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07 給料、1億円

 ホテルを出た俺はふたりの美少女を従え、『オーク建設』へと向かう。

 移動中は相変わらずメチャクチャ目立ったが、俺はもう堂々としたものだった。


 『オーク建設』の表札のかかった門をくぐると、社屋の前に資材置き場がある。

 そこには昼休憩なのか地べたに座り込み、タバコを吸いながら缶コーヒーを飲んでいるオークたちが4匹いた。


 言わずと知れたこの建設会社の下働きたちである。

 『オーク建設』は俺と社長以外はオークで、秘書も社員もみんなオーク。


 オークは人間よりもずっと力が強いので、そのパワフルさには『生ける重機』と呼ばれるほど。

 しかし手先も重機なみに不器用なので、仕事は雑だった。


 唯一の人間である俺が、細かい仕事を一手にやらされていたのだが……。

 午前中の作業に俺がいなかったので、オークどもはみんな不機嫌だった。


 大遅刻をしてきた俺を見つけるなり、鉄パイプ片手に近づいてくる。


「ブヒッ! 今頃なって出勤たぁ、たいそうな身分じゃねぇか!」


「ブヒッ! テメーがいなかった分、その作業がこっちに回ってきたんだぞ!」


「ブヒッ! こりゃケツパイプ100発どころじゃすまねぇなぁ!」


「ブヒッ! すげーいい女を連れてるじゃねぇか!」


 オークども俺の後ろで控えていたポチタマコンビに目を付ける。

 美醜の感覚は人間と同じなのか、耳障りな鳴き声が止まらなくなった。


「ブヒブヒッ! どっちもすげえ上玉だぞ!」


「ブヒブヒッ! おい億斗、お前の妹か何かか?

 いや、ふたりとも似ても似つかねぇなぁ! ブヒヒヒッ!」


「ブヒブヒッ! お前もちっとはわかってきたじゃねぇか!

 今日のところはこの女たちに免じて許してやらぁ!」


「ブヒブヒッ! こりゃ、楽しい昼休みになりそうだぜぇ!」


 ポチタマコンビの腕を掴もうと伸ばした薄汚れた手を、俺は声で制する。


「おいブタ。汚え手で俺の女に触るんじゃねぇ」


「ブヒイッ!? いま、なんつった!?」


「ブヒイッ!? コイツ、俺たちオークに対しての禁句を言いやがった!」


「ブヒイッ!? ウシって呼ぶ分にはまだいいが、ブタって呼ばれるのだけは許せねぇんだよ!」


「ブヒイッ!? かまわねぇ、やっちまえ! 女はそのあとだ!」


 鉄パイプを振りかざして挑みかかってくるブタども。

 俺が目で合図すると、ポチタマコンビは風林火山と化す。


「ご主人様への乱暴は許いけませんっ! わんわん! わんわーんっ!」


 吠えかかるポチの口から空気砲のような突風が吹き出し、2匹のオークを吹っ飛ばす。


「ブヒィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーッ!?!?」


 オークどもは資材に突っ込み、雪崩を打った鉄パイプにボコボコにされていた。


 ポチはまだやさしいほうだった。

 タマは汚物でも見るかのような目で、オークどもに向かって指をパチンと鳴らす。


 次の瞬間、火花が走り、2匹のオークの尻から火の手があがった。


「ブヒィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーッ!?!?」


 まさに尻に火が付いたウサギのように、資材置き場を走り回るオークども。

 最後は自分から資材に突っ込んで、白目を剥いていた。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 門前の雑魚を片付けた俺は、ポチタマコンビを資材置き場に残し、ひとりで社屋の中をずんずんと進んでいた。


