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ベテランの訪問と、手土産の茶菓子

1


自然島の中央広場は、今日も静かだった。

金色の巨体を丸める龍神ゴルド様からは、規則正しい、心地よい寝息だけが漏れている。


そんなお飾り警備兵舎の前に、一人の男が歩いてきた。

日に焼けた肌に、使い込まれた革鎧。腰には数々の修羅場をくぐり抜けてきたであろう頑丈な剣が下がっている。ギルド島で堅実に依頼をこなしている、ベテランのC級冒険者――ガイであった。


「よお、邪魔するぜ」

ガイは兵舎のドアを軽く叩き、中にいるベテラン警備兵の一人に片手を挙げた。


「お、ガイじゃないか。珍しいな、お前がこっちの島に来るなんて」

出迎えたのは、かつてギルド島でガイとパーティーを組んでいた、元冒険者の先輩警備兵だった。


「いや、近くまで美味い魔獣の肉が入ったからな。お前らが大好きなギルド島の『特製肉まん』を差し入れに来てやったんだよ。ほら、冷めないうちに食え」

ガイが机の上に置いた包みからは、ほかほかとした美味そうな湯気と、ジューシーな肉の香りが広がった。


「うおお! ありがてえ! 新入り、お前も食え!」

「ありがとうございます!」

新人警備兵も目を輝かせ、さっそく肉まんにかぶりつく。入団テストをパスした実力者たちの兵舎だが、こういう美味い手土産には目がないのだ。


2


「それにしても……」

ガイは兵舎の窓から、目と鼻の先でスヤスヤと眠るゴルド様の黄金の鱗を見上げた。

「いつ見ても、とんでもねえサイズだな。これで脅威度Sか」


「だろ? 最初はビビるが、慣れると巨大な置物みたいなもんだよ。あと50年は起きねえしな」

先輩警備兵が肉まんをもぐもぐ食べながら笑う。


「へっ、ギルド島じゃあ、相変わらず浅はかなDランク以下の若造どもが『寝首を掻いて一発逆転だ!』なんて息巻いてるぜ。本当、バカな奴らだ」

ガイは呆れたように肩をすくめた。

「Cランクまで上がれば、地道に依頼をこなしてる方が確実に美味い飯が食えるって分かるのになぁ。わざわざこんな『魔法完全無効』の化け物に突っ込んで、武器をへし折られて泣いて帰るなんて、リスクとリターンが合ってねえよ」


「まったくだ。おかげで俺たちは、毎日そのバカどもの折れた剣の片付けが仕事になってるよ」

元冒険者の先輩警備兵が、兵舎の隅に積まれた「折れた武器の山」を指さす。ガイはそれを見て「うわぁ、傑作だな」と楽しそうに笑った。


3


ベテラン同士がのんびりと世間話をしながら、静かに肉まんを食べているその頃。

広場の中心で丸まっているゴルド様の脳内は、いたって平和だった。


『(すー……すー……)……ん? なんか兵舎のほうから、めちゃくちゃ美味そうな肉の匂いがすんな。ギルド島の特製肉まんか? いい差し入れ貰ったじゃねえか。俺は50年前のメシでもう腹いっぱいだから食う必要はねえけど、あのジューシーな匂いは嗅いでるだけで落ち着くぜ。警備兵のみんな、お友達と静かに美味いもんでも食ってろよ……。それじゃ、おやすみ……(すやすや)』


ゴルド様は人間の言葉も、ベテランたちの現実的な会話もすべて理解した上で、彼らの静かな交流を子守唄代わりに、さらに深く、心地よい眠りへと落ちていく。


「じゃあな。また美味いもんが手に入ったら持ってきてやるよ」

「おう、助かる。お前もギルド島で無茶すんなよ」


手土産の包みを綺麗に片付け、ガイは足音を立てずに静かに兵舎を去っていった。

それを見送った新人警備兵は、手土産を持ってきてくれるような本物のベテラン冒険者の格好良さと、そんな実力者からも「バカのやること」と一蹴されるゴルド様の圧倒的な存在感に、改めてこの兵舎の特別さを実感するのであった。



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