恐怖の一夜
サーラが恐ろしい予言のような事を口にして、一番怖いのは私だわ。
「サーラ……私この部屋に今晩ひとりぼっちは嫌よ!」
「こんなところいますぐにでも経ちましょう! そして国王陛下にこの事を報告するんです!」
フィンが怒っているように言うのだけど、そこでもまたサーラが証拠も無いのにそのような事はできませんって言われちゃうわ。
「それじゃあサーラさんは姫様をこの部屋に1人で寝させるつもりですか!?」
「それが一番領主に対しても失礼が無いでしょうね。 既に対策は考えてあるので大丈夫です」
おおおってフィンとアルバロの口から声が上がって、どういう対策か聞いてくるのだけど、サーラは腰に手を当てて呆れたような素振りを見せるわ。
「そんな大層なものじゃないですよ。 部屋の中は無理であっても、扉の前で見張っていれば良いんじゃないですか?」
それって寝ずの番って奴よね。 そんな大変な事、明日もずっと歩くのにキツいんじゃ……
「なるほど!」
「交代でなら楽勝ですね!」
2人は気さくに了承してくれるわ。
「2人ともいいの?」
「任せてください、この間の親父の罰に比べたら可愛いもんですよ!」
「これでも元冒険者ですからね。 楽勝ですよ!」
そうは言ってくれたけど、2人には申し訳ないなぁ……いくら私の護衛だからと言っても、なんでここまでしてくれるのかな。
「や、やっぱり2人には悪いから、私、我慢するよ……」
そうよ、いくらなんだって言っても、覗きをする様な人だとしてもさすがに夜這いはありえないわよね? というより私まだ12歳だよ?
私のこの判断に少し問答が起こるんだけど、サーラが今のうちから少しづつ慣れておくのも大切っていう言葉で、フィンとアルバロもしぶしぶながら納得してくれて、みんな部屋を出て行ったわ。
で、今に至るのだけど……
真っ暗になった慣れない部屋にポツンと1人、普段は気にもならない虫やフクロウの鳴き声や風による木々のざわめきが、今日はやたらと気になって不安からなかなか寝付けないでいたわ。
たまに聞こえるギィギィギィという、部屋の中を誰かが歩いている、人がいると錯覚する様な音に、私は布団を顔まで被って寝ようとするのだけど、結局寝付く事がないまま朝を迎えてしまうの。
「ララノア凄いクマが出来ているわよ?」
「眠れなかったでありんすか?」
クローロテースとブリーズお姉様に言われて、ボーッとしたまま姿見を覗き込むと、布団を顔まで被っていたせいで、髪の毛はぐしゃぐしゃ、目の下は黒いクマが出来ていて酷い有様だわ。
そこへサーラが姿を見せて、私たち3人のところへ何も言わずに3色の3枚の布を汚いものを摘むようにして持ってきたわ。
「朝食をいただいたら出発します。 ララ、貴女が取り仕切らないとダメなのだから、しっかりしなさい」
サーラがそそくさと部屋を出て行った後、置いてある布を見たら昨日脱衣所で無くなった下着だったわ。
私が寝付けないでいる真夜中、サーラはベッドから1人出ると部屋を抜け出して、ある部屋の前まで来ていたわ。
おもむろに扉を開けるとそこは領主の息子の部屋で、見るもおぞましい行為をしている真っ最中だったの。
サーラの姿を見た領主の息子はその行為をやめて、慌てふためき出したわ。
「プリンセスの、つ、付き人が何勝手に僕の部屋に入ってきているんだ!」
「お返し願えますか?」
領主の息子が持つ布切れを指差しながらサーラが覚めた目で言うと、なんの事かわからない、これは自分のだとのたまうの。
「女性物の下着を所有するなんて殊勝な趣味をお持ちですね? ちなみに今お持ちのそれはララの特注の物と同じもののようですが?」
もちろんこれはサーラの嘘よ。 だってサーラは一度たりとも私の着替えには立ち会った事が無いもの。
「ぼ、僕も特注したんだ」
どんどん領主の息子の側まで近づいたサーラは、髪の毛を掴んで顔を上げさせると、冷たくこう言い放ったわ。
「私、少しばかりですがドルイドの力がありまして、動物とコミュニケーションが取れるのだけれど、犬を連れてきてもし、ララの匂いが残っていたりしたら……どうなるかわかっていますよね?」
「そ、そんなの適当にだって言えるじゃ無いか!」
「ベネトナシュ王妃もドルイドなのはご存知ありませんか?」
そこまで言われるとさすがに諦めたのか、領主の息子は下着を渡そうとしてくるのだけど、ハッと何かを思い出したのか顔をニヤつかせ出して下着はしっかり引っ込めるわ。
「ぼ、僕はララたんと結婚するんだ。 だからこれはお嫁さんの下着を僕が預かって……」
「お前いい加減その辺にしておけよ? お前が畏怖されるソーサラーで、その力を使って不可視化して盗んだ挙句、覗きまでしようとしたことはもうわかってるんだ! これ以上罪を重ねるのなら没落も覚悟して貰うぞ?」
外見が綺麗なサーラがドスを効かせて言っても怖くは無いのだろうけど、その自分自身しか知りえない内容を言い当てられて、挙句没落覚悟と言われればさすがの領主の息子も謝りながら返してきたわ。
そしてそれで私たちの元に返ってきたってわけ。
ブリーズお姉様が自分の下着を手に取った瞬間、はたから見てもわかるぐらいその腕に鳥肌を立てて涙目になりながら、すぐに手を離したかと思うと花瓶の水に指をつけて洗い出したの。
「ブリーズお姉様?」
私も自分の下着を手に取ると、なんだかカピカピした触り心地がするよ?
「……なんだろう、なんかカピカピしたのがついてる」
「ララちゃん、クローロテースさん、触っちゃダメでありんす! ……あ」
ブリーズお姉様に腕を掴まれて、烈火の勢いで花瓶の水の中に指をつけられるの。
「それは捨てんしょう。 いいえ、焼却処分した方がいいでありんすね」
そうブリーズお姉様が言って、クローロテースは手を触れずに匂いを嗅ぎ出すと、烏賊の匂いがするのは何でだろう? って言ったわ。
理由を聞かされた私とクローロテースは、全身に鳥肌を立たせながら悲鳴を上げたわ。
もちろんその後にすぐに焼却処分よ。