 社長室は2階にあるので階段を駆け上がる。

 上がってすぐ目の前にある、『社長室』のプレートがかかった扉をノックすると、ヒショークが出て応対してくれた。


「ブヒッ! 社長、億斗が給料を受け取りにきました」


 俺は無言で書斎机の前まで来ると、じゅうたんにひれ伏す。

 社長の(フトシ)は葉巻をふかしながら、ブラインドの降りた窓を眺めていた。


「なんだ、今頃来たのか。外が騒がしかったらから、オークどもにさんざん痛めつけられたんだろう。

 ボコボコにされても給料だけは欲しがるとは、ツラの皮だけは厚いみたいだな」


 俺はなにも答えなかったのだが、それが太のシャクにさわったようだ。


「ふん、その土下座が遅刻の詫びのつもりか。お前がそういう態度なら、こっちにも考えがある。

 色を付けさせてもらおうか」


 『色を付ける』とはこの場合、5万の給料をさらに減らすという意味だろう。

 そう脅せば俺が泣いて謝るだろうと思ったのだろうが、そうはいかない。


 俺が無視するように土下座を続けていると、とうとう太はキレてしまった。


「おい億斗! お前、いつからこの俺を無視できる立場になった!?

 上等じゃねぇか! お前がその気なら、思い知らせてやるよ!

 おいヒショーク、『コレ』だ! この身の程知らずのバカに、思い知らせてやれ!」


 太は指を1本だけ立てていた。これは『1万円』という意味だ。

 ヒショークは黙って頷くと、金庫を開けて中の金を取り出し、俺の前に放る。


 しかしその時の音は、ヒラヒラと札が舞う音ではなかった。


 ……ドサッ!


 束となった万札が、山積みになる音……!


 そう……!

 ヒショークは、金庫にあったありったけの金を、俺の前に置いたのだ……!


 太は椅子から飛び上がらんばかりに起立する。


「ヒショーク、なにをやってるんだ!?

 こいつの給料は……!」


「1億です」


「えっ」


「ブヒッ! 今日からこの『オーク建設』のオーナーは、億斗様になりました。

 ですので金庫にある金は、ぜんぶ億斗様のものです。」


「なっ……なに言ってんだ、お前……?」


 ヒショークは太の右腕とも呼べる存在であった。

 太はいまだに乱心したのが信じられない様子で、目を丸くしている。


 しかしヒショークは冷徹だった。


「ブヒッ、あなた……いや、お前はすでに部外者だ。

 すぐにこの敷地内から出ていけ。でないと……」


「はぁ!? 出ないとどうするんってんだよ!?」


 次の瞬間、太の頬に丸太のようなパンチがめりこんでいた。


「ブヒィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーッ!?!?」


 吹っ飛んで窓ガラスに顔ごと突っ込む太。

 振り向いた顔は血まみれで、ブタのような耳と鼻が現れている。


 俺はその様を、立ち上がりながら見ていた。


「なんだ、お前もオークだったのかよ。

 人間のフリをしたモンスターがいるってのは知ってたが、まさかお前がそうだったとはな。

 でもたしかに、昔からブタみたいだとは思ってたんだよな」


「ブヒイイッ!? ふざけんな! ふざけんなぁーーーーーーっ!!」


 太は怒れるブタのように俺に突進してきたが、立ちはだかったヒショークの前蹴りをくらってまたしても吹っ飛んでいた。


 ……ガシャァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーンッ!!


 社長室の窓を破って外の資材置き場に飛び出す太。

 首が折れそうな変な体勢で、グシャッと叩きつけられていた。


 さっそく、待ち構えていたオークたちに囲まれる。

 俺は窓の無くなった社屋の2階から、その様子を眺めていた。


 眼下では、顔がボコボコになった4匹のブタどもが、さらに顔がボコボコになった1匹のブタを、よってたかってボコボコにするという地獄絵図が展開されていた。


「ブヒッ! てめぇ、このクソ野郎っ!」

 テメェが社長でなくなった以上、もう遠慮はしねぇぜ!」


「ブヒッ! さんざん安月給で俺たちをこき使いやがってぇ!」


「ブヒッ! そのうえ休みの日まで出勤やらレクリエーションやらさせやがってぇ!」


「ブヒッ! テメェをこんな目に遭わせてやることが、俺たちの夢だったんだよっ!」


「誰かあっ!? 助けてくれぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!

 ブヒィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーッ!?!?」


 信頼関係を築けていたと思い込んでいた従業員たちに裏切られ、袋叩きにあい、太は断末魔のような叫びをあげていた。


 しかし、私有地では誰も助けに来るはずがない。

 悲鳴を聞きつけた若者たちが敷地内に勝手に入り込んできていたが、彼らはニヤニヤ笑いながら暴行をスマホで撮影するだけだった。

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