105.予選トーナメント1回戦(後編)
ブースで『兵式飯盒』のお米を炊いていると、いきなり聖女の襲撃に合う漁民。しかも・・美馬さん、なんでこんなところに・・。
「あんたは出ないの?」
「何にです?」
「『トーナメント』に決まってるでしょ!」
「出ませんよ、分かってるくせに。体力1の僕が闘技場『コロッセオ』に立った瞬間、存在そのものが跡形もなく消え去りますよ」
「あはは、そりゃそうね。何作ってんの?カレーでも作るつもりでしょ!私食べたい!」
「のんきなんですからあなたは・・一体いつから僕だって分かってたんですか?」
「あんたが『熱海』『熱海』って連呼してる時からずっとよ、まあ、かなり若いから。さすがに私もまさかとは思ったけど・・」
「もういつの『熱海』か分かんないですよそれじゃあ」
「どうせあんたの事だから、15年前からお母様やルナ姉様の事、私だって勘違いしてたんでしょ?」
「うぐっ・・」
「図星ね」
「・・それは・・認めます」
「はぁ~やっぱり」
「なにがやっぱり何ですか?」
「あんたのその勘違いのせいで、今とんでもない事になってんのよ、気づいてんの?」
「聖女に四六時中襲われてるのは自覚してますよ、今だっているでしょ、ほら、あなた」
「あんたね~・・って、私にとっては15年ぶりだし、あんたと会うのは」
「えっ?僕にとっては、この前の話で・・ああ・・」
「石化・・してたのは、本当みたいね」
「会ったその日に牢屋にぶちこんだの、美馬さんですよね」
「あれはあんたが悪い」
「僕悪くないですよ美馬さん」
「美馬言うな、美馬・・まあ、あんたとはもう、私にとっては15年前に終わってた関係だったし」
「あの・・美馬さん。僕、やっぱりトラックで・・」
「死んだわよ」
「ええ!?・・はぁ~やっぱり・・もう、戻れないんですね・・日本には・・」
「そうよ・・あんた・・まだ戻れるとでも思ってたわけ?」
「それは当然ですよ!だって・・」
「だって、なによ」
「美馬さんに・・あの子に、もう一度会えるかもって、信じてこれまで頑張って来て・・」
「ふ~ん、どれくらい?」
「えっと、石化する前に数日。石化が解けて数日、2週間いかないくらいですね」
「それって、トラックに引かれてからの話?」
「そうです」
「ぷっ、ふふふ。たったの2週間?」
「笑わないで下さいよ、美馬さんはどうなんですか?」
「15年よ、明日で16歳だけど」
「ええ!?明日誕生日?・・おめでとう・・って言って良いんです?」
「知らないわよ、あんたの勝手にすれば?」
「では、おめでとうございます。結婚適齢期ですかね、オルレアンじゃあ・・はは」
「そうね、私、初婚だし」
「なに40手前の女が(びゅ!)ちょっと叩かないで下さいよ美馬さん!」
「美馬言うな美馬・・まあ、あながち嘘でも無いんだけどね」
「それって、どういう意味ですか?」
「あんた、死んだでしょ?」
「ええ、あれは死にますね。『レモン牛乳』買い忘れたんで、コンビニ買いに行ったら交差点で突っ込まれて」
「あんた、あの子にやっぱり買い忘れてるじゃないのよ!」
「すいませんって。でもギリ思い出したんですよ、明日の朝怒られるくらいならって・・ちゃんと買いに出たから死んじゃったんじゃないですか~」
「はぁ~・・あんたらしい、情けない最後だったわよ」
「はいはい、そうでございます。それで、その後、僕どうなったんですか聖女様?」
「離婚届、まだ出して無かったでしょ?」
「ええ、美馬さんのサイン入ってましたけど、自分の名前書く勇気が出なくて・・美馬さんのセガールのDVDの箱にはさんで隠しておきました」
「ええ!?そんなとこにあったの?リビングのいつものとこ、なんで入って無かったのか探したけど見つからなかったじゃないのよ!」
「美馬さんならDVD絶対見ると思ったからあそこにしたんじゃないですか~。てか、一度マンション来てたんですね、僕が死んでから」
「そうよ。死んだら自動的に離婚になるでしょ?」
「ええ!?そうなんですか?」
「そうよ、あんた公務員試験勉強してたでしょ!なんで民法勉強してないわけ?」
「えっ・・もしかして、失踪宣告とかと同じで、死んだら戸籍にバツがつくあれです?」
「そうよ。しかもあんた、住宅ローンも私たち、連帯債務にしてたでしょ?」
「ええ、3000万円で住宅ローン組んで、僕の年収だけだと足りなくて、美馬さんと2馬力でしたから、美馬さんの年収分50%で割合設定しましたよね?」
「そうよ!なんで100%、あんたに保険かけなかったのか後悔したのよ!」
「ああ、ありましたねそんな保険。団体信用生命保険でしたっけ、住宅ローン保険で、たしか死んだ人の分・・僕の分50%だけ保険がおりて・・あれ?」
「そうよ、私が残りの1500万円分、しばらく払ってたんだからね!」
「ええ!?でも・・」
「そうよ」
「ですよね」
「なぜだか知らないけど・・」
「ですよね」
「振り込まれてたのよ」
「そうそう」
「住宅ローンの返済金月7万と」
「そうですそうです」
「あの子と私の養育費3万」
