104.予選トーナメント1回戦(前編)
朝8時 4大陸の国民向けに入場がすでに開始されており、特別に各国が保有する希少鉱石、『転移結晶』のゲートが複数、エルミタージュの西門内に限定して常時開放されている。4大大陸のあらゆる職業の冒険者たち、貴族、王族の馬車がひっきりなしにゲートから姿を現してくる。
いつしかミューラ先生の話では、このエルミタージュにある『闘技場』は5万5千人の人数を収容できるらしく、各国に人数が割り当てられており、現在は予選会のチケットを持っている人だけが入場できる仕様らしい。
当然あぶれる人のために、闘技場『コロッセオ』の外の至る所にパブリックビューイングが設置されており、チケットを持っていないオルレアンの近隣住民はほぼ全員このエルミタージュに集まっている・・僕が敵なら、今が攻め込むチャンスだろうに・・まあ、『風のクリスタル』の加護に加えて、今は『光のクリスタル』のダブルカーテンでオルレアンの守りは鉄壁でもあるらしい。
まずは持出自由の近くのテントにおいてある木材やら鉱石などを利用して、さっそくキャンプファイヤーの準備を始める。まあ、今から始める作業も似たようなもんだし。
とりあえずこの『兵式飯盒』を使って、一気にお米を炊いていく。特殊な鉱石と魔法のパワーで、一度作れば鮮度も維持されるらしい。
前々職でたいやき屋をやってたけど、まとめて朝作ろうものなら、昼間の客からクレームは必至、なんて素晴らしい飯盒炊飯なんでしょう。今なら新潟県産コシヒカリ20キロもお付けして、お値段、なななんとこの価格、さあ、今すぐ、お電話を。
「フリ~ダイヤルゼロイチニイゼロ~」
「(わーー!!)」
「(聖女様ーー!!)」
「ん?」
闘技場の方から歓声が聞こえる。野獣様と聞こえたような気もするが、こちらは闘技場の外、かまわずお米を炊く作業に取り掛かる。
(闘技場 予選会トーナメント 第1回戦 ジャンヌVSオスカー(ケンブリッジ学院所属:職業 魔法使い)
「(実況)おおっと!オルレアンの聖女ジャンヌ様、可憐なパンチがクリーンヒット!『ケンブリッジ』のオスカー君、たまらず場外!!第1回戦は開始1秒で、オルレアン聖女ジャンヌ様の勝利だ!!」
「(ぱん ぱん)ふぅ、おしまいっと。あっ、ハート様・・」
「ジャンヌ様!」
「はい!(びびっ)」
「なんとお強き聖女様、まさに神のごとく素早い拳。剣を抜くまでも無いと言うことですな?」
「恥ずかしいから見ないでよ~」
「あなた様こそ我が妻にふさわしい、ぜひあなたに、私の子を産んでもらいたい!」
「ちょっとハート様~」
(闘技場『コロッセオ』外 フリーブースの漁民)
「(しゅぼ)おお!凄い、この『火の結晶石』、これなら僕にも火が起こせる」
「おはようイチロウ君」
「張り切ってるな銀等級」
「おはようエリス、ジョン・・いないよな、聖女とか」
「ルナ様はこれから1回戦です」
「え!?ルナ様戦うの?」
「もちろんです。言っとくけど、あなたよりかなり強いんですからねルナ様」
「とてもそうは見えませんけど・・なあジョン」
「まあな、あんな可愛い顔してるし。俺も戦ってるとこ、正直お前のあの何とかブーストの時しか知らないからな」
「ルナ様は聖騎士のジャンヌ様と違って、オルレアン随一の魔法の使い手なの!」
「ああ、この前『ベネチア』でしょぼい火起こしてもらいましっけ」
「あれは『火属性』の魔法なの!ルナ様は『水属性』なんだから。相反する魔法をあのレベルでも出せるヒューマンなんて、オルレアンには1人もいないんだからね!」
「へ~って、凄さが良く分からないよエリス」
「ついでに言うと、本来『火属性』魔法を絶対防御できる水の盾を、『ベネチア』で私とジョンの2つも熱伝導させて『精錬』できたのはルナ様において他にはいないの・・って、もういいわよ!どうせイチロウ君詳しく説明したって、すぐ忘れちゃうでしょ~」
「さすがエリス、今の話全然分かんなかった。僕の事よく分かってる」
「簡単に認めないの、まったく。ところで今日は何するつもり漁民さん?また『たい焼き』作ってくれるの?それにしては餡子が見当たらないわね・・」
「ああ、今日は『おにぎり』作る予定なんだ」
「なんだよ銀等級、その『おにぎり』って?」
