守護神ゴルド様と、広場の小さな侵入者
1
自然島は、豊かな自然に囲まれた平和な居住区だ。
配属されて数ヶ月、新人警備兵はある重大な事実に気づいていた。この島には、凶暴なモンスターが一切出ないのだ。
「先輩、不思議なんです。隣のギルド島は毎日モンスターの討伐で大騒ぎなのに、なんでこの街はこんなに平和なんですか?」
「そりゃあ、お前。あのお方のおかげさ」
先輩警備兵が、広場の中央でスヤスヤと眠るゴルド様を見上げて笑った。
「街の真ん中に脅威度Sの龍神様が寝てるんだぞ? 周辺の海域の海獣も、森の魔獣も、ゴルド様の放つ気配が怖すぎてこの島には絶対に近づけないんだ。あのお方がただそこで寝ているだけで、この街の平和は100%守られてる。だから街のやつらはみんな、ゴルド様を心から敬い、感謝してるのさ」
「なるほど……。本当に、ありがたい守護神様なんですね」
新人が深く感心した、その時だった。
2
広場の片隅に、歴史の怖さをまだ知らない、この街のヤンチャな子供たちが集まっていた。
「おい、次の度胸試しはあそこだぜ! ゴルド様の尻尾にタッチして戻ってきた奴が勝ち!」
「えー、警備兵のお兄ちゃんたちに怒られるよー」
「ヘーキヘーキ、あいつら今あっち向いてるじゃん!」
一人の少年がしめしめと、丸まっているゴルド様の尻尾に向かってトコトコと走っていく。
少年が黄金の鱗に触れようとした、まさにその瞬間。
ガシッ! と、力強い手が子供の服の襟を優しく、しかし確実に掴んで持ち上げた。
「こーーーらーーー」
背後に立っていた先輩警備兵が、ゴルド様を起こさないための完璧なウィスパーボイス(囁き声)で、ドスの利いた説教を始めた。
「げっ、警備兵のおっちゃん!」
子供が空中で足をバタつかせる。
「『げっ』じゃない。お前なぁ、ゴルド様は温慢だから子供がちょっと触ったくらいじゃ怒りゃしないが、万が一にも寝返りを打たれたらどうするんだ? その時の風圧だけで、お前は隣のギルド島まで一瞬で吹き飛ぶんだぞ?」
「えー、だって、あのおっちゃんいつも寝てるじゃん……」
「いつも寝ててくださるから、この街には凶暴な魔物も近寄ってこないし、お前たちも毎日ここで遊べるんだ。そんなありがたいゴルド様の安眠を邪魔するやつは、警備兵の俺たちが絶対に許しません。ほら、みんなのところに戻りなさい」
「……はーい」
少年はしょんぼりと肩を落とし、待っていた仲間たちのところへトボトボと戻っていった。
3
それを見ていた近くの果物屋のおばちゃんが、自分の店のリンゴを2つ、警備兵たちに投げ渡した。
「警備兵さん、いつもあんがとね! うちのやんちゃ坊主が迷惑かけてさ。ゴルド様のおかげで毎日安心して商売ができるんだから、本当に頭が上がらないよ」
「いえいえ、これが僕たちの仕事ですから」
先輩警備兵はリンゴを1つ新人警備兵に手渡し、ゴルド様の美しい寝顔を見上げながら、カジリと静かに音を立てずに果実をかじった。
その頃、すぐ近くで起きた小さな騒動を見守っていたゴルド様の脳内は、至って穏やかだった。
『(すー……すー……)……おや、街のガキどもが俺の尻尾の近くで遊んでたな。無邪気で可愛いもんだ。警備兵たちがすぐに優しく連れ戻してくれたから、寝返りを打たずに済んだぜ。みんながこうして俺を大切にしてくれるから、この街は居心地が良いんだよな。……さて、リンゴのみずみずしい匂いもしてきたことだし、心地よい夢の続きを見るか。おやすみ……(すやすや)』
黄金の龍神は、今日も街の真ん中で、愛する人々の気配を感じながら、幸せな二度寝を続けるのだった。




