ジークフリートと……森へ
翌朝目が覚めて着替えを済ませた私が、ダイニングルームに向かうとジークフリートが待っていた。
「おはようございます、プリンセス」
「お、おはよう、ジークフリート」
フィンやアルバロと違って、まるで一緒に一晩過ごしたみたいでちょっとだけ照れちゃう。
ジークフリートはいつもの騎士姿ではなくて、今日は普段着のようで、多少ラフな格好に見えるのだけど、それでもジークフリートが着ると見栄えが違って見えた。
食事を済ませると早速ジークフリートが私の手を引いて連れ出そうとしてくる。
「場所まで少しあるので急ぎましょう」
用意された馬に、私が前で後ろからジークフリートが乗ってくる。 こういう乗り方は初めてだったから、なんだか抱きしめられているみたいで恥ずかしくなっちゃう。
「では参ります。しっかり掴まってください」
「うん」
町を抜けて森に入っていく。 綺麗な森でユニコーンが今にでも出てきそう。
「綺麗な森ね」
「ここにはケンタウロスが住んでいると言われています。 残念ながら出会ったことはありませんが、魔物の類は一切見かけないので一概に嘘とは言えない場所なのです」
あは、ケンタウロスの方なんだ。
しばらくするとジークフリートは馬を止めて降りる。 私を下ろすと馬を木に繋いだ。
「ここからは少し歩きになります」
言われた通り結構足場が悪いところなんかを進んでいって、ある程度するとジークフリートが私に振り返ってくる。
「もう直ぐ到着です。 ですが、ここからは私が良いというまで目を閉じていてください」
目を閉じるとジークフリートが私の手を引いて慎重に進んでいく。
「さぁ、目をゆっくり開けてください」
目を開けると目の前には神秘的な光景が広がっていて、森に囲まれた中にひっそりとある澄んだ泉がまた余計に神秘さを感じさせてくれる。
「わぁ! なにこれ凄く綺麗!」
「喜んでいただけましたか?」
「ええ、とっても!」
ジークフリートにひかれていくと、泉の場所に1箇所だけまるで作られたかのような開けた場所があって、そこに来て足を止める。
「ここで今日はノンビリ会話というのはダメですか?」
「うううん、こんな素敵な場所で過ごせるなんて夢のようよ」
ジークフリートが背負っていた荷物を下ろすと、フルーツやらの食べ物を出してくる。
「どうぞ、プリンセス」
「何から何までありがとう、ジークフリート」
ここで座って会話を楽しみながら景色を眺める。 泉は澄んでいて底が見えるほどで……
「あれはなにかしら?」
どれですって言いながら、中性的な顔が私の横にくっつきそうなぐらい近づけてきて、目線を合わせるように指差す先を見てくる。
「何か光ってますね、見てきましょう」
えっ? て振り返ると、ジークフリートが上着とズボンを脱ぎだして、パンツ姿になる。
「きゃっ!」
なんて顔を両手で覆いつつその隙間からこっそり覗いちゃう……
ざばーんって音を立ててジークフリートが泉に飛び込んだ。
「泉の水が冷たくて気持ちが良いです。 プリンセスも如何ですか?」
「う……わ、私はいいわ」
泳ぎながら、少しだけ残念そうな顔をジークフリートが向けてくる。
「私……お、泳げないの!」
「そうでしたか!」
なんて言いながら笑顔を向けたあと、光っている方へ泳いでいく。
“ララっち、あれ精霊だわさ。あの男、早く呼び戻した方がいい”
「え、あれ精霊なの?」
“正確には精霊が誘き出そうとしてるんだわさ”
イフリートが精霊といったあの光は、ドリアードが誘き出すために放っている光で、美しい男を見ると誘い込んで木の中に引きずりこむんだそう。
「ジークフリート、戻って! その光は精霊の仕業よ!」
泳ぎ着いたジークフリートに声をかけたけれど、私の声が聞こえていないのか、ある1箇所をジッと見つめてる。
その先を見ると緑の髪をした神秘的な美しい女性がいて、ジークフリートはその女性から目を離そうともしない。
「ジークフリート! ダメ、聞こえてない」
“あまり勧めたくないけど、倒すしか無いだわさ”
理由を聞くと、同じ精霊というのと、この森が安全で魔物がいないのは、あの精霊がいるからなんだって。 でもだからと言ってジークフリートをこのまま放ってはおけないよ。
ポシェットからサハラから貰ったスリングショットを取り出して構える。
「ドリアード! その人を返しなさい! さも無いと痛い目に合わせるわよ!」
ドリアードがジークフリートから私に初めて目を移してくる。 ケラケラ笑いながら。
仕方なく威力を抑えた石を飛ばすと、パチンって音がして肩に命中する。
“痛い! それ魔法の武器なのね。 でもこの人は渡さない。 この人は私のモノ”
ドリアードが急いでジークフリートを手繰り寄せるように木にひきづり込もうとしだす。
「ジークフリート!」
もう一度叫ぶと、頭を振るジークフリートの姿が確認できた。
“ウソ……私の魅了を自力で打ち破ったというの?”
