05 キッスのち間接キッスところにより百合キッス
俺はふたりの美少女ゴーレムを引きつれてショップを出る。
包帯を巻いたコンシェルジュが、いつまでも俺を見送ってくれた。
街中に戻った俺は、いつになく周囲の視線を感じる。
厳密にはその視線は、俺の背後に注がれていた。
「おい、見ろよ……!」
「すげぇ、超かわいい……!」
「服装からして、新人アイドルのテレビ撮影かな?」
「いや、今なら動画投稿サイトの撮影だろ!」
「犬みたいに人なつこそうな子と、猫みたいにクールな子、どっちも最高ね!
「わたしも、いっぺんにファンになっちゃった!」
「あんな超絶美少女、あっという間に覇権だろ!」
ポチとタマは道行く人が誰もが振り返り、ヒソヒソと噂。
完全にアイドルかなにかと勘違いされて、スマホで堂々と撮影される始末。
し……しまったぁ!
ゴーレムを美少女にしすぎちまったせいで、メチャクチャ目立っちまってるぅ!
俺は血が凍るような思いで路地裏に逃げ込む。
主人に忠実な猟犬のように、ポチとタマが一糸乱れぬ動きで後に続いた。
壁に手をついてハァハァしていると、ポチがすかさずハンカチを取りだし、額の汗を拭ってくれる。
タマは俺の顔をじーっと見つめていたかと思うと、
「ご主人様の体温の上昇と、口渇を察知しました。
わたくしが冷風をお送りしますので、ポチはご主人様にお飲み物を差し上げてください」
タマは「ご主人様、失礼いたします」と俺に断りを入れてから、薔薇の花びらのような唇をすぼめて、俺にフーと息を吹きかけてきた。
タマの口から出る息は爽やかな香りで、クーラーみたいに冷たくて気持ちいい。
ゴーレムショップのVIPルームで初めて体験したことなのだが、ゴーレムというのはものすごく気が利く。
だから俺がちょっとでも息を切らそうものなら、こんな感じであれやこれやと世話をしてくれるのだ。
次は飲み物かと思っていると、ポチは急に申し訳なさそうにする。
「あの、すみませんご主人様、お飲み物のほうなのですが、いまはお水しか持っておりません。
他のお飲み物がよろしければ、わたし、買ってまいります」
こんな美少女をパシらせるとまた目立ちそうだったので、「いや、水でいい」と答える。
するとポチはなぜか、はにかんだ様子で「はい、かしこまりました」と頷く。
すこし緊張気味に、白魚のような指で長い髪をかきあげると、目を閉じる。
その整った顔が、その桜の花びらのような唇が、遠慮がちに俺に近づいてきたかと思うと、
……ちゅっ。
唇が重なった。
俺の目はその時きっと、回転するリバーシの駒のように白黒していたに違いない。
そして気付く。
冷たい液体が、ポチのやわらかな唇を通して俺の口に流れ込んでくることに。
俺の狼狽を察したのか、すかさずタマが言い添える。
「ポチは水属性と地属性のゴーレムです。
体内には魔法技術による空間圧縮タンクがあり、そこに液体を貯蔵できます。
液体は任意の場所から出すことができます。
初期設定では、水分補給のための液体が出る箇所は『唇』となっておりますが、自由に変更が可能です」
てっきりペットボトルでも出してくるのかと思ったが、まさかの口移しとは……!
俺はごくごく喉を鳴らして『ポチ水』を飲み干す。
こんなにうまい水は、生まれて初めてだった。
そしてこれは、俺にとってのファーストキスでもあった。
思わずチュウチュウと吸い付いてしまったが、ポチは嫌な顔ひとつしない。
俺は美少女の唇をじゅうぶんに堪能したあと、ぷはあっ、と顔をあげる。
ポチから顔を離してもなお、ふたりの唇は唾液の糸で繋がっていた。
まるで、濃厚な口づけであったかのように、
ポチは少し残念そうにしていたが、汗を拭っていたのとは別のハンカチを取り出すと、俺の唇を拭いてくれた。
そしてぺこりと頭を下げると、犬のように鳴いた。
「きゅぅん……。大変失礼いたしました。次からは別のお飲み物をご用意しておきますね」
まるで彼女も初めてのキスだったかのような、恥じらいの上目遣いを向けてくるポチ。
俺はもうずっとドキドキしっぱなし。
しかしそこに、事務的な声が割り込んでくる。
「液体の補充には、口座からの引き落としの設定が必要です。設定されますか?
