107.予選トーナメント2回戦(後編)
闘技場『コロッセオ』の外のブースで『おにぎり』と『味噌汁』の調理を進めるアイカツ戦士の2人に、一組の母親と娘の親子が近づいてきた。
「イチロウ君と・・ジョンはこんなところで何やってんの?あなた、1回戦逃げ出したと思ったら、結局ここに転がりこんでたのね、呆れた」
「うるさいなエリス!俺は今、愛の活動、アイカツしてんだよ!」
「意味分かんないし、なんかスープ作ってるようにしか見えません。スズキ君、今日はお母様と一緒なの、ほら私のお母様」
「エリスの母です。あなたがいつもエリスが話をしてるイチロウ君?」
「はい、スズキです。はじめましてエリスのお母様。やっぱりエリスに似て美人ですね」
「あら、口がお上手なこと・・あなたたち、名前で呼びあってらっしゃるの?」
「お母様、それは・・」
「お前たち、ここにいたのか・・」
「パパ!?」
「あなた・・」
「やあクラウド、お前もエリスと『おにぎり』食べていってよ」
「おう・・」
「・・」
「なあエリス、何か気まずい雰囲気だけど・・」
「それはねイチロウ君」
「やっぱりお名前・・エリス、その男の子と一体どういう関係なの?」
「ただならぬ関係ですよお母様(ぎゅ!)痛てて!エリス、お嬢様、痛いって!」
「なに言ってるのかしらねこの子。同じ親衛隊の仲間よ、ただそれだけよお母様」
「そうなの?」
「そんな事無いだろエリス。この前パパが使ってる『俺の盾ピカリン』と『激落ち君』貸してくれって、盾の磨き方教えてやったら毎日ニヤニヤしながら磨いてるだろお前」
「パパの馬鹿!なんて事バラしてくれてんのよ!」
「エリス、お母さんそんな話知らないわよ?」
「お母様、何でも無いから」
「その水の盾、スズキがお前にプレゼントしたやつなんだろ?」
「ちょっとあなた、どういう事?エリスが男の子からプレゼントなんて受け取るはず・・それにそんな話一言も」
「お前が家に戻ってこないから知らないんだろ?エリスはもう大人なんだよ。この前うちに来て、「大事な人です」っていきなり紹介されちゃてよ」
「パパの馬鹿!これ以上しゃべらないで!誤解なの、誤解!」
「あの~家族会議でしたら、そこの机でお願いできませんか?ギャラリーまた増えてますんで、なんならうちの『おにぎり』食べて行ってくださいよ」
「ああ、頼むよスズキ」
「クラウド、エリスがいるからって割引しないようちの店は」
「分かってるって、金貨1枚で良いか?」
「そんなにいらないって。『おにぎり』2つ、味噌汁付きで銀貨1枚、3人分で宜しいですか、お客様?銀貨3枚になります、そこの箱に入れて下さい」
「ちょっとイチロウ君。ちゃんと誤解だって説明してよ」
「エリス、その水の盾、プレゼントされたって本当なの?お母さんにちゃんと説明しなさい」
「それは本当なんだけど・・」
「『おにぎり』の具はシェフのお任せで宜しいでしょうか?」
「おお、頼むよスズキ」
「ちょっとパパ!」
「さあジョン君、こちらのご家族3名をあちらの席にご案内するのだ」
「かしこまりました先生。さあエリス、その盾、愛が詰まってんだろ?さっさとお母様に説明して来いって」
「ちょっとジョン、あんた許さないからね!」
「(しゅっ しゅっ)よし、完成。ほらジョン君、『味噌汁』を3つ、そのお盆に乗せてお運びするのだ」
「かしこまりました先生」
「おお、美味そうだなこれ」
「あなたの話はいらないから、エリスがお屋敷でどうしてるのか、ちゃんとお話しなさって下さい」
「もちろんだって、さあこっちこっち。サンキューなスズキ。しばらくぶりに親子3人で話せる、本当ありがたい」
「上手くやれよクラウド、家族は大事だぞ」
「お前が言うなって、じゃあまた後でな」
「イチロウ君ったら、もう~」
「はは、エリス、ご愁傷様。この前、家に行った時のお返しだよ」
「行きますよエリス」
「はい、ちょっと待ってくださいお母様~」
クラウド、エリスのお母様とエリスが、おにぎりセットを持って先導するジョンに連れられてフードコート形式の食事が出来る机のある方へ消えて行った。
4人の背中を見送っていると、何やらすでに取り巻いていたギャラリーから歓声が上がっている、嫌な予感しかしない。聖女アンテナが反応、2人組のカップルが近づいてくる。
「スズキ様・・」
「やあルナ様に・・ジャック様も」
「貴公、この旗、何と書いてあるんだ?」
「ああ、それは『毘沙門天』です。うちの店の名前ですね」
「ふむ、奇妙な名をつけるものだな貴公」
「ええ、よく玉が出るんですようちの店」
「何をおっしゃられているのですかスズキ様は?」
「ああ、別に、なんでも・・あはは。それはそうと、2人でデートですか?」
「うむ、良く分かっておるな貴公、なかなか見どころがあるではないか。ルナ様とは先ほど運命の出会いを果たしたのだ、これは赤い糸の必然」
「何を勝手におっしゃられているのですかジャック様!スズキ様も勝手にデートにしないで下さいまし!」
