卑劣
新章に伴い、登場人物を修正してあります。
その日のうちにお父様はマクシミリアンと兵を率いてヴィロームに向かっていった。
残されたお母様は不安そうに姿が見えなくなっても、しばらくの間お父様が向かった方角を見続けてた。
「お母様、そろそろ中に入って」
お母様と王宮に戻ったけれど、戦える者はみんなついて行った為、兵士の姿は僅かしか見えない。 あとは不安がる侍女やメイドたちの姿だけ。
「王妃様、プリンセスのおかげで後方の憂いなくヴォーグ王は戦いやがれます。 それにすぐに同盟国より援軍も来やがりますからそう心配しやがらないでくださいな」
ログェヘプレーベは王宮に残って、お父様がいない間の内政を任されたそう。
とは言っても普段から任せっきりだけど。
翌日にはウィンストン公国からは使者が、キャビン魔導王国からはエアロ女王本人が訪れ、セーラム女帝国からはセーラム女帝自らが訪れてきた。
王座は空席のまま、その横に私とお母様が立って謁見する。
その内容はとんでもないものだった…………
「大変申し訳ありませんが、援軍が送れなくなりましたよ」
「え、援軍が送れないってどういう事!?」
フードを深く被って顔を見せないようにしている、ウィンストン公国の宮廷魔術師と言うルベズリーブがいの一番にそんな事を言ってきた。
「どういう事! まさか……」
エアロ女王も同じく送れないのだそう。
「私のところも無理。 たぶんドワーフのところもね」
「どういう事ですかセーラム女帝」
すると1枚の羊皮紙を差し出してくる。 中を拝借すると、そこにはとんでもない事が書かれていた。
『マルボロ王国の援軍要請を受けた場合、直ちにメビウス連邦共和国は貴国に進軍する
ーーーーーメビウス連邦共和国代表、遺跡の領主』
「なるほど、つまりプリンセスが戴冠式の時に誓わせやがった事を裏手に取りやがりましたか」
「どういう事、ログェヘプレーベ」
「つまりマルボロ王国に攻めやがらなければ神々の制約は生きやがるという事です」
卑劣きわまりなかった。
大国であるメビウス連邦共和国の軍力は、英雄と呼ばれるほどの逸材は存在しないものの、兵の数で圧倒する。
例えセーラム女帝が強くて、押し寄せる大軍から我が身は守れても国と国民を守りきる事までは不可能なのだそう。
それをも可能にまでするのは神の代行者らしいのだけど……
「それをもあいつら対抗策を練ったようなのよね」
「じゃあアリエル様もキャス様も来れないって事?」
「……そう、なるわね」
セーラム女帝が悔しそうに歯噛みしてみせる。
「ララさん! じゃなかったプリンセス! メビウス連邦共和国から使者が来ています!」
慌てた様子でアルバロが姿を見せる。
すぐに通させると、使者はセーラム女帝たちの姿を見て顔をニヤつかせながら頭を下げてきた。
「これはベネトナシュ王妃様、プリンセス ララノア、ご機嫌麗しゅう。
本日は我がメビウス連邦共和国代表、遺跡の領主の代行として参りました」
使者の内容はこう。
マルボロ王国がオークの進軍を受けているから助けてあげたいけれど、誓いのせいでできない。 なので、撤廃していただけるか、または私の事をいたく気に入ったらしいチェンマイとの婚姻を結んではいただけないかという事だった。
「ふざけるな! レイプまがいな事をするような奴と結婚なんて僕は許さない!」
アルバロが叫んで拒否してくるんだけど、それって私が言う事だよね。
それを見て、使いで来ているメビウス連邦共和国の使者が声を上げて笑い出した。
「いやはや、この国のプリンセスはご自分で決められないご様子。 ですがそうなりますと、オークの苗床にでもなってしまいかねませんよ? どうなさいますかな、プリンセス?」
そんな事はもうアルバロが答えている。 私の答えも同じ。
「どちらも似たようなものなので、どうぞお引取りを」
ルベズリーブが今の私の言葉で今度は笑い出した。
「さすがヴォーグ王の娘さんですね。 そうは思いませんか、同盟国の使者殿方?」
セーラム女帝とエアロ女王も笑い出すと、メビウス連邦共和国の使者が顔を真っ赤にしだして怒鳴り始めた。
「わかりました! では今の言葉そのままお伝えさせていただきます。 後で後悔なさっても遅いですからね!」
言うだけ言ってメビウス連邦共和国の使者は、礼節もわきまえずに立ち去っていく。
完全に姿が見えなくなったところで、ルベズリーブが今後の実際問題の話をしてくる。
啖呵を切った以上、同盟国の援軍も得られない状態でマルボロ王国はこの危機を乗り越えなければならない。
「ログェヘプレーベ、それとルベズリーブさん、2人は以前の時を知っているんだよね? よければ話を聞かせてもらえるかな?」
2人が顔を見合わせて、頷くとログェヘプレーベが話しだした。
ルベズリーブはその時はガウシアン王国にいたから、あとから聞いた話なんだって。
以前の時は基本的にハイオークとオークだけで、ドラウは極少数、ここ王都には【闘争の神レフィクル】が倒した1人だけだったらしいわ。
「じゃあ今回もオークがほとんどなのかな?」
「簡単に言ってくれているようですが、昔であればいざ知らず、今の兵や冒険者では苦戦は必須ですよ」
私のお気楽な言葉に、ルベズリーブが少し嫌味のこもった言い方で返してきた瞬間、ログェヘプレーベがルベズリーブを殴り飛ばして、ひっくり返って倒れる。
いきなりの事に謁見の間が騒然となる中、私が殴られて倒れたルベズリーブに駆け寄って支えて起こす。
「大丈夫? ルベズリーブさん」
すぐにログェヘプレーベに向き直って、
「ログェヘプレーベもなんでいきなり殴ったりなんてするのよ! 謝りなさい!」
「いえ、謝りやがるのはルベズリーブでやがります! ルベズリーブ! プリンセスを見やがりなさい!」
何を訳わからない事言ってるのよって、ルベズリーブを見て目を見開く。 アルナイル先生に種族の勉強の時に習った中でも特に珍しい虫人が目の前にいた。
「わぁ! ルベズリーブさん虫人だったのね! 珍しい種族って聞いていたけど、こんな身近にいたなんて! お会いできて光栄だわ!」
喜ぶ私とは反対にルベズリーブは驚きの表情のまま私を見つめている。
「私を見て何も思わないのですか、貴女は?」
「うん? 珍しい種族なのよね」
「プリンセス ララノアはそういうお方でやがる」
不思議に思いながらログェヘプレーベとルベズリーブを交互に見つめる。
ルベズリーブが体を起こして片膝をつくと頭を下げてきた。
「先ほどは大変失礼致しました」
訳がわからないんですがー?
私が???ってなっているとログェヘプレーベが説明してくれる。
通常、虫人はその姿形から人々から不気味がられて畏怖されるそうなんだけど、私がそんなそぶりを見せないだけでなく、普通に接している事に驚いたのだそう。
「だって同じ人種なんでしょ? 訳がわからないよ」
ログェヘプレーベが満足そうな顔をしながらルベズリーブの事を見て、ルベズリーブも私の事を見て呆気にとられているようだった。
「とりあえず話を戻そう?」
のんびりしてる猶予なんてないのだから。
ついにドラウの進軍が開始されました。




