106.予選トーナメント2回戦(前編)
闘技場『コロッセオ』の会場内外に、実況席からマイクを通したような大きなアナウンスが響き渡る。
「(実況)予選トーナメント2回戦をこの後10分後に開始致します。選手の皆さんは集合場所にお集まりください~」
(闘技場外の聖女と漁民料理人)
「味がしないって・・この前アイリスとルナ様と4人で食事した時だって、美馬さん、あんなにあの謎ソース美味しいって喜んで食べてたじゃないですか?あれも演技!?」
「そんなわけないでしょ!あのソースにハンバーグ、すっごく美味しかったの・・でも、この前行ったら・・」
「この前って・・あっ、サンダース様と4人で食べに行けって、アイリスに言って4人で同じもの宿屋の食堂に食べに行ったんでしたよね。最高でしたでしょ、4人で食べられて?」
「・・しないのよ」
「え?だって同じ料理ですよ?」
「しなかったの!あんたと食べてた時と同じ塩っ気も感じなくて、お願いしてあのソース追加してもらったけど、お腹は一杯になったけど、パパと一緒に食べられて嬉しかったけど・・」
「味・・そういえば・・」
「え?なによ、あんた、なにか知ってるの?」
「いえ、その、僕も更年期障害だとばかり最初思ってたんですけど」
「なによあんた!私の舌が更年期障害だって言いたいわけあんたは!」
「違いますって・・その、後で『おにぎり』作りますんで、『トーナメント』けりが付いたら寄ってもらえます美馬さん?」
「ふんっ・・まあ、考えておいてあげるわよ」
「はいはい。ああ、ライン=ハートとイチャイチャするんなら、どこかよそでやってから来てくださいよ。あの兄弟までここのブースに来たら・・ただでさえ今美馬さん来てて、凄いギャラリーに囲まれてるんですからね?」
「ふんっ、知らない」
「頼みましたよお嬢様」
「うるさい!」
「お口が悪いですよジャンヌ様」
「ルナ姉みたいに言うな馬鹿!(しゅん!)」
(闘技場『コロッセオ』 予選会トーナメント 第2回戦 ジャンヌVSアルモンテ(ハーバード所属:職業ジョブ 格闘家)
「(しゅん!)待たせたわね」
「おおーー!!」
「聖女様が、どこからともなく姿を現したぞーー!!」
「ぐははは、『瞬足』だな?この俺から逃げなかった事だけは褒めてやろう聖女様」
「(ばきっばききっ)まったく、ほんとう、イライラしちゃう」
「ん?なんだその態度はこのガキ?」
「試合始めーー!!」
「今の私は、虫の居所が悪いって言ってんのよ!!(しゅん!)」
「冗談は口だけ(バシッ!!)ぬわーー!!(ダァァァァーーン!!)」
「(実況)おおっと!開始1秒で、アルモンテ選手、吹っ飛んだーー!!」
「うおーー!!」
「さすが聖女様!!これなら明日の決戦、我らの勝利は間違いないぞーー!!」
「(かつ かつ かつ)まったく、イライラしちゃう、もうっ」
「ジャンヌ様!」
「ハート様・・また見ちゃったの?」
「な、な・・」
「な?」
「なんて強くて素敵な女性なんだ!あの大男を一撃で吹き飛ばすなんて、やはりあなたこそ、我が妻にしたき理想の女性だ!!」
「ちょっとハート様・・」
「ぜひ私の子を産んでいただきたい!」
「恥ずかしいよ~」
(闘技場『コロッセオ』外の漁民料理人)
「赤子泣いてもフタとルナっと」
「ルナ様がどうかしたか銀等級?」
「おお、どうしたジョン君。まもなく2回戦とかアナウンスあったが、君の活躍の場はここでは無かろう」
「ううっ(ぐすっ)お、俺、俺・・」
「ジョン君」
「銀等級・・」
「君は盾の勇者の物語を知っているかい?」
「た、盾?盾なんかで、どうやって世界を平和にできるんだよ?」
「アバズレに騙され、国を追われ、それでも盾一つでハーレムを築き上げた我々の大先輩の話だ」
「ハーレム?」
「ジョン君、君はまだ若い」
「お前もだろ銀等級」
「たとえ一つの失敗さえ、明日の我々の大きな糧となる。見ろ、私は今何をしているジョン君?」
