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10 コロシアムへ

 ヒショークより送られてきた動画を、タマが再生する。

 それは太の末路で、試合後のボクサーのように真っ白になり、崩れた顔のまま警察に引きずられていく一部始終が映っていた。


 俺は長いこと胸を詰まらせていたものが、ようやくストンと落ちたような、スッキリとした気分を味わう。


 ああ……! 今まで生きてきて、最高の瞬間だ……!

 復讐がこれほどまでに気持ちいいだなんて、知らなかった……!


 『オーク建設』の資材置き場で、オレンジ色の空に向かって大きく伸びをする俺。

 隣にいたポチが「おつかれさまでした、ご主人様」と、どこからともなく取りだしたあったかいおしぼりで、顔を拭いてくれた。


「ポチ、喉が渇いた、水をくれ。もちろん口移しでな」


「かしこまりました、ご主人様。

 今後も口移しをお望みでしたら、『ウォータークーラー機能』をオンにいたしましょうか?」


「なんだそれは」


「はい。お水が欲しいときは、ポチの足を踏んでくだい。

 そしたらポチが上を向きますので、お口を近づけてくだされば……」


 自分で提案しておきながら、恥ずかしそうに言い淀むポチ。


 俺はためしにポチに近づくと、エナメルブラックのメイドシューズの爪先を踏んでみる。

 するとポチは両目を閉じ、キス顔を作って上を向いた。


 キスはまだ慣れないのか、身を固くしている。

 そして俺の顔に少しでも近づこうとしているのか、背伸びをするあまりチワワみたいにプルプル震えていた。


 俺は顔を傾けて、その健気なメイドの唇を吸う。

 まわりにいた従業員オークどもが「いいなぁ……」と見とれていた。


 水を飲んでポチに口を拭いてもらっている最中、社屋でいろいろ調べていたタマが戻ってきた。


「お待たせしました、ご主人様。『オーク建設』の資料をすべて閲覧し、現状を把握しました。

 それを元に事業計画書を作成しましたが、ご覧になりますか?」


「いや、いい。俺のオーダーの通りにしてくれてるんだろ? だったら任せるよ」


「かしこまりました。それでは費用のほうをご報告させていただきます。

 登記や権利書の書き換えに要した、警察署長や役所への付け届け。

 そして新しい事業計画を遂行するにあたり、労働環境と配偶の改善、従業員の増員、新社屋の建設などの設備強化。

 さらに信用回復のために手抜き工事のやり直しの費用を見積もりました。

 ぜんぶあわせて、15億円ほどです」


「そんなもんか。わかった、実行してくれ」


「かしこまりました。それでは事業計画書のほうをヒショーク社長代理にメールでお送りしておきます。

 あとはわたくしのほうで、事業の進捗のほうはチェックさせていただきます」


 タマはおそらく世界一優秀な秘書だろう。

 俺とこうやって話している間にも、内臓されたコンピューターでメールや電話のやりとりをし、書類作成や銀行の振り込み手続きを行なっているらしい。


 不意に、くいくいと俺の服の袖が引っ張られた。

 ポチがもじもじと俺を見上げている。


「なんだ、ポチ?」


「あの、ご主人様……。タマちゃんはご主人様のために、いっしょうけんめい頑張っていると思います……」


「そうなのか? 楽にこなしているように見えるが」


「はい、そう見えるんですけど、タマちゃんはあんまり表に出さない子なんです。

 ですからタマちゃんのがんばりに、ご褒美をあげてくださると、嬉しいな、なんて……」


「ご褒美? それはどんなのなんだ? 金か?」


「いえ、わたしたちゴーレムは、ご主人様とのスキンシップがいちばんのご褒美なんです。

 わたしはお水を差し上げるときに、ご褒美もいっしょにいただいておりますが、タマちゃんは……」


「なんだ、そういうことだったのか」


 タマを見やると、タマは「ご褒美なんていりません」みたいな素っ気ない顔をしている。

