年に一度の黄金ボーナス
1
新人警備兵が配属されてしばらく経った頃。
彼は兵舎の書類や、少し年季の入った備品を見てあることに気づいた。
「先輩、この兵舎、備品はしっかりしてますけど、国からの予算欄がいつもギリギリですね……?」
「ああ、気づいたか」
ベテラン警備兵が、いつもより念入りに剣の手入れをしながら言った。
「うちはお飾りだから国からの補助金なんてスズメの涙さ。だが心配するな、明日は年に一度の『鱗の脱皮日』だ。あの御方が落とす鱗をギルドに売れば、俺たちの1年分の給料の不足分や、この兵舎の維持費がピッタリ賄えるんだ」
「えっ! ゴルド様の鱗がですか!?」
「そうだ。だが、それは隣の島の一部の欲深い連中にもバレている。もしあの鱗を横取りされたら、俺たちの生活は一気に困窮する。だから明日は、うちの兵舎の『本気』を見せる日だ」
新人警備兵はごくりと唾を呑んだ。
お飾りの兵舎とはいえ、ここの警備兵は全員、厳しい入団テストを突破した「冒険者ランクC相当」の実力者たちなのだ。
2
その頃、広場の中心で、ゴルド様が「むにゃむにゃ」と背中を少しだけ揺らした。
『(すー……すー……)うう~ん、1年経つのは早いな。背中の古い鱗が浮いてきてちょっとむむず痒いぜ。……よし、広場の段差にちょっと擦り付けて落としちまうか。ゴリゴリ……カラン』
ゴルド様の巨体から、黄金に輝く美しい鱗が1枚だけ、地面に滑り落ちた。
「おい、始まったぞ! 新入り、行くぞ!」
先輩警備兵の合図とともに、警備兵たちが一斉に動き出す。
案の定、どこからか情報を聞きつけた下っ端の冒険者たちが、武器を手にコソコソと広場へ忍び寄ってきていた。
Cランク以上になれば普通に依頼をこなした方が楽に稼げるため、そんなリスクは冒さない。ここにやってくるのは、その現実が分かっていないDランク以下のバカな若者たちばかりだ。
「へへ、あの鱗さえ手に入れば一攫千金――」
「……そこまでだ」
ガシッ! と、足音もなく背後に現れた先輩警備兵が、下っ端冒険者の首元にピタリと剣を突きつけた。Cランクの実力は伊達ではない。
「ひえっ!? いつからそこに!?」
「静かにしてください。ゴルド様が起きちゃうでしょ」
新人警備兵も素早く回り込み、声を潜めて警告する。
「君たちみたいな下っ端じゃ、あの鱗に近づく前にゴルド様の寝息の風圧で吹き飛ぶのがオチですよ。さあ、大人しく帰りなさい」
「く、クソォォ……警備兵のくせに強すぎる……!」
下ッ端の戦士や盗賊たちは、ゴルド様を巻き込むまでもなく、実力者の警備兵たちによって静かに、的確に捕縛され、追い返されていった。
3
しかし、警備兵たちが下っ端冒険者を捕まえている隙に、その網をすり抜けた下っ端の魔法使いや学者たちが、ゴルド様の足元へ辿り着いてしまう。彼らもまた、地道な研究を嫌って一発逆転を狙う愚か者たちだった。
「おお、これぞ龍神の鱗……! これがあれば我が研究費は無限に! 念のため、ドラゴンが起きぬよう睡眠魔法をかける!」
彼らが大層な魔導書を開き、ゴルド様に向けて魔法を放った。
しかし、ゴルド様には【魔法完全無効】がある。
放たれた睡眠魔法は、ゴルド様の皮膚に触れた瞬間にパチパチと弾けて、ただの『心地よいぬるい微風』に変わって霧散した。
『(すやすや)……おや、古い鱗が取れてスッキリした。目の前で人間たちがまたバタバタ倒れてるけどよ……。警備兵のみんな、いつも俺の周りを静かに保ってくれてありがとな。この鱗で、今年も兵舎の屋根を直したり、美味いもんで食いなよ。それじゃ、おやすみ……』
ゴルド様の心の声に導かれるように、警備兵たちは気絶した学者たちをさっさと片付け、黄金の鱗を恭しく回収した。
その後、隣の島からやってきたギルドマスターが「今年も素晴らしい状態だ」と、兵舎の運営資金にピッタリの予算を置いていく。
「よし、これで今年もちゃんと飯が食えるな!」「よかったぁ……!」
新人も先輩も胸をなでおろし、いつも通りの静かな日常に戻っていくのでした。