「何って、飯作ってるようにしか見えないけど・・」
「そうだぞジョン君。闘技場というスタートラインに立って失敗した君に比べ、立った瞬間消滅する事を悟ってハナから立とうともしない私、今の君は私に比べて、遥か先をつき進む愛の戦士ではないか!」
「先生・・」
「さあジョン君、前に進め!槍をシャモジに持ち変えて、君も熱い愛の活動、アイカツを始めるのだ!(しゅ)」
「分かりました先生!で、俺、何したら良いんだ?」
「まずジョン君、ここは闘技場では無い、『水の鎧』を今すぐ脱ぐのだ」
「(ガチャガチャ)脱ぎました先生」
「ここに『新潟県産コシヒカリ20キロ』のおまけで付いていたお味噌がある。まずは水を汲んで味噌汁の準備に取り掛かる」
「銀等級、水の結晶石あそこのテントにあるから、あれ持ってきてその大鍋に入れたらいいぞ」
「さすが、目が良いなジョン君。綺麗な女の子と、危険な聖女は見つけ次第、すぐに私に報告するように」
「了解!」
愛の戦士に指示をだし、『おにぎり』と合わせて味噌汁の調理に取りかかる。
「先生、このスープには何を入れるんだ?」
「スープでは無い、『味噌汁』だぞジョン君」
「はい先生、で、何入れるんだ?」
「そうだなジョン君、ネギは付いてないけど出来れば欲しいな・・」
「ネギならあっちのテントにあるぞ先生」
「さすがジョン君、目が良いな、頼めるかな?」
「はい、先生!(だっ!)」
ジョン君のアイカツは順調に進んでいく。『味噌汁』には刻んだネギが入り、カツオのダシが効いた良い仕上がりとなった。
「(ぐつぐつ)よし、味見をするかジョン君、さあ」
「お、おう(ずずっ)美味い!」
「よし、毒は入っていないようだな」
「えっ、何か言ったか先生?」
「いや気にするな(ずずっ)うん、よく出来ている。君が作ったに等しいこの味、忘れんようにな」
「はい先生。なあ、そこの魚を焼いたやつとか卵とか、そんなに小さくホグしてどうすんだ?」
「ああ、この子たちはこの後、『おにぎり』の具として包まれるのだよ。さあ、開店の準備は整った。聖女が来る前に店じまいをしたい、気合を入れて販売開始だジョン君」
「でもよ銀等級、どうやって客呼ぶんだよ?何売ってるか全然さっぱりだぜ?」
「ふふ、策はある。そこの旗を掲げる、我らの同志が作ったもの、これがあれば百人力だ」
「これか・・」
ジョン君と一緒に、『ウインダム』のボイラー室作業員に作ってもらった旗を準備する。全部で3種類、どれも『裁縫』スキルで立派に仕上がっている。
旗は大きめの筒の中に、中くらいの筒、小さな筒、さらに小さな筒が連なり、組み立てると旗になる仕様。大きな筒の隙間に、布の旗が織り込まれ、背中に都合3種類背負ってここまで持ってきた。
「なあ銀等級、この1つめの旗、何て書いてあるんだ?」
「ああ、これは『新潟県産コシヒカリ使用』と書いてある。つまり、美味いと言う事だ」
「ふ~ん、で、この2つめの旗は『銀貨1枚おにぎり2つ味噌汁付き』か・・そもそも『おにぎり』って何だよ?」
「百聞は一見にしかず(しゅしゅ)さあ食べなさいジョン君、『サケおにぎり』だ」
「お、おう(もぐっ)う、うま!」
「(ふきふき)からのジョン君、『お味噌汁』だ」
「おう(ずずっ)美味い!」
「そうだジョン君、『おにぎり』と『お味噌汁』の何たるかが分かったかね?」
「これ絶対売れるぜ銀等級、『たい焼き』の時もヤバいと思ったけど、こいつもかなりヤバいぜ!」
「そうだぞジョン君。さあ、3つめの旗、錦の旗を掲げるのだ!」
「(ざっ!)これ何て書いてあるんだ?全然読めねえよ」
「これはなジョン君」
「おう」
「『毘沙門天』、新台導入、新装開店だ」
「『毘沙門天』・・凄え」
『毘沙門天』・・越後の戦国武将、越後の龍こと、上杉謙信のまつった神の名・・と同時に・・新宿歌舞伎町にあるパチンコ店、『パーラー毘沙門天』から拝借した名前とは、汚れを知らぬこの若者に、説明する事は出来なかった。