 しかし頭を撫でてやるとポニーテールが猫の尻尾のように動いて、俺の手首に絡みついてきた。


 ポチは微笑んだ。


「うふふ、タマちゃんは嬉しいと、ポニーテールで表現するんです。ねっ、タマちゃん?」


「嬉しいかと問われたら、嬉しいに決まっています。

 ご主人様に触られて嫌なゴーレムはいません」


 タマの口調は淡々としていたが、その頬はほんのり染まっていた。

 喉がゴロゴロと鳴りはじめ、止まらなくなっている。


 俺はタマのアゴを人さし指で押し、クイッと上を向かせると口づけをした。

 タマは「んふっ」と少し驚いたような声を漏らしたが、されるがままになっている。


 ポチは胸の前で指を絡め合わせ、「わぁ……! よかったね、タマちゃん!」と我が事のように嬉しそうにしていた。


 しばらくしてぷはっと口を離すと、タマは酔っ払ったみたいに真っ赤になっていた。

 瞳は潤んでとろんとしていて、ルージュから漏れる吐息は視界を曇らせるほどに熱くて色っぽい。


 マタタビを与えられた猫のように、タマはつぶやく。


「ふ……ふにゃあん……。あ……ありがとうございます、ご主人様ぁ……。

 こんなに素敵なご褒美をいただけて、わたくし、幸せです……」


「そうか、またご褒美が欲しかったら、これからも俺のために尽すんだぞ」


「も……もちろんです、ご主人様……。

 は……はぁぁぁんっ……」


 タマはとうとう立っていられなくなり、くたっと俺にしなだれかかってきた。



 所持金 20億円



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 そのあと、俺たちはとある街の繁華街のホテルにチェックイン。

 そしてさっそく夜の街に繰り出していた。


 この時の俺はもうボーリングの球を自分では持たず、ポチとタマに持たせていた。

 こんな重いものを女の子に持たせるのはアレかと思っていたのだが、彼女たちは俺よりもずっと力持ちだった。


 タマはノートパソコンでも持ち歩くかのように軽々と小脇に抱えている。


 ポチにいたっては、まるで俺との赤ちゃんを授かったみたいに胸のところで大切に大切に抱えていた。

 なぜか時折話しかけたりして、手にしたハンカチでしきりにふきふきしてる。


 そんなことはさておき、俺の行先は『カジノビル』と呼ばれる全階がギャンブル場になっているビル。

 その地下にある『コロシアム』と呼ばれる闘技場のVIPルームに入った。


 最高級のVIPルームはお忍びで来日したハリウッドスターなどが利用し、ひと晩で1千万ほどかかる。

 そのかわり、まさに古代ギリシャの皇帝のようなもてなしでギャンブルを楽しめるんだ。


 俺がコロシアムを一望できるソファに腰掛けると、さっそく女たちが寄ってくる。

 しかし俺は全員追い払って、ポチとタマを横に座らせた。


「おいポチタマ、ここは酒も食い物も頼み放題だから、好きなだけ食って飲んでいいぞ」


 そう言うと、ポチはさっそくフルーツパフェを、タマはキャビアを注文していた。


 この『コロシアム』は人間やモンスターが入り乱れて戦い、古代ギリシャの闘技場さながらの、本気の殺し合いが展開される。

 汗と血が迸り、鉄と骨がぶつりかり合い、皮や肉が引き裂かれ、生き物の本性が剥き出しになる様は見ているだけでも楽しい。


 しかも予想が当たれば金が貰えるんだから、この地球上でもっとも楽しい場所であるといっていいだろう。

 そして今の俺にとっては『新たなる狩場』といっていい場所であった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 未だに明かされない主人公のスキル…… そして 未だに現れない略奪者…… まぁ、狩れば狩られる側になる点でそれでも手を出してくる猛者はそうは居ないんだろうけど
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