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第五十七話 強化訓練その1

姉妹たちから特殊なスキルを伝授され、セシルたちはそれを使いこなすための修行を始めるがーー


 セシルが新たなスキルを手に入れている頃、他の皆も姉妹たちと握手を交わしてスキルを伝授され、そのスキルを物にする修行が始まっていた。



ーベリーサの修行ー


 サバサバとした性格で姉妹1のイケメンと呼び名も高いオルトリンデから伝授されたスキルは"身体能力強化"というオーソドックスなものだった。

 彼女が扱う巨大な斧を片手で振り回せる所以はそのスキルにあった。


「リエリカからみんなの戦闘スタイルは聞いていたから、ベリーサには私のスキルが適任かなと思ったの」


「……そうか?」


「だってあなた、魔人の底知れない魔力なのをいいことに"魔法ブッぱ"で毎回戦ってるそうじゃない。それじゃ適応力に欠けるでしょ。魔法の効かない相手の場合、近接戦闘に持ち込まれたらアウトじゃない」


 たしかにアウナスに背後から奇襲を受けた際も対応できずに深傷を負ったことをベリーサは思い出した。


「なるほどな。で、私にアソージンみたいな格闘バカになれと?」


「ま、それもいいけど、どうせなら魔力を駆使して戦えたらもっと強そうじゃない?拳に爆炎をまとわせて殴ればダメージも大きいだろうし。とりあえず、スキル使って私と組み手をしましょう」


 オルトリンデの言われるままにベリーサはスキルを発動させた。オルトリンデの掛け声とともに2人は接近し、素手での戦闘を開始した。戦い慣れしているオルトリンデの攻撃にベリーサも辛うじて対応できている。


「あなた、意外にやるわね。身のこなしが上手だわ」


「元、踊り子だからな」


 そう、ベリーサは魔人になる以前は場末の酒場などで稼ぐ踊り子であった。それ故に身体の筋肉はしなやかで柔軟性を活かした身のこなしが出来ていた。


「なるほど。じゃあ、身体の動かし方の基礎はできてるって訳ね。なら次はその攻撃に魔力を込めて得意の爆炎魔法を並行してやってみて」


「む、無茶を言うな…あんたの攻撃を防御しながら…くっ、攻撃しているのに…そこに魔力を込める…なんて器用なマネ…できるか!」


「慣れよ、慣れ。出来るまで続けるわよ!」


 ベリーサの修行はまだ終わらない。



ーグレイスの修行ー


「あなたがグレイスちゃん?ヴァルトラウテと申します。よろしくね」


「あ、はい!よろしくお願いします!」


 姉妹の中でも聖女と呼び声高い清楚な四女ヴァルトラウテから授けられたスキルは"高速化"。グレイスと同じく弓使いのヴァルトラウテが修行の担当をすることになった。


「グレイスちゃんは雷撃の魔法と弓が得意なのよね?雷撃って強力な反面、魔法を発動させるのに溜めの時間が必要でしょ?だから、私のスキルって打ってつけだと思うの。はい、ではまず握手ね」


「それはどういう…?あ、はい」


 手を握り、グレイスの頭にスキルのイメージが流れ込む。魔力が続く限り、通常の2.5倍早く動くことが可能となるスキルのようだ。


「私、まだ魔法が使えるようになって日が浅いので魔力量にはあまり自信がないのですが…」


「そうなのね。でも大丈夫。そのための修行だから。雷撃の矢を100発、放てるようになるまで魔力量の限界値を伸ばしましょう」


「ひゃ、百!?2.5倍速で動けたとしても40発は放つモーションを取らないといけないということですよね!?」


「そうねぇ。大丈夫、グレイスちゃんなら出来るわ。気絶するまで魔力を使い切るのを何度か繰り返せば、魔力の限界値は伸びていくのよ。さぁ、始めましょうか」


 おしとやかな微笑みを浮かべるヴァルトラウテの修行内容は思いのほかスパルタだった。

 しかし、グレイスもエルフの隠れ里があるメレルの森の守護者としての矜持がある。かつてない過酷な修行に闘志を燃やすグレイスであった。


「いきます!」


 スキルを発動させると時の流れが明らかに緩やかになるのを感じた。ヴァルトラウテは微動だにしていないのか、ずっと微笑んだままこちらを見ている。

 気を引き締めて矢をつがえ魔力を込めると、的に向かって雷撃の矢を放つ。今の一連のモーションで体感時間、50秒程度。スキルの影響で実際の時間に換算すれば20秒。これを100回繰り返したとしたら、所要時間はおよそ34分もかかることになる。


 ーーダメだ。時間がかかりすぎる。


 グレイスは繰り返し弓を引き続け、7発目に差し掛かったところで立ち眩みのような感覚に襲われた。

 それと同時にスキルが解除されてしまった。限界が近いことに気付いたヴァルトラウテはにこやかに近づいて来た。


「今の限界は6発までみたいね。では少し休んで回復したら今の反復していきましょ」


 目標の100発までは遥か遠く、7分の1程度の回数で魔力の限界を迎えた。グレイスはフラフラになりながら用意された椅子に腰掛けた。



ーリエリカの修行ー


「リエちん、おひさ〜」


「ああ、アスガルドに戻って何度か顔は合わせていたがこうして話すのは久しぶりだな。グリムゲルデ、昨日の戦闘の傷はもういいのか?」


「ヨユーヨユー。つーか、ウチのスキルなんだけどぉ、ぶっちゃけ要る?リエちんの方がウチより強いっていうかぁ?こんあと男と約束あっからマヂめんどいっていうかぁ…そんな感じなんだけど?」


