06 雲の上の暮らし
次の日の朝。
俺は雲の上のような最高の感覚で目覚めた。
まさに王様が寝るようなキングサイズのベッド。
両脇には、まるでひとつになり足りなかったかのように、一糸まとわぬ美少女たちがしがみついている。
少女たちの肌は吸い付いてくるようにもちもちで、赤ちゃんの肌のように柔らかい。
しかもベトつかずにサラサラで、絹のような触り心地。
贅肉と呼べるものは胸部と臀部以外にはなく、しかしあるべき所にはたっぷりとある。
足腰なんてよくこの胸と尻を支えられいるなと思えるほどに細く、まばゆいくらいに白い。
体温はちょうどいい塩梅に保たれて、嗅ぐと落ち着くアロマのような香りでいっぱい。
まさに、最高級の肉布団だった。
おかげで、掛け布団なしでもグッスリだ。
俺の左胸にいたポチが、「くぅん」と鳴く。
目が合うと、ポッと頬を赤らめる。
「おはようございます、ご主人様。さ、昨晩はその……ととっ、とっても素敵でした」
頬を撫でてやると、嬉しそうに手を添えてくる。
俺の右胸にいたタマは、ゴロゴロ喉を鳴らしていた。
「おはようございます、ご主人様。空腹を確認いたしました、お食事はこちらで……」
その言葉を遮るように頬を撫でてやると、嬉しそうに目を細める。
朝いちばんのスキンシップで甘え心が加速されたのか、ふたりは俺の胸に頬ずりを始めた。
美少女ふたりにスリスリされて起きるというのは、朝のルーティンとしては最高の部類に入るだろう。
しかも腕枕していたのに、ぜんぜん腕が痺れていない。
これもゴーレムの機能のひとつなのかもしれないな。
俺は路地裏の一件のあと、もうひらきなおってコソコソするのはやめた。
『勇者』であると公言はしないまでも、どうせいずれバレるのなら堂々と生きてやろうと思ったんだ。
それから俺たちは路地裏を出て、当面の活動拠点としてホテルにチェックイン。
もちろん、最高級のロイヤルスイートだ。
新しいマンションを借りるなり家を買うなりも考えたのだが、48時間以上留まると位置がバレてしまうからやめておく。
いずれにしても、もう風呂もトイレもないボロアパート生活とはオサラバだ。
ベッドから起きだした俺はまずシャワーを浴びた。
俺はただ立っているだけで、髪も身体もぜんぶゴーレムたちが洗ってくれる。
バスルームから出ると身体を拭いてくれて、テキパキと着替えさせてくれた。
本当に王様にでもなった気分だ。
部屋を出て展望のレストランで少し遅めの朝食を取る。
ポチはレストランでもあれやこれやと俺の世話をしたがった。
ついにはウエイトレスのように料理の配膳までしだして、店員に止められてショボンとなっていた。
俺はひとりで食事をするのには慣れていたが、せっかくだからゴーレムたちにも同じメニューを注文する。
食べながら、どうでもいいことを尋ねた。
「ゴーレムってのは飯も食えるんだな」
「はい。わたくしたちは人間の五感をすべて有しています。
味覚もありますので味もわかります」
「ふわぁ……。このクロワッサン、とってもおいしいです。
こんなおいしいパンを、ご主人様に焼いてさしあげられたら……」
タマは事務的に俺の問いに答え、ポチは口に運んだ料理にいちいち感激している。
「食ったものはどうなるんだ?」
「はい。3つの中からお選びいただけます。
活動のエネルギーとしてすべて消費するのと、後で取り出せる食料として貯蔵。
もうひとつのは今お知らせするのは相応しくありませんので、後ほど……」
「なんだ、気になるじゃないか。構わんから言ってみろよ」
「はい。『排泄物のような見た目に変える』です。
排泄はご主人様の任意のタイミングで……」
「いや、もういい、わかった」
「ふわぁ……。このスープも、とってもおいしいです。
こんな心まであったかくなるようなスープ、ご主人様のお口に……うふふ」
「ポチは口を開けばご主人様のことばかりですね。
わたくしも自重しているのですから、ポチも少しは自重しなさい」
「きゃいんっ!? す、すみませんっ! つ、つい心の声が出ちゃってました!」
「思考が声となって漏れるということは、どこか不調なところがあるのではないですか?
情報漏洩に繋がるといけませんので、いちど本社に戻ってチェックを……」
「きゃぃぃぃーーーんっ!? そんなぁ!?
本社に戻ったら、ご主人様と離ればなれになっちゃいます! そんなの絶対に嫌ですっ!」
「冗談ですよ」
「きゅぅん……。ああ、びっくりしたぁ……」
美少女ふたりのやりとりはなんだかほのぼのしていて、まわりの客も思わずニッコリさせてしまうほど。
そしてこんなに賑やかな食卓は、俺にとっては生まれて初めてのことだった。
食後のコーヒーを飲んでいる時に、タマがこんなことを言った。
「ご主人様、お知らせいたします。昨日、街中にいたわたくしたちを撮影した動画が、すでにインターネットにアップロードされているようです。
ご覧になりますか?」
「見られるのか?」
俺はスマホなんて持っていない。
ポチもタマも持っているような素振りはなかった。
しかしタマが指先をチョイチョイとやると、目の前の空間に魔法陣のようなものが浮かび上がる。
その魔法陣の中には長方形の窓があり、件の動画が再生されていた。
俺は完全に見切れてて、映っているのはポチやタマばかり。
コミケとかにいるコスプレイヤーの動画を観ているかのようだった。
「おお、すごい、こんなこともできるのか」
「はい。わたくしたちは常時インターネット接続を行なっておりますので、スマートフォンやパソコンなどと同等の機能を有しております。
お申し付けくだされば、通話や音声メッセージのやりとり、メールやニュースの閲覧、ネットバンキングやネットショッピングなども可能です」
「そりゃいいな」
「他にも、スケジュール機能などもございます。
本日、ご主人様の勤務している『オーク建設』は給料日です」
言われるまで忘れてた。
崖から突き落とされても絶対に忘れず、いつも指折り数えて待ち望んでいた日のことを。
それどころか46億円のことで頭がいっぱいで、仕事に行くのもすっかり忘れてた。
今頃はみんなカンカンだろうなぁ。
まあ、どうでもいいか。
たった給料5万の仕事なんて、ボロアパートといっしょに捨てちまえ。
しかしふとある考えがよぎり、俺はタマに言った。
「なあタマ、ちょっと知恵を貸してくれ。こういうことをしたいんだが、可能か?」
「はい、可能です。15分ほどお時間をいただければ、関係各所は押えておきます」
なんとタマは、おかわりのコーヒーを飲み終えるほどのわずかな時間で、準備を整えてしまった。
なんの準備かって? それは……。
「よぉし……! それじゃいっちょ、『給料』をいただきに行くとしますか……!」