「何かあったんですかルナ様が?」
「うむ、アームストロングなる野蛮な輩が、事もあろうに我が許嫁ルナ様のギルドカードの番号を教えて欲しいなどと壁際まで迫っておったのでな。我が必殺のサンダーブレードで成敗してやったところである」
「許嫁はまだ駄目なのです!・・ですが、先ほどは、その、危ないところをジャック様に助けていただいたのです・・」
「ちょっとすいませんが、イチャイチャするならよそでやってもらえませんか?さっきから周りのギャラリーがわんさか集まって来てて、営業妨害も良いところですよ。選抜試験でしたら闘技場でお願いしますよ」
「ふむ、漁民の貴公がお店とな。そのスープが売り物なのか?」
「ああ、これ、『お味噌汁』ですよ」
「お味噌・・」
「ルナ様、このスープをご存じなのでありますか?」
「いえ、気のせいなのです・・」
「たくさんありますから、よかったらちょっと味見してみます2人とも(ささっ)はい、ジャック様」
「良かろう、まず毒味はわたくしめが」
「ははは、毒なんて入ってませんって。さっきジョンに味見させてますから」
「うむ(ずずっ)おお!これはまた美味。ルナ様、この漁民の料理はなかなかですぞ」
「さあルナ様も少しだけ、猫舌でしたよね?ふ~ふ~して下さい、ふ~ふ~」
「スズキ様は一言いつも余計なのです!・・(ふ~ふ~)(ちびっ)んん!?」
「えっ!?」
「いかがなされましたがルナ様!?」
「お・・」
「お?(2人)」
「美味しいのです!」
「ぷっ・・」
「くくく・・」
「2人とも笑わないでくださいまし!」
「あははは」
「スズキ様のエッチ!」
「くくく・・いや、失礼。これは誠に愉快」
「ジャック様もひどいのです!」
「いやいや、ご婦人に対してこれは失礼。貴公、この『おにぎり』とやらと一緒にぜひ『味噌汁』をいただきたい」
「ええ、もちろんです。海産物は大丈夫です?魚とか明太子とか」
「うむ、私はいっこうに構わん。ルナ様はいかがでございますか?」
「えっ、わたくしも・・その、いただいても?」
「このジャック=ハートめがルナ様に献上致しますゆえ、何なりと申していただきたい」
「わたくしが払います」
「いえ、ご婦人に払わせるなど、騎士道に反しますゆえ」
「あの~イチャイチャするんでしたら、あっちでお願いできますか?もう『おにぎり』の具、適当にシェフのお任せで宜しいですよね?」
「わたくしたちはイチャイチャなどと」
「もちろん頼む。貴公、これは私の気持ちだ」
「き、金貨!?ジャック=ハート伯爵、今お作り致しますので、しばしお待ちを」
「ははは、貴公、本当に面白い男だな君は」
「(しゅしゅ ぎゅっぎゅっ)はは、よく言われます。はい、ルナ様」
「どうしてわたくしからなのですか?」
「ははは、これは愉快な男。レディーファーストを心得ておるか、いや愉快」
「はは、どうも」
「なんで2人ともそんなに仲が良いのですか!」
「(しゅしゅ ぎゅっぎゅっ)はい、ジャック様。『サケおにぎり』に『明太子おにぎり』、自慢の1品です、『味噌汁』付きで、はいどうぞ召使いさん」
「ははは、金を払えばもう用済みか、これは一本取られたな。さあルナ様、あちらへ」
「ちょっとスズキ様!」
「はいはい、お2人のおかげで大行列です。ギャラリーの数が半端ないので、早く向こう行ってイチャイチャして来て下さい」
「ははは、貴公は本当に口が上手い、まったく面白い男だ。ルナ様、この者の話、ゆっくり伺いたいのですが、ご同席願えますかな?」
「えっ、ええ・・はい」
「ジャック様、そのままルナ様お持ち帰りでお願いします」
「うむ、心得た」
「勝手にわたくしをお持ち帰りにしないで下さい!」
「ふ~戻ったぞ銀等級、エリスのやつに散々文句・・ルナ様!?」
「ジョン様」
「な、なんで・・こんなところにルナ様が・・」
「ほう、君は1回戦でたしか・・」
「俺・・恥ずかしい・・」
「ジョン様、落ち込まないで下さい。あなたはわたくしの親衛隊ではありませんか?力が発揮できなかっただけ、次は期待しているのです」
(期待しているのです 期待しているのです 期待しているのです)
「き、き・・」
「ジョン様?」
「ルナ様、ブロンズ冒険者のジョン君はしばらくブロンズ像になりましたので、後ろの列もつかえております、お急ぎお食事会場へ」
「ははは、それは傑作だな。微動だにせんでは無いか。かなり立派な親衛隊の盾をお持ちですなルナ様」
「盾では無くて槍のはず・・なのです」
「ははは、さあ、詳しくお話をお聞かせ願いたい」
「ごゆっくり~」
許嫁2人組が食事のできる場所へ消えて行き、アイカツの成果によりブロンズ像になった戦力外のジョン君をブースのイスに座らせてワンオペを開始する難破船料理人。
聖女の奇襲により乗組員の1名が脱落したが、聖女と英雄が食する食べ物に興味惹かれたギャラリーの、『毘沙門天』の列にたくさんの人が並ぶ。金の亡者どもの銀貨をせしめる絶好のチャンス到来。闇の料理人、スズキイチロウの腕がなる。