「まあ食べれば分かるってジョン。2人も『トーナメント』?」
「ええ、これから。今頃ルナ様が1回戦してるから、私はこの3つ後くらいかな」
「へ~娘の活躍、クラウド見に来てるかな?」
「えっ、パパ?お母様には声をかけたけど、あんな人知りません」
「またまた~、娘の雄姿を見に行かない父親はいないって絶対。ほら、その『水の鎧』、超気合入ってるじゃんエリス」
「この『水の盾』もありがとね、今日も大事に使わせてもらいます」
「あっ、ずるいぞエリス。なんだよ銀等級、エリスにだけ盾あげやがって。俺の盾、この前銀等級が『たい焼き』焼くので無くなっちまったんだからな」
「はい、妬かない妬かない。これは私とイチロウ君の愛が詰まってるんです、ねえイチロウ君」
「そうだぞジョン君、お前はどうでもいいが、エリスはクラウドの娘なんだから。どっちにプレゼントするかなんて、議論の手前ですでに決まってたんだよ」
「お前ら卑怯だぞ!俺も愛の戦士なんだぞ!ルナ様一直線、正面突破で、1回戦をこの槍で突破してやるから見てろよ!」
「はいはい、1回戦で脱落しないで下さい。行くわよ、親衛隊の『しんがり』さん」
「俺はルナ様親衛隊、『月の雫』の一番槍だよ!」
「じゃあ2人とも頑張って。お腹空いたらこっちに寄ってよ」
「期待してます、イチロウ君も頑張ってね」
「じゃあな銀等級、また後で」
「ああ、エリスも頑張って。ジョン君、盾などいらんぞ。正面突破で突撃あるのみ、行ってこい!」
『水の鎧』を装備した2人が、背中を向けて闘技場『コロッセオ』へ向かって行く。自分のいるブースの列には複数のお店が並んでおり、木洩れ日が漏れるような細い木々の合間に、木製の長机と長椅子がたくさん置かれており、お祭りでお店で買って食べられるようにフードコートの仕様で席が配置されていた。
水の結晶石で出来たウォーターサーバーのような機械、手を洗浄する機械。あらかじめ飲食物の販売をクエストに登録しておいたので、フォークや木製の受け皿がたくさんブースに用意されていた。
燃やせば燃料にできるのだろう、捨てられる場所も指定されている完全リサイクル社会。
今の日本でも、プラスチック容器を無くせば完全リサイクル出来そうなものだが、オルレアンにプラスチックなんて出来たら、日本と同じように燃えないゴミであふれてしまうのだろうか・・。この国は、本当に自然豊かだ。
(闘技場『コロッセオ』 予選会トーナメント 第1回戦 ルナVSアームストロング(ハーバード学院所属:職業 戦士)
「がーははは、このアームストロングと当たるとは、ついておりませんな聖女様」
「ひっ・・お願い致します・・」
「試合始めーー!!」
「情けは無用、必殺!!アトミッククラッシュ!!」
「ひいっ・・叩かないで!ホーリー」
「クラ・・ぐっ・・むむ・・(からん からん)」
「えっ?」
持っていた斧を両手から手放し、ルナに詰め寄るアームストロング。
「どうして・・」
「か・・」
「か?」
「可愛い・・」
「えっ?」
「棄権致しますので・・その、あなた様の、ギルドカードの番号を教えて下さい!!」
「ええ!?」
「後で伺いますので、絶対、絶対教えて下さい、それでは!!(だっ!)」
「ちょっとお待ちください!困るのですー!!」
「(実況)おおっと、『ケンブリッジ』学院のアームストロング選手。聖女ルナ様に恐れをなして斧を放り出し、一目散に場外へ消えていった!!」
「おおーー!!」
「(実況)さすが聖女ルナ様!指一本使わずに1回戦突破だ!!」
「恥ずかしいのです(だっ!)」
(闘技場『コロッセオ』外 キャンプファイヤー中の漁民)
「(おおーー!!)」
「(聖女様ーー!!)」
「ん?盛り上がってるな・・(ぐつぐつ)はじめぐつぐつ、中ぱっぱっと・・(しゅん!)ぬわ!!美馬さん!!」
「美馬言うな、美馬。ぷっ、なにこれ、キャンプしてんのあんた?あはは」
「何しに来たんですか・・」
「ちょっち、あんたに話があってね」
「・・僕はとくに話す事無いですけど」
「あら、随分辛気臭いわね。私が・・マミだから?」
「うぐっ・・」
聖騎士、セーラー服のような騎士の姿のジャンヌ・・いや、マミが、ブースにあったイスに足を組んで座りこちらを見つめる。




