102.陰謀(いんぼう)
ボイラー室を出て、受付にいるガイア師匠のお母様に声をかける。
「おお、坊や、どうだったかい?」
「お母様、一風呂浴びてくるんで、荷物少し預かっていただいて宜しいでしょうか?」
「おお、入っといで」
「お願いします」
荷物を窓口に預けて、急いで浴場でダイブ。汗を流して、ふたたび窓口に戻る。片手に『兵式飯盒』、背中に『旗』を背負いお母様に別れを告げる。
「もう行くんかい?」
「はい、出陣します」
「出陣かい?」
「はい、戦場へ旅立ちます。僕が死んだら、嫁には愛していたと伝えて下さい」
「『トロント』防衛戦は明日じゃなかったかいのう~」
「行って来ますお母様」
遺言を残し、戦場へ旅立つ漁民。
(同刻 元『アリゾナ』王国にして、現在の『ヘルヘイム』帝国)
『ヘルヘイム』帝国に生まれ変わった街並みは、元のドワーフたちを中心とする土の建物は変わり果て、外観は元の姿をとどめてはいなかった。
『闇のクリスタル』の影響と思われる気候異常、空は暗黒の黒い雲に覆われ、建物の外装は機械、至る所にゼンマイや怪しげな配線が埋め尽くす、すべてが漆黒の黒。建物には頻繁に、ゴブリン魔導兵がガチャガチャと音を立てながら出入りし、街中を魔導兵の機械仕掛けの兵隊がひっきりなしに休むことなく往復する。
そして機械の兵隊が、あらたな機械の兵隊を作り続ける、24時間、休むことなく。
元『アリゾナ』王国、王宮の玉座の間にて、黒装束の集団が一同に介する。玉座の間には『ハーデス』皇帝陛下が王のイスに座る。
玉座の間の王のイスの後ろには、台座の上に『闇のクリスタル』の結晶石が浮かぶ。クリスタルの下は欠け、元『土のクリスタル』であった事を垣間見せる。
下座に横一列に並び、ひざまずいて奈落、刹那、円華が並ぶ。奈落が声を発する。
「『ハーデス』皇帝陛下、『タルタロス』様・・『闇のクリスタル』完全なる復活はまじかにございます」
「奈落、『水のクリスタル』と『火のクリスタル』を感じる・・『闇のクリスタル』への浸食、しくじったな・・」
「申し訳ございませ(ピカッ!!)ぬわーー(バターン!!)」
『ハーデス』の怒りが爆発すると、『闇のクリスタル』が漆黒に輝き、奈落を広い玉座の間の後ろまで吹き飛ばし、後ろで整列して控えていたゴブリン魔導兵の先端の兵の列にぶち当たるや、何匹かの魔導兵が奈落の下敷きになる。残り引き続きひざまずく刹那と、円華が声を発する。
「『ハーデス』様、『火のクリスタル』をしくじったは私と諸刃の責任。奈落に加え、私もいかなる処罰も受け入れます」
「円華・・いや、ははう・・」
「皇帝陛下、その名は契約に背きます」
「円華・・わたしはいつ元の姿に戻れる?」
「『四天王』の一角、諸刃は敗れましたが、明日の『トロント』陽動戦に勝利し、必ずや御身の復活を果たしてみせましょう」
「円華、今回の作戦、お前にしては正攻法過ぎではないか?諸刃が浄化され、気でも狂ったか?」
「あら刹那、珍しく私の心配?陽動戦で派手に暴れれば、あなたの事は上手く運ぶでしょ?それとも私じゃなくて、どこかの聖女様の方が気になるんじゃなくて?」
「口が過ぎるぞ円華」
「あら怖い」
「(かつ・・かつ・・)・・いいかげんにせんか」
「奈落・・今は力が欲しいの、諸刃の仇。親として子の無念は晴らしたいわ。これ・・」
円華は、片手を皇帝陛下の前に出して手を広げる。一本の、機械のネジが片手に握られていた。
「円華、お前・・」
「あら刹那、また嫉妬?それとも、やきもちかしら」
「焚きつけるな!私はそなたがしんぱ・・」
「よさんか!『ハーデス』様の御前だぞお前たち!」
「はっ」
「・・ごめんなさい奈落」
「皇帝陛下、『闇のクリスタル』の使用許可を」
「許す、奈落」
「円華、次の作戦準備やいかに」
「作戦通り、4大陸の冒険者たちが『ヘルヘイム』のトロント側大陸の最南端、『トロント』王国とを結ぶ『ツインブリッジ』に集結しつつあります」
「こちらの兵は?」
「現在ゴブリンたちの、ゴブリン魔導兵への改造作業が急ピッチで進んでいるわ。捕虜のドワーフたちもよく働いている。うふふ・・必死になってね」
「やつらの家族は捕えておる。生かさず殺さず、死の瞬間まで、血の一滴まで働かせよ」
「御意」
「刹那、『ツインタワー』の建設状況は?」
「ははっ。現在『ヘルヘイム』首都近郊、『パワードタワー』および『マジックタワー』、捕虜のエルフ、ドワーフによる建設作業が進んでおります。しかし資材搬入のヒューマンの動きが鈍く、建設計画が30%ほど遅れております」
「急がせるのだ!手向かう者、歯向かう者、すぐに消し、建設を急がせるのだ!」
「御意」
「皇帝陛下、『ツインタワー』が完成すれば『ヘルヘイム』帝国の防御は万全に。いかに『光のクリスタル』といえど、突破は容易ではありませぬ。『グランドキャニオン』および『闇のクリスタル』の啓示による『転移結晶』の新たなる採掘地、『エアーズロック』へ『ゴブリンの乗るワイバーン』部隊が向かっております。4大陸への同時進行作戦、計画はすべて進んでおります」
「『闇のクリスタル』はいかに使う?」
「はは!円華、諸刃の破片をここに」
「大事に使ってあげて・・」
「無論だ・・『ギガファントム』をここに!」
「ギギィーー!」
ゴブリン魔導兵数匹が、先日の『テムジン』防衛戦で諸刃が持っていた『ギガファントム』を奈落の前に差し出す。円華は同時に、『ギガファントム』の隣に、元諸刃の一部と思われるネジを置く。
「さあ諸刃よ、復活の時だ!すべては、『闇のクリスタル』完全復活のために!!」
(ピカァァーー!!)
「・・意志を持たない、ただの機械人形ね・・」
「円華・・」
「あなたはこうはならないで、お願いよ、刹那・・」
「・・ああ」
「ギィロギィロギィロォォーー!!」
「ふふふふ・・あーははははは」
玉座の間に、奈落と、意志を失った諸刃の叫びがこだまする・・。