わたくしやポチの補充が必要な物資に関しては、一括で引き落とし設定をされるのが便利ですが、いかがいたしましょう?」
「あ……ああ、頼む」
「かしこまりました」
タマの案内のおかげで、俺はだいぶ冷静さを取り戻す。
そして今になって、複雑な思いが押し寄せてきた。
このゴーレムたちは最高だが、メチャクチャ目立つ……!
こんなのを連れて歩いてたら、襲ってくれって言ってるようなもんじゃねぇか……!
俺は少し思案したあと、彼女たちに言った。
「おい、ポチ、タマ、もうちょっと目立たない服装に着替えてくれるか?
秋葉原にしかいなさそうなメイドと、AVにしかいなさそうな秘書じゃ目立ちすぎるからな」
するとポチは「えっ」と意外そうな顔をしたが、タマは違った。
「46億円のことを気にされているのですね」
なんと彼女は眉ひとつ動かさず、核心を突いてきた……!
「な、なんでそれを知ってるんだ!?」
「いえ、知っていたわけではありません。
いまご主人様が抱えておられるものは、一見してボーリング球に見えますが、鎖鉄球と呼ばれる拘束具です。
その客観的事実と、昨今のニュースを照らし合わせてたどり着いた予想にすぎません。
もしこの予想が合っているのであれば、わたくしたちの服装はこのままで良いかと思われます」
「なに? それはどういうことだ? 目立ったほうがいいってことか?」
「はい。街中を歩いていたとき、通りすがりの方々はわたくしたちの格好を見て、テレビや動画投稿サイトの撮影ではないかと話されておりました。
いまニュースや巷の噂は、『46億円ゲーム』のことで持ちきりです。
しかしどなたもそのゲームと結び付けて考えた方はおられませんでした。
それは46億円を持っているような人間は、もっとコソコソしているというイメージがあるからと予想します」
「な、なるほどぉ……!」
むしろ隠すよりも、堂々としていたほうが怪しまれないということか。
言われてみればその通りかもしれない。
さっそく有能な秘書っぷりを発揮しているタマは、淡々と続ける。
「そしてご主人様が『46億円ゲーム』の『勇者』であることが明るみに出るのは、時間の問題かと思われます。
なぜならば、ご主人様はすでに11億円ほど遣われました。
その巨額なお金の動きは、すでに察知されているものと思われます」
「そんなことができるのか!?」
「はい。銀行口座でお支払いされた場合、その記録はインターネットを通じてやりとりされます。
ハッキングなどの技術を用いれば、支払い情報の参照が可能です。
さらに銀行のネットワーク担当であれば、簡単にご主人様を『勇者』だと突き止めることができるでしょう」
「な……なんだとぉ……!? そんな手があっただなんて……!」
ワナワナ震える俺。
タマの眼鏡が、獲物を追いつめた猫のようにキラリと輝く。
「もはやご主人様は、袋のネズミなのです」
その瞬間、俺は直感した。
もしやコイツは、『敵』……!?
俺はもうずっとドキドキしっぱなし。
しかしそこに、家庭的な声が割り込んでくる。
「タマちゃん、はいどうぞ」
ポチは微笑みとともに、ハンカチをタマに手渡していた。
受け取ったハンカチを、タマはしきりに口に当てている。
口を拭いているというよりも、まるでハンカチにキスしているみたいに。
「……なにやってんだ?」
尋ねると「間接キスです」とだけ答えるタマ。
まるで意味不明だったが、相方のポチはすべてを察しているかのように「うふふ」と笑っていた。
「タマちゃん、ご主人様のお口を拭いたハンカチ、ずっとチラチラ見てましたもんね」
しかし、その笑顔はすぐに凍りつく。
タマがいきなりポチの両肩を抱いて、ずずいっと迫ってきたからだ。
「きゃいんっ!? いきなりどうしたのタマちゃん!?」
「じっとしてください、ポチ。
よく考えたらハンカチとキスするよりも、ポチとキスしほうが、よりご主人様とキスしたことになると気付きましたから」
「ま、待ってタマちゃん! わたしタマちゃんのことはご主人様の次に大好きだけど、こ、心の準備が……! んむぅっ……!」
そして始まる百合キッスに、俺は戸惑いを隠しきれずにいた
どうやら俺は……とんでもないヤツらを味方につけちまったようだぜ……!




