吹っ飛んだ』!!」


 ガイア師匠必殺スキルがさく裂。ミューラの地面の白い石畳が布団サイズに突然浮き上がり、ミューラを場外へと投げ出す。


「キャーー!!(どすんっ)」


「(実況)おお!勝負あった!決勝へ進んだのは、ドワーフのガイア選手に決定です!」


「ああーー悔しいーー!!」

「かっかっか、どうやらワシの勝ちのようじゃのうエルフ殿」

「もう~あと1回勝てば『レッドオパール』だったのに~」


(決勝トーナメント 準決勝 ジャック=ハート(雷属性)VSライン=ハート(雷属性))


「(かちゃん かちゃん かちゃん)ハートよ、我ら『キズナ』スキルによって考えを共有する。勝負が一向に決まらんな」

「(かちゃん かちゃん・・しゅ・・)そのようですな兄上」


「・・覚悟は良いなハートよ」

「それはこちらのセリフです兄さん」


「(実況)おおっと!剣の勝負をやめた2人!ジャック=ハートが何やら取り出す・・おお!笛を口にしたぞ!」


「兄さん・・」

「全力で行くと言ったぞハートよ、今さらおじけづいたわけではあるまいな?」

「分かっております」

「では・・」


 ジャック=ハートは、首からぶら下がる化石のような笛を両手で持ち、口につける。


「いでよ、『雷鳴竜(サンダードラゴン)』!」


(パーパパパーパパパー パッパッパーパパーパパパー パッパッパーパパーパパパー パッパッパーパパーパパパー)


 闘技場『コロッセオ』の上空から、黄金色の竜が空から舞い降りる。ジャック=ハートの隣に降り立つと、ライン=ハートに向かって雄たけびを上げる。


「ギギャャーー!!」


「(実況)おお!空から竜が舞い降りた!ライン=ハート、絶対絶命の危機!」


「ハートよ、棄権するのだ。今のお前では、この『雷鳴竜(サンダードラゴン)』は突破出来んぞ」

「兄上、これを(しゅ)」


「それは・・『トロントボール』!?まさか、アーサー王6世の研究、完成していたとは・・」

「そうです兄上、私もただアーサー王と雑談をしていただけでは無かったのですぞ。『トロント』のマサラシティ技術者により開発されたこのボール。アーサー王より託されたこの禁断のボールを、今こそ」


「やめるんだハート!それだけはやめ・・」

「いけ!ピカットネズミ・・」

「なぎ払え『雷鳴竜(サンダードラゴン)』!『サンダーブレス』!」


「ギギャャー!!(ビィィィーー!!)」


 ライン=ハートが手に持つ謎の赤いボールを投げようとした瞬間、『雷鳴竜(サンダードラゴン)』から雷のブレスが放たれ、ライン=ハートを直撃。そのまま場外まで投げ出される。


「ぬわーー(ごろごろごろ・・)」


「ハートよ!そのような、まやかしの力では、この兄ジャック=ハートは越えられんぞ!」

「ぐぐっ・・に、兄さん・・」

「(かつ かつ)ハートよ、焦るな」

「なっ・・兄上、私は何も焦ってなど」


「ジャンヌ様へのプロポーズ・・私を超えたい・・その焦りでは無かったのか?」

「そのような事はございませぬ!私は、心より聖女様をお慕い・・」

「・・その気持ちには、嘘偽りは無かろう・・だがな、弟よ」

「兄さん・・」

「焦るなハート、お前はまだ若い。それに・・」


「・・兄さん」

「私のそばに、今しばらくおってはくれんか弟よ?」


「(兵士)ライン=ハート様、場外により失格となります。お急ぎご退場を」

「無論だ、分かっておる・・兄さん」


「ははは、ハートよ。まずは明日の戦いが終わってから、すべてはそれから・・な」

「はい兄さん・・その・・」

「どうしたハートよ?」

「『雷鳴竜(サンダードラゴン)』を召還し、全力で私に向かってきてくれた兄さんに・・感謝したい」


「ふっ・・ふふふ」

「兄上!何がおかしいのですか!」

「はははは、まったくお前というやつは、まことに可愛い弟よ。決勝のバトル・ロワイヤルは、この兄、ジャック=ハートに任せるのだ!お前の意志は引き継いだ、ハートよ!お前の活躍の場は明日の『ツインブリッジ』にこそふさわしい!」

「は・・はい、兄さん!(ざっ!)」


(パチパチパチパチパチ)


 場内から割れんばかりの拍手が送られる頃には、すべての準決勝が終了していた。


(聖女坂46 握手会会場?)


「ジョン君、列が長くなる一方だ。君はエリスと合流してこの列をぐるっと闘技場を反時計回りに整えていくのだ」

「りょ、了解!(だっ!)」


「ルナ、ジャンヌ、わたくしたちで皆を激励するのです」

「(2人)はい、お母様!」


「美馬さんまずいです、さい銭箱が一杯に・・(ぼそっ)」

「もうその箱はしまいなさいよあんた・・これ以上やってお母様にバレたらまずいでしょ(ぼそっ)」


「もっといけないですかね姉さん?(ぼそっ)」

潮時(しおどき)、自爆するわよ(ぼそっ)」


「引き際ですか姉さん?(ぼそっ)」

「十分、後でギルド一緒に持って行くから、逃げんじゃないわよ(ぼそっ)」

「分かってますって姉さん(ぼそっ)」


「ジャンヌ?イチロウ様と何をお話してるの?」

「気にしないでお母様、たいした事じゃないの」

「さあアイリス、みんなが三聖女を待ってるよ」


 さい銭箱をブースの奥にしまう(やみ)のプロデューサー、秋元イチロウ。

 アイリスの加入により、ブースの列を3つに分け、三聖女へと1人ずつ誘導する。

 3倍速くサバけるようになるも、ひたすらに伸びていく列をさばくことに、全員が今や必死になっていた。


 オルレアンの優しい風が吹く、日中の心地よい日光がそそぐ青空の中、当初の出店のコンセプトを完全に見失った『毘沙門天(びしゃもんてん)』の旗だけが、ゆらゆらとなびいていた。


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