「……貴女より素敵な女性が私の事を心配して待っていてくれてますから」
引き返し出すジークフリートを見たドリアードが、怒りの表情を浮かべて私の事を見てくる。
“許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、人間ごときに、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない”
近くの木々がざわつきだして、さっきまでの神秘的だった森全体が敵意を向けているよう。
「イフリート! なんとかして!」
“んー、仕方ないなぁ”
そう言うとイヤリングからイフリートが姿を現して、暴力反対の立て札を持って抗議し始めた。
そんなふざけたイフリートの姿に呆れる私をよそに、ドリアードは炎の最上位精霊であるイフリートを見て怯えだした様子を見せてくる。
“なぜ炎のしかも最上位精霊の貴方が私の森にいるの!”
“なぜってそりゃあ俺っちがララっちと契約を結んでいるからさぁ”
ドリアードが私を、イヤリングを見つめてきて驚いた顔を見せる。
“私の森を燃やされでもしたらたまったものじゃないわ。 ララっちと言いましたね。 最上位精霊に感謝してさっさとこの森から出て行きなさい!”
ララっちじゃないし……
敵意が無くなったようで、森はまた静けさを取り戻す。
ジークフリートも泉から上がって、この様子を驚きながら見ているんだけど、私は私でパンツ一枚の姿のジークフリートが気になって、目がチラチラ目移りしちゃうから驚いているよりも先に服を着て欲しかった。
「プリンセス、行きましょう」
「ジークフリートは先に服を着て」
私に言われて服を着だしたジークフリートを待つ間に、おとなしくなったドリアードになんでこんなことをしたのか聞いてみると、ヤキモチを焼いたんだそう。
以前よりたまに訪れるジークフリートを愛でて楽しんでいたのに、今日、ジークフリートが私を連れて来たこと、愛を囁くジークフリートを見て許せなくなったんだって。
「それで独占しようとしたのね。 でもそんなことがわかったら、それこそこの森は危険な精霊がいるって焼かれちゃうわ」
ションボリするドリアードが少しだけ可哀想に見えたけど、
「だが、やって良いことと悪いことがあります」
着替え終えたジークフリートが反論してきた。
「よりにもよって、大切なプリンセスをこの美しい場所に連れて来たかっただけだというのに……この森を燃やして今後このようなことが起こらないようにさせて頂く」
それだけは辞めてって懇願してくるドリアードを見て、なんだか可哀想になってくる。
「待ってジークフリート。 ドリアード、貴方はもう2度とこんなことはしないって誓えるの?」
“ち、誓います”
「神々……っと、最上位精霊に誓える?」
“はい……”
「なら、マルボロ王国次期女王が貴女を許すわ! 私だってこんな素敵な場所、失いたくはないもの」
素敵な場所と言ったのが相当嬉しかったのか、ドリアードが嬉しそうな笑顔を見せてくる。
ただこの場所も場合によってはドラウの進軍で荒らされてしまうのかもしれない。
一応警告だけしてしておこう……
「もしかしたら間も無くドラウの進軍があって、ここも先兵のオークがやってくるかもしれないのだけど、残念なことにここを守るだけの余力が私たちにはないの」
“それではここは結界を張らせていただきます。 早々に立ち去るといいでしょう。 もし助けが必要になったらここに逃げ込んでください”
ドリアードが頭を下げて木に溶け込むように消えていった。
ドリアードの森を抜けでて一先ず町に戻ることにする。
馬上でジークフリートに何度も謝られ、またイフリートと契約していた事に驚いていた。
「イフリートと契約している事はみんなには内緒よ? 知ってる人は凄くごく僅かなんだからね」
ジークフリートはわかりましたって言ってくれて、ホッとする。 ただの精霊であればまだ多少なりドルイドが契約している事もあるだろうけど、イフリート、最上位精霊ともなれば人種から見れば神様みたいな存在。
「プリンセス、せっかくお誘いして頂いたというのにこのような結果になってしまって申し訳ありませんでした」
「うううん、ジークフリートのおかげで素敵な森を見れたわ」
ただこの時私はジークフリートに対して少しだけ違和感は覚えていた。
以前から、キュモヲタの時から気になったのだけれど、ジークフリートは残酷なところがあると言ったら良いのかな。なんかうまく言えないけれどそういうところが感じられた。
「どうしました?」
「うううん、なんでもないわ」
優しい笑顔で見つめてくる。 慌てて私は悟られないようにごまかした。
町の近くまで来るとジークフリートがもう一度謝ってきて、二人乗りしている馬の上から私を抱きしめてきた。
「ぴゃ!」
「プリンセス、貴女を愛しています。 覚えておいてください、たとえ貴女の中で一番ではなくとも、私の中では貴女は一番なんです」
「は、はいぃ……」
後ろから抱きしめられて顔と顔をほとんどくっつけながら、こんなこと言われれば嫌でも顔が赤くなっちゃう。
私の中の違和感さえなければ……
この後屋敷に戻って何事もなく一晩過ごした私は、翌朝にはグリフィンに乗ってヴェニデの町から離れた。