 長い金色の毛先を指でくるくると捻りながら八女のグリムゲルデは面倒そうにリエリカに尋ねた。


「そう言わずに、相手をしてくれないか?ここで同僚に教えを乞うなど私だって本意ではない…」


「ふーん。ま、リエちんも色々あるってワケだ。あいよー。じゃ、さっさと済ませちゃお」


 握手を交わしてスキルを受け取ると、グリムゲルデは簡単に説明を始めた。能力は"エンチャント"。あらゆる物に自身が使える魔法ならば何でも属性付与できるというものだという。そして、その応用として互いに相反する属性の物に付与した場合は、反発し合って破壊およびダメージを与えることが出来る。例えば、火属性の武器や防具に水属性を付与すると、破損するという感じである。


「これくらい覚えときゃヨユーっしょ?特に特訓とかも必要ないし。んぢゃウチは帰りまーす」


 苦笑いを浮かべつつ、自由すぎるグリムゲルデの後ろ姿を見送るとリエリカはさっそく剣に聖属性の魔法を付与してみた。

 そこにオーディンが皆の様子を見に訪れた。そして、リエリカの剣を見て声をかけてきた。


「バルムンクの剣か。よもやお前がその剣を持っていたとはな。ジークフリート…邪竜の呪いとはいえ惜しい男を亡くした。ラグナレクの時はすまなかった」


「いえ、英雄の魂はエインヘリヤルとなるのが定め。ですが、ある場所でジークとの別れはきちんと済ませて剣を譲り受けましたので、彼の魂は今はこの剣に宿っている…そんな気がします」



ールナの修行ー


 スキルと魔法という違いはあれど、どちらも魅了という能力を使うロスヴァイセとルナ。同じ能力を果たして伝授する意味があるのだろうか。しかし、ルナはそんなことよりも別の意味で困惑していた。


「ルナルナ〜よろしくねぇ〜!今日はぁ、ヴァイセのスキルぅ、ライフ・イズ・トゥインクルと〜ルナルナの魔法を混ぜ混ぜしちゃお!っていうのがこのドキドキ❤︎レッスンの内容なのぉ〜」


「あ、うん、よろしく。そのスキルどういう効果なの?」


「ルナルナ、テンションひっくぅい〜!もっとキッラキラに楽しんじゃお!ライフ・イズ・トゥインクルはね〜ちょっとの間だけどんなものにも生命を宿すスキルだよ〜⭐︎でもねでもね、とっても大きな物だと生命を与えてあげても、言うことを聞いてくれないの〜!だからぁ、ルナルナの魔法で誘惑しちゃうの!そしたら、強い味方になってくれるよ〜たぶん♪」


 ーーなに、このテンション。マジしんどい。てか、たぶんって何。テキトーすぎん?


 圧倒的な温度差。ロスヴァイセの掴みどころのなさにルナは完全に調子を狂わされていた。

 ひとまず握手を交わしてスキルを受け取ると、ロスヴァイセは布を被せた巨大な"何か"を運んできた。そして、布を取るとそこにはーー


「じゃあーん!街の中央にあるパパの像だよ⭐︎これをヴァイセのスキルとルナルナの魔法で味方にしてみて♪」


 ーーいや、なぜそれを選んだのよ。…カオスすぎる。そこに本人もいるし…気マズすぎるんだけど。


 ロスヴァイセの斜め上いく対象物のチョイスにルナは頭を抱えながら、生命を宿すスキルと魅了の魔法スカーレット・ムーンを順に行なった。

 ライフ・イズ・トゥインクルによって光の粉が像に降りかかると、ルナの背の2倍はある石で出来たオーディンは台座から飛び降りて脇目も振らずルナに向かって走って来た。


 ーーちょ!ホラーじゃん!怖い怖い怖い!!


「スカーレット・ムーン!!」


 迫り来るオーディン像にルナは慌てて魅了の魔法をかけた。しかし、止まる気配がない。もはや魔法障壁を張るにも間に合わない。


「えいっ♪」


 ルナに襲い掛かろうとしたオーディン像の額にロスヴァイセが投げた針のような物が刺さった。よく見ると針と一緒に札のような紙切れもくっつ付いている。

 オーディン像は生気を失ったように襲い掛かろうとしているポーズのまま、ただの石像に戻っていた。


「パパはちょっぴり大きすぎたのかなぁ?ルナルナ、ごめんねぇ〜初めてだから、次はもう少しちっちゃくてカワイイのにするねっ⭐︎」


 ーーそういう問題なの?てか、マジ死ぬかと思ったし。特訓で死ぬとか笑えなさすぎ。


 額に浮かぶ冷や汗を拭いルナはオーディン像の額に刺さった紙切れを覗き込んだ。


「ねぇ。これ張るとスキルの効果消えるの?」


「うん♪ヴァイセ特製の"滅殺カード"だよ♪スキルの効果を無効化するの⭐︎」


 ーー物騒な名前…どういうセンスしてんのよ。


 "次はカワイイのを持ってくるからパパを端に寄せといて"と言って去っていったロスヴァイセに不安を感じつつ、ルナは重すぎるオーディン像を必死で押すのだった。

今回は同時進行で行われている内容をそれぞれの視点で分けてみました。

執筆しながら、あれ?これ鬼滅の柱稽古みたいじゃね?とか思いつつ、まぁ漫画は完結してるし、アニメも放送終わってるから時効かななんて勝手に自己解決して書き終えました。←何の話

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