「そうです、そう」
「あんた・・なにした?」
「ずっとこっちから送金してたんですよ、美馬さんの口座に」
「なんでよ?」
「死んだら美馬さんの口座から住宅ローン引き落としになってたんですね~。そこまでは気づきませんでしたけど、僕オルレアンに来てからずっと月10万円振り込むのに命をかけてきたんですよ」
「・・じゃあなに?あの謎の10万円の振込って・・」
「僕です僕、超頑張って15年間振り込んでたんです、超」
「石化してる間、勝手に振り込まれないでしょ?」
「ああ、どうもサンダース様が、僕のギルドカードだけ特別に借金できる機能付けたみたいでして」
「ええ!?それ、わたし知らない!じゃあなに?あんたの金貨500枚の借金って、まさか・・」
「そうそう、そのまま美馬さんの口座に流れてたんですよ。いや~良かった、僕無駄になってるんじゃないかって、ギルドの受付のお姉さんにもやめるように言われてたんですけど、続けてて良かったですよ、ほっとしました」
「なんでほっとするのよ!」
「だって謎の組織とかに騙されてお金だけ取られてる可能性もあったんですよ?美馬さんが使ってくれてたんなら、僕は本望ですよ」
「でもそれは日本にいた時の私の話。今の私、15年間、ギルドカードには月金貨3枚しか来てないんですけど」
「ええ!?じゃあ残りの金貨7枚、月7万どこに行ってるんですか?」
「そんなの私知らないからね。10万振り込まれたのも、日本にいた時の最初の1カ月だけしか通帳見て無いし」
「ええ~美馬さんの力で調べて下さいよ~・・ああ、日本の美馬さんの口座に入ってるんじゃないですか?」
「それはどうかしら」
「え?なんで・・」
「だって私・・」
「えっ、え?」
「・・死んだから」
「・・はい?」
(闘技場『コロッセオ』 予選会トーナメント 第1回戦 エリスVSフレデリカ(アカデミア学院所属:職業ジョブ 格闘家)
「あら、素敵な青い鎧ね」
「そちらも素敵よ。顔に傷はつけたく無いわ、棄権してもらえないかしら?」
「口もお上手。腕はどうかしら?」
「試してみます?」
「試合始めーー!!」
「(2人)だーー!!」
(闘技場外の聖女と漁民)
「し、死んだってどういう事です!?」
「あんたが死んで、しばらくして・・気づいたら、もう・・ルナ姉がいて・・」
「そんな・・やっぱり・・転生・・」
「まあ、そうみたいね・・。じゃあ、あんたはなに?15年前からオルレアンにいたわけじゃないわけ?」
「はは・・どうも、セバスさんの話を総合すると・・僕、1回、魚に転生したみたいでして・・」
「ぷっ、あははは。なにそれ、馬鹿じゃないの?そっからどうしたら今のあんたになるわけ?」
「1回魚いって、三途の川を逆流して、前の記憶残したまま2週間前にオルレアンの浜辺に打ち上げられたんですよ」
「あははは、それ、全然意味分かんない、あははは」
「笑い事じゃないですよ美馬さん。あんたも死んだって、一体どういう事なんですか!」
「あっ、あはは、あ~お腹痛い。もうこっちの話は良いから一郎」
「美馬さん、なんで死んだんです?痛くなかったです?僕トラック、超痛かったですよ、超」
「あはは、私のは全然、あんたみたいにバラバラになったりしてないから」
「なんすかそれ美馬さん、僕の遺体どうなったのか、ちゃんと教えて下さいよ!」
「あははは」
「ちょっとマミ!笑ってないで答えろって」
(闘技場『コロッセオ』 予選会トーナメント 第1回戦 ジョンVSキグナス(アカデミア王立学院所属:職業ジョブ 戦士)
「よーし、ルナ様に良いところ見せてやる・・あっ!あそこにいる、お~い!ルナ様ーー!!」
「(さっ)」
「あれ?なんか見えなくなった」
「ちょっとあんた、よそ見してんじゃないわよ!このキグナス=メイを直視出来ないとでも・・」
「ん?どうした、でっかい女?」
「・・た」
「・・た?」
「・・タイプ」
「はっ?お前なに言ってるんだ、でっかい女?」
「(かつ かつ)ダーリン・・」
「ひっ・・誰がダーリンだって!?」
「試合始めーー!!」
「じゃ、邪魔(ぱち ぱち からん からん)」
「おい、でっかい女!なんで試合開始で鎧脱いでんだよ!?」
「ダーリン、その青い鎧も素敵!(かつ かつ かつ)」
「来るんじゃない、でっかい女!?こっちに来るな!(だっ!)」
「待ってダーリン!!(だっ!)」
「(実況)おおっと!鎧を外して軽量化を図る作戦のアカデミア学院所属キグナス選手、全速力でオルレアン学院のジョン選手を追い詰めていく!!場外に出ると失格だ!!」
(闘技場『コロッセオ』外の聖女と元遺体)
「あははは」
「もう良いですよ、真面目に答える気ないんでしたら・・僕、今ご飯炊くのに必死なんですから(ぐつぐつ)」
「それいつ出来るの?わたしも食べたい!」
「僕のところにわざわざ来ないで下さいよ。王宮料理人だか南極料理人だか、いくらでもいるでしょ聖女様?」
「・・しないのよ」
「なにがです?」
「しないの」
「だから何が?」
「・・味」
「・・え?」




