ヴェニデ領
ブックマークありがとうございます。
ヴェニデ領主エーリッヒの屋敷にグリフィンで降り立つと、すぐに兵士を引き連れたジークフリートが姿を見せた。
「これはプリンセス、お待ちしておりました。 グリフィンは如何いたしますか?」
「そうね、馬が怖がるからグリフィンには出てて貰うわ。 グリフィン、お願いできる?」
ピピッピ。
返事をするなり急いで飛び立つ。 暗くなってきているから、目が効かなくなる前に移動したんだと思う。
「それでは中へどうぞ、父もお待ちしております」
屋敷に通されてダイニングルームに連れて行かれると、食事まで用意されてエーリッヒが待っていた。
「これは姫君よくお越しくださいました」
「えっと、なんだか来るのがわかってたみたいね?」
「ははは、これで覗いておりましたからな。 身動きできぬ退屈な人間の暇つぶしですよ」
そう言ってエーリッヒは狙撃用の弓を見せてくる。
受け取って構えてみると、通常の弓とは違って弦が異常なほど硬いけれど、照準とする指に目を当てると凄く遠くまで見える。
「わわっ、これ凄い。 こんなのでグリフィンと飛んでる時に狙われたらたまったものじゃないわね」
「い、いえ……その弓をそう容易く扱われる姫君の方が驚きでございます。 さすが天賦の才をお持ちだ」
私は生まれ持って天賦の才というのを持つため、それがどれだけ凄いことなのかはわからなかったけれど、弓の名手であるエルフ族ですら恐れをなすエーリッヒが言うのなら間違いないんだと思う。
「それで本日のご用件は、我が息子を姫君の夫候補になどして頂けるとか?」
「え、あ……うん。 決まったわけじゃないけど……私の相談役の意見から、その人の形を見ておきたいと思ったの」
そこで私の目がテーブルの上にある料理に目が行くと、エーリッヒが席にどうぞって言ってくる。 座ろうとするとジークフリートが席を引いて座らせてくれた。
「食事をしながらで結構ですが、姫君は我が息子をどう思ってですかな?」
ブフッて思わず吹き出しそうになるのをなんとか堪えて、慌てて水を含む。
「そ、そうね、誰からも信用のある素敵な人、かな?」
「ははは、ジークフリートよ、お前さんはその程度にしか見られておらんようだぞ?」
えっと、何かおかしかったかな?
「どういうことでしょう父上?」
「わからんか? 姫君はお前を全くわかってない。 つまりお前はお前の良さをアピールできてないということだ」
「い、いえ、別にそういうことじゃ……」
エーリッヒは笑いながら良いのですよって言ってくる。 そして説教のようにジークフリートに好きだ云々だけでは気持ちは伝わらないことを話してた。
その内容はちょっとだけ、私も耳が痛かったかもしれない。
「父上は女心をよくご存知なようで」
「これでも若い頃はモテたからな。 お前の母親のハートも一撃で狙撃よ」
エーリッヒの意外な発言に驚く私に、笑いながら若い頃の話だって言ってくる。 だけどこうやってその人と形を知ると、より親しみも持ててくるものなんだってなんとなく思った。
「お前さんがもし本気で姫君の事を思っているのなら、お前の本音を伝えなければいかんぞ?」
少し酔いが回っているのか、以前の時よりも明るくて楽しげにエーリッヒは話してる。
食事もある程度済んだところでエーリッヒが頭を下げてくる。
「それではあとは若い者同士で話でもしてください。 久しぶりに楽しく食事ができました」
エーリッヒの車椅子が侍女に押されてダイニングルームを去ろうとする。
「そうそう、姫君に言い忘れておりました。 姫君が息子を選ばなかったとしても心に止む必要はありません。 如何に人と形が良かろうと、最後は何と言っても相性ですからな。 それでは姫君、失礼ながら先に休ませていただきます」
「……お休みなさい、エーリッヒ」
今の話はおそらくお父様と関係があるんだと思う。 お父様は側近である将軍にマクシミリアンを置いた。 でも私から見ればフィンには申し訳ないけど、マクシミリアンよりもエーリッヒの方がはるかに将軍に優れているように思える。 そうしなかったのは相性のせいなのかな?
「父が済みませんでした」
「良いお父様ね」
「自慢の父です」
中性的な顔立ちの目でジッと見つめられて、目が泳いじゃう。
「そ、それで明日はどうしようか?」
「明日は私と馬である場所へ行こうと思います。 途中から歩かないといけませんが、私が見つけたお気に入りの場所です」
「楽しみにしてるね?」
私が寝泊まりする部屋に連れて行ってくれて、ジークフリートが手の甲に口づけてくる。
「それではお休みなさい、プリンセス」
「お休みなさいジークフリート……じゃなくて、私、お風呂入りたい……」
慌ててお風呂を要求すると、ジークフリートが驚いた顔を見せた後、笑いながら侍女に伝えておきますっていって去っていった。
部屋で侍女が来るまでの間、椅子に座ってエーリッヒが言っていた言葉を考える。
「難しいなぁ……ねぇイフリート?」
“色恋沙汰について俺っちは、さーっぱりわーっかりっませーん”
精霊に聞いた私が馬鹿だった。 そうこうしてると侍女が来て、浴場に案内される。
「んー! 久しぶりのお風呂って気分だわ」
王宮を出てたったの3日、それも初日の夜は湯衣を着てお風呂には入れたけど入れた気分がしなかった私は、ゆっくり入浴を楽しんだ。
明日、ジークフリートはどこに連れて行ってくれるのかなぁ?
そんな事を考えながら私は眠りについた。




